• ペットショップネタ
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 れいむはれいむお母さんから生まれた。とてもゆっくりしていてお歌も上手だった。
 お姉ちゃんや妹もたくさんいてみんなと遊んだり、ご飯を食べたりするととてもゆっくりできた。
 このままずっとゆっくりしていたい。
 でもそれは突然終わりを告げた。

 朝になってれいむが目を覚ましてお決まりの「ゆっくりしていってね!」というとてもゆっくりできる挨拶をすると
近くにいた姉妹たちも目を覚まして「ゆっくりしていってね!」を返す。
 でもその日はいつもと違い、お母さんの「ゆっくりしていってね!」はなく、辺りを見回してもお母さんはいなかった。
頑張って探しても見つからない。れいむは寂しくて、ゆっくりできなくて泣いてしまった。
 その時、お兄さんがお部屋に入ってきた。いつもれいむたちにゆっくりできるご飯をくれる人間さんのお兄さん。
お兄さんならお母さんがどこにいるか知ってるかもしれないと思い、れいむはお兄さんに尋ねた。

「れいむたちはこれからもっとゆっくりするために、お母さんから離れてここで暮らすんだよ」

 そんなことはない、お母さんと一緒にいればゆっくりできる。だからお母さんに会いたい。そうお兄さんに伝えても
聞いてくれなかった。

「あっちを見てご覧」

 お兄さんが指差した方にはれいむたちよりも大きいれいむが「ゆっくりしていってね!」と言っていた。
だがそれはれいむたちにむかって言った言葉ではない。そのれいむは透明な壁さんの向こうにいる人間さんに必死に
「ゆっくりしていってね!」と言いながらぴょんぴょん跳ねていた。その様子はゆっくりできているとは思えなかった。
 お兄さんはあのれいむを指差しながら

「ゆっくりできるゆっくりには飼い主さんが現れてもっとゆっくりすることができるんだ。だから
 みんなはゆっくりできている姿を見せてあげてね」

 もっとゆっくりできる、その言葉にれいむは敏感に反応した。きっとたくさんのあまあまが食べられる、
ぽかぽかしてふわふわなベッドがある、そして綺麗なゆっくりと一緒になって赤ちゃんをたくさん産んで
もっともっとゆっくりできるに違いない。れいむは目を輝かせバラ色の生活に胸を躍らせた。
 もっとゆっくりしたい、そうと決まったられいむは我先にと透明な壁さんの向こうにいる人間さんに
れいむがいかにゆっくりしているかを教えなければと、れいむは透明な壁さんの近くで一生懸命
「ゆっくりしていってね!」と言った。
 お兄さんは大きいれいむを抱えてお部屋を出て行った。きっとあのれいむは飼い主さんが現れたのだ。
次はれいむの番だよ!「ゆっくりしていってね!」





 月日は流れ、れいむは今日も向こうにいる人間さんに「ゆっくりしていってね!」と挨拶をする。
 周りにはれいむのお姉ちゃんも妹も誰一人としていない。みんないなくなってしまった。きっと今頃は
飼い主さんと一緒にゆっくりしているに違いない。でもまだれいむの飼い主さんは現れない。

「ゆっくりしすぎだよ……れいむもゆっくりしたいよ……」

 もう何回寝たかもわからない。それでも飼い主さんは現れない。れいむはこんなにゆっくりしているのに、
どうしてれいむにだけ飼い主さんが来てくれないの?お兄さんに尋ねてもわからないと言われた。

 でも今日はいつもと違った。お兄さんがご飯ではなく、たくさんの小さいれいむたちを抱えてきた。
みんな眠っていてとてもゆっくりしている。でもれいむには関係ない。早く飼い主さん来てね!
透明な壁さんの向こうの人間さんにれいむがゆっくりしていることを教えてあげることに集中する。

 やがて小さいれいむたちが目を覚ます。関係ない。「ゆっくりしていってね!」
 お兄さんが何か言っている。関係ない。「ゆっくりしていってね!」
 小さいれいむたちが透明な壁さんの向こうの人間さんに「ゆっくりしていってね!」と言い始める。
れいむも負けじと叫んだ。「ゆっくりしていってね!!」
 その時すっとれいむの体が浮いた。「おそらをとんでるみたい!」と自然と声が出た。
気付くとお兄さんに抱きかかえられていた。しばらく考えて思い至った。
 やった!ついにれいむにも飼い主さんが現れたんだ!れいむは舞い上がった。
でもゆっくりしすぎだよ!だからその分、たくさんゆっくりしようと考えた。
 まず何をしようか、たくさんのあまあまさんが食べたい。その次にふわふわしたベッドで
お昼寝しよう。そしてとてもゆっくりしたゆっくりと一緒に赤ちゃんを作ってゆっくりするんだ。
れいむはこれからの生活を思い、喜びに満ち溢れていた。

