ゆっくり実験02  ~ありす掘削~      作:アイアンマン


 やあ。僕は人里に住む普通のお兄さん。
 以前、ゆっくりまりさの底をぐるっと切って、皮を持ち上げたりした者だ。
 あれ以来、ゆっくり実験には手を出していなかったんだけど、今日たいへんなことが判明した。
「えへっ……実は私も……好きなんだ。ゆっくりいじめ」
 可愛らしく笑ってぺろっと舌を出したのは僕の妹。
「おまえもか」
「うんっ♪ だからお兄ちゃんといっしょに、虐待したいしたい、した~い♪」
 そう言って僕の手に取り付き、ぴょんぴょんと跳ねる。
 セミロングの髪とミニスカートがはためき、健康的な太腿がちらちらと見える。
 僕は普通のお兄さんだが、妹が好きだ。
 妹が好きでも別に異常ではないことは、多くの人に賛成してもらえると思う。
 賛成してもらえるよね。
 可愛い妹のためとあれば、やらないわけにはいかないだろう。

「で、こいつか」
「うん、あたしはこれが好み」
 そういって僕たち二人はテーブルの上に目を注いだ。
 そこにいるのは金髪に赤いカチューシャを差したゆっくりだ。
「ゆふん、ゆっくりしていってね!」
 ゆっくりありす。
 まあ説明の必要もないと思うが、マスクメロンぐらいの大きさで、健康そうだ。
「冷蔵の赤ちゃん状態で買ってきて、手塩に掛けて育てたのよ。
 この四ヵ月、ず~っと仲良く暮らしてたんだから。ねー、ありす」
「ゆっ! まちがえないでちょうだいね、ありすがなかよくしてあげたのよ!
 とかいはなわたしとくらせて、おねえさんもゆっくりできたでしょ?」
 ありすはそう言って、自慢げにふんぞり返った。
 僕の胸の底で、メラッと何かの炎が燃える。
 ――すると妹が、しっとりした華奢な指で僕の手をキュッと握った。
「ね、可愛いでしょ?」
 天真爛漫な笑顔の奥に、異質な気配が見える。
 うんうん、さすが僕の妹だ。ただ単に美少女なだけじゃなく、ミステリアスで素敵だなあ。
「それで、この仲良しありすを、やっちゃうの?」
「そう、やっちゃうの♪」
 嬉しそうにうなずくと、妹はいそいそと準備を始めた。
 ありすは、いくら都会派を自称していても、しょせんは空気の読めないゆっくりなので、間の抜けた質問をする。
「ゆっ? ゆっ? なにかたのしいことをするの? ありすもさんかしてほしいんじゃなくて?」
「ああ、ありすも一緒に遊ぼうなー」
 僕は平和そうな雰囲気を装って、ありすの髪をなでてやった。
「き、きやすくさわらないでほしいわね! ぷんぷん!」などと頬を赤らめながらも、身を任せるありす。
 ああ、こういうところは可愛いな。
 もちろん、可愛いからって手を緩める気はない、というか可愛いからこそやっちゃうんだけど。
 そうこうしているうちに妹が準備を整え、ありすの前に何かを差し出した。
「はい、まずはこれを召し上がれっ」
「ゆ、なにかしら?」
 皿に盛ったクッキーだ。あら、これはほんとにとかいはなおかしね! とありすはよだれを垂らして平らげる。
「むーしゃ♪ むーしゃ♪ しあわせえええ……っと、こほんこほん! まあまあね」
 などと気取った態度を取ってはいたが、五分も立たないうちに目がトロンとしてきた。
 クッキーを口から落として、すやすや……と眠り込んでしまう。
 僕は妹を見る。
「眠り薬入りなんだ?」
「そう。でも普通のとはちょっと違うの」
「どんな風に?」
「強い鎮痛作用があるんだって。眠り薬って言うより麻酔薬だね」
「そんなもの、よく手に入ったね」
「ショップで普通に売ってたよ?」
