農業を営む自分にとって、収穫を終えると暇になる。
中には来春まで内職をしているところもあるようだが、生憎とそんな事をしなくても十分暮らせるだけの蓄えは出来た。
年配者が寄り付かなかった、河童の新型農作具の使用。
それに、永遠亭の農薬。
それらは自然の摂理のように若い自分達が使用することになり、結果は大成功。
知り合いの若い奴らも温泉や文々。新聞の定期購読に充てている。
しかし、自分は生憎そういう趣味は無く、お金の一部を使って寺子屋に若干の備品を寄付しただけである。
それだけで十分。
その後、春まで悠々自適に過ごそうとしていた矢先、件の河童が家を訪ねてきた。
「厄神様と温泉に言ってくるから、この実験を行って欲しい。もちろん報酬は出す」
との事で、実験の目的は分からなかったが、頭のいい河童のする事と割り切り、特にする当ても無かった自分は
快くその提案を受け入れた。
内容は、あの河童から受けたこともあり、予想通りゆっくり関係だった。
大きなダンボールに入った数個の道具。
その操作を一週間ほどかけて理解していたら、早々に実験を開始する事になってしまった。
何せ、時間が無いから。
最初にすることは、人里近くの平地の真ん中に、特製のゆっくりハウスを設置した。
このハウス、表面は岩の素材で偽装してあり、ゆっくりなら絶対に見分けることは出来ないだろう。
いや、人間の家も見抜けないのだから、考えるだけ無駄かもしれないが……。
物陰から観察することしばし。
「ゆゆ!! こんなところにおあつらえむきのどーくつがあるよ!!」
「ほんとだ!! ここのどーくつさんは、ゆっくりできるかな!!?」
「こんにちは!! ゆっくりしていってね!!!」
予想通り、こんなところに洞穴が存在することを不思議に思わないゆっくり一家が掛かった。
……なんというか、やはり霊夢一家だった。
「ゆっゆ♪ ここはだれもいないみたいだから、れいむたちのおーちにしようね!!」
遠慮もなしに中へ入り、ひとしきり物色したのに、自分達の家にすることに決めたようだ。
なんだか、入るときから自分の家と決め付けていたようなきもしたが。
「いまのおーちよりひろいから、ゆっくりできそうだね!!」
最近生んだのだろう沢山の赤ちゃんゆっくりと一緒に、サイズだけ大きくなった母ゆっくりのようだ。
越冬生活が迫ったこの時期に、ただ単に散歩そしていただけのことはある。
「たべものと、ゆっくりぐっつをもってこようね!!」
そんな事を話しながら、いったん帰っていった能天気一家。
暫くして、わいわい騒ぎながら戻ってきた戻ってきた。
「ゆ~~♪ ゆゆゆゆゆ~~~~~♪」
「ゆっくり~~~♪ してぇ~~~~~♪ っ!! いってねぇ~~~~~~~~♪」
「いってね~~~~~~~~♪」
「ちぇね~~~♪」
随分ご機嫌な様子で、一家でコーラスのような会話をしながら戻ってきた。
楽しんで話しているのだろうが、こうしてみると物凄く頭が弱そうに見える。
「ゆしょ!! それじゃあ、ゆっくりひっこしするよ!!」
運んできたのは食べ物、それと宝物であろうモノ、そして大きな葉っぱと蔓で縛られた枝。
おそらく、それらがゆっくりセットなのだろう。
「ゆ!! てーぶるはここにおいてね!! いすはこっちだよ!!」
「ゆっくりりかいしたよ!!」
母親の号令で、ゆっくりにしてはテキパキと巣の中を整理していく。
奥に食べ物を置き、一番広い空間にテーブルと呼んでいた葉っぱと枝のオブジェ。
その一角に、イスと呼ばれた枝と蔓のオブジェを置いて完成らしい。
全てが終わるのに、時計の短針は必要はなかった。
「ゆ♪ それじゃあきょうはここまでにして、あしたからはいりぐちをうめよ~~ね♪」
「ゆっくりりかいしたよ♪」
今日は出てくる雰囲気がなかったので、俺はこの場を後にした。
「~~~~♪ っ!! ゆっくりぃ~~~♪」
「~~~♪」
「~~♪」