 そしてさっきとは違うお部屋に入った。まず暗い、なんだかゆっくりできない気がする。

「ご飯だよー」
「ゆゆっ?ごはんさんはいらないよ!かいぬしさんのところにつれていってね!」
「あまあまだよーいらないのー?」

 あまあま!欲しい!きっとお兄さんはれいむのお祝いのためにあまあまをくれるんだ!
それならそうと言ってくれればいいのに、「ちょうだいね!」と言おうとして固まった。

「うーうー♪あまあまー♪」

 初めて聞く声なのにとてもゆっくりできない声。その声はれいむよりも上にある木のおうちからした。
そしてそこからピンクのお帽子、ニコニコと笑った顔、そして後ろにはゆっくりしてない黒い羽。

「れ、れ、れみりゃだー!!!」

 自然と口から出た。はじめて見るはずなのに。でも体は勝手に動いた。お兄さんの腕から飛び降りて
部屋の隅に逃げる。

「あのれいむ食べていいよ」
「なにいっでるのおおおお!?」
「うー!」

 れみりゃがこっちに来た。逃げなきゃ、さっき入ってきた壁さんに急いで跳ねた。でも開かなかった。

「どおじであがないのおおおお!?」
「うーうー」
「ごっぢごないでねっ!ゆっぐりじででっでね!?ゆっぐりじででっでね!?」

 ゆっくりしていってね、これでゆっくりしないはずがない。でもれみりゃは止まらなかった。

「ぎゃおーたーべちゃーうぞー♪」
「おにいざんだずげでええええ!!ゆぎゃああああ!!」

 お兄さん、いつもご飯を持ってきてくれるお兄さんなら助けてくれるはず。でもお兄さんは何も答えなかった。
 れみりゃがれいむに噛み付いた。痛い、ものすごく痛い。こんなこと生まれてから一度もなかった。気が狂いそうだった。

「がいぬじざああああんんんん!!れいむをゆっぐりざぜでええええ!!」

 飼い主さんに助けを求めた。飼い主さんはれいむをゆっくりさせてくれるんだ。呼べば必ず来てくれるはずだ。
だが来なかった。

「どおじでええええ!?れいむはごんなにゆっぐりじでるのにいいいい!!」

 ゆっくりしてるれいむがゆっくりできないはずがない。なのにどうしてこんな目にあわなければならない。
れいむはこれからたくさんのあまあまを食べて、たっぷり寝て、綺麗なゆっくりと一緒になって、
それから、それから……なんだっけ?もう思い出せない。餡子さんいっぱい吸われちゃったせいかな。

「もっと…ゆっくり…したかった…」

 れいむはゆっくりできないまま、絶望と苦痛の底に沈んだ。残ったのは何の表情も浮かず、
何も語らない皮だけであった。










 れいむの餡子を全部吸い尽くしたれみりゃはご満悦な表情でれいむの成れの果てから口を離し、
巣である木箱の中へと戻っていった。これだけたくさん食べたのだからもう食べられないのだろう。
まだ食べてもらわなければならないゆっくりはいるのだが次の食事まで待つことにしよう。
 このれみりゃは売り物にならないれみりゃだった。一緒に生まれた姉妹たちはゆっくり以外のものも
喜んで食べていた。だがこのれみりゃだけはゆっくり以外を口にしようとしない。ゆっくりを毎回の
食事にしていては食費でとんでもないことになる。ペットとしては失格だった。
 だが幸いなことにうちはペットショップであり、廃棄されるゆっくりは毎日のようにでる。
これはあまり綺麗ではないから、これは声が悪いから、これは帽子の形が悪いから。しかし捨てるには
店のイメージダウンになるから普通のゴミに捨てるわけにはいかない。しかたなく業者に頼むが
金がかかって仕方ない。そこでこのれみりゃに処分してもらっているのだ。

 あのれいむは子ゆっくりとして売り出した内の一匹だったがその中でも群を抜いて駄目なやつだった。
なんと言うか他人を見下すような態度を取っていたのだ。しかもそれを自覚していない。
 こんなのでも欲しがる人はいるかもしれないと思ったのだがやっぱり駄目だった。
ゆっくりしたいという気持ちが面に出すぎていてゆっくりさせることができていなかったのだ。
 ただ飯食いの役立たずだったな、と思うがパチンコで負けたと思えばそこまで懐は痛くない。

 部屋に箱を持ってきて中身を取り出す。今日追加した子ゆっくりの中で駄目だと思ったのを
抜き出してれみりゃに食べてもらうためだ。腹が減れば勝手に食べてくれるだろう。

「ゆっくりしていってね!」

 声をかけてやると皆一斉に「ゆっくりしていってね!」と返す。
 残り数時間の生だ。最後までゆっくりするといい。扉を閉めてその部屋を後にした。





終わり



















ペットショップは全部が全部売れてくれるわけではないのです。
じゃあ売れ残りはどうなるのか?などと考えて書いてみました。微妙。

『オマケ』でした。

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最終更新:2022年05月19日 13:32