 さすがゆっくりショップ。多様なニーズに対応しているらしい。
「さぁて、ここからがいよいよイジメです……あふん、ドキドキする」
 言いながら妹が取り出したのは、奇妙で武骨な器具だった。
 垂直に立つ枠のようなもの。さながら刃のないギロチンとでも言うべきか。
「ここに、ありすちゃんをハメまーす……」
 メロン大のありすを枠の中央に収め、上の横木を下ろして挟み込んだ。ありすは固定され、動けなくなる。
 作業しながら、妹がささやく。
「ごめんね、ありす。仲良くしてきたのにね。ショッピングにいったし、サイクリングもしたね」
 言いながら電気バリカンを持ってありすの後ろに回り、綺麗な金髪をガーッと剃り始めた。
「大好きだよ、ありす。かわいいよ、ありす……」
 なんか膝をもぞもぞこすりあわせ始めた。ほっぺたがほんのり赤く染まっている。
 僕は思わずごくりと唾を飲んで、妹の肩に手をかけた。
「ひゃん!」
 ビクッ、と震えて妹が振り向く。僕は何度もうなずいた。
「うんうん、わかるよ、今のおまえの気持ち」
「やだ……」
 とうつむいた妹が、ふと何かに気付いたように顔を上げた。
「そっか、お兄ちゃんも、なんだ……?」
「そうさ。僕だって、まりさをいじめたときには……」
「ああ……お兄ちゃん! やっぱりあたしのお兄ちゃんだぁ……♪」
 花が咲くようにふんわり微笑んだ妹に、僕は愛情をこめて頬ずりしてやった。
「さあ、何はともあれ、これを続けなきゃ」
「うんっ、そうだね! 薬の効き目が切れちゃう。そうそう、お兄ちゃんにも役柄があるの。手伝ってね!」
 明るく元気にうなずくと、妹は残りの準備をてきぱきと進める。
 ビデオとディスプレイの設置、配線、そして術具の配置など。
 すべてが終わると、僕たちはありすの前の椅子に腰掛けた。
「さあ、ありす、目を覚まして……」
 すでにパンツの中が大変なことになっちゃってるらしい。
 スカートの上から股間を直したりしつつ、妹がありすの顔の前に気付け薬をかざした。
「ん……ゆ……くちゅんっ!」とくしゃみをする。人間でいえばアンモニアを嗅がされたようなものか。
 うっすらと目を開けたありすが、しぱしぱと瞬きして状況を把握しようとする。
 右手に僕、左手に妹。
 そして正面には大画面の液晶モニター。
「「ゆっくりしていってね!!!」」
 僕と妹のかけた声に、ありすはびくっと驚いた。
「ゆ、ゆっくりしていってね……?」
 そして落ち着きなく、辺りを見回そうとした。

 動かない。
 いや、動けない。
 ゆっくりありすは体を動かせない。顔を押さえる枠のせいだ。
 そして、そちらまで視界が届かないので、なぜ動かないのかも分からない。
 おまけに薬で思考が鈍っている。
「ゆ? ゆ? なんなの? ゆっくりうごけないわ?」
 きょときょとと左右を見るありすの前に、いきなり妹が、ずいっと身を乗り出した。
「ねえ、ありす!」
「ゆっ?」
 僕の横に小ぶりなお尻をツンと突き上げた姿勢で、テーブルに手をついて妹はありすに詰め寄る。
「今日はあなたに見てもらいたいものがあるの」
「ゆ、そんなことより、ありすはゆっくりうごきたい――」
「いいから、ね、見て! きっとゆっくりできるわよ?」
 押しかぶせるように言うと、妹は身を引いてリモコンの電源ボタンを押した。
 ぱちっ、と映像が映し出される。
 板の上に乗っている、白いものの映像だ。もっちりとして柔らかそうな楕円状の物体。
 かなりアップにしてあり、その白いものと、台になっている板以外は映っていない。
「ありす、これがなにかわかる?」
