ある日突如現れた生きる饅頭、ゆっくり。
そのふてぶてしい顔と、妙に耳に残るフレーズ「ゆっくりしていってね!!!」は瞬く間に人々を虜にした。
巷にはゆっくり関連グッズがあふれ、ペットショップにはゆっくりが何十匹も入荷された。
とある市では、人気取りのためか知らないが、ゆっくり霊夢に住民票が与えられたとか。
2008年の流行語大賞は「ゆっくりしていってね!!!」だった。
さらに今年の漢字は「首」。
世は正にゆっくり一色。
そして2009年春先。
俺は近所の公園にボランティアをしに来ていた。
「じゃあ、始めましょうか」
「ゆっくり達のタメですからねえ。つらいですけどがんばりましょう」
「あの可愛い子達を不幸な目にあわせたくないざます」
そこには、数十人の人間が集まっていた。
俺以外の全員が、ゆっくり愛護のグループに属している。
このグループは野良ゆっくりの保護、エサ管理やら個体数調査などをしている。
ちなみに俺は虐待派だ。
バレないようにこっそり参加表明をしてる。
「ゆー!ゆっくりしていってね!」
「ゆっきゅり!!」
「すごくゆっくりしてるよ!!」
俺たちの声に気がついたのか、何十匹ものゆっくりが公園の茂みから姿を現した。
どれも泥にまみれて薄汚い。
髪の毛はゴミや葉がからみつき、近づくと少し臭い。
どう見ても野良ゆっくりだ。
「お、可愛いのがきたぞー!」
「みんな、今日もいっしょにゆっくりしようね!」
この公園は野良ゆっくりにエサを与えている場所だった。
ボランティアの人間は、ゆっくりできる人間と認識されているのですぐに寄って来た。
「ゆゆー!きょうもおばさんといっしょにゆっくりできるんだね!」
「れいむうれしいよ!ゆっくりしていってね!!!」
「まりしゃもいっちょにゆっきゅり!」
ピョンピョコと、ゆっくり達は各自、お気に入りのボランティアの人に跳ね寄っていく。
俺はエサやりには参加していなかったので、1匹も寄ってこなかった。
「この子たちをお願いするね」
そう言って、このグループのリーダーのが俺に、10匹のゆっくり達を渡そうとしてきた。
リーダーの周りには30匹近くのゆっくりがいる。
「ゆゅー?このひとはゆっくりできるひと?」
「まりしゃ、おじちゃんとゆっきゅりちたいよ!」
「ありすはとかいはなおじさんとゆっくりしたいわ」
見たことのない俺に、そいつらは戸惑っているようだった。
リーダーも少し困っている。
「んー、このお兄さんもゆっくりできる人なんだけどなあ・・・」
「ゆゆ、じゃあまりさがおにいさんとゆっくりしてあげるよ!ゆっくりしていってね!!」
「まりさがそういうなら、れいむもゆっくりしてあげるね!!」
ぴょんっと俺のほうに2匹が寄る。
「ああ、じゃあその子達を頼むよ」
「はい」
寄って来た2匹を、俺は優しく持ち上げる。
右手にれいむ、左手にまりさ。
「ゆゆ!おそらをとんでるみたいだよまりさ!」
「すごくゆっくりしてるね、れいむ!」
なんだかすりすりをしたがっているようだったので、2匹を近づけてみた。
「ゆゆーん!すりすりぃ~」
「ゆふぅー!れいむのほっぺすりすりだよぉ~」
顔を真っ赤にしながら、2匹は頬をこすった。
どうやらこの2匹、恋仲のようだ。
成体ゆっくりまであと少しといったところ。
これはいいタイミングであった。
「よーし、じゃあゆっくりプレイスにいくぞ」
俺の胸の前ですりすりしあう2匹は、元気に返事をしてくれた。
「はーい、ああ今は順番待ちしなくていいよ。ちょうどいいトコに来たね」
公園の一角に設置されたテント。
周りから見えないよう、周囲を囲まれている。
「ゆ!ゆっくりさせてくれるおねーさん!ゆっくりしていってね!!」
「ゆゆ!ゆっくりしていってね!!」
