秋のある一日。人々はこぞりて集い、ゆっくりたちも噂を聞きつけて集まった。
「おい、ひさしぶりだなこのキ〇〇イ野郎」
「何だとこのゆっくり野郎!!」
「ゆっゆっ!れいむのためにけんかしないでね!」
「よくわからないけどきてやったのぜ!まりささまがいちばんなのぜ!」
「ああ、そちらの旦那方!ここでは喧嘩は無しでお願いしますよ!
 ゆっくり、君たちはこっちだ」
 人里のはずれに作られた特別会場は、蜂の巣をつついたような騒ぎだ。
 多くのゆっくりと人々はここで何が行われるかをいまだ知らない。
 しかし、彼らを駆り立てたものは、幻想郷の住人なら誰もが好む、まぎれもないお祭り騒ぎの予感だった。   



 秋の一日
          by ”ゆ虐の友”従業員


「えー、お集まりいただきました紳士、淑女、ゆっくりの皆様方。
 ただいまより開会式を行います。
 多くのお客様は当大会の趣旨をご存知ないことでしょうから、それも説明させていただきます」
 司会として壇上に立った男が声を張り上げる。
「当大会は、ゆっくり達の、ゆっくり達による、ゆっくりコンテストでございます」
「ゆゆー!」
「ゆっくちちていってにぇ!ゆっくちちていってにぇ!」
「まりささまがいちばんゆっくりしてるのぜ!」
「ルールをご説明させていただきます。
 参加者は、人間、妖怪、ゆっくりの各審査員の前でゆっくりアピールをしてもらいます。
 しかし、ゆっくりの基準とはそれぞれあいまいなもの。
 また、様々な種類のゆっくりは多くの能力において異なります。
 そこで!!
 皆様のゆっくりとした頑張りに応じて、
”ゆっくりポイント”
”虐待ポイント”
”スルーポイント”
 の三部門のいずれかに振り分け、採点させていただくものとします。

 とってもゆっくりしたゆっくりは、その度合いに応じてゆっくりポイント獲得。
”誰?””オリキャラ?”という感じの、ちょっと残念なゆっくりは、スルーポイントを獲得。
 虐…っと




 といった感じでございます。
 それぞれ自らの個性を生かして、ゆっくりしていって下さい」
「ゆゆ!おにーさんさいごになにかゆっくりできないことをいいかけたよ!」
「いまびみょうにせつめいをはぶいたよ!」
 司会は構わず締めに入る。
「本日、恵まれました好天に感謝を。この秋の豊穣に感謝を。この一時の出会いに感謝を。
 それではみなさん……ゆっくりしていってね!」
「「「「ゆっくりしていってね!!!!」」」」


 * * * *


 こうして始まったゆっくりコンテスト。
 最初のゆっくり達が壇上に現れる。
「えーと、君たちは何をするのかな?」
 ゆっくり達は口をそろえて言う。
「れいむのあかちゃん、とってもかわいいよ!」
「れいむとまりさのじまんのあかちゃんだよ!」
「ゆっくちちていってにぇ!」
 飼いゆっくりなのだろう、言葉遣いは丁寧だ。
「……で?」
 ゆっくりが何を始める様子もないので、司会は先を促す。
「なにかするんじゃないのかい?」
「それだけなんだぜ!」
「れいむとまりさとかわいいあかちゃんをみて、ゆっくりしていってね!」
「………」
「………」
「………」
「れいみゅがかわいいから、みんなびっくりしてるにぇ!
 びっくりじゃなくて、ゆっくりしていってね!なんちゃって!ゆふ!」

 審査員一同のげんなりとした沈黙を都合よく解釈するゆっくり一家。

 観客席で隣り合った愛でお兄さんに虐待お兄さんは話しかける。
「あれ、お前んとこのゆっくりだろ……」
「よくわかったなキ〇〇イ野郎。どうだ、可愛いだろう」
「そ、そうかもな……それで、芸とかは……?
 もしかして本当に、全然なにもしないのか?」
「その通りだ!そんなもの必要ないさ。うちの可愛いゆっくりなら……」

 その時ちょうど審議が終わり、獲得ポイントが発表された。
「13虐待ポイント!!エントリーナンバー1番の家族は、特製ゆっくりぷれいす”蝋人形の館”へご招待!」
「何故だぁぁぁぁぁ!!!」
「ほら、言わんことじゃない…」


 家族は大きな透明箱に放り込まれた。
「ゆゆっ!れいむにぴったりのりっぱなゆっくりぷれいすだね!」
「まりさここでゆっくりするよ!」
「とってもゆっくちちてるよぉー!」

