「大事にするんだよ」 


そう言われて、まだ幼い私が誕生日にもらったのは一つのモンスターボールでした。 


私はそのモンスターボールでなんのポケモンを捕まえようか?なんて考えては嬉しくて嬉しくて 

今日こそは捕まえに行こう!
と、後ろで忙しそうに家事をするママの目を盗んで 
家で真剣な顔つきで仕事の書類か何かを書いてるパパを、ポケモンのすみかの草村に引き連れては

かわいいかわいいエネコやジグザグマ達に遭遇しても
なかなかモンスターボールを投げつける事ができなかった。 

私にとってそれぐらいポケモンと共に生活する事は 
たまらなく希望に満ち溢れていて、何事もない穏やかな毎日がそれだけで輝いて見えたものです。

ある日の事でした。
いつもながらに、友達とおしゃべりをしながら学校から帰っていた時の事です。 
「ねえ!あそこってなにかあるのかな?行ってみよう!」
ふ、と友達がいつもの帰る道のりのはずれに
いつも見かける森の小道を探検するとゆう事にしました。

こうゆうのはいつものことなので、好奇心でいっぱいな私は、相づちさえする事もせず黙々と森へと入って行きました。

森へ入ると夕方とはいえ、今日は明るいのに薄暗くてポケモンの気配さえもなく、ちょっと怖がってる私に友達が逃げるかのように言いました。
「あたし今日塾なんだぁ…早く帰らないとお母さんに怒られちゃう…森の出口すぐそこだから一人で大丈夫だよね?」
と言うと、バイバイも言う隙もなくちょっと小走りに行かれてしまい、機嫌を損ねた私は取り残されてしまいました。

いつもの事…
そう丸く考えて、私はもうちょっとだけ森へと進んでみる事にしました。

しばらく進むと海が見えて、その近くに小さな工場がありました。
でも海は工場のせいなのか黒くてドロドロしたものが浮かんでいて汚く、工場に人影を見つけて見つかったらやばいかな?なんて考えているうちに、辺りは真っ暗で私は森へ引き返しました。

「あれぇ…?」
そうしてるうちに真っ暗で道がわからなくなっていた私は、真っ暗な森の中で迷ってしまいました。
次第に恐怖を感じ、目から熱いなにかがこみ上げてくるのを我慢して歩きだしたら
ガサガサ、と草木の音がしてとっさに私は前へと走り出しました。


「ハァ…ハァ…きゃっ!!」
走り出した私は、途中地面の石につまずいて転んでしまい
その拍子になにかカバンから落としてしまいました。

「ポン」

そのなにかは別の何かに当たると、聞き覚えのある音をたてて静かになりました。

ゆっくりと立ち上がってそのなにかを探すと、そこには大事に大事にとっておいたモンスターボールが、平然と転がっていました。

壊れちゃったかな…?などと心臓をバクバクさせながら目を凝らして何もなかった事を確認すると、森の出口に来ていた事がわかりました。

そのあと膝から血を出しながら帰った私は、家に帰った途端目から我慢していたものが一気に溢れ出して、パパとママに怒られたのも言うまでもありません。

それから次の日、
何事もなかったかのようにいつものように学校から帰ってきて部屋を開けると、
そこにはいつもと違う光景が飛び込んできました。

「ベトーン?」

光景には部屋が泥やらで汚れていて
目の前には見覚えのないベトベターが…

私はベトベターの横に転がっていたモンスターボールをささっと素早い動きで取り、ベトベターをモンスターボールに入れてから
部屋を、今は誰も帰ってきていない家族に見つからないように閉じて
昨日行った森へ走りました。

「…………」
「ベトーン」

森へ走る間にだいたいのことは考えがつきました。
こいつ…ベトベターが居る事…
昨日、森で転んでその反動でモンスターボールを落としちゃって、
そこにこいつ…ベトベターが居てモンスターボールが当たっちゃって…

私は考える間もなくモンスターボールから出したベトベターに言い放つ
「いらない。…あなたは間違いで捕まえちゃったの…だから…ここでお別れなんだ…?」

そう言うと私はベトベターを振り返る事もなく、モンスターボールだけを持って森の出口を目指して歩き出した。

いつからだろう?
後ろからベトベターが追いかけてくるのを気付いたのは。

私は構わずに歩き続ける。

でも森へ出てもいつまでもいつまでもついてくるから、
近くで工事をやってるすぐ近くの信号を待っている時にベトベターに言ったの。

「ねえついてこないで!私あなたみたいなポケモンやなの!あなたのおかげで部屋が汚れちゃったわ!どっか行って!」

「ベトーン…?」

ベトベターはわかってるのかわかんない返事をしてまた私についてくる。
私はうんざりして反対側へ走り出した
「お嬢ちゃん!危ない!」

立ち入り禁止の工事現場に向かってしまった私は
上からその瞬間
鉄骨が落ちてきたのも知らずに…


「ガシャーン!グニャ…」

……?

グニャ…? 

鈍い音がしたと同時に痛みがなく、無事な事がわかった私は目を開けた。

「…ベトベター!!?」


ベトベターは私の足下に張り付いていた、
体には鉄骨が刺さっていた。

唖然としてベトベターを見ると、ベトベターの体は鉄骨が刺さっていて、そこから普段の液体のようなものじゃないものもどくどくと溢れ出していた。

「あ…あ…死んじゃっ…た……?」

ベトベターに刺さっていた鉄骨は、私の足にもう少しで届きそうだった。

もしベトベターが足下に居なかったら私は死ぬまでは行かなくても、もう二度と歩く事さえできなかったかもしれない。
私はベトベターへの申し訳なさと愛おしい気持ちが溢れてきて涙がボタボタと落ちてきた。

「ベトベター…?ベトベター…?」
私は二度と目を開けることのない、死体なのかわからなくなったベトベターに問い掛けて抱き締めた

ぬるぬるしていて冷たかった

けど不思議と嫌じゃなかった

「ごめんね…ごめんね…私があなたを…私があの時あの森へ行かなきゃ……ごめんね…ごめんね…

私は溢れんばかりの涙を流しながら返事がないベトベターに謝り続けた


後からわかった事だ
ベトベターは汚染された海のヘドロから生まれたそうだ。

身勝手な人間のせいで
身勝手に利用され捨てられる

なんて腹立たしい

人間もまた望まれて生まれてこなかったら嫌だろうに?

もしかしたら彼らも望まれて生まれたかった訳じゃないかもしれないのに…


それから15年の月日が経った。

ベトベターが死んでしまったあの日から数日後
両親は離婚してしまった。

あの日パパが書いていた書類は離婚届けだった。

私は母方の実家に預けられ
私も両親から捨てられてしまった。


今、私は
身勝手な人間に必要とされず捨てられてしまったポケモンの為に
ポケモンの有害物質から作るエコロジーの研究をしている。

そしてベトベターのあのヘドロから、逆に海を綺麗にする成分を見つけて、私は色んな学会に呼ばれるようになった。
これからも研究を続けて、ポケモンの役にたてばと思っている。


そしてあのベトベター
今度生まれ変わったらあなたにこの事を伝えたいと思う。
そして有難うって…言いたいよ…

END


作 2代目スレ>>750-760

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年11月05日 21:24