*作者当てシリーズ
そこは草原一帯がゆっくりだらけだった。だが、他の群れとは明らかにおかしいことがあった。
「しっかりはたらくんだぜ!」
「にげたらげんばつだよ!」
と蔦をもったゆっくり達がバッジの付いたゆっくり達を監督している。
バッジの付いたゆっくり達は飼いゆっくりであったのだが、このゆっくりの群達に誘拐され、働かされていた。
「ゆひぃ……ゆひぃ……」
「おらおらちんたらうごくんじゃないんだぜ!」
ビシィ! と音が鳴り、蔦でたたかれたゆっくりには無残なみみずばれが残った。
「……ご、ごんなどごろじゃゆっぐりでぎないよ……」
事の発端はある日のドスの思いつきからだった。
「にんげんさんといっしょのゆっくりはからだがおおきいんだぜ、あいつらをはからかせればむれのみんなはもっとゆっくりできるんだぜ!」
こうしてこの馬鹿の一つ覚えのような計画は実行され多くの飼いゆっくりが誘拐されていた。
ろくに食事も食べれずに働かされて、そして動けなくなったら殺される。そんな悪夢のような状況であった。
あるゆっくりは自分以上の重さの枯れ草を運ばされ、過労死した。
あるゆっくりは食料集めに奔走させられ、疲れて動けなくなったところを群のありすにすっきりさせられて殺された。
当初は最低限の食事は与える予定だったのだがこの秋は不作で収穫できる食物も少なかったのでドゲスは群を最優先し、
『奴隷』である飼いゆっくり達にはびた一文渡さなかった。さすがに心ある者達はこの処遇に文句を言ったが
「どうせすくなくなってもまたあつめればもんだいないんだぜ!」
と取り合わなかった。
このドスはだめだ、そう思ったゆっくりにしては良心がある者達はドスを見限り、平原から山の奥へ生活の場を変えていった。
危険があっても誰かに押し付けず自分達で生活していくことがゆっくりできることに繋がるのだ、と考えたのである。
まぁ、彼らの話は今は関係ないので割愛するがこれにより歯止めの無くなったドスは飼いゆっくりの誘拐を続けていった。
ドスは自分の計画がここまで上手くいくとは思わず、有頂天だった。
奴隷ゆっくり・しかも頑丈な飼いゆっくりを奴隷にすることで群れのゆっくり達はゆっくりできているのだから。
ドスにとって自分の群が一番大事、他のゆっくりなど知ったことではなかった。
だから、奴隷ゆっくりを群のゆっくりが虐めることもストレス解消になるのなら、と奨励したし奴隷相手ならすっきり制限を解除した。
奴隷が生んだ子供は群の冬の非常食になってもらうことにした。
繰り返して言うがドスは自分の群がゆっくりしていることに非常に満足していた。
だが、なにごともやりすぎはいけない。ついに人間側に発覚してしまったのだ。
だがドスは普段自分達をまるでゴミのように殺す人間が「たかが」ゆっくりに本気を出すとは思っていなかった。
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飼いゆっくりが突然失踪する事件が起き始めたのはもう半年以上前であろうか。
当初ただの家出事件と思われていたのだが、真相は別のところにあった。これらはすべて誘拐事件だった。
断っておくが虐待お兄さん達ではない。彼らはアウトローであるが法の怖さを知らぬわけではない。
ならば、誰の仕業か。ゆっくりの群の仕業だった。飼いゆっくりは豊富な食料で成長するため体が丈夫だ。
それに目をつけたドス いやドゲスか、が彼らを安価な労働力として使うことを思いついた。
この計画は大当たり、群は楽して労働力を手に入れて大いに繁栄した。 ゆっくりの範囲内では。
この事件が判明したのはボロボロの飼いゆっくりが家に帰還したことからだった。
驚いた飼い主が今まで何処にいたのかをゆっくりに聞いたところからこの事件の真相が判明、
逃げた奴隷を取り戻そうと追ってきたゆっくり達を拷問しこの群の場所を見つけ出した。
俺らのような零細駆除会社に頼んでくるとは思っちゃいなかったが。
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「しかしひでぇな、草原が枯野原になってやがる………」
「何も考えずにひたすら増えたんだろ、馬鹿だから」
双眼鏡を外しながら、俺はぼやく。こいつの心配性は相変わらずだ。
「だけどよぅ、馬鹿なら奴隷制度なんて思いつかねぇだろ?」
「もしかしたら適当な思い付きかもしれねぇぞ?」
と談笑しながら俺達は一度前線キャンプへと戻る。
「偵察どうでした?」
聞いてきた社長に見てきた事実をありのままに話し、
「一面ゆっくりだらけだ、早めに潰さんと被害がさらに増えるな」
「そうですが生き残った飼いゆっくり達も助け出さないといけません」
さらっと厄介な問題を再認識させてくれるリーダー。
「そうなんだよなぁ……あいつら絶対飼いゆっくり盾にしてくるだろうし……」