 透明箱の中には人形がいくつも置いてある。
「なにこれ?ゆっくりしたおもちゃだ……ね……?」
 司会の男が合図をすると、それらはいっせいに動き出した。
 ぎゅおん、と振り返ったそれは、ゆっくりできない存在の姿を模していた。
「うー!うー!」
「れみりゃだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ゆっぐりでぎないぃぃぃぃぃ!!!!」
「ゆびぃぃぃぃ!!!!!」
 人形はゆっくりたちを囲んで、機械仕掛けでぐるぐると回る(BGM:シンデレラケージ 〜 Kagome-Kagome)。
「うー!うー!」
「ごあいよぉぉぉぉーーー!!」
「おにーざんだずげでーーー!!」
「ゆー!!ゆゆーーー!!」
「うおおおおーーーん!!!でいぶぅぅぅぅ!!ばりざぁぁぁぁぁ!!ぢびぢゃぁぁぁぁぁぁんんんん!!!」
「おいやめろ馬鹿、落ち着け」


「審査員のコメントに移ります」
「餡子脳なのは仕方ないとしても、ちょっとは工夫しましょうよ(妖怪代表)」
「子れいむの駄洒落が明らかにアウト(人間代表)」
「まりさのほうがかわいいんだぜ!(ゆっくり代表)」
「…ありがとうございました」


 * * * *


 この結果を受けて、控え室に動揺が走った。
 特に、二番手の一家は青ざめている。
「ゆゆゆ……どうしよう……」
 どうやら、この一家もかわいいちびちゃん自慢をするつもりでいたらしい。
”れいむのちびちゃんならかわいいからだいじょうぶだよ!”などと、
 同じ轍をあえて踏みはしないあたりはなかなか賢いようだ。
「れみりゃこわいよぉぉぉぉぉぉ!!!」
「どどどどどうしよう!?」
「よーし、次のゆっくりこっち来てねー」


 一家はおびえながらもアピールを開始する。
「ゆ、ゆっくりしていってね!」
 まずは挨拶。
「(れいむ、どうするんだぜ?)」
「(おかーさん、どうするの?)」
「れ、れいむ、ものまねをするよ!!ゆっくりしていってね!」
 窮余の策だった。れいむはぴょんぴょんと跳ねる。
「よ、ようせいさんだよ!ふーわ!ふーわ!にてるでしょ!」
 妖怪代表の審査員の表情が曇った。
 まりさと子ゆっくりもそれを見て続く。
「れみりゃのものまねだよ!う、うー!!」
 審査員まりさが顔をしかめる。
「にんげんさんのものまねだよ!ゆっへっへ!」
 審査員の人間と観客が険悪な雰囲気をかもし出す。


「うっほぉぉぉぉぉぉぉ!!!!潰してぇぇぇぇぇぇぇ!!!
 わざわざ審査員全員からもれなく不興を買いやがって、馬鹿かてめえらはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「落ち着けってキ〇〇イ野郎、席を立つんじゃない。まるで本物のキ〇〇イみたいだぞ」 

「ポイントの発表です!獲得ポイントは……7スルーポイント!!
 それでは審査員の皆様方、コメントを……」
「ん?今なにか居た?私は何もみていないよ」
「れみりゃの物真似だけちょっと面白かった」
「まあこんなもんでゆるしてやるんだぜ」
「…ありがとうございました」

 この家族は防音加工の箱に入れられ、端のほうに除けられた。
 このまま大会終了まで放置される。
「どぼじでぇぇぇぇぇぇ!!??」
「おそとにでたいよ!ゆっくりだしてね!!」
「ゆっくりできないよぉぉぉぉぉぉ!!!」


 * * * *


 三番手、スィーに乗ったれいむとまりさが出てきた。
「れいむのかれいなどらいびんぐをみて、ゆっくりしていってね!」
「まりさのがはやいんだぜ!」
 主催のスタッフがコースを用意し、レースが始まった。


「ゆぃぃぃぃぃ!!!!」
「びゅーーん!!」
 二匹はなるほど運転上手で、曲がりくねったコースをそれることなく追走劇を繰り広げる。
「うぉぉぉぉーっ!!がんばれれいむ!!がんばれまりさぁぁぁぁーーーっ!!」
「お前、応援するならどっちか片方にしろよ…」

