※前後編のくせに別物ってくらい話の雰囲気が違います
何か悪いことしてない、むしろ健気なゆっくりが残念なことになります
なんかそんなんですが、良ければ読んでやってください
ヘルニア(後)
「ゆっぐ・・・えっぐ・・・」
泣きながら家を目指す1匹のまりさ。
そのまりさは変わった事に、通常ゆっくりが行うように飛び跳ねての移動をせず、ずりずりとナメクジの様に這いのめいていた。
只でさえ遅いゆっくりの足、それに拍車をかけての鈍足である。恐怖と苦痛により、まりさの顔には焦りが伺われる。
「ゆぅ・・・・・ぐびゃあぁ!?」
焦れたまりさは一際大きく体を伸ばす。だがその瞬間、まりさの体に電流が走る・・・!!
金属により歪に圧迫された神経が、まりさの意思とは関係なく誤認信号を放つのだ。
「あびゃびゃ・・・がはぁ・・・!!」
そうして白目を剥き出し、全身を強張らせてまりさは悶絶した。
その衝撃は凄まじく、痛みの波が引いた後もしばらくは下半身が麻痺するほどのものであった。
そうやって進んでは止まり、進んでは止まりの牛歩の行軍を続けたまりさが巣に戻る頃には、辺りには夜の戸張が降りていた。
「おかえり、まりさ!きょうは おそかったのね・・・・・どうしたの?」
「ゆ・・・ゆぐ・・・ゆわああああぁぁぁぁぁぁん!!!」
出迎えたありすは、最愛のパートナーの態度に狼狽した。
この山最強を自称するまりさであったが、事実ゆっくり達の中ではかなりのもので、れみりゃ種どころかふらん種にも引けを取らない
程の運動神経と利口さを兼ね備えていた。そんな彼女が無様にもまるで赤子のように泣き叫ぶ光景は、ありすには信じられないもので
あった。何とか咽び泣くまりさをなだめすかし、ありすは事の顛末をまりさから聞きだした。力なくポツリポツリと言葉を紡ぐまりさ
の姿には、普段の自信に満ち溢れた力強さなど微塵も感じられず、絶え間なくありすの心を締め上げるのだった。
「ゆっくりりかいしたよ!それじゃあまりさ、ゆっくりがまんしてね!!・・・ゆんしょ!ゆんしょ!」
「いぎゅっ!?あびゃっ!?ありす、ゆっくりやめてね!!それいじょうするとしんじゃうよ!!!」
何とかしてありすは鈍く光る鉄板を取り出そうとしたのだが、時すでに遅くそれは完全にまりさの体に組み込まれていた。
ゆんしょゆんしょと引っ張る度にまりさは精一杯の悲鳴をあげる。手の施しようの無いことを知り、2匹は途方にくれるのであった。
「・・・ねぇありす、あしたまりさはゆっくりここをでていくよ。」
「ゆゆ!?いきなりなにいうのおぉぉ!!?いたかったのは わるかったけど あんまりだよおぉぉぉ!!!」
「ゆっくりきいてね!!さっきは いたかったけど、ありすが まりさのことを おもってくれてたことは わかってるんだぜ?
