再びレーチュンパは、
「ラマよ、よい行いをなさったとおっしゃられましたが、それは正法に違いありません。尊者よ、法とお会いになられた経緯は、どのようなものでしたか?」
と申し上げると、尊者は次のようにおっしゃった。
「私は呪術と降雹術の罪を後悔して、法を希求するあまりに、食べることを顧みなかった。歩けば座りたくなり、座れば歩きたくなる。夜中、眠りに落ちることができない厭離と出離の思いがあったが、法に向かうと言うことはできなかった。ラマに奉仕しながら、法を実践する方法をどのようにしようかという激しい思いが常にあった時、ラマにないすべての物を補うことができる施主、財産が豊で信仰と尊敬を強く持つその人が重病を患った。ラマは、枕元の守り(sngas srung)のために招かれて行った。それから三晩過ぎると、ラマは、悲しみの表情を浮かべながら戻って来られた。
「ラマよ、このように悲しい表情をされるのはなぜですか?」
と申し上げると、
「有為法はすべて無常である。昨夜、私のよき施主も死んだので、この輪廻を少し悲しんだ。さて、年老いた私も、歯が白い若い頃より髪が白くなるまで呪術と魔術と降雹術の3つをおこなった。息子よ、お前も若い頃から呪術と降雹術により大きな罪を積んだ。これ〔らの罪〕もすべて私に降りかかってくる」
とおっしゃった。
「〔呪術で殺された〕それらの有情は、ラマのおかげで善趣と解脱に至らなかったのですか?」
と申し上げた。すると
「有情たちの本質が法性であることや、諸々の物が善趣と解脱へと導かれるのを見てもいるし、儀軌も知っている。しかしそれらはうわべだけの理解、言葉の上だけのことで、条件が合った時に有益となる自信が私にはない。さあ私は原因を具えた法をおこなおう。故にお前は、弟子たちを統率せよ。私はお前が善趣と解脱の導き手になれるようにしよう。さもなければ、お前が法を実践し、私をも善趣と解脱の導き手となるようにせよ。私は条件が整うよう手配しよう」
とおっしゃった。
私の望みがかなって
「私は法をおこないます」
と申し上げた。すると
「では、お前は年も若く、努力と信仰も非常に大きいので、正しい法を実践せよ」
とおっしゃって、ヤルルン産の毛織物一駄をゾといっしょにくださって
「ツァンのロン地方のナルというところに、ラマ・ロントン・ラガという正法ゾクチェンに巧みで成就を得た方がいらっしゃる。そこに行き、正しい修行をおこなえ」
とおっしゃった。
私もラマの予言されたとおり、ツァンのロン地方のナルへと赴き、〔ラマ・ロントン・ラガを〕探し求めた。そこで、ラマの奥様と幾人かの僧がいて、彼らが次のように言った。
「これは本寺であるが、ラマは現在ここにいらっしゃらない。上部ニャン地方のリナンという末寺にいらっしゃる」
と。
「私はラマ・ユントン・トギェル(Bla ma g-Yung ston khro rgyal)によりここに遣わされた者です。お会いするための助けをしてください」
と述べて、事情を詳しく申し上げた。すると奥様は、1人の僧を私の案内人として送ってくださった。
すると、上部ニャンのリナンでラマとお会いした。毛織物とゾの贈り物を献上し、
「私はニマ・ラトー地方よりやってきた罪深い者です。輪廻より今世で離脱する方法をお授けください」
と申し上げた。
すると、ラマは次のようにおっしゃった。
「私のこの正法ゾクチェンは、**根本においても悟る。頂上においても悟る。結果においても悟る**。日中瞑想すればその日のうちに成仏する。夜瞑想すればその夜のうちに成仏する。有縁の善根を持つものであれば、瞑想の必要なく聞けば解脱する。根の優れた者にとっての法の分け前なので、与えよう」
とおっしゃった。灌頂と教戒をお授けくださった。
私の思うに
「私ははじめ、呪術を行じ、14晩にして大いなる印(しるし)が出た。降雹術では、7晩で十分であった。さて、呪術と降雹術よりも安易な法、日中瞑想すればその日のうちに成仏する。夜瞑想すればその夜のうちに成仏する。有縁の善根を持つものにとって、聞けば瞑想の必要ないこのような法と出会ったことから考えれば、私も善根を持つ者であろう」
