そうして三日目の朝。まだ夢の世界にいた俺は見知らぬ声に起こされた。
「むきゅー!おにーさん、あさよ。ゆっくりおきてほしいわ!」
ぱちゅりーだった。そうか、喋れるようになったのか。
「ああ、おはよう。ぱちゅりー。その様子じゃ口の方は治ったみたいだな」
「むきゅ。なおしてくれてかんしゃするわ。……でも……どうしてぱちぇを?」
もっともな疑問だ。ぱちゅりーは笑顔ではあるが、やはりどこか怯えているようだ。
野生で過ごしていたところを捕獲され、甘み増幅のための苦痛に曝された個体だ。
色々とトラウマを思い起こさせてしまうかもしれないが、それでいちいち中身を
吐き出すようならどの道長くはない。なるべくぱちゅりーを誘導するように話を進めて行こう。
「お前は他のと違って両目が無事だったからな。食わずに治療できないか試してみたんだ。
ぱちゅりーさえよければこのまま治療を続けたいと思う。今のままじゃうんうんもできないぞ?」
うんうんと聞いて気恥ずかしくなったのか、ぱちゅりーは頬を赤くして俯いてしまった。
ぱちゅりー種ゆえ頭の切り替えが早いのか、この様子だと精神面にとくに問題はなさそうだな。
「しゅ、しゅくじょのまえよ!もっとことばをえらんでほしいわ」
「おっと、こいつはすまないな。だがこれは本当の話だ。ぱちゅりーだってわかってるだろ?
死ぬことはないだろうが、ぱちゅりーの身体は酷いダメージを負ったままなんだ」
「む、むきゅ……」
ぱちゅりーは真顔で俺の話を聞いていた。自分の体のことだ。ぱちゅりーだって言われずとも分かっているに違いない。
「ぱちゅりー、そのあんよじゃそろーりそろーりできないだろ?」
「………………」
図星のようだ。むしろそれを認めたくないのだろう。
「だが俺ならぱちゅりーのあんよを治してやれるぞ。俺はゆっくり医学を学んでるからな。まぁまだ卵なんだが」
「……ゆっくりいがく?」
「ぱちゅりーたちゆっくりの怪我や病気を治す為の学問だ。つまり俺はお医者さんなんだよ」
一通りぱちゅりーに説明してやる。もっとも、ゆっくり医学の本分はゆっくりの有効活用にある。
治療行為はその一環に過ぎないのだが……。それはさておき、ぱちゅりーの顔は目に見えて明るくなった。
「むきゅー!おにーさんはおいしゃさんなのね!?ぱちぇのからだを……なおしてくれるのね?」
「ああ、ぱちゅりーさえその気なら俺はぱちゅりーを治してやるさ。
それで相談なんだがぱちゅりー?もし良かったら俺の飼いゆっくりにならないか?」
「むきゅ?かいゆっくり……」
「ああ、正式に俺のゆっくりにならないかってことだ」
飼いゆっくり……その言葉を知る大抵の野良や野生にとって、それは最高の待遇を約束された身分と映る筈だ。
もちろん人間からすれば用途多々のゆっくり……つまり時には虐待用にもなりえるゆっくりのことなのだが……。
自分に都合の良いことしか考えない志向のゆっくりたちは実体験で酷い目にでも逢わない限り、
そういうネガティブな発想には至らないだろう。だがこのぱちゅりーは加工されていたわけで……
「む、む、むきゅーーー!ぱちぇは、ぱちぇはおにーさんのかいゆっくりになるわ!」
……あれ、即答か。断られるかもと考えていたので拍子抜けだ。
野良と比べると野性のゆっくりは飼い
ゆっくりについて知らないことが多いらしい。
野生のゆっくりの多くは人間と生息域が被らないのだから当然といえば当然なのだが……。
いずれにしても、このぱちゅりーの様子を見る限りむしろ積極的に人間に飼われたいみたいだな。
一体どこでそういう知識を覚えてきたのやら。まぁ俺としては都合が良いので構わないのだが……。
「そうか。それじゃこれからよろしくな、ぱちゅりー」
「むきゅー!よろしくなのだわ!ぱちぇはきっとおにーさんをゆっくりさせてあげられるわ」