白衣を着た女性を見た2匹は、嬉しそうに飛び跳ねて地面に降りた。
この女性はゆっくり医なので、お世話になったことがあるのかもしれない。
俺は2匹をつまみ、近くに置いてあった大きなカゴに2匹を入れた。
「ゆ?」
かなり広いので、窮屈感はない。
そして俺はれいむだけを手に取った。
「ゆゆ?まりさもいっしょにゆっくりしてね?」
「はい、これ」
そう言って女性が渡してきたのは、お好み焼きをひっくり返すヘラのようなもの。
違う点があるとすれば温度だろう。
金属的な色はどこへやら、真っ赤になって水をたらせば一瞬で水蒸気に変えてしまうほどに赤い。
赤いというより、黄色い・・・白い。
それが近づくだけで、気温が上昇する。
「ゆゆ。とってもあついよ。おにいさん、それはゆっくりできないからとおくにすててね!」
「本当、こりゃ熱いわ」
俺はクルリとれいむを回転させ、右頬をさらしだすようにヘッドロックをかけた。
「ゆゆ!?」
「れいむちゃんゴメンね!ゆっくり我慢してね」
すかさず女性は俺に高温ヘラを手渡す。
「れいむになにをするの!?ゆっくりやめてね!!」
その様子を見ていたまりさが、不安げな声を上げた。
俺はまりさに見せつけるようにゆっくりと、ヘラをれいむの右頬に押しつけた。
「ゆ゙っぎゅぅぅゔぁああ゙あっぁあ゙あ゙ぁああ゙っ!!!!!?!?!?」
鼓膜を突き破るほど大きなれいむの悲鳴。
ジリジリと焼かれるれいむのやわらかい頬。
「あ゙ぁぁっああ゙ぁああっ!!!?い゙だいい゙ぃぃぃぃぃいいいいっ!!!!あぢゅいいぃぃ!?!?!?」
「れい゙ぶぶぶうぅぅっぅうっ!!!!れ゙い゙ぶうぅぅぅぅぅうっ!!!!!」
カゴの中、何もできない最愛のパートナーが泣き叫んでいる。
俺はぐりぐりとヘラを押しこんだ。
テントに頬の焦げるにおいが立ち込める。甘い、におい。
「きぃっぃっぃぃぃい゙っ!!!!!あ゙っああ゙あっありざあぁあ゙ああ゙っ!!!だぢゅげでっぇえ゙ぇぇっいだいい゙い゙いぃぃぃ!!!!い゙だいのぉぉぉおっ!!!!」
「げい゙ぶぅぅぅぅぅっ!!!!や゙め゙であげでえぇえええ!!!れいむがあ゙あぁっ!!!れ゙いむがいだがっでる゙のおぉぉおっ!!!」
びくんびくんと痙攣を始めるれいむ。
ヘッドロックをかけている手に、ねっとりとした気持ち悪い汁が垂れてくる。
ネトネトとした粘着性のある液体。実に不快だ。
「ゆっぎゅるぃぃぃいっ!!!ゆっぐりやめでねえ!!!ゆっぐりやべでえええええ!!!ゆっぐりやべでええぇええっえええぇええ!!!!!」
「れいむぅぅ!!げいむぅぅっ!!!!!べいぶぅぅうぅぅっ!!!!!」
汚かった髪が抜け落ちる。
ばさりばさりと、不思議なほど綺麗に抜け落ちる。
「ゆぅぅぅああああああっ!!?!?れ゙いむ゙のぎれいながみがぁああああっ!?!!」
その声を上げたのはまりさだった。
既にれいむは意識の外。思考だけはゆっくりプレイスに旅立っていた。
そのまま、2分ほどれいむの右頬を焼いた。
ぐったりとしたれいむを、俺はいったん地面に置いた。
脇がネチョネチョとして気持ち悪い。
「どぼじでぇええっ!!?ま、まりざのれいむをぉぉぉっ!!?」
狂ったように声をあげるまりさ。
女性はすでにテントにいない。
れいむの声に耐えられなかったのだ。
愛護派の人間には辛いのだろう。
俺はヘラが冷めてしまわないよう、急いで次の作業に入ることにした。
次はれいむの左頬を焼く作業だ。
「ほい、れいむ終了っと」
れいむは気絶していたので、思いのほか簡単に作業は済んだ。
左右の頬は、見るも無残に真っ黒に焦げていた。
ボロボロと大粒の涙をこぼしていたまりさを俺は手に取る。