と思い、うぬぼれて瞑想せず寝て過ごしたので、法と人が分かれてしまった。
そして数日が過ぎた時、ラマは次のようにおっしゃった。
「おまえが、ラトーからやって来た罪深い者であると言ったことは本当である。私の法に自信を持ちすぎたようだ。私はお前を導けない。さて、ロダク地方のトボルンという寺に、インドの偉大な成就者ナーローパの直弟子、翻訳最勝王マルパ翻訳師という新訳密教の成就者、天地地下において比類なき方がいらっしゃる。その方とお前は前世より業の縁があるので、その方のもとに行け」
とおっしゃった。
そこで、私は、翻訳師マルパのお名前を聞いただけで、心に言い表せない喜びと、身体にすべての毛が逆立つ安楽と、涙があふれる限り無ない敬愛の念が生じたので、心をひとすじにして、道中の糧食と経本を持って、他の思いに妨げられること無く、ラマとお会いしお顔を拝見するのはいつだろう、いつだろうと考えながら歩いた。
私がトボルンに早朝到着し、その前夜のことである。マルパの夢に、大学者ナーローパが現れ灌頂を与え、汚れをすこしかぶった瑠璃でできた五鈷杵と、甘露が満たされた金の壷を与え、「この金剛杵の汚れをこの壷の水で洗い、勝幡の頂に掲げよ。それが過去の仏たちをお喜びさせ、衆生たちを喜ばせるので、自利利他という目的が達せられる」とおっしゃって天空に去られた。ラマの指示どおりに壷の水で金剛杵を洗って、勝幡の頂に掲げると、金剛杵の光がすべての世間に行き渡り、六道の有情を照射し、苦しみのない安楽な状態で尊者マルパ自身と勝幡に一切の有情が礼拝しながら供養と賞賛を捧げると、仏たちが勝幡に入魂されるという夢を見たので、高慢が少し生じた状態で、眠りから覚め、喜びながら、幸せが生じた状態の時、ダクメーマが熱いお茶をもって現れて、
「ラマよ、昨夜私の夢に、西方のウゲンから来たという2人の女性が、汚れを少しかぶった水晶の仏塔を持って現れ、『お前の夫に対するラマ・ナーローパのご命令であるから、この仏塔に入魂し、山の頂に置け』と言われ、あなたも『この仏塔の入魂は、大学者ナーロがなさったのであるが、ラマのご命令を成就すべきである』とおっしゃり、仏塔を壷の水で洗うなど入魂の儀式をおおいにおこない、山頂に置いたところ、その仏塔より日月のごとき眩い光と、同じような仏塔がたくさん現れ、山頂すべてに満ちあふれた。その仏塔の供養を2人の女性がしているのを夢見ました。これは何なのでしょうか?」
とおっしゃった。夢の内容が一致しているとお考えになり、非常にお喜びになったが、
「夢の根拠がないので、何であるかはわからない。私は、下の方に畑仕事に行くので準備せよ」
とおっしゃった。
「それぐらいは使用人がしますから、あなたのような偉大なラマが仕事に行かれたら、私たちが笑われることになるので、とどまってください」
とお願いしたが、ラマ自身はお聞きにならず、
「私にたくさんのチャンを持って来い」
とおっしゃった。壷いっぱい運んで行くと、
「これは私の飲むものだ、客人のチャンを持って来い」
とおっしゃられたので、また壷いっぱいに持って行った。すると、それを地中に隠し、帽子で被い、畑を耕しながら物見をなさり、初穂を少しお召し上がりになっていた。
私もロダクの下流域から、会う人会う人に、「最勝者マルパ翻訳師はどこにいらっしゃるのですか?」と問いながら行ったが、知っているという人はいなかった。トボルンが見える丘に着いた時、一人の人が現れたので、前のように尋ねた。すると、「マルパという者はいる。最勝者マルパ翻訳師という者はいない」と言った。「では、トボルンはどこにあるのですか?」と言うと、「トボルンは向こうです」と示された。「あそこにだれがいらっしゃいますか?」と尋ねると、「マルパというその人がいます」と言われた。「その方に他のお名前がありませんか?」と尋ねると、「ラマ・マルパとも呼ばれています」と言われた。ラマのお住まいであると確信し、「この丘は何と言いますか?」と尋ねると、「チョーラガンです」と言われた。チョーラガンからラマのお住まいが見えたのは、非常に縁起が良いと思って、喜んだ。
