※従来のバッチ制度と若干制度などに差があります。
※ゆっくりが電化製品を使います。家電の説明や描写は前回の作品にあるのでまずそちらをご覧ください。
※胴付きがでます。
※性的な表現が含まれます。そういった表現が苦手な方はブラウザの「戻る」をクリック

夜になってしまう前にゆっくりるーみあは出掛ける。
お姉さんは今日も机に向かい、勉強をしている。
「おねえさん、るーみあ、しごとのじかんなのかー」
「そうね」
ペンを走らせる手を止め、お姉さんはるーみあの服を着替えさせる。
肢体があるからと言って器用に動くわけじゃない。この子達はボタン一つ満足にとめる事が出来ない。
十人十色、中には器用な個体もいるが、るーみあはこういう身の回りの事には世話を焼かなければならない子だった。
地味な黒いジャージからいつもの服に着替えさせて貰い、さらにその上から反射板のついたベストを着る。
るーみあの数少ない飼い主との触れ合いの機会はほんの数分で終わり、名残惜しそうにるーみあはお姉さんから離れた。

「るーみあ、いつもゴメンね」
「・・・」
るーみあは無言で首を振る。欲しかったのはそんな言葉じゃなかったから、
でも、不満はない。るーみあは笑顔を作り、お姉さんに頬ずりをした。
ゆっくり特有の愛情表現、るーみあはお姉さんの事が大好きだった。

「そろそろじかんなのかー」
離れたのはるーみあの方からだった。
必要な物が入ったポーチを首から下げると、お姉さんの玄関を開けてもらう。
ここはゆっくりと共生する為に作られたマンションではない。ゆっくり専用の扉なんてない。
るーみあは夕暮れと夜の隙間、紫色の空の下、仕事先に向かって歩き出した。

ゆっくりの中にはるーみあのように働きに出る者もいる。
『働く』という表現で社会に出るのはペットとして登録されたゆっくりだけだ。
登録には何種類かあり、第一種が主にペットとして飼う場合に適用される。
定期的な検診や予防接種、さらに虐待調査の為のカウンセリングが半年に一度。
食用ではない為、強い薬が使われており、病気に対する抵抗力は強い。
逆に第二種と呼ばれるのが家畜としての登録、
こちらも定期的な検診や予防接種が義務付けられているが、虐待に関するカウンセリングはなく、
食用を前提としている為、強い薬が使われておらず、病気に対する抵抗力は弱い。
その為、『ゆっくり同伴可』と書かれた店でも、第二種登録のゆっくりは入店入居を拒否される事が多い。

るーみあは第一種登録、胴付きはペットとしての需要が高く、売値もそれだけ上がる。
わざわざ家畜として登録する必要もない。逆にれいむやまりさ、ありすと言った珍しくない個体は、
殆どが家畜として登録され、中身を抜かれる事に一生を費やす。
過去のブームでれいむ種、まりさ種は爆発的に数を増やしたのだが、捨てる飼い主が後を絶たず、
今ではその二種と言えば野良ゆっくりの代名詞だ。
ありすは放送コードに引っ掛かるほどの激しい愛情表現で、PTAが選ぶ子どもに見せたくない生き物一位にランクイン。
その影響が強く三種をペットショップで見かける事はかなり稀だ。
それなら、もういくらか支払い。ゆっくりちぇんやゆっくりにとりを買った方が得だとされている。

どんなに賢くても、どんなに愛らしくても、値段が付かなければ家畜か、
もっと悪い時はそのままミキサーに入れられ家畜の餌になる。
能力が高いから優遇されるわけではない。人間に都合のいい物から優遇されていくのだ。



るーみあは駅の繁華街側とは逆の歓楽街の方へ来る。そこにある霧湖ビルの最上階がるーみあの仕事場だ。
裏口から入ると守衛のおじさんが手を振って中に入れてくれる。
るーみあはこのサービス過剰なおじさんが結構好きだった。
「はぁーい、じゃあ、携帯見せてね」
変な格好で登録の読み取り機を構えるおじさんにるーみあは笑顔で携帯電話を差し出す。
表示されるのは個体識別番号と種族と登録の種類と就労許可書の有無。
読み取ったデータが従業員名簿にあれば、読み取り機の緑ランプが光る。