嬉しいことを言ってくれるじゃないか。さて、それじゃ懸案事項は早めに解決しておこう。
「そうか。よし、そうと決まればさっきの話の続きだが、あんよの治療は早めにやっときたいんだ」
「……やっぱり……いたいのかしら?」
やはりそこは迷うか。なまじ口元やしーしーの穴を削ったりしてるからなぁ。
それにあんよの治療はもっと大掛かりになる。普通にやれば苦痛も比じゃないだろう。
「まぁ治療はえてしてそういうもんだ。もちろん対策は考えてるけどな」
「むきゅー……ごめんなさい、ゆっくりかんがえさせてほしいのだわ」
「どっちにしろ治療には準備が必要だからな。早めにとはいっても最低数日は掛かると思う。
その間に決心を固めてくれればそれでいいさ」
そう、どういう手段を取るにせよ準備にはかなり手間取る筈だ。
最終的にぱちゅりーが治療を受けてくれさえすればそれで良いのだし、
俺の飼いゆっくりになると決めてくれた以上、今はとりあえずゆっくりリラックスして
新しい環境に慣れて貰うのが先決かもしれない。
その日の午後、ぱちゅりーにはお手製の“本”を与えることにした。
新聞の折込チラシを適当な大きさに切り抜いてホッチキスで留めただけの簡素なものだ。
果物の写真や大きくカラーで書かれた平仮名の売り文句の箇所を中心に作ったので、
ぱちゅりーにも実際に“読書”として楽しんで貰えることだろう。
そのボリュームの割には非力なぱちゅりー種の髪でも読みやすいようちゃんと折り目も付けてある。
「しかし……ぱちゅりーは本当に勉強家だな。そんなに本ばかり読んで何か目的でもあるのか?」
「むきゅっ!ぱちぇはぎんばっじさんがほしいのよ!」
適当に話題を振ってみただけなのだが、思いがけず明瞭な答えが返ってきた。
ぎんばっじ……やっぱりあの飼いゆっくりの等級を示す銀バッジのことを言っているのだろうか?
野良ならともかく、野生のゆっくりは飼いゆっくりのことを知っていることはあっても、
バッジのことまでは普通知らないものだ。
「ぱちゅりーは野生のゆっくりなんだろ?銀バッジのことを知ってるのか?」
「むきゅっ!ぱちぇのままがおしえてくれたわ。ぎんばっじさんはとってもゆっくりできるって!」
銀バッジをゆっくりできるモノと認識した野生のゆっくり?
「ぱちゅりーのママは飼いゆっくりか何かだったのか?」
「むきゅー。ままもぱぱも、むかしにんげんさんにかわれてたことがあるといってたわ」
「ええっと……ぱちゅりーも人間の家で飼われてたのか?」
「むきゅう。ぱちぇはもりでそだったわ。にんげんさんにかわれてたのは、ままとぱぱだけ」
ぱちゅりーの話から察するに、飼い主が飼っていた番のゆっくりを
ぱちゅりー牧場の敷地の森に捨てて、その後このぱちゅりーが産まれたのだろう。
森へのゆっくりの不法投棄は生態系へ及ぼす悪影響が懸念されており今では条例で禁止されている。
でも、やっぱりいるんだろうな、そういう飼い主。
ぱちゅりーの来歴を知りたかったので他にも色々質問してみたのだが、
まだ子ゆっくりの範疇だろうになかなか波乱に満ちたゆん生を歩んできたようだ。
まぁ都市部の野良ゆっくり達はさらにスリリングな環境でもタフに生きてるのだが……。
この会話は俺にとってもぱちゅりーにとっても有意義なものとなった。
俺としては自分の飼いゆっくりはそれなりのバッジを取得していて欲しい。
ぱちゅりーは銀バッジ取得試験に合格したい。お互い利害は一致しているというわけだ。
だが、いずれにしても避けては通れない障害が一つ残っている。そう、あんよの治療だ。
俺があんよの治療にこだわる理由、それはぱちゅりーの身体機能の改善もさることながら、
それ以上に周囲から奇異の目で見られたくないからだった。
俺は別に自分が虐待家だとは思っていないが近所や公園、試験会場には愛護派の飼い主もいることだろう。