さらに上の方に尋ねながら向かうと、たくさんの羊飼いがいた。彼らに尋ねると、年かさの者たちは「知らない」と言った。しかし、彼らの中にいた美しく身なり善く、よくしゃべり、つやつやした髪の毛を結っていない子供が、次のように言った。
「私の父のことを言っているのでしょうか。それなら私の父は、自分のありったけの財産で金を買いインドに運び、こちら側に土産として、細長い経本をたくさん持って帰った人です。以前は決して仕事をしなかった父が、今日は畑仕事をしています」
話から考えるとそれらしいが、かの大翻訳師が畑仕事をしていることなど決してないだろうと考えて行くと、道に、背が高く、太って、眼が大きく、威厳のある僧が一人、畑仕事をしていました。その姿を見るや否や、言い表しようのない計り知れない歓喜の状態で、この世のありさまが一瞬止まって、しばらく呆然としていた。
それから私は
「御前よ、この土地に、聖ナーローパの直弟子、翻訳師マルパという方がいらっしゃるといわれていますが、その方はどこにいらっしゃいますか?」
と言うと、その僧は私の頭のてっぺんから足の先までじっと見て、
「お前はどこから来たか? 何をしているのか?」
とおっしゃった。そこで
「私は、ツァンのラトー地方の大罪人でございます。かの方は非常に有名なので、正法を受けに来たのです」
と申し上げると
「それなら、私がマルパと会わせてやろう。お前は、私の畑を耕せ」
とおっしゃって、お帽子の下から地中に隠したチャンを取り出し、与えて下さった。そのお酒は、飲むと喉の渇きをいやし、おいしいものであった。
「この畑を一生懸命耕せ」
と言って、その僧が去ると、チャンを残らず飲み、畑仕事を一生懸命した。しばらくすると、羊飼いの中から顔見知りになった少年が呼びにやって来て
「ラマの命令です。宅に来いとおっしゃっています」
と言うので喜んで、「あの方が私の面会の仲介役を果たしてくれたので、私もあの方の畑仕事の残りをしよう」と言って、少しあった残りを耕した。
その畑は、私がラマとお会いするきっかけを作ったので、畑の名も「きっかけ」となった。夏は畑の周り、冬は真ん中に道のあるそれは、今もあります。
それから、私はその少年と一緒に、家に入った。そこには、先ほどのあの僧侶が、絨毯の上に2重の座布団を敷き、その上に敷物を敷き、さらに背もたれのクッションを置いた上に、拭われた顔で、鼻筋がとおってはいるけれど、口髭と顎髭などは拭われておらず土ぼこりが付いていて、お腹がふっくらした様子でいた。
「この人はさきほどの人だ。ラマはどこにいらっしゃるのだろうか」と考え、見まわすと、ラマは
「わからないのは当然だ。マルパは私である。礼拝せよ」
とおっしゃった。
そこで、礼拝頂礼して、
「ラマ・リンポチェ、私はニマ・ラトオー地方から来た罪人でございます。身口意の3つを捧げます。衣食と法の3つはラマにお任せします。今生で成仏するよう、慈悲にてお導きくださいますように」
と申し上げると、ラマは
「罪深いことは、私にかかわりない。私のために罪を積ませたのではない。お前はいかなる罪をおこなったのか?」
とおっしゃった。事情を詳しく申し上げると、
「いずれにせよ、身口意の3つを捧げるのは、善いことだ。だが、衣食と法の3つすべてはかなわぬぞ。衣食を施して欲しければ、法は他で探せ。法が欲しければ、衣食は他で探せ、そのどちらかを選べ。私から法を授かるのを選んでも、今生で成仏するかどうかは、お前の努力次第だ」
とおっしゃった。
「では、ラマのもとに法のためにやって来たのですから、衣食は他で探します」
と申し上げて、1冊の経本を仏間に持って行くと、
「おまえのそのぼろぼろの経本を外に出せ、私が祀っているものが風邪をひく」
とおっしゃった。
私の経本の中に、魔術のものがあるからだと思った。経本を私のいる場所に戻して、何晩かそこにいた。奥様がおいしい食事を与えてくれた。
そのように尊者はお話になった。
ラマとお会いした所行、最高の所行の第1章