まりさは そんなありすのことが だいすきなんだぜ!」
「じゃあなんで でていくなんて いうのおおぉぉ!?」
「ゆぅ・・・まりさは もうまえみたいにとんだりはねたりできないんだぜ・・・。ここにすみつづけるとありすにめいわくかけるんだぜ。
だから、ありすには ほかのゆっくりと けっこんして しあわせになってほしいんだぜ・・・。」
「ゆうう・・・まりざのばが!!あり”ずはまりざじゃな”いどだめなんだよお”おおぉぉぉぉぉ!!!!!」
「ありす・・・・・」
「ありすがんばるから・・・!がんばるからいっしょにゆっくりしようよおぉぉぉ!!!」
眼前で思いの丈を叫ぶパートナー、そんな彼女を見てまりさも耐え切れなくなり、ついには2匹揃って泣き始めてしまった。
数分後、たっぷり涙を流し悲しみを洗いきった2匹は、いいムードに包まれてゆっくりその身を近づけて・・・
「ゆぎゃあああああ!!!ずっぎりでぎないいいいぃぃぃ!!!!!」
愛を確かめ合おうとしたところ、腰痛によりまりさはすっかり不能になってしまっていた。
そんなまりさだが、ありすは愛想をつかすことなく、朝まで優しく寄り添っていた。
「それじゃいってくるね、まりさ!!」
「ゆっくりいってらっしゃい!!」
翌日から、2匹の生活は一変した。
これまでは運動神経のよいまりさが狩りに出ていたのだが、こうなってしまった以上ありすが狩りに出かける事となった。
一方のまりさは自室に篭りきり、腰の養生に時間を割く毎日となった。ありすが狩りに馴れてないこともあり、以前のように大量の食料が
確保できず、また質のほうも苦い草など散々なものであった。だが2匹は幸せだった。
梅雨
「ゆっくりしーしーするよ、ぺーろぺーろ・・・」
「ゆぅ・・・・・ごめんねぇ・・・・・」
ありすはまりさの下腹部を舐めてやり、排尿行為を行為を促してやる。雨が続き湿度の上がるこの時期、体内に過剰にたまった水分をゆっ
くりは尿として排泄し、自身の水分バランスを調節する。成体となったゆっくりは本来自分の意思によって行うことが可能なのだが、腰を
患ったまりさにはそれが不可能であった。そこで定期的に、親が子にしてやるようにありすがまりさの排泄口を舐めてやり、排尿を手伝
ってやる必要があった。長雨の続くいま、外へ出られない日々が続き食料も不足した。看病疲れも合わさって、ありすはひどくやつれて
しまった。まりさはそんなパートナーと、ただ負担にしかなれない自分に苦しんだ。
夏
長い雨も終わり、辺りは生命の活気に満たされた。介護の負担の減少と、食料の確保が充分に出来るようになったため、ありすは以前の
気さを取り戻し、それに応えるようまりさの容態も幾分ましになっていった。流石に飛び跳ねることの出来ないものの、リハビリも兼ね
て巣の周辺を散歩することも多くなった。もっとも、夏の日差しや熱せられた地面に鉄板が触れるたびに、まるで餡子が焦げ付くような
苦痛に襲われるため、とてもゆっくり出来るようなものではなかったが。
「こんにちは!ゆっくりしていってね!」
「「「ゆっきゅりしちぇいっちぇね!」」」
ある日、散歩に出かけた2匹はとある一家と出合った。たくさんの子供達に囲まれて楽しそうな母、子供達の方もやさしい母に愛を注が
れ毎日が幸福でいっぱいと言わんばかりだ。
「ゆっくりしていってね!あかちゃんたち みんなかわいいね!」
そう言って優しく微笑むありすの目には、どこか淋しそうな光が浮かんでいた。
まりさはそれに気付き、またもや心が痛んだ。
秋
「これでゆっくり ふゆをこせるね!まりさの からだも よくなってきてる しよかったね!」
「そうだね!ふゆがおわって はるになったら あかちゃんつくろうね!」
巣の中でたっぷりの食料に囲まれた2匹はホクホクである。これだけあれば越冬中に尽きることもない。
鉄板が馴染んだのか、まりさの腰も大分良くなっていた。
冬が明けて暖かくなったら子供をたくさんつくろう、そして、今年の分を取り戻すくらい幸せになろう・・・。
そう話す2匹は希望に満ち溢れていた。きたる幸福な未来を思い、自然と笑みがこぼれる。
そんなささやかな幸せ、それは突然の来訪者によって脆くも崩れ去った。
「うー!おいしそうなおまんじゅうだど~♪」
「みんなでなかよく ディナーだど~♪」
「「「れみ、りあ、うー♪」」」
巣の入り口には中を覗き込む3匹のれみりゃの顔があった。
以前のまりさであれば充分撃退できる程度の相手、だが手負いの体にはあまりにも強大な相手であった。
