「……ッ!」

おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ。森の中に響き渡る声。

「赤ん坊……だと……!?」

少年、『椎名翼』はそれを聞き、発見し、立ち竦んで青褪める。
この鬼ごっこを開催した連中は、マジで外道の人でなしだ。本物の鬼だ。
子が小中学生ならわかる。まさか、這い這いでしか動けないであろう赤ん坊まで『子』にするとは。
肌の色は褐色で、目鼻立ちからは日本人ではない。アラブとかインドとか、そのへんの顔立ちだ。

どうする。さすがに人間として、見捨てるわけにはいかない。ほおっておけば確実に死ぬ。
『式札』とやらの説明書を見る限り、この鬼ごっこはただごとではない。殺し合いか、それに類するものだ。
赤い空、謎の霧、漂う妖気、パラシュート投下される人間、破壊された地図看板。この赤ん坊を放置など出来ない。

だが、どうする。赤ん坊は何も出来ないどころか、泣き喚くだけだ。連れ歩けば鬼に自分の位置を知らせるにも等しい。
食事や排泄の世話だって必要だろう。年齢によってはまだ母乳が必要だ。何の役にも……。

「ほっとけるかよ!」


ようやく人が通りかかった。耳を澄まし、精神を研ぎ澄ます。
おれのスタンド『死神(デス)13』は、夢の中では無敵なぶん、現実世界では役には立たないが……、
人間の精神に多少働きかけることはできる。催眠術ってやつだ。乳母にできそうな女を泣き声で誘って世話させたり。
他人がどーなろーと知ったこっちゃあねーが、おれはまだ赤ん坊。移動やメシやクソの世話してくれるやつがいねーと困るんだ。

鬼なら殺気を放ってるだろう。親か子にもヤバい奴がいる可能性はあるが――――
この気配と足音の軽さは、そうじゃあない。普通のガキだ。スタンド使いでもなさそうだ。
できれば女がいいが、こんな状況下で贅沢は言えない。拾ってくれれば恩返しをしてやらなくもないぜ。それ、今だ。

「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ……」



「それで、赤ん坊を拾って来たと申すか」
「文句あるかよ、爺さん。ほっとけねえだろ」

俺が潜んでいた民家へ飛び込んで来たのは、冠礼(元服)を迎えたかどうかという少年(わっぱ)と、赤ん坊。
どちらも『子』の役に違いない。しかし少年はともかく、赤ん坊は足手まといどころか……。

「だいたい、『賈ク』だ? 三国志の武将じゃねえか! コスプレまでして気合入ってんな!」
「三国志? こすぷれ? いや、俺は武将というか、今は漢の太中大夫という官にな……」
「知るか! とにかく、あんたはここじゃ親の役なんだろ? 子を大事に護りやがれ!」
「むう……」

子は枝葉。子は親を生むことはできぬ。危急迫れば、子は親のために死ぬべし。
儒者はそう説く。儒者嫌いの漢の高祖も我が子を馬車から投げ捨てて逃げたという。あの劉備めもそうしおった。

さりとて、俺も人。現世におる子や孫と我が身と、どちらが可愛いかと申せば……我が身を捨て、子を活かすやも知れぬ。
親は新たに子を儲けることもできようが、死んだ子は帰らぬ。子孫が絶えれば、親や先祖を祀る者がおらぬではないか。
それに父母と子に先立たれた孔子が、子は親のために死ねなどと申したであろうか。

まあ、この場に俺の子や孫はおらぬだろう。この翼とかいう少年や赤子も、別に俺の血を引くわけではない。
仁愛、惻隠の情というものはあるにせよ、いざとなれば見捨てて逃げても、俺の心はさして傷まぬ。
今のところはこの少年と手を組むとして、赤子は誰ぞに担わせてしまおう。


親役にはそれなりに情報が与えられている。
翼は(マニッシュ・ボーイも)賈クと情報を共有し、各役の勝利条件と制限時間を把握した。
どの役が何人いるのかと、この場所の地理は不明なままだ。
親と子の勝利条件が違うのは気にかかるが、誰だろうと死なせるのはいやだ。
いざとなれば鬼の本拠地へ攻め込んで、この『鬼ごっこ』をぶっ潰す。翼はそう語り、賈クもとりあえず頷いた。

