【優しいお嬢様のお話に御座います】
まる
さんかく
しかく
これらは積み木でございます。
私どもの生まれました田舎の農村では
この単純な形の積み木の組み合わせで
生まれて間もない幼子が、如何様に育つかを占う習慣がございます。
這い這いを覚えた赤子の前に絵筆や餅を並べる風習
アレの地方版と思っていただければ、まさにその通りでございます。
高く積み上げる/適当に何らかを形作って満足する/徹底的に壊す。
赤子によってそのさまはまるで意を異にしますので
見極める大人たちにも、自然力が入ります。
それらは詰まる所、我が村に生まれた新しい生き物を
囲いの中に投げ込んで、品定めして見ているので御座います。
ほれ、あのこはひだりでばかりものをとりよる―――
したら、ぎっちょけ?――
ぎっちょはいらんの、しつけてなおせ――
評価を落とす所を見つけたならば、示し合わせて矯正し
アレみや、あのこ
なんげさわらん、ねてもうた――
ねたらわぁらん、けたぐておこせや――
意のままに生らぬ仔があれば、どかりと叩いて積み木を弄わせ
其処では誰もが赤子を取り巻き
やいのやいのと大騒ぎ、腹を抱えて赤子の生まれを祝い
泣き喚くのは仔らばかりなり。
* * *
じゃっ…じゃっ…
端切れに包んだ小豆が鳴らす、小気味良い音を縁側に
あわせる様に童女が歌う、古く優しい数え歌。
山椒に椎茸、続けた折に
手より弾けてお手玉落ちた。
何度も何度も何度も何度も落とすので
赤い端切れは土まみれ、黒い端切れは穴空いた。
袖から覗く、白木の様な童女の紅葉に
落ちたお手玉上るたび、端切れと紅葉泥まみれ。
三つのお手玉落ちるたび
縁側下から這い蹲って、惨めで哀れな野良
ゆっくり
母恋しさに端切れを欲して、返しやばかり泣き喚く。
祖母より習ろた数え歌
鈴を転がす幼声、小豆の舞う音に合わせて謡う。
ひとふた
ちょうろくさん
なんぼがとうふ
とうふがにんじん
にんじんがさんしょ
さんしょがしいたけ
しいたけがごぼう
ごぼうがろうそく
ろうそくがしちりん
しちりんがはがま
はがまがくじら
くじらが百かんめ
飽くまでつづく数え歌
踊る端切れの色赤く、廻る端切れの色黒く
這いずり嘆く仔ゆっくり、汚れた穴空きみすぼらし。
ははじゃかえしや、ちちじゃかえしや
ちちじゃかえしや、ははじゃかえしや。
日の暮れて、雨戸の閉まる縁の側。
落つ雨垂れに、溶けてほつるる
形見の端切れと鳴る小豆
じゃっ…ず……
* * *
わたくしめが朝番の勤めに、お屋敷の御庭を掃き清めに参りました所
縁側より二歩ほど離れた庭石のあたりに、こぼれたように小豆の二握りほど蒔けておりました。
次第をお嬢様にお伺いした所
大奥様に戴いた綺麗な音の鳴る小豆のお手玉を
お庭に蒔けば増えるのでは、とお考えになられたそうでございます。
御子の考えの、その微笑ましい事に感じ入り
遣いの下女にこっそりと
小豆の袋の代金を、小遣いと合わせて持たせてしまって
懐具合は寒くなりましたが。
わたくしは胸が一杯になったのでございます。
by古本屋
最終更新:2009年02月14日 04:25