事故と聞いて多くの人が頭に浮かべるイメージは、交通事故だろう。
クラッシュした自動車、玉突き事故でひしゃげたトラック、横転したバス。
あるいはネギトロめいた死体を生産する電車やピトー管がイカれて墜落する飛行機、氷山にぶつかり真っ二つになって沈没する船舶か。
だが事故というのは、交通事故だけではない。
本当の危険は家の中、安心と油断が同居する家庭内にある。その死者数は日本では交通事故を上回り第一位、つまり事故の王である。
風呂場での溺死や誤飲・誤嚥による窒息死――そして転倒・転落死。
日常でも毎日のようで起こっているそれが起こるかは、そこが恐怖と混乱の舞台ならば、言わずもがな、だ。
「うそっ、なん――」
言い終わるより早く落ちていく。踏み出した階段は突然その抵抗を無くし重量を支えることを放棄し自由落下し、彼女はそれに付き合わざるを得ない。前のめりに倒れた顔面に迫るは階段の角。咄嗟に手すりへと手を伸ばすも、無い。階段に手すりをつける法律なんてないのだ、邪魔と思われればつけられることはない。古い家で階段が急だとかそういうのは関係なく、とにかく無いったら無い。では手を階段に、しかしつくための場所は崩れてない。顔面に迫る段も同じく崩れる可能性がある上角度が難しい。腕の可動範囲で届くは壁。しかしこれは速度を殺しきれない。それでも彼女は片手を段に片手を壁にやり、強引に膂力でバランスを反転させることに成功する。類まれなる身体能力だ。それにより前のめりに倒れるはずが直立し、後ろのめりになった。
「っ!!」
気づいたときには、彼女の視界に映るは階段ではなく天井。それがバク転するときのように顎下へと流れる。つまり不安定な階段の上でバク宙するハメになったということだ。前に倒れるならば顔の強打が精々だったところが一転して命の危機。しかも今度は、手をつく場所などない。彼女はギュッと目をつむるとやがてくる衝撃とダメージを少しでも和らげるべくかばんから落ちるように背中を丸めて。
「大丈夫?」
「……あれ?」
自分が誰かに抱きかかえられていることに何度か目を開けて閉じてを繰り返したあと気づいた。
「――というわけで、近くにある建物を調べようと中に入ったら、階段が抜けて……」
「だいたいわかった。」
場所はF-06の北にある民家の、一階にあるリビング。先程階段が壊れた建物。かばんちゃんことかばんは自分を咄嗟に助けてくれたヒト――らしき人に感謝の思いと自分の身の上を話していた。
ろっじを後にサーバル達とバスに乗っていたところ、気がつけばベンチに腰掛けていたこと。そのベンチがある建物を調べるも、誰かいた形跡はあるもののはぐれた友達は見つからなかったこと。ならばと近くにある他の建物も調べようとして、さっきのことが起きたことなどなど。
「さっきは本当にありがとうございました。」
「いいよ、別に。それで、あんたが知ってることは全部喋った?」
「はい。すみません、あんまり役に立つようなこと言えなくて。」
「……とりあえず、充分かな。」
かばんは改めて感謝を述べる。それに対して返事はそっけない。なんとも思っていないような口ぶりだ。堂々とした人なんだなあ、とかばんは思った。
そういえば、とかばんは助けてくれた人の手に目をやる。いつの間にか片手に紙袋、片手にスコップを持っている。紙袋の方はよくわからない人形と機械が入っていたと話している間に見せてもらった。初めて見るものでかばんがわからないと述べたときも無表情だった。いつの間にか持っていたスコップの方は地面を掘るものだろう。こちらはわかる。ということはもしかしたらその時にこのヒトもここに迷い込んでしまったのか、などと考えて。
「あの……そういえば、あなたの名前は?」
自分が相手の名前を知らないことにようやく気づいた。
(めんどくさいな。)