 妹が聞く。ありすは眉をひそめ、ふるふると首を振――ろうとしたが、枠に阻まれて失敗し、目だけを横に動かした。
「わからないわ。ねえ、ありすはゆっくり――」
「いい、見ててね? ありす」
 ありすを無視して言った妹が、目顔で僕に合図した。
 僕はうなずき、席を立って離れる。ありすがとまどったように言う。
「あら? おにいさんはどこへいくのかしら?」
「さあね?」
 妹がしらばっくれたその時、画面に変化が起こった。
 刃物を持った人間の手が現れたのだ。
 その手は、ためらいなく刃物を白いものに突き立てた。ぷつり、と弾力のある生地に刃が食い込む。
 手はそこでいったん止まった。妹がありすに目を移す。
「ありす、これをどう思う?」
「ゆぅ……? いみがわからないわ」
「そう? じゃあもう少し見てて」
 手が再び動き出し、白いものに切れ目をつけていった。
 さくり……さくり……と刃が生地を切る。そのたびに妹がせわしなく瞬きする。
 足を組み替えて、ぎゅっと力を入れたのが分かる。両手で自分の胸を抱きしめた。
 僕はにやにや笑う。妹の気持ちがわかる。
 声をかけたかったが、そうするわけにはいかない。声を出したら僕の居場所がありすにばれてしまう。
 さくっ……と生地を四角く切ると、画面の中の手は、生地をめくりあげた。
 もちもちとした生地がぐにゃりと持ち上がる。
 と、その中で形を保っていた黄色いねっとりしたものが、とろぉり、とゆっくり垂れてきた。
 妹が身を乗り出し、唇を震わせて尋ねる。
「ね、ねえ、ありす。ほ、ほんとになんとも思わない?」
「ゆゆぅ……?」
 ありすは眉をひそめて映像に目を凝らしているらしい。クイズか何かだと思ったのかもしれない。
「これは……なにかしら。やわらかくて、もちもちしているわ」
「うん、そうね」
「なかから、とろとろしたものがたれてるわ。なんだかゆっくりしたものにみえるわ」
「そう、そうよ」
「でも……なにか、なにか、ゆっくりできないかんじが、す、る……」
「うんうん……うんうん!」
 期待を込めてありすの顔を覗きこんでいた妹が、しばらくしてから、僕に目配せした。
 僕は静かに歩き、妹のそばに戻った。考えこんでいるありすの前に、コトリと皿を置く。
「ゆっ?」
 目を上げたありすが、皿に気付いた。その顔を、ふわりと甘い香りが撫でる。
 皿には、スプーンで盛りつけた黄色いカスタードクリームが乗っている。
「あら……あまあまだわ! とかいはなにおいのするあまあまだわ!」
 口の端によだれを浮かべて、ありすが僕を見上げた。
「これをありすにくれるのね? ありすがたべていいのね?」
「いいけど、あたしもほしいなあ……」
「ゆっ! いいわ、おねえさんたちにもあげるわ! ありすはやさしいのよ!」
 気取った調子でありすが言ったので、僕と妹は顔を見合わせ、一緒に食べ始めた。
「あーん……おいし」
「ありすにも! ありすにもあげなきゃいけないでしょ!」
「わかってるって。はい、ありす。あーん……」
「あーん……ぱく! ぺーろ、ぺーろ♪ しあわせええぇ♪」
 口を開けて目に涙を浮かべ、ふるふると感動するありす。
 ゆっくりの性質だとはいえ、こんなときでも感動してしまうなんて、業だなあ。
「おいしいよね、クリーム」
 もうひと口、自分で味わった妹は、次にすくったクリームを僕に差し出した。
「はい、お兄ちゃん♪」
「いいの?」
「んふ、あたしが大事にしてきた……クリーム、食べてね」
 中ほどのところは言葉を濁して言い、妹がスプーンを向けた。僕は口を開ける。