他に出口はなく、今から掘っても間に合わない。万策尽きたか・・・まりさは観念しその身を委ねようとした。
「・・・まりさ、ずっとあいしてた。いままでありすとゆっくりしてくれてありがとう。」
「ありす・・・?」
「こどもはできなかったけど、とってもしあわせだったよ。あたたかくなったら あたらしいおよめさんをみつけてね。」
「さっきからなにいってるの?さっぱりわからゆっぐ!!?」
突如ありすはまりさを巣の奥へと突き飛ばし、自身はれみりゃの待つ出口へと躍り出た。
「ゆぅ・・・う!? ありす、なにしてるの!!?」
ありすは振り向かない。そして、冬篭り用に積んであった資材に激しく体をうちつけた。
「うー?これじゃなかのまんじゅうがたべられないんだどー?」
「でも1こでてきたんだど~♪」
「それもそうだど~♪それじゃみんなでたべるんだど~♪」
駆けつけた入り口は完全に閉ざされており、その向こうからは耳障りなれみりゃの声が聞こえる。
まりさは必死に扉を打ち破ろうとするも、弱った体ではそれは叶わなかった。
「「「いっだだっぎま~すだどぉ~♪」」」
「ぐっ!!?」
くぐもったありすの声が聞こえる、必死に叫びを堪えているのだろう。
「うまうま~♪1個しかないから ゆっくりあじわってたべるんだど~♪」
「おじょうさまは がつがつしないんだど~♪」
「・・・・・!!・・・・・・!?」
ありすにとっては死刑以上の宣告である。それでも必死に悲鳴を噛み殺す、だがもはや限界であった。
「・・・いぎゃああああぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!??? いだい”いいぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
「うるさいおまんじゅうなんだどぉ~♪」
「じにだぐないぃ!!じに”だぐな”い”よ”お”お”おおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「でぃなーはしずかに たべるもんだど~♪」
「だずげでええぇぇぇ!!!だずげでま”り”ざあああぁぁぁぁ!!!」
「ここには まりさなんていないんだど~♪」
まりさには聞こえていた。
悲痛な声で叫ぶ愛しいありすの絶叫も、耳障りに笑うれみりゃの声も。
その全ての一言一言が、まりさの心を大きく深く切りつけていった。
両の目から一生分とも思える涙を吐き出しながら、全身全霊の体当たりを行うも扉は無情にも開かない。
心も体も擦り切れんばかりになった頃、外はもう静かになっていた。
「う~♪おいしかったんだど~♪」
「おうちかえって おひるねするんだど~♪」
満足したらしいれみりゃ達の羽音が遠ざかっていく。
それを聞き、全てが終わったことを理解した瞬間、まりさの心は砕け散った。
(・・・ねぇ、まりさ。きこえてるかしら?)
何やら聞こえるが意識がはっきりせず、言葉の意味が理解できない。
(わたしはしんじゃったけど、わたしのぶんまでながくいきてしあわせになってね)
聞き覚えのある声だ、いったい誰だっけ?
(それじゃあ・・・ゆっくりしていってね!)
そうだ・・・そうだった、この声は
「ありす!!」
跳ね起きたまりさは、割れんばかりの声を張り上げる。
だがその声に返すものは何もない。
暗い穴の中、まりさは声が出なくなるまで叫び続けた。
冬
「むーしゃ・・・むーしゃ・・・・・」
穴の中には力なく餌を食むまりさが1匹。
その姿に覇気はなく、生きているのかすら疑わしい。その姿は幽鬼のようであった。
「ごちそうさまでした・・・」
一人呟き食事を終える。まるで誰かに報告をしているようだ。
まりさにとって食事は楽しいものではなく、ただの義務でしかなかった。
最愛のパートナーの最後の言葉、それは生きて欲しいと言う願いであった。
正直なところまりさは生きたくなかった。一刻もはやく彼女の後を追いたい気持ちばかりであった。
だが、それを彼女は喜ばないであろう。命を賭してまでの彼女の願い、それはまりさを縛り続けた。
ああ、今日も寒さが染みるなぁ・・・そう考えながら、まりさは冷えて疼く腰をかばいながら床へとついた。
冬が明ければ少しはましになるか、そう考え眠るまりさの夢は今日も変わらない
夢の中でありすが告げる、ゆっくり生きてと・・・
春の訪れはまだ先だ。
やっと終われ
作者・ムクドリ( ゚д゚ )の人
最終更新:2022年05月03日 16:33