ぬるいじめ
俺は、お仕置きをするのは苦手だ。
説教できるほど人ができてるわけでもない。
相手を叩くと叩いた分だけ俺の胃が痛くなる。
~~30分前~~
俺が、仕事終わってから家に帰ると、台所でうどんげが足を押さえてうずくまっていた。
台所でサラダでも作ろうとしたのだろう。台所のテーブルの上にはレタスの盛られた二つの皿、
まな板の上には棒状に切り揃えられた。にんじんが乗っていた。そして、床に餡子の付いた包丁とにんじんスティックが1本・・・。
恐らく推測するに、仕事で疲れた俺の為にサラダでも作ろうとしたのだろう。
レタスをちぎって、皿に盛りにんじんを切っている最中床ににんじんを落としてしまい。まな板の上に包丁を置いて、
にんじんを拾おうとしたところ、何かの拍子に包丁がテーブルのまな板の上から落ちてうどんげの足にぐさっと刺さったのだろう。
とりあえず、俺はうどんげの足をオレンジジュースで治療した。
~~ここまで、30分前~~
~~ここから、現在~~
うどんげの気持ちは正直うれしい。失敗したとは言え、俺の為に夕飯の一品を作ろうとしたのだから・・・
しかし、俺は以前、うどんげと約束したのだ。「台所の物に許可無く触るなよ、危ないから」と、
ここで、何のお咎めも無くうどんげを許してしまうと、他の約束もやぶってしまうかもしれない。
今回は足を怪我しただけで済んだが、コンロをいじって火事になったりしたら、大惨事になってしまう。
だから、お仕置きをしなければならない。
その前にとりあえず、涙目になってるうどんげに聞いてみる。
「うどんげは俺の為に夕飯のサラダを作ろうとしたのか?」
「ゲラ」
肯定のようだ。うどんげは基本的にゲラとしか言わないので理解しづらいが、ニュアンスでわかる。
「おまえの気持ちはうれしい」
「ゲラ!」
うどんげの顔が明るくなる。
「でも、危ないから台所の物に触るなと言ったよな?」
「・・・ゲラ」
うどんげの顔が暗くなる。良くこんなに表情がころころ変わるものだと感心する。そこがかわいいのだが、
「お仕置きだ、うどんげ」
「・・・ゲラ」
うどんげの表情がキリッとなる。
うどんげは、賢い。
自分の善意で犯した失敗の責任を素直に受け止めることができる。
人間・・・俺だって、できるかどうかわからない。
ここまで人?ができているとお仕置きなんかしなくてもいいのでは?と自分に言い訳してお仕置きをやめようかと考えていると、
俺の目にDVDレコーダーが目に入った。そういえばあの番組録ったけど見てなかったな~と、
そこで、いい感じのお仕置きを思いついた。
俺は、居間のソファにうどんげを乗せて、テレビの電源を入れて、画面をビデオにセットする。
次に、DVDレコーダーの電源を入れ、リモコンで操作した。そして、ずいぶん前に録ったある番組を流す。
「うどんげ」
「ゲラ」
「今から、以前録画したままそのままにしていた番組をこれから流す。それが、お仕置きだ。」
「?」
うどんげは理解できないようだ。お仕置きだと言われて、殴られたりする覚悟をしていたのだろう。
肩透かしを食らったような表情だ。
俺がうどんげのとなりに座るとほぼ同時に、その番組が始まった。
「笑ってはいけない警察署24時」
これは、年末の時の番組だ、何でも、何かのゲームで負けた人間に、24時間笑ってはいけないと言うペナルティを課し、
笑った人間はケツに専用のバットできつい一撃がお見舞いされるとか、
「始まるぞ」
「げら?」
~~30分後~~
「ゲラゲラゲラカヒッゲラカヒッ」
これは、やばい。
笑いすぎて、うどんげと一緒に見ていた俺も腹が痛い。
うどんげもさっきから、笑いすぎて、呼吸がやばいことになっている。
うどんげは笑い上戸な為、こういう一風変わったお仕置きをしてみようと思ったのだが、効果はばつぐんだ。
~~さらに30分後~~
女が言った。
『ここにあるご遺体は、死んでますので、このように』
『ぶぇっ!!』
『叩いても何の反応もありません』
「ゲラ!カヒッ!カ・・・・」
『ここにあるご遺体は、死んでますので、このように』
『ブゴォ!!』
『水をかけても何の反応もありません』
「カッ・・・ヒッ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・うどんげ?大丈夫か?」
お仕置きの最中に相手の心配をするのも馬鹿らしいが、うどんげの反応がなくなったのでつい声をかけていた。
うどんげは、気絶していた。
ゆっくりは呼吸しなくても生きていける。しかし呼吸をしなければ苦しいらしい。
そのため、うどんげは、笑いすぎて呼吸困難になって気絶したのだ。
気絶したうどんげを楽そうな体勢にしてやりながら、俺はこういうお仕置きもいいかもと思う。
気絶したうどんげと、明日の腹筋の筋肉痛を心配しながら思った。
最終更新:2011年07月28日 03:57