「はい……」
 妹の唾液のまだ残るスプーンを、僕はぱくりとくわえた。
 じっくり舐め取って、と言わんばかりに、妹はじわじわとスプーンを引き抜いた。
 そして、僕の唾液の残るスプーンでクリームをすくい、僕に見せ付けるように桜色の唇にくわえて、ねっとりと舐め取った。
 上気したような上目遣いでささやく。
「ごめん、あたしのスプーン、使わせちゃって……」
「いや、いいよ。僕は平気」
「そうなんだぁ……♪ うれし」
 小悪魔みたいに色っぽい笑みを浮かべると、妹はわざとクリームを残すような舐め方をして、僕にも使わせた。
 僕もお返しに、口に入れたクリームをかき混ぜてからスプーンに載せて差し出し、妹に舐めさせてやった。
 そんな甘甘プレイを兄妹でやっていると、ありすが「ぷくぅぅ!」とふくれてしまった。
「おねえさん、おにいさん! ありすにももっとくりーむをよこしなさいな! ありすはもっとほしいわ!」
 仲間はずれにされた悔しさからだろうが、それを聞いた妹が、また目を輝かせて身を乗り出した。
「もっと? ありす、もっとほしいの?」
「ゆん、そうよ! ゆっくりもってきてね!」
「ほんとうにいいの?」
「いいっていってるでしょおおお!」
 うわ、青筋立てた。ヒスを起こしたみたいだ。
 ありすは他のゆっくりより怒りやすいのかもしれない。
 ともあれありすのご用命なので、僕は席を立ち、クリームのお代わりを持ってきた。
 そしてありすにひと口か二口やり、あとはまた兄妹で舐めたり舐めさせたりする。
 クリームがなくなると、また持ってくる。
 それを繰り返しているうちに、どうも違う気がしてきたので、いつの間にか抱きついていた妹を押し戻して、僕は言い聞かせた。
「ちょっと待ちなよ、これ、ありすとの遊びだったろう」
「そ……そうだね」
 妹はスイッチが変なほうに入ったらしく、汗ばんだ顔を僕の胸に埋めて、はふはふ息をしていた。
 僕に押し戻されて、ようやく正気を取り戻す。
「こんなことしてちゃ、いけないよね……」
「そうだよ」
「でもなんか、これはこれでいいから、お兄ちゃん、あとで……ね?」
 おねだりするような目をしてきたので、僕はそのおでこにキスをして、頭をなでてやった。
 それから二人でありすに向き直った。
「ねえありす、まだまだクリーム、ほしい?」
「ほしいわ! もっとありすにもあまあまがほしいの!」
 かなりイライラしているようだ。まあ無理もないか。仲良しの飼い主である妹を、僕に取られちゃったんだから。
 妹がありすの頬に触れて、やさしく言い聞かせた。
「ごめんね、つい夢中になっちゃった。でもありすのことも好きだよ」
「すっ……すき、なの?」
 好きだと言われたとたん、ぽっ、とありすは頬を赤らめた。
 じつに単純だと思うけれど、ありすが一番弱いキルワードが、「好き」のひとことだと聞いたことがある。
 仕方がないんだろう。
「す、すきっていえばゆるされるなんて、おもわないでね!」
「わかってる。だから態度で示すね。ありす……」
 顔を寄せた妹が、ありすの頬にキスした。
 それも、つついて離すような軽いキスじゃなくて、唇を塗り当てるような濃厚なキスだ。
「ゆ、ゆうぅぅ、おねえさん、そんなぁ……ちゅっちゅ、すごいわぁぁ♪」
 たちまちありすが身をくねらせる。うーん、可愛いかどうか微妙なところだ。
 キスを終えると、妹は僕に目配せした。僕はクリームを取りに行く。
 妹はありすの顔のそばで、睦言のようにささやく。
「ね、画面見て、ありす」
「ゆぅ?」