あんよの焦げたゆっくりを持ち込んでトラブルの元になるのはご免だった。
だが正直に話したら話したで、食用ゆっくりをペットに転用しようとしていると思われるのも
貧乏根性を嘲笑われているようで抵抗がある。そう考えると、あんよの治療は銀バッジ取得試験のみならず、
散歩など、ぱちゅりーを人前に出す全ての行為において必須であった。
それに、身体機能にしても、ぱちゅりーには排泄の問題も残っている。
水分はしーしーとして排出してくれるだろうが、固形物の場合は将来的に致命的な問題になるだろう。
オレンジジュースだけでも生かしておくことは可能だが、やはり生物を飼う以上それは味気ない気がする。
ちなみに、ゆっくりのあにゃるの位置は同じ種族でも個体によって異なることが多い。
先祖が暮らしていた地域のゆっくりの特性が遺伝しているのだろうか。
中でも代表的になのは、あんよと後頭部(?)との境界にあにゃるを持つタイプと
あんよの中央付近にあにゃるを持つタイプだ。多くのゆっくりはこれらに該当する。
このぱちゅりーは後者の特徴に近かった。あんよの中央よりやや後方に少し落ち窪んだ箇所があり、
その奥にあにゃるがあるのだ。つまり、部位的にぱちゅりーのあんよとあにゃるは一体なのである。
先日の治療であにゃるの治療にまで踏み込まなかったのはこの為だ。
ゆえに、あんよとあにゃるは一緒に治療していくことにする。だが、ここで大きな問題が立ちはだかった。
黒焦げでないとはいえあんよの損傷が激しい。あんよはゆっくりの体の中でも特別な部位だ。
その皮は他の部位に比べると格段に厚くて丈夫だが、それでいて柔軟性も極めて高い。
詳しいメカニズムは解明されていないが、ゆっくりは流動化させた体内の内容物の動きを
内側から皮に伝達することで様々な挙動を可能としている。
とくに移動の際は、あんよの内側には大量の内容物が、時に激しく、時に繊細に流れ込む。
その負荷に耐え、内容物から伝達された微細な動きをも正確に外側に反映する機能があんよには求められるのだ。
ちょっと破れた程度の補修ならともかく、あんよ全体の治療となれば、さっきまでのような付け焼刃は通用しないだろう。
熟練の医者や虐待師の中には、例え黒焦げ状態からでも小麦粉だけで見事に完治させられる人達がいるそうだが、
あいにくと俺にはそこまでの技術はなく、大掛かりな復元手術に出せる金もない。
……となれば、別のゆっくりに健常なあんよを提供してもらうのが近道だ。
加工所の発売する移植パーツを買って来る手もあるが、手術に比べれば幾分マシとはいえ出費が痛い。
やはりここは移植用のドナーとして野良をお招きするのが妥当な選択肢だろう。
そうと決まれば善は急げだ。俺は野良ゆっくりを探しに出掛けた。
幸いこの辺りには、飼いゆっくりのゲス化や家庭事情などから飼い主がよくゆっくりを捨てに来る“穴場”があるのだ。
捨てられた元飼いゆっくりたちは保健所で義務付けられた予防接種を高確率で受けている筈だ。
こうした個体を狙えば、あんよ移植に伴う伝染病の感染リスクを抑えることができるだろう。
ちなみに俺はその“穴場”で元飼いゆっくりの野良ぱちゅりーを探したこともあったのだが、
そこは生存競争が激しく脆弱なぱちゅりー種が生きていくのは難しいのか一度も見掛けた試しはなかった。
一度たまたま出くわしたゆっくりに、ぱちゅりー種がいないか聞いてみたこともあったが知らない様子だった。
そうして俺は自転車で家から二十分程の距離にある空き地に辿り着いた。
空き地の片隅には土管がピラミッド状に堆く積まれているが、その他に目ぼしい物は何もない。
ただ、誰も手入れをしておらず辺り一面に背の高い雑草が覆い茂っていた。
野良ゆっくりが隠れるには最適な場所だ。あの土管の山もきっとゆっくりたちの巣になっているに違いない。