 先に根気を切らせてしまったのはれいむだった。
「ゆっ!!」
 わずかな気の緩みが走行ラインに影響し、まりさに抜かれてしまう。
「ゆっくりぬきかえすよ!ゆぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
 しかし、その焦りが致命的なあだとなった。
「ゆぐっ!?」
 速度を上げようと、スィーを操作するためのレバーへのしかかるれいむ。
 その際に跳躍の加減を間違えてしまい、底部へレバーが突き刺してしまう。
「いだい!!いだいよぉぉぉぉぉ!!!だずげでぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
 どんどん遠ざかっていくまりさのスィー。
 れいむはそれを見ていることしかできなかった。


「獲得ポイントの発表です……おっと……!?
 とうとうゆっくりポイントの獲得者が出ました!14ゆっくりポイント!!
 まりささん!おめでとうございます!」
 観客席から拍手が沸き起こる。
「ゆっくりー!!」
 ぴょんぴょんと跳ねるまりさ。
「ゆゆー!すごいよ!」
「やったねれいむ!」
 ゴールしたまりさがれいむのもとへ跳ねてくる。
「ゆゆ!れいむがゆっくりできてないよ!にんげんさん!はやくれいむをゆっくりさせてあげてね!」
 その後から歩いてきた医務係がれいむを摘み上げる。
「こっちへおいで」
 れいむは医務係の指で底部の穴をふさいで貰い、スィーまりさとともに表彰台に降り立った。

 司会の男が言う。
「それでは、審査員の皆様、コメントを」
「いやあ、ゆっくりにしてはやるもんだね」
「器用で、見ていて感心した」
「まりさもなっとくのでっどひーとだったぜ!」

「それでは、スィーまりささんこちらへどうぞ」
「ゆゆ!おそらをとんでるみたいだよ!」
 まりさは司会の手でゆっくりぷれいすへと運ばれる。
 それはゆっくりできない透明な箱ではなく、餌や調度品の整った見るからに立派なゆっくりぷれいすだ。
 まりさがそこへ行き着くと、また拍手が起こった。
「すごーい!!れいむもはやくつれてってね!!」
 背伸びしながられいむは言う。
「いや、スィーれいむさんは負けたでしょ」
「ゆ゛っ!?」

 司会の言葉にれいむは凍りついた。
 よくよく見れば、観客達の注目も拍手も、実はまりさにしか向けられていない。
 れいむは群集の中に、自分の飼い主の姿を捜し求めた。
 お兄さんなら、お兄さんならきっと、自分にもゆっくりした言葉をかけてくれる。そう信じて。
「うおおぉぉぉー!やっぱりうちのゆっくりが一番だぁぁぁぁぁー!!」
「おにーさん……!」
「すごいぞーー!!まりさーー!!さすがはゆっくりしたまりさだーー!!」
「ゆ……」
 男の目にも、れいむは映っていなかった。

 司会はしょげ返ったれいむを小突く。
「わかったかな?れいむさんは敗者なんですよ」
「ゆ……たしかにそうだけど……
 ぞんないいがだってないでじょぉぉぉぉ!!でいぶもゆっくりしたいよ!!はやくゆっくりさせてね!!」
「はあ、逆切れですか。いや、別にいいんですが……」
 司会はれいむを持ち上げ、スィーに乗せた。
「れいむさんはこっちのコースをゆっくり走っていってくださいね」
 いつの間にか組み立てられている新しいコースがある。
「ゆゆー!」
 それは急勾配の滑り台だ。スタートラインは司会の男の背丈ほどもあり、
 地上にほど近いところで再び上向きとなって終わる――いわゆるジャンプ台だ。
 れいむはスィーごと、そのスタート地点に置かれる。
「いくられいむがいちりゅうどらいばーでも、こんなこーすじゃゆっくりできないよ!
 おさないでね!ぜったいおさないでね!それよりはやくゆっくりぷれいすにつれていってね!!」
 司会は耳を貸さない。
「さあ、いってらっしゃい」
「やめでぇぇぇぇぇぇ!!!でいぶもゆっぐりしたいよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 かたん。
 指で弾かれてスィーは動き出す。
「とまってね!!すぃーさんゆっくりしてよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 しかし、ブレーキは取り外されている。
「ごわいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 果たしてそこにあるのは加速、加速、加速……とめどもない破滅への一本道だけだ。
 速度はついに、れいむの体験したことの無い速さにまで達する。
「ゆぃぃぃぃぃぃぃぃ…………!!!!」
 あまりの加速に、なぜかレース時のテンションになるれいむ。
 そしてコースの終端へとたどり着いた。
「ゆ……!」
 がたっ、ぽーーーん。
「おそらをとんでるみた……ずぅぶべどびょぉぉぉぉぉ!!!!」

「えー、それでは次の参加者……」

 つづく。

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最終更新:2022年05月18日 22:17