 そこには、例の白いもちもちに刻まれた、拳が入るほどの穴が映っている。
 今またそこに現れた手が、空洞と化しつつある穴の奥にスプーンを差し込んで、クリームをかき出していた。
「もうずいぶんクリームを取っちゃったから、スプーンが届かないの」
「ゆぅぅ? それはこまったわね……」
「だから、しぼり出してもいいかな?」
「あら、しぼればでるの? じゃあしぼればいいとおもうわ」
「そう? ありがとう」
 妹は微笑むと、ありすの両方の頬を、手のひらで挟んだ。
「ゆぅ……?」
 そして、少し力をこめて、ぎゅっと押した。
 画面に映る空洞の奥から、ねろねろとカスタードクリームが出てきた。
 スプーンがそれをすくい、持ち去った。
 妹が、またありすに顔を寄せてささやく。
「まだまだ出てくるわね、ありす」
「ゆ、そうね……」
 うなずこうとしたありすが、ふと、言葉を切った。考えこむような顔をしている。
 その間に僕は戻ってきて、ありすの前に皿を差し出した。
 そして次の皿を手にして、また立ち去った。
「あら? おにいさん? たべないの?」
「全部食べていいのよ、ありす」
 妹が頬杖をついて、うっすらと微笑む。
「ううん、全部食べなきゃダメよ、ありす」
「……おねえさん……?」
 ありすが不安を感じたように尋ねたとき、画面に再び人間の手が現れた。
 それと同時に、妹がありすの頬に手を伸ばした。
「ゆううっ!?」
 妹がありすをおしつぶす。
 画面に映る穴から、ムリムリとクリームが出てくる。
 人間の手がその大部分をかきとった。
 ややあって、僕がありすの視界に現れ、一枚目の皿の隣に二枚目の皿を置いた。
 そして妹と二人で並んで、にこにことありすを見つめた。
 妹がとびきりのプレゼントをするような声で言った。

「さあ。わかったかしら? ありす」

「ゆ……?」
 ありすの、ゆっくりにしては端正な顔に、疑問のさざなみが走った。
 次第にそれが、黒く深くグロテスクな恐れの色へと変わっていった。
「ゆ……え……? これ……だれのあまあま……え?」
 混乱している。無理もない。常識的に考えればありえない。
 だってその想像が本当なら、ありすは激痛で悶え苦しんでいるはずだから。
 それなのに現実は、大好きな飼い主とごく普通に会話できている。
 でも。
「ありす、一緒にお買い物にいったよね」
 おねえさんの、
「ショーウィンドウのウェディングドレス、見とれてたよね」
 いうことが、
「ゆっくり用のドレスなんてなかったけれど、帰ってからレースのハンカチでヴェールを作ってあげた。すっごく喜んでくれたね」
 なつかしい、うれしい、とてもうれしかったのに、
「覚えてる?」
 おもいだせない。
 確かに見たはず聞いたはずのことが、思い出せない。
 あるべき記憶がない。ごっそりと失われている。
 まるで誰かに食べられてしまったかのように。
 僕には、ありすのそんな恐怖が手に取るようにわかった。
 僕が三枚目の皿を手に取って席を立つと、ありすが脂汗を流しながら叫んだ。
「ど、ど、どうな゛っでるのぉぉぉ゛!?」
「食べな。ね?」
 返事の代わりに、妹が皿をありすの前に押し出す。
「食べるのよ、ありす」
 ありすは本能的に悟ったようだ。食べなければまずい、と。
 ものすごく、とてつもなくまずい、と。
「はっふはっふ! がっぷ、あぶあぶ、べーろべーろ!」
 つんのめるようにしてクリームに舌を伸ばし、ありすは必死でクリームを舐め始めた。
 そんなありすの頭を押さえ、妹が哀れむような顔でささやく。
「がんば・れっ」
 ぎゅうううう!