それでいて道路に直接面しているものだから飼い主は捨てゆっくりを投棄しやすく、
そこに住むゆっくりたちもまた物請いなどを行いやすい環境なので、ゆっくりの数は溢れ出さんばかりの筈だ。
そうならないのは自治会の定期的な駆除活動あってこそなのだが、
最近では費用面の問題やゆっくりんピースからの抗議で継続が危ぶまれているらしい。
だが今回はそれが幸いした。俺が空き地に入ってすぐ、近くからゆっくりと思しき声が聞こえてきたのだ。
「ゆんやぁぁぁぁ!!まりしゃはすっきりしたくないーーー!!」
「んほぉぉぉー!とかいはなありすとすっきりしましょーーー!!」
藪を掻き分けて見ると、そこにはまりさがレイパー化の顕著なありすに今まさに襲われんとする最中だった。
サイズからしてどちらもまだ子ゆっくりのようで、ちょうどぱちゅりーと同じくらいの大きさだ。
幸先が良い。だがサイズの問題をクリアしても他に必要な条件はまだ二つ残っている。それを確認しなくては。
「ゆ、ゆ、ゆ!ぞ、ぞごのおにーしゃんっ!だずげでぇぇぇ!!」
「まりさ、まりさ、まりすわぁぁぁ!んっんっんっ、んっほぉーーーーー!!」
子まりさを追う子ありすの姿は不気味極まりなかった。全身をベタベタの粘液でぬめらせて、まるでナメクジのようだ。
だがその速度はナメクジなどではない、狩猟者のそれだ。実際レイパー化したありす種の身体能力は時に捕食種をも上回る。
子ゆっくりといえど既にすっきりしても平気な強靭な体力を持ち合わせているのだろう。
だが子まりさの方はそうもいくまい。このままにするとドナー候補の一匹をみすみす死なせてしまいかねない。
子まりさは既に体力の限界のようだった。その速度は目に見えて急激に落ちていく。
そして、ついに逃走劇の幕が閉じ、喜色満面の子ありすが子まりさに圧し掛かった……
「んほおーーー!すっきりさせてあげるわよ、まりさーーーーーー!!」
「ゆああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
ガシィ!
……その瞬間、俺は子ありすの体を強引に掴んで引き離していた。
「ゆぅ!?な、なんなのっ、このじじぃっ!ありすにはまりさにとかいはなあいをあたえるぎむがあるのよ!じゃましないで!」
「うぁ……」
ズルリ
この子ありす、見た目通りぬるぬるだ。一度は掴んだものの取り落としてしまった。
その瞬間再び、子ありすは子まりさに飛び掛る。俺は子まりさを軽く蹴り転がすと再び子ありすに手を伸ばした。
だが何度やっても滑って上手く掴めない。仕方ないので頭髪を掴んで子まりさから引き離うことにする。
「んほ、んほぉぉぉー!!ありすのとかいはな、ゆぎゃ!!どこつかんでるの!?」
この子ありす、少し痛めつけた方が良さそうだ。
「き、きたいないてで、ありすにさわるんじゃないわよ!このいなか-----ゆべしっ!」
俺はそのまま子ありすを振りかぶり、顔面から地面に叩き付けた。
これで少しは大人しくなるだろう。
「……ゆ……ゆぎゃああああああああああああ!!!!!!」
子ありすが金切り声で苦痛の叫びを上げる。前言撤回、余計に喧しくなった。
一方、子まりさは体力を使い果たしたのか動けないでいるようだ。
「ゆ、ゆ、ゆ……」
だが命に別状はないようだ……危機一髪といったところか。
「まりさ。大丈夫か?立てるか?」
「ゆ~。なんとかたてるよ。おにーしゃん、たすかったよ」
子まりさは無事なようだ。早速質問してみることにした。
「ところでまりさ。唐突だけどまりさはどこで生まれたんだ?」
「ゆっ?まりしゃはここで生まれたよ」
「人間のお家で暮らしたことはあるか?」
「ゆゆっ?にんげんしゃん?まりしゃはずっとここにすんでるよ」
どうやら生粋の野良のようだ。うーむ、では子ありすはどうだろう?
