引っ越し ‐その1 -


のどかな草原をゆっくり霊夢の大家族が行進していた。
二組のゆっくり家族が行動を共にしていて母ゆっくりは二匹いた。
他は中くらいのゆっくりが8匹、小さいゆっくりが10匹とかなりの大所帯だ。

これだけゆっくりがいれば食料の確保が大変だ。
今まで暮らしていたゆっくりポイントの周囲は雑草すら無くなり荒地と化してしまったのだ。
なのでゆっくり大家族は食料のために次のゆっくりポイントを探しに移動していた。


これだけゆっくりが多いと、その行進はとても賑やかなものになる。

「ゆっゆっゆっ」
と先頭を行く母ゆっくり。雑草を踏みつぶして道を作りながら他のゆっくりを導く。

「そっちにいったらゆっくりできないよ! 戻ってきてね!!」
これは中ゆっくり。お姉さんらしく隊列を離れようとする小ゆっくりを引き戻す。

「虫さんゆっくり待ってね!!」「お母さんお腹すいたよ!!」「疲れたから乗っけてね!!」
他にも思い思いに行動する小ゆっくり達を隊列中央の母ゆっくりと中ゆっくりが相手しながらゆっくり行進していた。
傍目に見てもとても微笑ましい光景で、実際ゆっくり達はとっても幸せだった。




しばらく進んだところで先頭の母ゆっくりが大木の幹にぽっかりと穴があいているのを見つけた。
「ゆっ! 様子を見てくるね!!」

母ゆっくりは他のゆっくりに待機を促すと大木へと向かっていく。
中を見るとゆっくり魔理沙とゆっくりパチェリー、そしてたくさんの食料が蓄えられていた。

「ゆっくりしていってね!」
「むきゅ、ゆっくりしていってね」

母ゆっくりを確認すると二匹は反射的に挨拶してきた。

「ゆっくりしていくね!!」
母ゆっくりも挨拶を返す。しかしこれはただの挨拶ではない。
少し離れたところでゆっくりしていた他の家族を呼ぶ言葉でもあった。

「ここが次のゆっくりできる場所?」「うわぁ、食べ物いっぱいあるよ!!」「ゆっくり入るね!!」

ゆっくり霊夢の群れがゾロゾロと大木の穴へ、ゆっくり魔理沙とゆっくりパチュリーの家へと入っていく。
ここにきてゆっくり魔理沙が食料の危機を感じた。
こんなたくさんのゆっくり達とゆっくりしたら三日もせずに食料が尽きてゆっくり出来なくなってしまう。

「悪いけどゆっくり出てってね! こんなにいっぱいじゃゆっくり出来ないよ!」
「むきゅー出てって!」
特にゆっくりパチュリーは本気で嫌がっていた。ついさっきまで大好きなゆっくり魔理沙と二人でゆっくりしていたのに邪魔されたのだから。

しかしゆっくり霊夢の群れは、
「ゆっ、他のゆっくりがいるよ!!」「いっしょにゆっくりする?」「ここはれいむたちのおうちだよ!! いいでしょ!!」
ようやく元々住んでいた二匹に気づくゆっくり霊夢たち。
それだけでも失礼だというのに、あろうことか自分たちのおうちだと主張し始める。

「ここはもともと魔理沙のおうちだよ!! ゆっくり出て行ってね!!」
ゆっくり魔理沙も負けじと主張し返す。

「ゆゆっ! ちがうよゆっくりれいむたちのおうちだよ!!」「ゆっくり出来ないゆっくりは仲間に入れてあげないよ!!」「はやく出ていってね!!」
数の暴力(言葉Ver)だ。複数のゆっくり霊夢が一度にゆっくり魔理沙を言葉攻めにする。

ゆっくり魔理沙は気圧されて思わず涙汲んでしまう。
とっても怖かったがせっかく見つけたゆっくり出来る場所を譲るわけにはいかなかった。
貯蔵した食料だって体の弱いゆっくりパチュリーの分までがんばって集めたのだ。

「だめなのぉぉ!! でてってったらでてって~~!!」「むぎゅむぎゅ~~ん!!」
ゆっくり魔理沙は泣き喚きながらゆっくり霊夢の群れに体当たりする。
動きの鈍いゆっくりパチュリーも魔理沙に続いて体当たりする。

だが、その全力の体当たりも母ゆっくりによって逆に弾かれてしまった。
二匹は弾かれた勢いで壁にぶつかってしまう。

「ゆっくり出来ない二匹にはおしおきだね!!」「やっちゃえお母さん!!」
壁にぶつかってフラフラする二匹に母ゆっくりが迫る。

「や、やめてね!! ゆっくりやめてね!!」「む・・・きゅ・・・」
母ゆっくりはその大きな体で二匹を壁に押し付ける。
「むぎゅ・・・ぐるじぃぃぃぃ」
体の弱いゆっくりパチュリーは早くもやばそうだ。