名前を聞かれて、三日月・オーガスことミカは真上に振り上げようとしていたスコップの動きを止める。これから殺そうとしている相手に名乗る必要など無いが、名乗らないのも不自然だ。では無視して予定通りスコップで撲殺するか?それはさっきの反応を見ればリスクが大きい。そしてこうして迷っているうちに奇襲するタイミングを逸してしまった。どうするか。
「三日月・オーガス。」
どうせ殺すのだ、名前を教えても問題ないだろう。そう判断して名乗る。かばんが改めて挨拶してくるのを聞きながらミカはどう殺すかのプランの再設計を始めた。
そもそも、かばんが踏み抜いた階段はミカがトラップとして壊しておいたものだ。
北の展望台を当座の目印に歩いていたところで見つけたこの建物を調べているさなかに捉えた人影。周囲を警戒してはいるものの無防備なその姿から子と判断する。しかし銃も無い今、直接接触するのはリスクが大きい。そこで老朽化していた階段を外れ易くするトラップをしかけ、相手の力量を判断することとしたのだ。
明かりを点けてトラップに気づけばまあ一般人、接触することも考える。
点けているのに気づかずコケるようであればどうしようもない無能、殺す。
明かりを点けずに気づけば勘の鋭い人間、接触はしない。
点けずにコケれば、大なり小なりダメージを負っているはず、介抱にかこつけ接触する。
そんな風に考え人影が階段下に来たタイミングを図り、二階から一階へと裏取りしてどう対応するのかを見ていたのだ。
そして結果は点けずにコケてバク宙して怪我を避けるも死にかけていた。
なにがなんだかわからなかった。
(反応と筋力が凄い。気をつけないと。)
咄嗟に助けてしまったが、こいつにはあの時死んでおいてもらったほうが良かったかもしれないとミカは思う。見たところ注意して歩いていたものの重心は前に傾いていた。そのため当然顔から階段にぶつかると思っていたのだが、良い反応で重心を戻し、しかし後ろに行き過ぎて後方に倒れるという、判断に困るコケ方をしてくれた。温室育ちにも修羅場を潜っているようにも感じる彼女の人となりと合わせて、ミカが見たことのないタイプの人間であった。
スコップを弄びながら考える。聞きたいことは聞いた。この紙袋についても知らないらしいし、そもそもギャラルホルンや鉄華団のことも全く知らない素振りであった。聞くところによると、彼女もストリートチルドレンなのだろう。鬼ごっこについても何も知らないであろうことが察せられる身の上話だったし、彼女の利用価値は低い。
殺すか。殺せるのか。連れて行くのか。連れて行けるのか。
「ミカヅキオーガスさん、良かったら、僕と一緒に――」
話し掛けてくるかばんの声。手に握るスコップが返す熱さ。
ミカは一歩前に踏み出して――
【F-06/00時45分】
【かばん@けものフレンズ】
[役]:子
[状態]:健康
[装備]:かばん、帽子
[道具]:未確認(背負っているかばんの中)
[思考・行動]
基本方針:誰かいないか探す。ここが何なのか調べる。
1:ミカヅキオーガスさんと一緒に行動したい。
2:おにごっこってなんだろう。逃げればいいの?
※その他
自分の役・各役の人数・各役の勝利条件・会場の地図・制限時間は全て未把握。現状を理解していないが、知ろうとはしている。
【三日月・オーガス@機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ】
[役]:鬼
[状態]:五体満足・阿頼耶識
[装備]:スコップ@現地調達
[道具]:四次元っぽい紙袋(ガンダム・バルバトスルプスレクス@機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ・スマートフォン(鬼)@オリジナル・(人形または機械っぽい)不明支給品1)
[思考・行動]
基本方針:とにかく生き残る。
1:かばんに対処する。
※その他
自分の役・各役の人数・各役の勝利条件・会場の地図・制限時間を把握。
最終更新:2018年06月06日 01:10