巣の中からは、楽しそうな会話が響いていた。
数日後の事である。
「ゆっくり~~♪ ゆっゆゆゆ!!! していってね~~~♪」
「ゆ~~~♪ ゆっきゅりきゅり~~~~♪」
工事現場よろしく、騒音が入り混じる中着々と入り口を塞ぐ作業を終え、いよいよ越冬の準備に入った一家。
流石に一介の人間に透視能力はないので、中に設置した監視カメラと言うものの映像に切り替える。
「ゆ~~♪ ひろいね!!」
「たのしくえっとーできそうだね!!」
中では、越冬するだけとなった一家が楽しそうにくつろいでいた。
母親の周りに集まった子供達が、わいわいと話している。
「ゆっゆ♪ えっとうさんが~~~♪ たのしくなったらど~~しよ♪」
「ど~しよ♪」
……
「ゆぴ~~~♪ ゆぴ~~♪ し☆あ☆わ☆せ☆~♪」
「ゆ~~♪ ゆ~~♪」
「ゆっきゅ~~~♪」
暫く監視していたところ、一家仲良く寝入ってしまったので、後は録画に任せ、自分も家に戻ることにした。
「ゆ~~~♪ おはぎおいち~~~~~♪ むにゃ……」
雪が降り始め、既に一面の銀世界となった頃。
「ゆっくりしようね!!」
「きょうはゆりすますのひだよ!!」
巣の中では、なにやら賑やかだった。
「ゆ!! しってるりょ!! いいゆっくりのこどものとこりゃに、うーぱっくがゆっきゅりできりゅもにょを、おい
ていっちぇくれりゅんだよ!!」
「ゆ!! さすがれいむのこだけあってよくしってるね!! それじゃあ、きょうははやくゆっくりねないとね!!」
「ゆ~~♪ ゆっきゅりねるねりゅ!!!」
会話を聞くと、どうやら今日はゆっくりにとって何かのお祭りごとらしい。
二日間で食いきれなかった鳥のモモ肉をかじりながら、一家をさらに観察する。
その後に始まった食事は、あの葉っぱの上に食べ物をのせがっつく一家と、赤ちゃん以外が乗ったら壊れるであろう
イスのオブジェに座った赤ちゃんの音頭で歌を歌ったところで、終了した。
今日はこれで帰ろうかと思ってきたが、先ほどの会話が気になったので暫く残ってみることにした。
「う~~~♪ うっう~~♪ うあうあ~~♪」
夜遅くまで張り込みをしてみたところ、本当にうーぱっくが何かを運んできた。
「うっぎゃーーー!! うあーーーー!!!!」
れみりゃ種特有のカワイガリたくなる様な笑顔を浮かべまっすぐこちらに飛んでくる。
余りにもまっすぐ飛んでくるので、捕まえて中身を確認してみた。
「うあーー!! それはちがうーー!! ちがうーーーー!!!!」
何てことはない、ただの綺麗な石ころだった。
おそらくはこれが子供達へのお届けモノのようだが、ただの石なので雪原の中に捨てる。
「うあーー!! おとどけものがーーーー!!!」
泣き顔になったうーぱっくが雪の中に顔を突っ込み、必死で石ころを探そうとしている。
しかし、新雪に沈んだ石ころが見つかるはずも無く、雪が張り付いた顔が涙でグシャグシャになっただけだ。
「うあーーー!! ないーー!! おとどけものがないーーー!!!!」
その光景を見ていたら、十分厚着をしている自分も、心なしか寒くなったのでこのダンボールで暖をとる事にした。
「う!! はなぜ!! おとどけものーー!! さがすのーー!!!」
一端を破いて火をつける。
「うーーー!!! うぎゃーーーー!!!!」
ある程度水気を弾くのか、すんなりと火が移り、次第に全体へ燃え広がっていく。
大抵のダンボールよりもはるかに長い時間燃焼し、燃え尽きる頃には体の心まで温まることが出来た。
ほんのりと、汗が出てきた。
「……う、ぁー……。おとどけもの……がー……。かぞくの、ごはんがー……」
体が温まったところで、冷えないうちに家に戻ることにした。
※REC
「ゆ~~……。う~~ぱっくおそいね」
「しっ♪ し~~ね♪ しずかにね、いもうとたちがおきちゃうよ!!」
「ゆゆ!! ごめんね!!! ……でも、ことしはこないのかな?」
