やっ、ハジメマシテ。僕のナマエはヒトモシ。君は?
ふーん、良いナマエだね!元々そういうナマエなんだと思うけどさ。ん?なんのことかって?んーん、ナンデモナイヨ!気にしないで!
…でさ、君はこんな森の中でナニをしてるのかな?ひょっとして、道に迷っちゃったとか?え、当たり?ヤッタァ!やっぱり、アノコ達とオナジだ!アノコ達って誰って?んーん、ちょっとねー。
ねぇ、そんなことよりさ、僕ここから出られる方法知ってるんだけど…どう?ツイテコナイ?
そっ、そんな顔シナイデヨ!僕、怪しくなんかないよ?君を道案内しようとしてる、優しい優しいオトコノコなんだよ?ぜーったい君のタマシイを食べちゃおう、なんて………アッ!
アアア!待って、待って!今のジョウダンだよ、ジョウダン!本当じゃないよ!お願いだから信じて!!僕、餓死しちゃうよぉ!
結局、今日も食事を得ることは出来なかった。僕の名前はヒトモシ。道案内をするフリをして、魂を食べて生きているポケモンなんだ。
だけど僕は、相手を騙すのがとっても下手くそでいつもポロリと本音を口にしてしまう。僕が産まれた時、誰かに「
素直な性格」って言われたけど、それが関係してるのかな。素直だと本音がポロリと出ちゃうモノなのかも。
だとしたら、素直な僕の嘘なんて誰も信じてくれやしないってこと?
困ったもんだ。このままじゃ、産まれて一度も魂を味わうことのないまま僕は死んでしまう。
でも、こんな僕にもチャンスはきっとある。何故かこの辺りには、子供なのにひとりぼっちで、右も左も分からない子がよく来る。多少嘘が下手でも、食事が出来るかもしれないってワケ。
そんなことを考えながら眠った翌日の夜。また僕の前に獲物がやってきたんだ。
やっ、ハジメマシテ!僕のナマエはヒトモシ。君は?
へー、ゴミっていうんだ。君のガイケンによく似合った、ステキなナマエだね!ア、いやいや、ナンデモナ…え?褒めてくれてアリガトウ?うん、まぁ、ドウイタシマシテ?
ところで君、もしかして道に迷ったの?あ、やっぱり?でねでね、僕はここからでられる道を知ってるんだけど…ドウ?ツイテコナイ?え、ついて来てくれるの?ヤッタァ!ぜったいオイシク食べてあげるからね!………アッ!
え?ああ、うん!そうそう!木の実をオイシク食べようね!ってこと!じゃあ、イコッカ。
始めてだった。僕の話術で、相手を騙すことが出来た。あんまり上手に出来たような感覚はなかったけれど、ようは成功したのだ。
後は、歩きながらゆっくりと魂をいただくだけ。でもその間にも会話をかかしちゃいけない。道案内なのに何も喋らないのも、不自然だからね。
ねぇ、君はどこから来たの?え、覚えてないの?アタマワルイナァ。ごめんごめん、ジョウダン。実は僕も覚えてないんだよね。あ、ここを右に曲がるよ。ホントは左だけど。ああっ、ううんキニシナイデ!別のハナシだから!うん、そうそう。別のハナシ。
じゃあ、君にそのナマエを付けたのは誰?それもシラナイノ?バカダナァ。ああ、ごめんね。怒らないで。僕なんてナマエもつけてもらえなかったし。え、誰に、って?ワスレチャッタなあ。ちょっと、笑わないでよ!君とイッショにしないで!
あ、ここは左。右だけど。ここは真っ直ぐ。戻った方が良いけど。この木がメジルシ。他にも同じような木がイッパイあるけど。え?嘘ついてないかって?や、ヤダナァ!ついてるわけないよ!
…信じてくれるの?アリガトウ…。
もう随分歩いた。だというのに、気が付けば僕はまだ一滴もこの子の魂をいただいていなかった。僕も疲れてきたけど、この子も随分と疲労してる。その様子を見るとどうしてか胸がズキリとした。
僕がこの子を騙してるせいで、この子が苦しんでいる。僕はこんなヤツなのに…この子は…。
…なんていうか、僕、君のことあんまり食べたくないな。ドウシテ、って?んー、なんかね、君を見てると何故かカナシィ気分になるんだ。今だって君は、どう見てもアヤシイ僕について来てくれてる。
君は 僕を シンジテくれている。
そこまで言って、僕はその場にぱたりと倒れた。あの子が、心配そうに顔を覗いてくる。僕は君を食べようとしてたのに、どうして離れようとしないの?「あまり食べたくない」って言ったから?そんなの嘘かもしれないのに、素直だね。嘘じゃないけど。
ここで君を食べちゃえば僕はおなかいっぱいになる。でも、それなら僕は餓死した方がイイヤ。君みたいな素直な子がイキノコルのはとってもタイヘンだと思うけど、イキテテホシイって思うよ。
僕の本音、どこまで喋ることが出来たんだろう。ワカラナイヤ。
頭の炎が徐々に弱々しくなってゆく感じがした。それだというのに、身体にはポタポタと冷たいモノが降り注いできていた。
僕に追い討ちでもかけてる気なの?本当にバカダナァ。
僕も君みたいになりたかったな。
本当にスナオな君みたいに。
end
最終更新:2011年07月30日 22:48