賈クは民家の箪笥を漁り、目立ちにくく動きやすそうな作務衣に着替えながら思う。
翼には、なかなかの才覚がある。身のこなしもよく、弁も立つ。特に、人を率いる才だ。
ちと苛烈で毒舌ゆえ、人によっては嫌われもしようが。いや、我が主君ほどではなかろうが。

ともかく、人数と情報が足りぬ。まずは有能な親や子を集め、鬼に対抗するべし。
加えて鬼の方の情報も集めねばならぬ。ならば、鬼を捕まえる策が必要か。

ふと、赤子の方に目線をやる。幸いに今のところ泣き喚いたりはせぬが……。
気のせいか、口の中に牙が見えた気もする。よもや?

「……翼よ。もしその赤子が『鬼』だとすれば、どうする」
「さあ。鬼だとしても、なんにも出来ねえだろ」
「さてのう。赤子の姿に変化し、我らを襲って食い殺す算段やも知れぬぞ」
「疑心暗鬼を生ず、って言うぜ、爺さん。それならとっくに襲って来てるさ」
「ふん。どうにせよ、我らで赤子の世話は難しいな。誰ぞ女がおればよいが……」


や……ヤバイッ! あのじじい、オレを『鬼』じゃあねーかと疑いはじめやがったッ!
チクショーッ、この『牙』は生まれつきだが、別に鬼のしるしじゃあねーッ!
だいたい、ろくに動けねー赤ん坊のオレに、鬼ごっこの鬼役なんかできるかボケッ!
(説明がねーからオレでも役がワカンネーけどよ――ッ)

……いや、待てよ。オレがこいつらに危害を加える存在じゃあないんなら、別に正体を隠す必要はねえんじゃあねーか?
知能の高い、寝てる奴らには無敵で(鬼が寝るかどーかはともかく)催眠術も使える、強力な味方だとアピールすりゃあ……!
だ、だが、どうやって!? オレはまだ生後イレブンマンスだ、喋れねーぞッ! それとも文字を書くか?
誰か寝てる奴がいれば、オレの正体や能力をしっかりと明かせるんだが……!

【チーム・疑心暗鬼】
【I-06(民家)/00時25分】

【椎名翼@ホイッスル!】
[役]:子
[状態]:健康
[装備]:サッカーバッグ(水筒や包帯入り)、サッカーボール
[道具]:式札、財布(小遣い若干)
[思考・行動]
基本方針:生き残り、現世へ帰還する。主催者を殴れたら殴る。子や親の犠牲はなるべく出したくない。
1:多くの親や子と早めに提携し、情報を集める。民家から使えそうなものを持ち出す。
2:この赤ん坊は流石にほっておけない。
※その他
各役の人数・会場の地図は未把握。自分の役を子であると推測。
賈クのことは(日本語も通じるし)ただの変なじじいと思っている。

【マニッシュボーイ@ジョジョの奇妙な冒険】
[役]:子
[状態]:健康
[装備]:死神13
[道具]:式札(オムツの中)
[思考・行動]
基本方針:生き残る。普通の赤ん坊のように振る舞い、自分を保護させる。
1:じじいに怪しまれている、ヤバイ!
2:……いや、むしろオレの正体を伝えりゃあいいんじゃあねーか? でも、どうやって?
※その他
各役の人数・会場の地図は未把握。自分の役を鬼か子(たぶん子)であると推測。

【賈ク@蒼天航路】
[役]:親
[状態]:健康
[装備]:作務衣(民家から拝借)、直剣(私物)
[道具]:デイパック(確認済みの不明支給品2、漢服)
[思考・行動]
基本方針:生き残り、現世へ帰還する。他人が死のうと、最終的に自分が生き残ればそれでよい。
1:多くの親や子と早めに提携し、情報を集める。場合によっては鬼や主催者とも交渉する。
2:民家から使えそうなものを持ち出す。
3:この赤子、もしや?
※その他
各役の人数・会場の地図は未把握。
最終更新:2018年06月06日 01:01