「きっとあたらしくひっこしてきたから、きづかなかったんだね!!」
「なら、じゅんびしてたたべものも、れいむたちのしょくりょうにまわそうね!!!」
「そうだね!! そのまえに、もっとしっかりいりぐちをとじるよ!!!」
今日は大寒、外は大雪。
いよいよ、撮影も大詰めになった。
「ゆ~~♪ ことしはたべものがいっぱいあるね!!」
「しかも、あったかいよ!!」
「これなら、らくにふゆをこせるね」
「し☆あ☆わ☆せ☆~♪」
断熱材入りのこの巣の中の一家は随分と幸せそうだ。
一家全体での、しあわせコールを聞き、ここらが頃合だと判断して最後の準備に取り掛かる。
「ゆきがとけたら、れいみゅはいっぴゃいはちるよ!!」
「れいむは、まりさともっといっしょにいるよ!!」
「ゆゆ♪ ふぁーすとちゅっちゅもちかそうだね!!」
「んっもう♪ おか~さんはうるさいよ♪」
良いなぁ、いかにも一家団欒と言う風景だ。
それじゃあ、スイッチ入れますか。
Pi ♪
あらかじめ準備しておいたスイッチを押すと、この巣は様変わりする。
どのように変わるかと言うと、四方の壁が外側に倒れる。
大まかに三角錐の形状をしているので、天井まですっきりなくなるのだ。
うまくいくか不安だったが、結果はご覧の通り。
「……ゆ?」
「ゆっきゅり?」
まさに目が点になるとはこのことであろう。
先ほどまで暖かい巣の中に居た一家は、猛烈な吹雪が吹き付ける極寒の雪原に放り出されたのだから。
未だ健在の監視カメラが、テントの中のこちらまでしっかりと鮮明な映像を送ってくれる。
「ゆゆゆ!! ざむいよ!! なにがあったの!!」
「ゆっくりりかいできないよ!!」
「ゆーー!! しゃむいよ!! しゃむいよーー!!」
突然のこの事態に、まるでただの饅頭のように固まるゆっくり達。
そんな中で、一番初めに行動を起こしたのは、母親ゆっくりだった。
「ゆ!! おちびちゃんたちは、おかーさんのおくちのなかに、はいってね!!」
赤ちゃん達を口に中へ入れ、改めて姉達と一緒に状況を確認する。
確認することも無いだろう、四つの壁が綺麗に外側に倒れ、どんどん雪に埋まっているだけだ。
「ゆ!! おうちがこわれたんだよ!!」
それに気付くまでに、かなりの時間を要したが、どうやらキチンと理解できたようだ。
「そんな!! と゛う゛し゛て゛ーーー!!!」
猛烈な風で体を震わせながらの母親の絶叫。
口の中に子供達を入れているためか、いまいち迫力がない。
「ゆーー!! どうするの!! どうするの!!!」
「ゆ~~……。もとのおうちにもどるか、にんげんのおーちにこっそりはいるかだよ!!」
「ゆっくりきめてね!! はやくきめてね!!!」
ゆっくり経験の少ない姉妹達は大慌てで母親を急かす。
しかし、餡子脳のゆっくりに同等のものを選ぶことは難しいらしく、なかなか決まらない。
「ゆー……。れいみゅいいこになりゅから、ゆっくりちちゃいよ……」
待つこと十数分。
ついに赤ちゃんたちは弱ってきたらしい。
口の中といっても、冷気を完全に遮断できるわけでは無い。
まして、相談の為に、何度も口を開いていたらさらに効果は薄いだろう。
ここまでくれば後は良い。
下の巣がある方向は風上、しかも食べ物やご自慢のゆっくりセットは既に雪の中。
それに、この辺りの民家は、外界の技術が取り入れられ、二重戸の一軒屋で蔵などはもうない。
どちらにせよ同じ結末になるものを見るほど俺は暇ではない。
それに、実験の概要もここで終了となっている。
機材をまとめ、自分はこの場を後にした。
すでに一家はどこかに移動したらしく歩いた跡と思われるコブが数箇所に出来ているだけであった。
その春、約束どおり河童は新しい農作用具を貸してくれた。
トラクタというこの機械、今まで時間の掛かっていた畑の掘り起しが、のさばっているゆっくりごと出来るすばらしい機械だった。
最終更新:2022年05月03日 16:03