 容赦ない圧迫。潰れるありす。画面に映る穴からねろねろっとほとばしるクリーム。
 そして、間をおかず自分の前に置かれる、三皿目のクリーム。
「べーろべーろべろべろ! ぬっちょねっちょ、あっぶあっぶ!」
 ありすは舐める。必死で舐める。
 口の周りはあっというまにべたべたになった。もはや都会派もへったくれもない。
 舌の届く限り、飲み込める限りのクリームを飲もうとしている。
 さあ、もう全貌を話してもいいだろう。残るのはもう競争だけだから。
 要するにありすを麻酔し、前しか見られないようにしてから、後ろ頭に穴を開け、それを撮影してありす自身に見せているわけだ。
 自分の頭に大穴が開き、中身を掻き出されているさまを見せつけ、感想を聞く。
 あくまでも本人に確たることは教えず、ただ不安だけをじわじわと煽っていく。
 自分の妹ながら、よくこんなねちっこいいじめを思いつくものだ。
 ……とても素敵な妹だと思う。
 僕と妹は、機械的なほど無造作に、しぼってはかき出す作業を続けた。
 静かな共同作業の中心で、ありす一匹が必死で自分の中身を食らい、カスタードクリームをぐるぐると輪廻させていた。
 だが、いくら頑張ったって、舌一枚で僕ら二人の作業に追いつくには、無理がある。
 五枚、六枚、七枚……ありすの前の皿の枚数は、次第に増えていった。
 それにつれて、空洞はありすの奥のほうへと広がっていった。
 皿が九枚になった時、ありすの頭は、後ろ五分の三がぺらぺらの皮だけになっていた。
 空洞から奥を覗くと、まだ生きて動いている顔面のほうから、ぬぽっ、ぬぽっ、と嚥下したクリームが押し込まれているのが見えた。
 後ろへ回ってきた妹が、僕の隣からそれを覗き込んで、はふー、と吐息を漏らした。
 悲嘆とも感動ともつかない声を漏らす。
「ありす、ありす。あなたもう、ほとんど空っぽじゃない……!」
「ゆぎいぃぃぃいぃ!! んべっ、べよっ、あぼっ」
 泣き出しそうに悲痛な声をあげて、ありすがしゃにむにクリームを舐める音がした。
 僕と妹は肩を寄せ合って、テーブルの前に回った。
 ありすはまだ咀嚼していた。だがその顔は、内側からの圧力が減ったために、歪んだお面のようにぐにょぐにょになっていた。
 涙とクリームでべちょべちょに汚れ、いつの間にか、生きようとする意志も薄れ始めているように見えた。
 顔が歪んだので両目のピントがうまく合わなくなったようだが、右目でふっと妹を捉えて、ありすはゴボゴボというような声で言った。
「おべえ ざん どうじべ こん こと」
「好きだったから」
 妹はありすの頬に手を伸ばし、慈愛のこもった目でささやきかけた。
「ゆっくりの仕組みに、とても興味があったから。あなた、どうしてまだ生きてられるの? ほんとにすごい……」
「あでぃ ず じんじゃう もお じんじゃうじゃ わ゛」
「こわい? ゆっくりでも、死ぬのはこわい?」
「ごわい゛ わ゛よっ しぬ゛の い゛やっ い゛やい゛や いばゃ」
 だらだらと滝のように涙を流しながら、ありすがうめいた。と、その左目が、内側にごぽりと沈んだ。
 あとに残った眼窩には、あふれ出してくるクリームすらなく、後頭部につながる暗いトンネルができた。
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛、あり゛ずっ、ゆっぶりじだいのぉ゛お゛お゛!!」
 絶叫しながら、ありすは残り少ない生命力をふりしぼって、クリームをごぶごぶと飲もうとした。
 最後のあがきをゆっくり見てやりたくて、僕たちはありすを固定する枠を外してやり、皿のクリームを口元に次々と差し出してやった。
 だが、やはり、減った分を食わせて補わせるという方法では、無理があったのだろう。
 息を詰めて見守る僕たちの前で、ありすの動きが急に鈍った。
 妹が肩を縮め、僕の手をぎゅっと握る。
「お兄ちゃん……!」  
「うむ。ほら、耳を澄まして」
 ぬぢゃっ、ぬぢゃっ、と咀嚼していた口が、ふっと動きを止め、かすれた声を漏らした。
「もっど……ゆっぐ」
 すべてのゆっくりの魂に刻まれた、臨終の言葉。
 それを口にしたとたん、ありすの命は尽きた。
