竹取り男とゆっくり 5(後編)
れいむは耳をつんざくような悲鳴で目を覚ました。
今までどうしていたのか思い出せない。
視界がクラクラして、しかも後頭部が激しく痛い。
そうしてフラフラと立ちあがると、背後で再び悲鳴が上がった。
「ゆ…ゆ?」
後ろを振り返ったとき、れいむはすべてを思い出した。
人間の口に2匹の赤ちゃんが咥えられているのを見た瞬間に、すべてを……。
「でいぶのあがぢゃんがあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!」
「お前も喰うか?」
男は食いかけの2匹の赤れいむと落ちていた赤まりさの皮を、母れいむに投げてやった。
「でいぶのあがぢゃんだぢ!! ゆっぐじへんじしてね!! ゆっぐじおきてね!!」
だが、すでにほとんどの餡子を抜き取られて薄皮だけになった2匹の赤れいむは、断末魔の表情のまま細かく痙攣していた。
餡子も目玉もない赤まりさのほうは動くはずもなかった。
「あがぢゃん!! おがーざんだよ!? あがぢゃあん!!!」
赤まりさのほうは諦めたらしい。
かろうじて餡子の残っている赤れいむのほうは呼べば目を覚ますと思っているのか、頬を擦りつけてすーりすーりしながら名前を呼んでいる。
「ぺーろぺーろもしてあげるがら……ゆっぐじめをさましてね……あがぢゃあん…………」
母れいむはネチョネチョした体と舌を赤れいむに擦りつけてすーりすーりぺーろぺーろを繰り返すが、赤れいむが意識を取り戻すことはなかった。
2匹の赤れいむはまもなくピクリとも動かなくなった。
母れいむは赤ちゃんの死を認めたくないのか、赤ちゃんの死体に頬をこすりつけ、舌で舐めつづけていた。
「ゆぐっ、ゆぐっ」
「死んだか…」
「ゆぐっ……なにいってるの!? れいむのあかちゃんはしんでないよ!ゆっくじねてるだけだよ!」
「でもほら、白目剥いてるし、体に餡子入ってないぜ?」
「かんけいないよ! ゆぐっ…れいむがーりすーりとぺーろぺーろしてあげればすぐにいぎがえるよ!」
れいむは男がなにを言ってもすーりすーりとぺーろぺーろをやめなかったが、もちろん赤れいむは生き返らない。
「どぼじでいきかえってくれないのおおおおおおお!!!?」
そりゃ、舐めて頬ずりして生き返るなら医者はいらない。
それでもれいむは行為をつづけた。
「ゆぐうぅぅぅ……れいむのあかちゃんあまいよぉ……ゆっくじできるよぉぉぉぉぉ……」
はやくも赤ちゃんたちの薄い皮は、れいむの唾液でグズグズに溶けてきた。
赤れいむの餡子を味わうことになったれいむは、悲しみの涙に暮れながら「ゆっくりできるよ」を繰り返していた。
後に残ったのは、2つの小さな紅白リボンだけだった。
「ゆっぐ…ゆっぐ…どぼじで……とってもゆっくりしたあかちゃんだったのに……どぼじで……」
亡骸も残らなかったため、今度は形見のリボンにすーりすーりしているれいむ。
「赤ちゃんが危険なとき、お前がぐっすり寝てたからじゃないのか?」
「でいぶのばがあ゙あ゙あ゙!!! あがぢゃんをゆっぐじまもれないでいぶなんが、ゆっぐじじね゙ぇぇぇ!!!」
れいむは男の言葉を信じ込んで、泣き叫びながら近くの竹に体当たりを始めた。
「ゆっぐじじねぇ!!! ゆっぐじじねぇ!!! ゆっぐじじねぇ!!!」
竹に突撃しては跳ね返されるを繰り返し、自傷行為をつづけるれいむ。
れいむの顔はさきほどのビンタで腫れあがっている上に、竹に体当たりするたび縦線が刻み込まれてよけい醜く変形してしまった。
れいむはそれでも体当たりをやめなかった。
頭の後ろの9つの傷穴からは、衝撃で餡子が飛び出し始めた。
ゆっくりするためには仲間さえ裏切るゆっくりにしては、たいした母性本能である。
だがこのまま自殺されては困るので、男はれいむを押さえつけた。
「はなじでね!!! あがぢゃんもまもれないぐずなでいぶなんが、ゆっぐじじなぜでねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「安心しろ、まだ1匹残ってるだろ」
「ゆ゙っ!!? …ゆっ! ゆっ!」
れいむは今頃になって4匹目の赤ちゃんを思い出したのか、ボコボコの顔面をブンブン振って赤ちゃんを探しはじめた。
