ここはキンセツシティの少し南に位置する場所 ニューキンセツ。
僕はいつも通りなにをするでもなく、その内部でふらふらしていた。
適当に仲間と会話したり戦ったりして時間をつぶそうと思っていたが、赤帽の少年が
ニューキンセツに足を踏み入れたのを見ると気が変わった。
ここ、ニューキンセツは大きな池に行く手を阻まれて生身の人間が
到達するには困難な場所だ。そして赤帽の少年が身にまとっている服は全く濡れていない。
自力で泳いだりせずポケモンの力を借りてここまできたポケモントレーナーだろう。
たまには人間が鍛えたポケモンと戦ってみたりするのもいいかもしれない。
ポケモントレーナーがここにくることはめったにないしね。これを逃したら
次に人間が育てたポケモンと戦えるのはいつになるのやら。
僕は赤帽の少年の前に飛び出し、バチバチという音を立てて威嚇した。
赤帽の少年はボールを投げ、ポケモンを繰り出した。
僕と寸分違わない姿をしているが、強い磁力で三匹が連結しており、
しかもかなり鍛えられているようだ。
どうせならここに生息していないポケモンと戦ってみたかったけど
人間が鍛えたポケモンと戦うのはこんなところに生息している僕にとって
かなり貴重な体験だ。いまさら引くだなんてことはしない。
「レアコイル!戻れ!」
何を思ったのか、赤帽の少年はすぐにレアコイルをボールに戻そうとした。
しかし、僕の体が強い磁力でレアコイルを引っ張っているから戻すことができない。
「磁力持ちか…よし、レアコイル!電磁波だ!」
6つの磁石から放たれた微弱な電撃が僕の動きを止める。
そういえば、少年がくりだしたレアコイルからは、鋼タイプのポケモンを
ひきつける磁力は感じられない。3連結している分磁力は僕より強いと思うのに。
変わりに体は僕より頑丈そうで、地割れにおとされたりしてもピンピンしていそうに見える。
僕はありったけの力で電撃を放ったが、レアコイルはビクともしない。
「よし、レアコイル 後はボールを投げるだけでつかまると思うから攻撃はしなくていいよ。」
赤帽の少年は、いつでも攻撃できる態勢で指示を待っていたレアコイルに
そう言うと、僕に向かってボールをぶつけ始めた。僕をつかまえようとするとは予想してなかった。
もちろんタダではつかまってやらない。ボールの中でジタバタ暴れて抵抗し、ボールを破壊する。
しかし、麻痺した体ではボールを壊すことすらろくにできず、5投目あたりで
僕はつかまってしまった。 僕は戦い終えたらいつも通りニューキンセツをふらふら
するつもりだったけど、ボールの中にいるのも案外悪くないかもしれない。
気がついたら僕は荒地の草むらにいた。ボールの中とは全く違う光景に戸惑っていると、
赤帽の少年がむこうからやってきた。
「おい、なにがどうなってるんだ?」
僕の言葉が人間に通じないのはわかっているけど、いちおう聞いてみる。
返事が彼の口から発されることはなく、彼は無言でボールを投げ、僕をボールに戻した。
「ほかくショー終了でーす!すべてのポケモンの捕獲に成功しましたー!」
大きな声が遠くから聞こえてきたが、意味がわからない。
気がついたら僕はパソコンの中に送られていた。
赤帽の少年は僕をそこから出し、変な機械を僕の頭にとりつけた。
そして馬のようなポケモンに乗って空を飛び、大きな建物の前でおりた。
大きな建物のなかで赤帽の少年は緑の髪をした青年になにやら話しかけて
馬のようなポケモンを繰り出し、勝負を挑んだ。
「アルセウス!空を飛ぶんだ!」
少年の指示をうけた馬のようなポケモンは空を飛び、
緑の髪をした青年が繰り出したトンボのポケモンに急降下攻撃をしかける。
トンボのポケモンが地に落ちた瞬間、変な機械から僕の頭に大量の情報が流れ込んできた。
どうやらこの変な機械はポケモンの頭に戦いの情報を流し込んで、戦わずとも
鍛えることができる機械らしい。馬のようなポケモンが緑の髪をした青年の繰り出した
ポケモンを倒すたびに僕は強くなっていく。
僕の磁力が十分高まると、仲間が二匹よってきて僕にくっついてきた。
ニューキンセツを無意味にふらふらしていた時にはなかったことだ。うれしい。
僕の強さがニューキンセツをふらふらしていたころに比べ、
大分高まったのを見ると少年は僕の頭から機械を外し、変わりに眼鏡をかけさせた。
少年は火山の近くに僕をつれていきなにやらよくわからない機械をいじりはじめた。
すると近くの草むらが揺れ、少年はその中に飛び込んだ。
草むらの中から飛び出す鋼の体を持った鳥ポケモン。
少年は僕をボールから出し、鳥ポケモンを電撃で打ち落とすよう指示した。
鳥ポケモンは刀のように鋭利な翼で僕を引き裂こうとしたが
僕の鋼でできた体の前では大した意味をなさなかった。
反撃の電撃を受け、鳥ポケモンは意識を失った。
今度は別の草むらが揺れ、少年はそこに飛び込んだ。
またまた飛び出す鳥ポケモン。僕は少年の指示でその鳥ポケモンを打ち落とした。
何度もこれを繰り返し、僕の力は鍛えられてかなり高まった。40匹目の鳥ポケモンを
倒したあたりで、少年はなにやらよくわからない機械で草むらをゆらし、
草むらを無視して走り、また揺らしを繰り返し始めた。
これを何十回も繰り返し、遠くの草むらが光ったように見えた。
そこから飛び出した通常とは色の違う鋼の鳥ポケモンを捕まえると
少年は満足したらしく、ニコニコしながら僕に「本当に
ありがとう!」といって僕をボールに戻した。
次は別のところにいってゆれる草むらから飛び出すコイルをたくさん倒した。
「俺も連結していい?」と言って僕をうらやましそうな目で見るもの、
「人間の手先になりやがって。」と言って僕を侮蔑した目で見るもの。
僕を見たコイルたちの反応はさまざまだ。
またしても40匹たおしたあたりで少年は草むらを走っては揺らし走っては揺らしを
繰り返し始め、光る草むらから飛び出した金色のコイルを捕まえると
「今日もありがとうな。」といって僕をボールに戻した。
「え?2連鎖以降は磁力関係なかったのかよ?!」
パソコン画面を見ながらよくわからないことを言ったあと、少年は僕をボールから出した。
「いままでコキ使ったりして悪かったな、お前はもう戦ったりしなくていい。自由の身だ。
お前がいたホウエンには返してやれないけど 野に帰してやることだけなら出来るよ。」
そう言って少年は僕をボールから出した。
よくわからないけど、僕をホウエンから遠く離れたシンオウにつれてきて
戦わせたりしたことを後ろめたく思っているようだ。
「なんで?僕は鍛えてもらってうれしいよ?」
しかし、僕の言葉は彼には通じず、彼は「じゃあな。」と言ってむこうへ行ってしまった。
ホウエンには戻れないし少年のもとへも戻れない。
居場所を失った僕は、とりあえずニューキンセツにいたときと同じようにそのへんをふらふらすることにした。
「誰か僕をつかまえられるほど強いトレーナーはいないかなー」
僕をかわりに鍛えてくれる人間を探しているということだけがニューキンセツにいた時と違っていた。
最終更新:2011年07月30日 22:21