「なぁ、ありす。……ありす?聞いてるか?」
「……べに゛べに゛が!!ありずのどがいはなべに゛べに゛があぁぁぁぁ!!!」
どうやら、さっきの一撃で隆起したぺにぺにが折れてしまったらしい。さっきの叫びはそういうことか。
「……ぺにぺにの一本くらいどうだっていいだろ?それより俺の質問に答えてくれ」
「ゆぎいいぃぃ!!ありすののどかいはなぺにぺにはどうでもよくないぃ!!ぺにぺにっ!べにべにぃぃ!!
おに゛いさんもほめでくれたありすのべにべにぃ!いなかもののくそじじぃはゆっくりしないでじねー!!」
「お兄さん?……お前は人間に変われてたのか?」
「そうよ!いなかものにはわからないでしょうけどね!そんなことより、ありすのべにべにがえぜぇぇ……」
……ゆっくりは見た目によらないものだな。こんなのでも飼いゆっくりだったとは……。
いや、こうなったから捨てられたのか。テレビのドキュメントでもやっていたがありす種にはよくあることらしい。
多かれ少なかれ全てのありす種はレイパーの因子をカスタードに刻まれており、
例え何代もレイパーを出していない血統の優良個体であっても、何らかの拍子にそれが発露してしまうことがあるのだそうな。
「で、ありすは注射をうたれたことはあるか?」
「ちゅうしゃ?ああ、あのゆっくりできないきぐね。ありすはとかいはだからなかなかったわよ。ゆうぅ、ぺにぺにぃ……」
ふむふむ、これは本当に飼いゆっくりだったようだな。となると残る条件はあと一つ。
俺はありすを掴んで逆さにすると、あんよを覗き込んだ。その中央より後方にキュッと萎んだあにゃるが鎮座している。
「ゆがぁぁ!!このへんたいっ!!どこみてるの!?」
よし、ドナーはこの子ありすに決定だ。いやはや、こんなに早く見つかるとは思わなかった。
俺はポケットからクシャクシャのコンビニ袋を取り出すと、有無を言わさず子ありすをその中に放り込んだ。
「ゆわぁぁ!?こんどはなんなの!?とかいはなありすをこんな、ぶぎゅっ!!」
ギュウゥゥゥゥ……
子ありすを入れた袋を圧搾して余分な空気を出してやった。さっきからいちいち煩い。
これで子ありすは顔面をビニールで押さえ付けられ喋ることができない。
それにしても外側からみると薄いビニールに歪んだ顔が浮かんでストッキング被った強盗みたいだ。
「まりさ、邪魔したな。このありすは貰っていくぞ」
「ゆっ!ゆっくりできないありしゅはゆっくりしないでつれてってね」
空き地を去る際、子ありすは袋を揺らして激しく抵抗したが暴れる度にデコピンを繰り出すと次第に大人しくなった。
なかなかイキの良い個体だ。レイパー化しているのが玉に瑕だがドナーとしては申し分ない。
不意にぱちゅりーの笑顔が脳裏に浮かんだ。それにしてもこんなに手間暇かけて食用に加工されたゆっくりを治療するだなんて、
これはゆっくりんピースから表彰されてしまうかもしれないな。
……そう自分の行いを皮肉りながら家路を急いでいると、すぐ傍を真っ白な選挙カーが走り抜けていった。
危ないな……もう少しで接触するところだった。ちゃんと前を見て走っているんだろうか?
車上のスピーカーからは大音量のスピーチが流れている。
「あまあま党の由久利愛出子、由久利愛出子をよろしくお願いします!!」
あまあま党……“全てのゆっくりたちに人権を!”がキャッチフレーズな新進気鋭の政党だ。
ゆっくりんピースの支援を受けており、都市部の愛護派を中心に熱烈に支持を集めているのだとか……。
ふと、選挙カーの窓から何か巨大な物体がニュ~と突き出てきた。あれは……ドスまりさ?
「ゆゆ~ん♪みなさん、ゆっくりおうえんしてね~♪」
……例え皮肉でもゆっくりんピースの表彰なんて糞喰らえだ。
最終更新:2022年05月21日 22:35