「や”め”で~~~!!! ゆ”っぐりじでただけなのに~~!!」
ゆっくり魔理沙も苦しそうだ。

「「ゆっくり潰れてね!!!」」
母ゆっくりたちはさらに強く二匹を押し付ける。
その圧力にゆっくりパチュリーは潰されてしまう。

「むぎゅ~!!」
ぱちゅんと勢いよく餡子が壁と床に飛び散る。

「あ”あ”あ”~~!!? おあちゅりーー!!」
隣で親友のゆっくりパチュリーが潰されて叫ぶゆっくり魔理沙。しかし悪夢はまだ続いた。

潰されたゆっくりパチュリーが、つぶした母ゆっくりに食べられていた。目の前で。
他の子ゆっくりたちも一緒にゆっくりパチュリーを食べ始めた。
「うっめ! めっちゃうっめ!!」

他のゆっくりを食べるのに慣れているのだろう。
なんの躊躇もなくゆっくりパチュリーだったものを食べていく。

ゆっくり魔理沙はもう見たくなかった。体の力を抜いてつぶされようと思った。
「おかあさん、はやく潰してね!!」
その言葉を聞いた直後ゆっくり魔理沙は餡子と化した。




結局、ゆっくり魔理沙とゆっくりパチュリーのおうちはゆっくり霊夢たちのおうちになった。
しかしそれも長く続かなかった。

「おかあさんお腹すいたよ!!」「次のおうち探そうよ!!」
ゆっくり大家族はものの一週間でおうちにあった食料も、周囲の草花も食べつくしてしまっていた。

こうなればここもすでにゆっくり出来ない場所だ。
「今度はもっと広くて食べ物がいっぱいあるところにいこうね!!」
母ゆっくりはそう言うと先頭に立って歩き始めた。

こうしてゆっくり大家族は再び引っ越しを始めた。








引っ越し ‐その2 -


ゆっくり大家族が次に見つけたのは大きな洞窟だった。
四角い形をしていて、入口も四角い穴だった。

いつものように先頭を行く母ゆっくりが洞窟の様子を見る。
中は思ったとおり広く、さらに嬉しいことに以前のゆっくりポイントよりずっとたくさんの食料がそこにはあった。
「ゆゆゆっくりできるよ!!!」

興奮気味な母ゆっくりの声を聞くと待機していたゆっくりはぞろぞろと洞窟へ入っていく。
そこはまさに楽園だった。
果物や野菜といった豪華な食料が洞窟の至る所に並べてあったのだ。

「すごいね!!」「いっぱいゆっくりできるよ!!「ゆっくり~~!」
ゆっくり達はぴょんぴょん飛び跳ねて喜びを表現する。
その中の一匹が野菜の山に飛び込んで食事を始めると、ゆっくり達の大宴会が始まった。

引っ越しの旅でお腹を空かせたゆっくり達は「うっめ!!めっちゃうっめ!!」と感激しながら食事を行う。
そしてお腹いっぱいになるとそのまま眠りについた。

明日起きたらあっちの食べ物を食べよう。その後はゆっくり皆と遊ぼう。
まさに幸せの限りであった。





翌朝

洞窟の入口から漏れる朝の光で目が覚めるとそこは野菜の上だった。
やっぱり昨日のは夢じゃなかったんだ。
「ゆっくりしていってね!!!」

朝の挨拶を済ますと目の前の野菜にかぶりつく。
おいしかった。

「ゆっくりしていってね!」「ゆっくりねむってたよ!!!」
他のゆっくりたちも徐々に起きだす。

「「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」」
全員起きたところでみんなで挨拶だ。いつもより気持ちのいい挨拶だ。


その時だった。
突然洞窟の入口から漏れる朝の光が遮られた。
何匹かのゆっくりが洞窟の入口に目を向けると見知らぬ生き物がいた。
少なくともゆっくりではないようだ。

「ゆっ?? だれ?ゆっくり出来る人??」
「ゆっくりしていってね!!」
ゆっくり達は特に警戒するでもなくその生き物に挨拶する。
しかしその生き物は答えない。

「ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりあいさつしてね!!」
「ゆっくりできないなら出ていってね!!」
挨拶を返さないことが不満なのか言葉に棘が混じる。

ここでその生き物が声を発した。
「なんだよ・・・これは・・・」

「ゆっ?」
ゆっくり達は訳が分からない。
その生き物は言葉を続ける。

「なんてことをするんだお前たちは。ここは村の食料庫なんだぞ」
口調は冷静だが声は震えていた。

それは怒りだったが鈍感なゆっくり達は気付かない。
むしろその生き物が自分たちのおうちを自分のもののように言ったことに反応した。
「ここはれいむたちのおうちだよ!!」
「勝手にとっちゃだめだよ!!」
「はやく出ていってね!!」