「はぁーい、緑。大当たりー」
おじさんはクルクルと回りながら従業員用のエレベーターの前まで行き、ドアを開けてくれる。
さらに最上階のボタンまで押してくれる過剰なサービス。
このエレベーターはちゃんとゆっくりが使えるように下にボタンが付いているのだが、
ゆっくりが使うにはイタズラ防止の為、登録情報を読み込ませる必要があり、結構面倒なのだ。

「どうもなのー」
おじさんに手を振りるーみあはエレベーターに乗り込んでいく。
その頃、お姉さんの携帯には一通のメールが入る。るーみあがビルに到着し読み取りを済ませたというお知らせのメールだ。
内容だけ確認するとお姉さんはまた机に向かい勉強を再開した。



高級ゆっくりクラブ『赤い不夜城』、クラブと付くが人間の世界で言うところのキャバレーだ。
料金は時間制で。無論、人間の女性のいるキャバクラなどに比べれば半額以下の値段。
それでも、キャストのゆっくりに飲み物を、果物を、お菓子を、と注文していけばそれなりの値段にはなる。

「うー、れみぃ、マンゴーがたべたいどぉー」
あまあまちょうだいね、と何も変わらない。
何も変わらないが、このれみりゃはマンゴーを食べる事が出来る。
毎日髪を洗い、仕事時間外の食事も気を付け、体型を維持する。
新作のコロンは毎週チェックし、自分への投資を怠らない。

それにここはゆっくりが好きな人たちの集まり、まるでゆっくりを自分の孫娘のように可愛がる。
可愛いから、利口だから、野良よりずっと自分達に都合が良いから。



るーみあはエレベーターを降り、お店に入る。
「むきゅ?るー、おはよう、ゆっくりしていってね」
るーみあの姿を見かけたぱちゅりーが挨拶をする。
『るー』とはここでのるーみあの源氏名だ。別にるーみあ種はるー1匹しかいないので混乱はしないのだが、
新人が来る時の為に自分でつけておいたのだ。

「ほんや、おはようなのかー」
『ほんや』はぱちゅりーの源氏名、それぞれ思い思いの名前を付けた為、自分の好きな物を自分の源氏名にしたゆっくりもいる。
他にはるーと同じ自分の名前を少し弄った『れみれみ』や『ふりゃん』など。中には飼い主や芸能人の名前をつけたゆっくりもいて、
たまにだが、ものすごく人間っぽい源氏名をしたゆっくりもいる。

「きゅうけいなのかー?」
「そうよ、ゆっくりしてるの」
自分のロッカーに反射板付きのベストをしまう。
ボタンもなくただ羽織るだけなら、るーみあにだってできる。

それから、店のオーナーの所まで行き、名札を貰う。
オーナーは店のみんなから親しみを込めてメイド長と言われている。
いつもメイド服姿なのでメイド、一番偉いので長、だからメイド長。

「おはようなのかー、しゅっきんしたのかー」
「おはよう、るー、いらっしゃい、名札を付けてあげるわね」


お店の入口にある指名ランキング。
第3位の所にあるるーみあの写真の下のパネルが『いないよ』から『ゆっくりしてるよ』に変わる。
苦学生のお姉さんを助けるために始めたバイト、月の収入は大学生が講義の合間にバイトするのと同じかそれ以上。

夜の蝶、なんて綺麗な物ではない。
るーみあはこんな事をしているより大好きなお姉さんといたい。
ここにいたって、別にお姉さんと遊べるわけじゃない。

でも、ここで働いていればお姉さんはゆっくりできる。
「るー、指名よ」
悲しい気持ちも、寂しい気持ちも押し込め、るーみあは今夜も笑う。
作りものの笑顔、だが気付く人間なんてそういない。

今日もるーみあの寂しい一日が始まる。

by118

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最終更新:2022年04月14日 23:37