辺りは血の海。隣にはご主人さまの首のない死体。
周りには黒光りする銃を持った無数の人
どうして…どうしてこうなっちゃったの?
私は数年前……ご主人さまがチャンピオンに勝つ前からずっと貴方の手持ちとして働いてきました。
LVが上がる度に喜んで抱きしめてくれたり、一緒に何度も何度も殿堂入りをしたり…
楽しかったですよ、貴方と過ごした日々は。
一か月前頃でしょうか私と貴方が離れ離れになったのは。
「ごめん…ボックスが一杯なんだ」
そう言って私を209番道路に置いて自転車をコキコキと走らせて去って行った。
何度も何度も貴方を呼びとめるために鳴いた。大声で、喉が潰れるほどに
でも、貴方は足を止めずに走り去って行った。
影が見えなくなってから実感しました。私は捨てられたんだ…と
数日したら、また貴方はこの209番道路に訪れましたね。何匹もの私の同族を抱えて。
でも、その時の貴方は今までの"あなた"ではなかった。
そのままその子達を投げ捨てて行く。去る時にはこんな事を言ってましたね
「屑が、お前たちなんていらねえんだよ!」
どうしたんですか…昔の貴方はそんな人じゃなかった。そんな怖い人じゃなかったのに…
その子達は、皆死んで行きました。
ある者は野生ポケモンに食い千切られ、ある者は餓死。そして遂にはその状況に耐えられず、発狂し、木に頭を何度も叩きつけ死んで行くものもいました。
その光景は何とも無残なものでしたよ。
自然の摂理。とは言えども、やはり同族の死には心が痛みます。
その後も、貴方は子供を捨てに何度も何度も訪れました。
そして皆。何十匹も何百匹もの同族が死んで行きました。
その時から、貴方が捨てて行く度に大量の憎悪が、私の心の奥底から湧き出てきました。
いつの間にか憎悪が大きく膨れ上がって、それは殺意となっていました。
また貴方は手持ち一杯の同族を持ってこの道路に現れました。
そして同じように、「屑が!」と吐いて
子供たちを捨てて行く。
私は気持ちを抑えられなくなって、あなたに攻撃を仕掛けることを決意した。
遠くから金縛りを放って相手の動きをある程度拘束してから、私は彼の前に姿を現しました。
まず念力で体を宙に浮かして身動きを完全に封じる。恐怖のあまり、尿を漏らす貴方はとても滑稽でしたよ。
数回右へ左へと数回振り、死なないように5mぐらいから自然落下させる。
骨の粉砕する音が辺りに響き渡り、ざわざわとニンゲン共が騒ぎを聞きつけて周りに集まってくる。
周りなんてどうでもいい。後はコイツを殺すだけだ。
でも、心の何処かで迷っていた。本当に殺してしまっていいのだろうか?
一緒に旅して来た主を、愛していた主を殺してもいいのだろうか?
急に体が震えだす。怖い…
頭の前に翳している手が細かく震えだす。私はまだ迷っていた。
「御免なさい…痛いよ…死にたくない…ユルシテユルシテユルシテユルシテ…」
死にたくない?
その時の彼の発言に一気に胸がカッと熱くなり、強い念力を頭の中に大量に送り込んだ。あの時の迷いなど全く無かった。
どんどんと頭が膨れていき、次第にパン!大きな音を鳴らしてと中の物を飛び散らせながら破裂した。
これで、私の望みは叶った。
この結果を私は望んだのに、涙が止まらなかった。心が痛んで止まなかった。
彼の腕を持ち上げてみるも、あの時の温かさは無く、重さも殆ど感じない。
私は死体の胸に顔を沈めて泣いた。涙が止まる事はなかった。
泣き続ける私の周りに、緑色の服と帽子に身を包んだニンゲン達が集まった。
腰にはモンスターボールが付いていなく、手には黒光りする物を持って、それを私に向ける。
その瞬間、私は死を直感した。
最早、私はポケモンとしては扱われていなかった。唯の"ニンゲンの生活を脅かす危険な生物"だった。
ねえ…ご主人さま。あの世でも…会えますよね?
もし会えたなら、又宜しくお願いします。
「射撃用意、………撃てぇ!」
合図と同時にパンパンと乾いた発砲音が青空の下に連続で響き渡った。
作 3代目スレ>>93-95
最終更新:2009年06月02日 01:26