その生き物は少し考えるとその場から去って行った。
ゆっくり達はその様子を見て勝ち誇った。
「もう二度と来ないでね!!」

そして邪魔ものがいなくなったので朝ごはんの続きを食べ始めた。
「むーしゃ」
「むーしゃ」
「「「しあわせー」」」
ご満悦である。




朝ごはんを終えてそろそろ洞窟の外で遊ぼうと思っていた時だった。
ゆっくり達のおうちに何かが飛び込んできた。
それと同時に洞窟の入口が閉じる。

「ゆっ?」「ゆゆゆ??」
ほとんどのゆっくりは何が起きたのか把握できない。せいぜい暗くなったということだ。

ただ、二匹の母ゆっくりだけが閉じ込められたということを理解していた。
出口に向かうと扉に向かって体当たり。しかしビクともしない。

「ゆっくりやめてね!!」
「ゆっくり開けていってね!!」
母ゆっくりたちは外に向かって声を上げる。

しかし反応がない。
代わりに後方、子ゆっくり達のいた方から声が聞こえた。
「ゆ”・・」「う”べべば」
苦しそうな声。

母ゆっくりたちが振り返るとそこには苦しそうにする子供たちの姿があった。
中ゆっくりたちはまだ大丈夫そうだが小ゆっくりたちは泡を吹き白目を向いていた。

「お、があざんん・・・ゆ”っぐりできないよ”・・・どうじで~!!」
中ゆっくりが母ゆっくりに向けて疑問をぶつける。
しかし母ゆっくりも訳が分からなかった。

原因は洞窟が閉じられる前に投げ入れられた物だ。
ゆっくり達は気付いていないが無煙無臭の毒物がそこから噴出していた。

ゆっくり達は徐々に毒に侵されていく。
小ゆっくりはピクピクと動くばかりで声すら出せないようだ。
「ゆっくりなおってね!!」
「いっぱい食べて元気になってね!」
などと言いながら食料を口移ししようとするが、反応はない。
それでも母ゆっくりは食料を与えれば治ると思っているのかそれを続ける。

中ゆっくりはと言うと他のゆっくりに構う余裕はなく、それぞれ苦しんでいた。
毒ガスの発生源から近いゆっくりほど早く泡を吹き、白目を向いて倒れていく。
毒の効果なのだろう。断末魔のうるさいことで定評のあるゆっくり達は静かに死んでいく。

母ゆっくりも大きな体のおかげでしばらく子ゆっくりを看病できたがとうとう倒れて泡を吹き始めた。
「あばばばばば」
「ゆぐっりぶあぁ」
泡を吹き、声らしい声も出ない状態で母ゆっくりは考えた。

なんでこんな目にあったのだろう。
今まで怖い目に逢うこともなくゆっくりと生きてこれたのに。

子ゆっくりが生まれてからはゆっくり出来ないこともあったけど騒がしくて楽しかった。
他のゆっくり家族と行動を共にしてからはもっと楽しかった。
色んな場所へ旅に出たし、色んなゆっくりポイントを見つけた。

そしてこの洞窟は最良の場所だった。ここなら長く住んでも食料は持っただろう。
ああ、これは夢だ。きっと目が覚めたらゆっくりできるだろう。
そう思ったのを最後に母ゆっくりの意識は途絶えた。




一時間が過ぎた。
「そろそろか?」
「あの兎が言うにはそろそろのはずだ」

たくさんのゆっくり霊夢に村の貯蔵庫に荒らされた。
村の一人の青年が今朝そう報告してきた。
棒やら包丁やら武器を用意していたところ一羽の兎が現れた。
「これを使うといいウサ」


そして、
扉を開けるとそこにはゆっくり達が泡を吹いて死んでいた。
貯蔵庫の中央にいたゆっくりも、部屋の隅でうずくまっていたものも・・・すべてだ。
「すごいな・・・」
「さすがえーりん様の薬だ」
「まったくいい気味だべ」

えーりん印の殺ゆっくり剤。ゆっくりだけを静かに殺す毒ガスだった。
さらに優秀なことにこの毒で死んだゆっくりは食しても無害なのだ。



一方この殺ゆっくり剤を村人に渡した兎はというと、貯蔵庫の様子を見に行って
人のいなくなった家から好物のニンジンを集めていた。

彼女は嘘つき兎として有名な因幡てゐ。
今日も人を騙そうとこの村へ寄ったのだがちょうどこの事件が起きていた。
そこでたまたま永遠亭から無断で持ち出していた殺ゆっくり剤を渡したのだ。

「んー、いいことをしたわ」
盗んだニンジンにかじり付きながらそう言う。
本当はゆっくりをいじめて楽しむつもりために持ち出した毒だったのだが、
大量のニンジンを手にすることが出来たのだ。

(そうだ。ニンジンが無くなったことに人間が気づいたらゆっくりのせいにしてやろう)
悪戯兎としてはゆっくりが増えた方が何かと都合よかった。
いじめられるうえに食に関するいたずらは全部ゆっくりのせいにできるからだ。

今度はゆっくり家族を騙して村の食料を食べさせよう。
そしてそれを人間に教えて、ゆっくりをどう処理するのかを観察して楽しむのだ。そしておこぼれをもらう。
ゆっくりは…最高のおもちゃだ。





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最終更新:2024年09月26日 20:55