俺は今日、ついにあの男を渾身のエアスラッシュで真っ二つにし、俺の復讐劇は大団円を迎えた。
これは、俺の苦悩と憤慨と悲嘆の日々を書き綴った、壮大な物語である。
いつの事だったか、あの愚かな人間は生い茂る草むらの中に俺を放り投げた。
非力な俺はそこで毎日鳥ポケモンの威嚇に怯えながらも、強く生きていた。
俺が一体何をしたというのか。理不尽極まりなかった。
ただ、俺を捨てた人間が最後に吐き捨てた言葉、
「何はりきってんだよ。雑魚が。」
あの言葉が妙に気にかかっていた。俺は特にはりきって見せた覚えは無い。
仮に俺がはりきっていたとしても、それは世間一般的に良いとされているのではないか。
俺はあの馬鹿な人間の下に生れ落ちた事に、ぶつけようの無い激しい憤りを覚えた。
そして、自分は“天に恵まれていない”と、己の不遇さを嘆き、神を恨んだ。
でも、今日も明日も明後日も、俺は生き抜いてみせる。そう思えた。
何故なら、俺にはただ一人の親友がいたからだ。俺とは違う人間に捨てられたケムッソだ。
ケムッソは捨てられる際に、こう言われたらしい。
「お前に恨みは無いが、ボックスがいっぱいなんだ。分かってくれ。」と。
どうやら俺が捨てられた理由とは少し違うらしい。
あいつは俺より幾分か強かった。レベルが高かったとでも言っておこう。
俺はあいつに頼りきっていた。俺は攻撃技を繰り出す術を知らなかったからだ。
他人に自慢出来る技といえば電磁波くらいしかなかった。
何故に俺はこの技を使えたのかは未だに分からないが、そんな事はどうでもいい。
俺はあいつの様に強くなりたかった。今度は俺があいつを守りたい。そう思っていた。
その一心で俺はあいつと共にポケモンを倒して己を鍛え、ついに指を振る技を覚えた。
あいつは俺を祝福してくれた。俺は本当に嬉しくて、堪えきれず涙を流した。
そんな中、あいつは「お前の為に食い物探してくる。」と言い残し、俺の傍から離れていった。
俺は、「すぐ戻って来いよ。お前いないと俺殺されるからさ。」と冗談混じりで返事した。
これがあいつとの最期の会話になるなんて、予想もつかなかった。あいつは強かったから。
気付けばもう夕方だった。今日は曇っていて夕日が綺麗でない。
俺は親友を待った。しかし、いつまでたっても戻ってくる気配がなかった。
俺は不安になったが、あいつの身に何か起こるなんて考えられない。
いや、「考えたくなかった」が正しい。
その時、俺は何か強大な力を全身で感じ取った。不安になり、恐る恐る様子を見に行った。
そして、俺は耳を疑った。
「行け!ガブリアス!ドラゴンクロー!」
どこかで聞いた事のある声、この声は間違いなくあの男、俺を捨てたあの男だった。
「ぐあああああああっ!!」
俺は、今度は目を疑った。さっきまで喜び合っていた親友が、無残にも切り裂かれていた。
全身が凍りついた。怖くなった。涙が出た。そして、震えが止まらなくなった。
「よし!これで最強ガブリアスの完成だ!早速
リボンを貰いに行くか。」
憎むべき男は、そう言ってエアームドに乗り、東の空へ飛び立って行った。
そして、親友は最期の一息を終えた。
あいつが、飴を持っていることに気付いた。きっとこの飴を俺に届けたかったのだろう。
俺は親友を、泣きながら埋めてやった。
その後、空腹には耐えられず、惜しみながらもその飴を食べた。
その瞬間、不思議と力が漲ってくる。そして、身体が光に包まれていく。
みるみる俺の体が形を変えていく。これは、進化というヤツなのか。
あいつは、いつだったか生前にこう言っていた。
「生まれ変わったら、今度は石になりたい。屈強で、踏んづけられても平気な石に。」
俺は、その願いが叶うように、流れ星に祈った。
俺は、あいつの為にも、あの男に復讐する事に決めた。
俺は、あの男に復讐を誓ったあの日から、格段に身体を鍛えていった。
しかし、親友を惨殺したあの巨大な怪獣に勝てる気はしない。
今日この頃では、己に限界を感じるようになり、思い悩んでいた。
俺は、親友の眠る場所に行った。
「俺さ、どうすれば強くなれるかな…」
この場所に来ると、自然と涙が溢れ出してしまう。
掠れそうな声で、眠る親友に尋ねてみた。
すると、空から何かが降ってきた。それは俺の頭上を直撃し、俺は気絶した。
目を覚ますと、頭上を直撃したであろう石が目の前に落ちている。
絶え間なく光り輝き、はっとする程美しい石だ。
俺はそっと手を触れてみた。その時、いつか経験した不思議な感覚が俺を襲う。
あっという間に光に包まれ、そして翼が大きくなっていく。
二度目の進化だ。自分の中のエネルギーが何倍にもなったような感じがした。
俺は、この光る石は間違いなくあいつの生まれ変わりだと確信した。
そして、再び泣き崩れてしまった。あいつは死しても、俺の味方をしてくれていた。
どれだけ俺は泣いただろうか。分からない程に俺は泣いた。
俺は一生分の涙を流したのだろうか。もう涙は涸れた。
あの男に情けは不要だ。必ず奴を倒す…いや、殺す!!!
俺は気合でエアスラッシュ、はどう弾を思い出し、奴を追った。
俺は進化して得た巨大な翼を広げ、海を渡り、ついに男を発見した。
トゲキッスは幸せを呼ぶと云われているようだが、
その時の俺は破壊衝動で満ちていて、不幸の塊のように見えたかもしれない。
あの男は、バトルタワーと呼ばれる建物の中に入っていった。あの建物は何なのか。
どうやら、あそこには多くのトレーナーが出入りしているようだ。やはりバトルをする為の施設なのか。
いろいろ考えていると突然、四方八方から何かがやってくる。
よく見ると、大量のトゲキッス達が集結しようとしていたではないか。
そして、トゲキッスが一箇所に溜まり始め、俺もその群れの中に紛れた。
トゲキッスの一匹が「今から一緒に!これから一緒に!殴りに行こうか!!!」
と、チャゲアス風に叫んだ。
どうやら此処にいるトゲキッスは全員、あの男に捨てられたトゲピーが進化したものらしい。
そして、俺と同じようにあの男に復讐にやって来たと言う。その数はざっと100匹は下らなかった。
掛け声と共に、一斉にバトルタワーに向けてエアスラッシュを発射し始める。
海や空、海パン野郎を真っ二つにしながら、直進する空気の刃。
そして、それは島諸共、あの建物を切り裂き破壊していった。
辺りは騒然となり、あの男も建物から慌てて飛び出した。
「あああああああ!俺のガブリアスとトゲキッスが真っぷたつだぁあwせdrftygふじこ」
崩れ去るバトルタワーを背に、必死で逃げるトレーナー達。
俺は、母親譲りの控えめな性格を押し殺して、奴を追い詰めた。
「もう逃がさねーぞ糞野郎!逝って良し!!」
俺はそう叫びながらエアスラッシュを放ち、男は芸術的な程綺麗に真っ二つになり、逝った。
そうして、俺の復讐は終わった。
更にバトルタワーも消え去り、同じ目に遭うポケモンはちょっと減少したとさ。
めでたしめでたし。
作 初代スレ>>316,320,322-323
最終更新:2007年10月19日 20:04