いつもならば殲滅すれば問題無いのだが、今回は飼い主の方々からの頼みで生き残っている飼いゆっくり達はなんとしてでも助けなければならない。
「下手な接近もできないし……」
「そういえば、偵察したときにゆっくりはどういう配置だった?」
「あ、はい」
群れはドスを中心とした円状の営巣地を作っていた。一番外輪部が奴隷達。推測半径は300メートル。
よくもまあ、無計画な繁殖をしてくれたものだ。
「外輪部が飼いゆっくり……それだ! 君達は支給加工所から食用ゆっくりを買って来てくれ!」
「は、ハイっ!」
「私は花火職人を呼んでくる」
「ヘッ? なんで花火職人を……」
「いい作戦なんだ! 上手くいけば、飼いゆっくり達をほぼ無傷で助け出せる!」
とりあえず食用ゆっくりを買って来た。即座に潰し、飾りだけを取り出す。
「花火師さん、お願いします」
「ホントは花火は上に打ち出すんですけどね……」
しょぼくれた花火師が『斜め向きに』群れの頭上に行くように調節をし、
「今だっ!」
射出した。
10号玉。280-300メートルの大輪の花火を生み出す花火玉である。
本来なら330メートル以上の高度まで打ち出すことにされている、
そんなものが規定以下の高度(といっても240~250メートル)で花開いた結果が
「あ、あじゅぃぃぃぃぃぃ!!」
「ま、まりざのおぼうじがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「み、みみがいだいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
10号玉以上の花火の爆音は文字通り大気を震わせる。
炎に当たって焼き饅頭になるものもいれば爆心地近くでは空気の振動によりミンチより酷いことになった。
そして空から降ってきた死んだ食用ゆっくりの飾りが内円部のゆっくり達に降り注ぐ。
死んだゆっくりの飾りを少しでも付けたゆっくりはゆっくりできない。これはゆっくりの本能である。
「ゆ……ゆっくりできないゆっくりはじねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ただ、この法則で暴走を起こすのはは元気なゆっくりのみ。やせ細っていてろくな体力が残ってない飼いゆっくり達はゆっくりできないような気がするが動けない。。
体力が有り余っていたならこの狂乱に飛び込んでいただろうが、体が動かないのだからしょうがない。
その光景を見ているのは俺達、というわけなのだが……。
「なんつぅ博打を……」
「つぅかちょっとでも高さや位置がずれてたら飼いゆっくりが死ぬところでしたよね?」
「細かいことは気にするな!今のうちに飼いゆっくりを保護するんだ!」
この騒ぎで外輪部を監視しているゆっくり達も内円部にいってしまって、疲れきり、横たわっている飼いゆっくり達のみがいる。
片っ端からゆっくり達を改造吸入器(ドッグゴーン※の改良型)でトレーラーに放り込んでいく。
十数分で飼いゆっくり達の回収には成功した。どいつもこいつも傷だらけでやせ細っていた。
「ひでぇことしやがる……」
「お前ゆっくり嫌いじゃなかったか?」
「迷惑かけんヤツは別だ」
と、突如トレーラーに振動が起きた。
「な、なんだぁぁぁ!?」
トレーラーは横転した。
「社長は!?な、中のゆっくり達は!?」
「社長はおねんねだ。ゆっくりのほうだが……念のためにトレーラーの内壁をクッションだらけにしといてよかったな。あらかた無事だ。しかし、何があったんだ?」
「大方、ラスボスのご登場じゃね?」
そう言いつつ外に出るとそこにドスがいた。
帽子は焼け焦げ、顔の半分はグチャグチャ、目と他の皮の区別も付かない有様だった。
「ぞ、ぞいづらをよごぜぇぇぇ!! ぞいづらざえのごっでだらまだむれのみんながゆっぐりざぜれるんだぁぁぁぁ!!」
群の状況を把握できていないらしい。ここまでくればもはや執念か。
「どうするよ……ここまで執念深いと倒せる気がしねぇぞ俺。さっきので足痛めたみたいだし」
「安心しろ、俺もだ。こっちは腕にヒビだがな……」
「俺ら万事休すじゃね?」
「違いねぇ。でもよぉ……ここで大逆転ってやったら俺らカッコ良くね?」
「だよなぁ……、分の悪い賭けは嫌いじゃないってどっかのエライ人も言ってたし」
「じゃぁ、駆除屋の本領をみせますか?」「いいですとも!」
「ごじゃごじゃうるざぁい!じねぇぇぇ!!」
ドスが熱線を放とうとする。
「遅い!!」
もはや、ドススパークのチャージもできていない。体が半分焼き焦げているから息がしづらくなっている。
ドスの恐ろしい点は二つ。短距離といえど高熱を放つドススパーク。そしてもう一つが巨体をいかした体重攻撃だ。
だが、ドススパークはろくなものを撃てず、巨体を活かしたくも焼き焦げてるため満足に動けない。
コレなら……いける!