 次の瞬間、ありすの口から、どぽぽぽぽぽぉーっ、とすべてのクリームが流れ出してきた。
 ありすの存在を支え、ありすによって支えられていたそれが、ただの食材に戻った一瞬だった。
 机いっぱいのクリームと、べっこりと潰れた金髪混じりの皮と化したありすを見つめて、妹が感極まったように叫ぶ。
「ありす……死んじゃった……!」
 妹はきゅううっ、と身を縮めてびくびくと肩を振るわせた。
 僕はその体を抱いてやった。細い妹の体が、とても熱くなっていた。


 こぼれたカスタードクリームをすくい集め、冷蔵庫から出した新しいクリームを加える作業をしながら、さっぱりした顔で妹が言った。
「あー、すっごくよかったな、ありすの死にざま♪」
「そうだね。ありすなんてツンデレなだけでたいしたゆっくりじゃないと思っていたけど、どうしてどうして」
「えーっ、そんなこという?」
 僕の前にきた妹が、ふふっ、と悪戯っぽく笑った。
「だったら、今度のいじめは一人でやっちゃおうかなあ……」
「あれ、一人でやっていいの? 僕と一緒のほうがいいくせに」
 僕はわざと冷たく聞き返す。むっ、と眉を吊り上げて、妹が言い返した。
「一人でできるもん」
「ほんとに?」
「……うそ! やっぱりお兄ちゃんとしたい!」
 ふにゃ、と顔を崩して、僕に抱きついた。
 うん、やっぱりこの妹は可愛い。
「そうだね、いっしょにいじめようね」
「うん! ねえ、ゆっくりれいむにする? それともぱちゅりー?」
「まあゆっくり考えよう。うちには僕の壊れまりさもいるし、まだこいつもいるし」
 僕たちはありすの口を洗濯バサミで閉じておいてから、後頭部にカスタードを注いでいった。
 満タンにしてから、取り除いてあった皮を戻し、耐水の絆創膏を貼る。
 ここらあたりは、まりさで一度やったことだから、もう慣れている。
 そして声をかけてやった。
「ゆっくりしていってね! ゆっくりしていってね、ありす!」
 しばらく待ったが、動き出す様子がない。
 首をひねった時、妹がポンと手を打った。
「そうだ。乙女ちっくなありすのことだから……」
 妹はありすを持ち上げると、その唇にキスをした!
 たちまちのうちに、青白かったありすの頬に紅が差し、金髪がふっさりとしたつやを取り戻した。
 何度か瞬きをして、目を開ける。
「ゆぅ……ん」
「おお、目覚めた」
「王子様のキスのほうがよかったかなあ」
「起きたんだから別にいいじゃないか。さあ、ありす。ゆっくりしていってね!」
 僕が声をかけると、ぱちくりと瞬きしたありすが、ぱあっと光が散るような笑顔で答えた。
「ゆっくりしていってね!!!」
 あっさり生き返った。本当に単純な生き物だ。
 まだ記憶が戻らないのか、それとも単にぼんやりしているのか、僕たちを見る目に嫌悪や恐れはない。
 生まれたばかりの赤ちゃんゆっくりのように、わくわくした顔で二人を見比べている。
 妹がちょっと寂しそうに言った。
「あれぇ、あたしたちのこと忘れちゃったのかな、ありす……」
「いやそんなことはない、ちゃんと覚えてるよ」
 僕が言ったとたん。
「ゆ・が・あ・あ・あ・ああ……!」
 ありすがガッと口を開けて、がくがく震え始めた。
 以前、解体したまりさと同じように、思い出したのだ。
 僕は妹の頭に手をあて、優しくなでながら言ってやる。
「な、大丈夫だったろう。よかったな」
 妹は嬉しさに顔を輝かせて、うなずく。
「うん、たっぷり怖がってもらえそうだね!」

 僕と妹の虐待道は、まだ始まったばかりだ。






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ゆっくりいじめ系1084 ゆっくり実験01
ゆっくりいじめ系1093 ゆっくりエレエレしてね!
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ゆっくりいじめ系1246 二人のお兄さんと干しゆっくり
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最終更新:2022年05月21日 23:28