最後の赤れいむは、巣穴から5メートルほど離れた場所でまだ気絶していた。
れいむは男の手を振りほどこうと体を振ったが、到底できるはずもない。
男は気絶した赤ちゃんを回収した。
「でいぶのあがぢゃんがえじでぇぇぇぇぇぇ!!!!」
生き残った最後の赤ちゃんまで男の手に渡ってしまったのを見て、れいむはまた半狂乱になった。
粘液まみれの顔がよけい汚く見える。
「返してほしい?」
「ゆっぐぢがえじでぇぇぇっ!!!」
「じゃあ、この山から出て行くか?」
「ゆ゙っ!!?」
「さっきも言ったが、この山の持ち主は俺。お前らは勝手に入ってきた侵入者なんだから、巣を捨ててさっさと出て行くならコイツも返してやる」
「ばがなごどいわないでね!! ここはでいぶだちのゆっぐじぶれいすだっていっだでじょお!?」
「…………」
「ごんなごどもりかいでぎないぐずなじじぃは、あがぢゃんがえじでゆっぐじぢねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「…………」
「ぐずなじじぃなんが、でいぶのだいずぎなばりざがいればいぢごろだっだのにっ…!!!!」
「…………」
「でいぶのばりざぁぁぁぁぁ!! ゆっぐぢじないでがえっでぎでよぉ!! ばりざぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「…………」
「まだいるのぐぞじじぃぃぃぃぃ!!! あがぢゃんがえじでざっざどちんじまえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」
「…………そうか」
男は荷台から長い竹を1本手に取って、ゆっくりとれいむに近づいていった。
「!?」
罵詈雑言をこれでもかと叫んでいたれいむは、竹を握りしめる男の殺気を感じたのか、急にブルブルと震え出した。
「ご、ごっぢごないでね!! ゆっぐじはなれでね!!」
「やめでね!! でいぶにらんぼうじないでね!!」
「おごらないでね!? ゆっぐじさせでね!?」
「ゆ゙っゆ゙っゆ゙っ、ゆ゙るじでえ゙…!!」
「でいぶはにげ………ゆ゙ぎや゙っ」
後ずさりしながら命乞いらしき言葉を吐いていたが、もう遅かった。
距離を詰められ、逃げ出そうと後ろを向いたところであっけなく捕まった。
れいむはなにか固い棒が、自分の体の餡子を貫く音を聞いた。
* * *
成体になったばかりのまりさは、帽子と口に食料をパンパンに詰め込んでせっせと山を登っていた。
この山には昆虫もお花もほとんど無く、愛するれいむと4匹の子供を養うために、まりさはいつもひと山越えた先の草原まで狩りに出かけていた。
狩りは大変だったが、食料を広げたときの家族の喜ぶ顔を見ると、まりさは心からゆっくりできた。
季節はまもなく冬。
まりさがいつも以上に時間をかけて莫大な食料を運んでいるのは、冬籠りの分も集めていたからである。
これからは、毎日こうして少しずつ冬籠りの食料を蓄えるつもりだった。
今は大変でも、春になれば美味しいタケノコが生えてくる。
それを、愛するれいむや成長した赤ちゃんたちと一緒におなかいっぱい食べてゆっくりするのだ。
まりさは今日も無事に家族の待つ巣穴へと向かうのだった。
だが………
そんなまりさの幸せ家族計画が無残に打ち砕かれるまで、たいして時間はかからなかった。
「ゆ? ゆ? …ゆゆ?」
巣穴に到着したまりさは、まず、自分が出て行くときに入口に施した枯葉の偽装がはがされていることに気づいた。
もし家族が遊びに行ったなら、入口を隠して出て行くはずである。
しかも不思議なことに、いつのまに生えたのか、一本の竹が入口のまん前を塞ぐように生えている。
まりさは瞬時になにかが起きたことを察して邪魔な竹をすりぬけて巣穴に飛びこんでみると、案の定、れいむも子供たちも消えていた。
まりさは巣穴から飛び出ると、溜めこんだ食料を吐きだして家族を呼んだ。
「れいむぅ!!!あかちゃあん!!! ゆっくり出てきてねぇぇぇぇぇぇ!!!」
…だが、それに応える声はなかった。
まりさが吐き出した峨やムカデ、ダンゴムシ以外、動くものは見当たらない。
まりさは再び、ただでさえ大きい声をさらに振り絞って家族を呼んだ。
と……