一気にドスの前へと踏みこみ、ゆっくり駆除の名物の一つ・ワイヤーつきの熱した杭を打ち込んだ。
「ゆっぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
体内の餡を焼かれ、ドスの絶叫が響いた。そして、ドスは動かなくなった。 だが、まだ死んでいない。
「とりあえず、ロープで縛って、口のキノコは没収して……あとは社長しだいだな」
トレーラーをどうやっておきあげさせるかが現在俺達の最大の問題となった。
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こうして飼いゆっくり誘拐事件は幕を閉じた。戻ってこれなかったゆっくりも多かったが、生きて飼えることのできたゆっくり達もまた多かった。
飼い主とゆっくり達は涙の再会をしていた。
だが、そんなありきたりの感動話はどうでもいいので割愛させていただく。
ドスは村のはずれでさらし者にされていた。当初は道行く人々に罵声を浴びせていたが口を縫われてしまい、いまではむーむーぐらいしかしゃべれない。
で、今おれはそんなドスの前にやってきている。そりゃお前、恨み言の一つや二つも言わんと気がすまんだろ。
「よぉ、ドス。お前の計画はこうして失敗、群はあの後完全に駆除された。大事な群はもうないってさ」
「~~!~!!」
「何言ってるか僕わかんなぁい。まぁ、ひと様の牧草地を荒らした結果だからなぁ」
「~‥…!!」
ハラハラと涙を流すドス。こんな奴にも仲間を思いやる心はあったらしい。正直散々罵倒してやろうと思ったのだが面白くない。
どうせ遅かれ早かれ死ぬのだから来世へのアドバイスをしてやることにする。 ぜんぜん優しくないな俺。 縫い口を取ってやる。
開口一番にドスは叫んだ。
「ど、どぉじでどすのむれをころしたのぉぉぉぉぉ! わるいのはどすだけだぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
判ってるんなら話は早い。
「お前は自分だけ悪いと思ってるのかもしれんがな? 一度楽を覚えたお前の群れが飼いゆっくり誘拐の再犯を犯さないとは限らんだろうが」
「………ゆぅ」
「なぁドス、お前の失敗は三つある。一つはお前が仲間の話を聞かなかったこと。これは山神の土地に移動したゆっくりの群れがいたことから判断した」
「あ、あのこたちはだいじょうぶなの!?」
コイツ、ドスなのかドゲスなのかイマイチ判らんな……。
「山神の土地だからなぁ、あいつ等があそこから出ない限りは俺達は手を出せん」
それを聞いて、すこしコイツがホッとしたかのように見えたのは気のせいだろうか?
「二つ目は群れの巣をあそこに設けたこと。あそこは放牧地だ、遅かれ早かれお前等は人間に殺されてただろうな。
で、最後。これが一番の失敗だ。」
「い、いったい、どすがなにをだいしっぱいしたっていうんだぜ!?」
「飼いゆっくりを利用したことだ。残念ながらなぁドス。
お前等は自分達がいつも人に潰されてるから飼いゆっくりも一緒だと思ったんだろ?」
「ゆぅ……」
やっぱり。大方そんなところだと思ったよ。
「残念ながらな、人間は可愛がるものと駆除するものは別々に考えられるんだよ。
そして、お前は可愛がるものを襲ってしまった、あとは判るな?」
「どすは……どすのむれをゆっくりさせたかっただけだったんだぜ………」
ドスはそれ以来何も言わなくなった。
数週間後、飼い主達の意向によりドスは殺されることになった。
今まで飼いゆっくり達が受けた仕打ちを直接返されたのだが、ドスは一度も叫び声をあげなかった。
「最期になにか言うことはあるか?」
「す、すこしでもいいからどすのからだをむれのみんなのねむってるところにうめてね」
「判った」
そして中枢餡子に俺は杭を打ち込んだ。
後書き
ドスなのかドゲスなのか書いた後も正直わからん……
最終更新:2022年05月21日 23:25