なんとか逃げようと体をゆすったが、人間相手では何の意味も無い。
「どぼじでぇっ!!!まりざだぢなにもわるいごどじでないのにいぃぃ!!!!」
話など、聞くだけ無駄だ。
俺はさっそくヘラを押し付けた。
「ゆぎぎいぃっぃぃぃぃっ!!!いだいぃぃい!!!!いだいょおおっぉおぉ!!!ゆっぐりできないよぉぉお!!!!だずげでえぇええっ!!!」
れいむ同様、不気味な汁を撒き散らしながらまりさは暴れる。
「きぃぃぃっ!!!!!!れいむぅぅう!!!れいむだずげでえぇええっ!!いだいよぉぉお!!!!ゆっぐりざぜでええええ!!!!」
すでに気絶しているれいむに助けを求めるとはなんとも笑える。
情けないゆっくりだ。
そして、まりさも焼き終えた。
両頬がコゲだらけだ。
「ゆぅう・・・・ま、まりざのぉお・・・」
まりさは最後まで気を失うことはなかった。
それゆえに、地獄の苦しみを受けることになったのだが。
「ご、ごれじゃもう・・・ごれじゃ・・・ゆぅうううう・・・!」
泣き崩れるまりさ。
その後も、まりさの独り言は続いた。
なんでも昨日、このまりさはれいむにプロポーズのようなものをしたらしい。
ゆっくりしていってね!と勇気を出して告げたのだという。
普段のセリフと何が違うのかサッパリわからんが、コイツらにはそういう微妙なニュアンスでわかるのだろう。
れいむはそれを承諾してくれたらしい。
今日、ボランティアの人たちに、そのことを報告するつもりだったらしい。
幼馴染で、ずっと友達だったれいむ。
きっとみんな喜んでくれる、そう思い描いていたのだ。
そしてすっきりをして、可愛くてゆっくりした赤ちゃんを作ろうと。
だが、それはもうかなう事はなくなった。
2匹は頬が完全にコゲてしまった。
頬をこすりあわせることが交尾であるゆっくりにとって、これは去勢を意味する。
もうすっきりをすることも、赤ちゃんを作ることもできない。
これが今回の活動内容だ。
野良ゆっくりが増えすぎないよう、個体数を管理するボランティア。
赤ゆっくりや、子ゆっくりのうちに去勢手術を行うとショック死する可能性が高い。
よって、これは成体一歩手前になったあたりで行われる。
恋心芽生え始める青春時代のゆっくりにとっては地獄もいいところであった。
だが、そのおかげでこの地域では野良ゆっくりへの苦情が他の地域に比べて段違いに少なかった。
「これで、仕上げだ」
俺は用意された小麦粉をといた汁を、れいむのコゲまみれの頬にたらし、さらに上から小麦粉をたっぷりと降りかけた。
これで表面上は、普通の頬に見える。
内部は丸こげなことに代わりは無いが、コゲだらけが出歩いていると景観がよろしくないのだ。
抵抗を続けるまりさを一度殴り、汁と粉を振りかけた。
今日の仕事も楽しかった。
俺は2匹を休憩テントに送り、別の固体を受け取りに広場へ向かった。
まりさは休憩テントで目を覚ました。
男に殴られ、気を失っていたのだ。
「ゆゅ・・・」
夢ではない。
愛するれいむともども頬を焼き付けられてしまったのだ。
「まりさ・・・」
れいむも目を覚ましていた。
目には一筋の涙が。
ハゲ饅頭となったれいむであったが、まりさは気にせず跳ね寄った。
「れいむ・・・まりさは、れいむとゆっくりするよ・・・!」
それは、変わらぬ愛を誓う言葉。
れいむは大粒の涙をこぼして、大きくうなずいた。
「ゆゆ・・・まりさ!ゆっぐり・・・ゆっぐりじようねっ・・・!」
そして、れいむはまりさに頬を寄せた。
愛情を確かめるために。
そこにいる最愛のパートナーの存在を確かめるために。
「ゆっくり・・・すりすりしようね・・・!」
かつての柔らかい感触は、もうそこになかった。
おわり。
最終更新:2022年04月17日 00:11