風に乗って、愛するれいむのものらしき声が聞こえてくる。
静かに聞き耳をたてていると、どうやら自分のすぐ近くから聞こえる。
「れいむぅぅ!!! どこに…………ゆゆっ?」
まりさの頭に、何かが落ちてきた。
不思議に思ったまりさは、とんがり帽子を脱いでみる。
帽子にくっ付いていたのは、なにやら黒くて粘りのある物体だった。
「ゆっ! まりさのおぼうしよごさないでね!」
まりさは誰にともなく文句を言うと、帽子を口に咥えてブンブン振った。
黒い物体はネバネバしてなかなか取れなかったが、まりさが力いっぱい振り回すと、ようやくはがれて飛んでった。
「ゆうぅ…まだついてるよ」
まりさが舌を伸ばして帽子の汚れを舐め取ろうとしたその瞬間、あの黒い物体がちょうどまりさの舌の上に落ちた。
「ゆびぃっ!?」
心底驚いたまりさは舌を振りながら横っ飛びに飛んだ。
「ゆっ! もうおこったよ! うえからものをなげるのはゆっくりやめてね! ぷんぷん!」
まりさは帽子をかぶり直して、お空をにらみつけた。
「でっ…でっ…でいぶゔゔゔゔゔゔゔゔゔゔゔゔゔっ!!!!!!」
まりさの瞳に映ったものは……愛するれいむだった。
巣の入口に突然生えたと思っていた竹……れいむはその竹の幹に後頭部から口まで貫かれて、遥か上空で串刺しになっていた。
さきほど落ちてきた黒い物体は、漏れ出したれいむの餡子だった。
「…さ…………っ……」
れいむはまだ生きていた!
まりさはれいむを助けようとするが、れいむの位置は高すぎる。
まりさは必死で餡子脳をフル回転させて、救出策を考えた。
その間にも、れいむの餡子はボトボトと落ちてきた。
「ゆっ!! ゆっくりわかったよ!!」
まりさの餡子脳はすぐにも名案を導き出した。
この竹を折れば、竹と一緒にれいむは下に落ちてくる。
そして落ちてきたれいむを、地面に叩きつけられる前にゆっくりキャッチすればいいのだ。
まりさにはそれを成功させるだけの自信があった。
「れいむはまりさがたすけるよ!!」
まりさは飛びあがって叫ぶと、助走をつけて竹に体当たりした。
激しい体当たりの衝撃で、竹は大きく揺れて思いきりしなり、折れ………なかった。
「どぼぢでぇぇぇぇぇぇぇ!!!??」
メトロノームのようにユッサユッサと竹が揺れ、串刺しにされているれいむの傷口はさらに広がった。
「ゆ゙ぼッ!! ゆぼお゙お゙お゙!!!」
揺れる竹の上で、れいむは口から大量の餡子を噴き上げ、黒い雨となってまりさの体に降り注いだ。
「れいむぅ!! ゆっぐじゆるじでねぇぇぇぇ!!!」
餡子を噴き散らしたれいむを見上げて、涙目であやまるまりさ。
しかし、まりさは気づいた。
れいむの体が、揺れに合わせて少しずつ下りてきている。
そりゃ当たり前である。
傷口が広がったのだから。
だが、まりさの餡子脳はそれを理解せず、揺らせば助けられるとだけ考えた。
「れいむ! まりさひらめいたよ! こんどこそたすけるからね! ゆっくりきたいしててね!!」
まりさは再び助走をつけ、竹に体当たりした。
竹はまたも大きくしなるが、けっして折れはしない。
しかしれいむは再度傷口をえぐられ、
ずぶずぶずぶ…
「ゆ゙ぼえ゙え゙え゙え゙え゙!!!!」
傷口を広げられて少しずつ下りてくると同時に、空に向かって苦しげに餡子を噴き上げた。
もうちょっと静かに揺らして、少しずつれいむを下にずらしていけばいいのに。
そうすればれいむの苦しみも最小限におさえられるのに。
影で様子をうかがっていた男は思った。
れいむが褒めちぎっていたまりさとはどれほど賢いのかと見ていたが、しょせんはただのゆっくりまりさだった。
男はがっかりしたが、面白いのでそのまま見ていた。
「れいむゆるしてね! これもれいむをゆっくりさせるためなんだよ!!!」
まりさは幾度も激しく体当たりし、れいむはそのたびに竹に傷をえぐられて餡子を噴いた。
れいむもなまじっか体が大きいために、なかなか致死量の餡子を失うには至らずに悶えつづけた。
「あ゙………が…が…が…」
れいむがまりさの届く範囲まで下りてきた頃には、あたりには大量の餡子が撒き散らされていた。
さて、やっとここまで下ろしたはいいが、まりさはそこで行き詰ってしまった。
串刺しになっているれいむをどうやって助ければいいのか…?
