1日が卵の孵化作業から始まる。
生まれてきたポケモンの性格・個体値なんかを調べて、気に入らなければすぐに逃がす。
逃がす時に、悲しそうな顔にをしていようが痛みなんか無い。
その顔を見て、俺の事を怨んでいるんだろう、と思っていた。
今日も生まれたポケモンを逃がすか。
町のすぐ傍に捨てるのは、人目に付きそうだったので避ける。
ズイタウンの近くで人目に付きそうにないのは・・・
ズイのすぐ傍にある
ロストタワーを思い出した。
でも、其処に逃がして怨まれて出てこられても困るからな。
違う場所を探すか・・・
自転車を走らせて、見つけたのは遺跡だった。「ズイの遺跡」、か。
中へ入ってみる。勿論逃がす予定のポケモンを連れて。
中はひんやりとしていて、何処か不気味だった。
何か沢山の目が見つめている様な。
気のせいだと思い、どんどん奥へと進む。
階段を何度か下ったり上ったりを繰り返し、どうやら一番深いところへ着いたようだ。
一番奥の部屋は見渡したところ、四角い部屋のようだ。
これなら人に見つからないかな。
そう思い、モンスターボールから逃がす予定のポケモンを逃がす。
逃がされたポケモンは決まって悲しそうな顔でこっちを見る。
その顔を見ると、俺はさっさとその部屋を後にした。
そして、しばらくしたある日、俺はまたポケモンを逃がしに来た。
あの部屋に着いて気付いたが、前に逃がした奴等はいない。此処を出たのだろうか。
そして、今日も逃がそうとした時だ。
何かの気配を感じる・・・
そう、初めてここの遺跡に来たときにも感じた、何か沢山の目が見つめている様なあの気配を。
周りを見て驚いた。其処にはいつの間にか、かなりの数のアンノーンがいた。俺を囲むようにして。
「なっ・・・!此処はアンノーンの住処なのか!?」
何か沢山の目が見つめている様な感じがしたのは、このアンノーン達だったのか。
野生のポケモンとの遭遇が面倒で、スプレーを撒いていたため、
前は気配を感じただけで、その姿には気付かなかったのだ。
今はタイミングが悪くスプレーの効果が切れていた。
「くそっ!」手持ちには逃がす予定のLV1のポケモンと、卵孵化の後だったため、
LVがアンノーンよりそこそこ高いだけのドンメル。
これだけのアンノーンがいっせいに襲い掛かってきたら・・・
そう思った時だ。アンノーンが俺の心を読み取ったかの様に、いっせいに襲い掛かってきたのだ。
「・・・!」慌ててドンメルのボールを開く。ドンメルは何とか火の粉で追い払う。
アンノーン達はたった一つの技である「目覚めるパワー」で容赦なく攻撃してくる。
ドンメルの体力も少ない。此処までか・・・そう思った。
しかし、腰につけていた残りのボールが勝手に開いた。
出てきたのは言うまでも無くLV1のポケモン。
相手に適う訳も無いのに必死に俺を守っているようだった。
ポケモンがどんどん傷ついていく。俺は何も出来ない。
その光景に声が出なくて、立ち尽くすことしか出来なかった。
その光景を見て、アンノーンは何かを考えるような素振りを見せ、攻撃を止めた。
俺のポケモンは皆気絶して倒れている。
アンノーンは俺を見て、そして倒れているポケモンを見つめ、
それから最後に部屋の壁の一部をチラリと見た。それも悲しそうに。
そしてまた俺を見て、部屋から静かに消えた。
俺に逃がされる事を知りながら俺を守ってくれたポケモン・・・
今まで逃がす時に、ポケモンが俺の事を怨んでいるんだろうと思っていたのは、間違いだったのだ。
今、その事を初めて知り、途轍もないショックを受けた。
「・・・早くセンターに連れて行かなきゃな・・・」そう思って立ち上がる。
そして、ふとアンノーンの最後に部屋の壁を見つめていた事を思い出した。
何かがあるのだろうか・・・。
アンノーンが見ていた壁に近づく。何か窪みがあり、文字が書かれているようだ。
埃が酷く、見辛い。手ではたき、何とか読む。
「えっと・・・」そこには、アンノーン文字で、
「FRIEND すべての いのちはべつの いのちとであいなにかをうみだす」と書かれていた。
「すべての・・・いの、ち・・・」
今まで何の痛みも感じず、簡単に逃がしていたあの行為。
それを思い出してとても後悔した。俺が逃がしたポケモン達は、
必ずしも生き延びられる訳では無い。俺がLV1で逃がしたからだ。
あの自分の行動は、命を捨てる行動だったのか・・・
そう思うととてもやり切れない気持ちになり、自然と涙が溢れた。
どうしてもっと考えなかったんだろう。もう少し俺が相手の事を考えていれば。
力が抜けてしまい、座り込んでしまった。
…ふと、冷たい何かが手に触れた。「!」見ると、さっきまで気絶していた
ポケモンが俺を手を舐めている。いつの間にか擦り剥いたようだ。
「ごめんな・・・もう、誰も逃がしたりしないから・・・」
そう言うと、ポケモンは何も知らないような顔で、「クゥーン」と小さく鳴いた。
「ありが・・・とうな・・・」
そして心配そうに俺を見ているドンメルをボールに戻した。
勿論俺を助けてくれた逃がす予定だったポケモンも。
アンノーンは俺が間違った事をしていた事を教えてくれたのだろうか。
今、俺はあの時俺を助けてくれたポケモン達と一緒に各地を回っている。
あれから、俺はポケモンを無闇に逃がす事を止めた。それが約束だから。
残念なことに、俺が昔逃がしてしまったポケモンの行方は分からない。
ズイの周辺や、もっと遠くを探しても見つからなかった。最悪の場合、もしかしたら・・・
いや、でも、にがしたポケモンの行方が、
何処かでかけがえの無い誰かに、出会う道を通っていると俺は信じたい。
作 初代スレ>>452-455
最終更新:2007年10月19日 20:32