れいむを引っ張ったら体が裂けてしまう。
竹に体当たりしても、当然折れるはずもない。
歯を立てても、飴細工の歯のほうが磨り減ってしまう。
地面から抜き取ろうにも、そんな力はない。
この硬い棒(竹)は、まりさにはどうしようもなかった。
「ぼうさん! かわいいれいむをはなしてあげてね! おねがいだからゆっくりさせてね!」
まりさはとうとう竹に土下座して頼み込んだ。
だが、非情にも竹はウンともスンとも言わなかった。
「どぼぢできいてくれないのおおおお!!!?? ばりざどげざまでしたでじょお゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!!??」
まりさは癇癪をおこして、凄い形相で竹を蹴りはじめた。
その振動に、れいむはたまらず呻き出した。
まりさはハッとして蹴るのをやめた。
「もぉどおすればいいのかわがんないよぉぉぉぉぉっ!!!!!」
万策尽きたまりさは泣き叫びながら、愛するれいむにひし…と抱きついた。
流れる黒髪に映える真っ赤なリボン…。
黒目がちのくりっとした瞳…。
ひかえめな唇…。
やわらかくて白い肌…。
甘い声…。
(↑あくまでまりさ視点)
そのすべてが失われてしまった。
この棒が憎い…!
れいむの唇を優しくぺーろぺーろしていたまりさは、れいむの喉を貫いている棒が忌々しかった。
「れいむ…ごめんね…れいむ…」
「ゆひゅー…………ゆひゅー…………」
れいむもさすがに虫の息だった。
別れの時が近づいていた。
まりさもそれを悟った。
「れいむがだいすきだよ。れいむといっしょにいられて、まりさはさいこうにゆっくりできたよ…」
頬をぴったりと寄せて、まりさはれいむにささやいた。
「れいむをたすけられなかったまりさを、ゆっくりゆるしてね…」
れいむは死の直前の痙攣を始めていた。
「…り……さ………」
「ゆ!? れいむ!! なに!?」
これがれいむの声を聞く最後の機会になるかもしれない。
まりさは静かに言葉を待った。
「…………まり……さ……の………………ばかぁ」
「どぼぢでぞんなごどいうの゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙っ!!!!!???」
れいむはすでに、まりさへの愛を失っていた。
こんなに遅れてきて…。こんなに自分を苦しめて…。
れいむはまりさを強くて賢いと思っていたが、とんだ勘違いだと知った。
れいむからの愛の言葉を期待していたまりさは、この予想外の事態に狼狽した。
「もっと…ゆ……り………っ…た…………」
赤ちゃんを助けられなかった悔恨と、信じていたまりさへの絶望の中、れいむはついにその生涯を終えた。
「どぼぢで……どぼぢで……」
まりさはうつろな目をれいむの死体に向けて「どぼぢで」を繰り返していた。
男がまりさの背後に立っても、気づかずに繰り返していた。
「どぼぢで……どぼぢで……」
がんばってあいのすをみつけたのに…。
がんばってたべものをはこんだのに…。
がんばってあいしあったのに…。
がんばってすっくりしたのに…。
がんばってあかちゃんそだてたのに…。
がんばって……
「ゆ…? あかちゃん…?」
まりさはなぜかその言葉が引っかかった。
なにか大切なものだったような気がして、無意識のうちに繰り返した。
「あかちゃん…」
「赤ちゃんならここだ」
「ゆ…?」
背後から唐突に声をかけられ、まりさは振り返った。
愛を失い、希望を失ったまりさの目に映ったのは、男の口の中で震える赤ちゃんれいむだった。
「あかちゃん!? ゆっくりしていってね!!」
まりさは生きる希望を見つけて、わずかずつ瞳に輝きを取り戻しはじめた。
「ゆ? まりさのあかちゃんになにしてるの!? ゆっくりかえしてね!!」
「いや、お前がれいむと喧嘩してたから、怪我しないように口の中に入れてゆっくり保護してたんだ」
「ゆゆ! そうだったの? まりされいむなんてしらないけど、それならゆっくりあやまるよ!」
「しらないって、お前のつがいだろ? それ」
男はまりさの足元の死体を指した。
「しらないよ、こんなきたないの」
幸か不幸か。
一瞬精神に崩壊をきたしたまりさは、大切なことが色々と抜け落ちていた。
「それよりも、まりさのあかちゃんをゆっくりだしてあげてね」
「…ああ、わかった」
「あかちゃん、おかあさんがおくちでうけとめてあげるね!」
「ゅゅ!」
男は口を開いた。
まりさは赤ちゃんれいむを見て、明るく微笑んだ。
赤ちゃんはお母さんの口に飛び込もうと、力を込めた。
ズグッ
「ゅ゙っ!?」
口の中の赤れいむが、驚愕の表情を浮かべて凍りついた。
「あかちゃん、ゆっくりしないではやくでておいでね!」
チュルルルルルルル…
「ゅぴぃっっっぴぴぴぴぴっっゅゅゅゅゅゅゅゅ」
奇妙な声をあげて、赤れいむは白目を剥いた。
そして、どんどん小さくしぼんでいく。
正面から見ているまりさはわけが分からずに混乱した。
「どんどんちいさくなってくよ!! おにいさん! どうなってるの!?」
まりさは赤ちゃんの急変に青ざめて、この男の所業とも知らずに助けを求めた。
男は吸引をやめた。
そして、舌をゆっくりと口の外へ出して見せた。
「ゅっゅっゅっゅっゅ」
まりさの目に、男の舌に背後から突き刺されてグッタリしている赤れいむの姿が映る。
赤れいむは舌を突き刺された上に餡子を吸い取られたショックでピクピクと痙攣していた。
「ゆ…ゆ゙っ!? ゆ゙ゔゔゔゔゔゔゔゔゔゔゔゔっ!!!??」
あまりにショッキングな光景に、両目をヒン剥いたまりさ。
「な゙に゙じでるの゙お゙!!!? あがぢゃんがぐる゙じんでるがらはや゙ぐやべでね゙ぇ!!!?」
「いま出してやるよ」
男はまりさを安心させるように優しく笑うと、口をすぼめて舌を抜いて、風船をふくらませるように思いきり息を吹いた。
スポッ
その瞬間、赤れいむの両目からは2つの目玉が、口からは残りすべての餡子が飛び出して、まりさに降り注いだ。
餡子はまりさの顔にくっつき、目玉は足元に転がった。
「…………ゆ? ゆ? ゆ?」
まりさはまず、目玉に釘付けになった。
次に、顔をしたたり落ちるナマ温かい黒いものを、自分の舌で確かめた。
そして、最後に赤ちゃんを見た。
男はよく分かるように、手のひらに赤れいむを乗せて見せてやった。
餡子を失ってくたっと潰れた薄皮に小さなリボン。
「ゆ……ゆ……」
まりさは青ざめたまま言葉を失っていた。
間髪を入れず、男は赤れいむの後頭部に口をつけて、破れた傷口から息を吹いた。
ぱたぱたぱた…
すると、まるで生きていたときのように空気でふくらんで原型をとり戻す薄皮。
皮だけの赤まりさは空気を通されてふくらみ、パタパタとはためいた。
目と口の三つの空洞が、ぽっかりと虚ろな穴を開けていた。
まりさはすべてを理解した。
「ば じ ざ の゙ ご ど ぼ が あ゙ あ゙ あ゙ あ゙ あ゙ あ゙ あ゙ あ゙ あ゙ あ゙ あ゙ あ゙」
ズグッッ
「……………………」
男の手が舌もろともまりさの口をえぐり取ると、あたりは急にシンとなった。
口を失った激痛で目を白黒させるまりさ。
しかし、もはやうめき声ひとつ上げられない。
唐突に静けさをとりもどした山は、思い出したように、サワサワと竹の葉の音を立てた。
声を失ったまりさを右脇にかかえた男は、れいむも回収しようと手を伸ばすが…
「なんだ、皮だけじゃねえか」
あれほど大きな体だったのに、れいむの体内の餡子はほとんど空っぽになっていた。
「この大きさなら、一週間以上は餡子ライフを保障してくれると思ったのに…」
結局この日のおみやげは、成体になったばかりのまりさ1匹だけだった。
それでも今日は生まれたての赤ゆっくり4匹分の餡子を食べられたし、さらにこのまりさの餡子も食べられるならと考えなおした男は、
傷口から大切な餡子が漏れないよう布でグルグルに縛りつけて、荷車を引いて家路についた。
まりさは声のかわりに、涙で叫んでいた。
口の無いまりさは一日中泣きつづけた。
分きざみで衰弱していく様子を見てあわててスプーンを入れたが、一日とたたずに皮だけになった。
量は少なかったが、唯一の生きる糧になったはずの赤ちゃんを失って絶望したまりさの餡子は、極上の味だった。
やみつきになる美味しさ。
それがゆっくり饅頭。
〜あとがき〜
長くてごめんね。
こんなに長いのに最後まで読んでくれてありがとう♪
眠くてコメ浮かばないから、またね〜。(・・;)ノシ
最終更新:2022年05月21日 23:39