「なんやねんこの山道………ハァ……曲がりくねりおってからに……ハァ……腹立つ……ハァ……アカン、キッツ……」
代わり映えのしない赤い空。時間の感覚はもとより空間の感覚すら持って行かれる、そんな気がしながら、悪態をつきながらも山道を降り続ける少女が一人。名波翠は飛行機からパラシュートで降りてくる人と接触すべく歩き続けていた。彼女の感覚では既に小一時間は歩いている。ちなみに実際には10分程だ。残念ながら彼女、念力は使えても体力は無い。
「何が悲しくてこんな山道歩かなあかんねん……足に変な筋肉ついたらどないしてくれ……ハァ……あーしんど……」
え?アルシンド?
「じゃかあしいわボケ……ダメや、地の文にツッコむ体力無い……慣れないことするもんちゃうな……」
慣れないのは山道かメタネタか両方か。膝に手をつきゼエゼエと息する彼女からは普段の優雅さは欠片も見られないが、それは超能力で周囲に人がいないことを確認したからというあたり、彼女の人間性が現れている。本質的に警戒心が強いのだ。
(!)
ピン、と彼女の顔が変わった。張り巡らせた警戒心に感あり。誰かに『見られている』。そのことを感じ取ると直ぐ様に表情を『具合の悪い深淵の令嬢』とでも言うべきものに変える。猫を被りつつも油断無く相手の思考を探る。距離は数十メートル、遠いためテレパシーは困難だが、視線から感じるのは……不安と困惑と安堵、だろうか?それ以上はわからないが、お煮とは雰囲気が違う気がする。勘と言えばそれまでだが、その勘が当たるから超能力者なのだ、翠は己の勘を信ずることとした。
(こっちに来てるな。)
どうやらこの曲がりくねった道の先は三又になっていたらしく、ここをYの字の左側とすれば右側の道から歩いてきたらしい。こちらに気づくと少し迷ったあと坂を登り始めた。一分もする頃には革靴がアスファルトを叩く足音が聞こえてきた。
「あの……大丈夫ですか?」
(男、同い年ぐらいかな?)
顔を上げる。目の前には、特徴が無いのが特徴とも言うべき少年が心配そうに見下ろしていた。
「――それで気がついたらここにいて、私、一人じゃ心細くて……」
「僕も同じだよ。ようやく人と会えて、それで……もし良かったら一緒にあそこの町までいかない?他にも巻き込まれた人と会えたら、なにかわかるかもしれないし。」
「ありがとう、でも……いいの?私、体調が悪いから足手まといになっちゃうかも……」
「なら、余計ほっとけないと言いますか……負ぶおうか?がさっかぶを通るかもしれないし。」
「ほんと?嬉しい!」
(こいつ……なんか捉えどころが無いな……)
翠が出会った少年は中沢と名乗った。少し話してみてわかったことは、彼も翠と同じような境遇なこと、見知らぬお守りがポケットに入っていたことだ。翠もスカートのポケットを見てみたら同じお守りが出てきたことを考えるに、この鬼ごっこの『子』の役全員に配られているのだろう。何かわからないがとてつもない力を秘めている気もするし、このお守りを調べれば鬼ごっこについて何かわかるかもしれない。
(群馬の見滝原?どこやねんそれ。群馬がこんな大都会なわけないやろ。)
だがそれより翠には気になることがあった。自分を負ぶわせて中沢と接触しテレパシーを使ったところ、中沢は群馬からこの島に来たらしい。だが彼女の知る群馬と大きく違っていた。そしてもう一つは彼の人間性。勉強はまじめでそつなくこなすが今ひとつ情熱のない男……悪いやつじゃあなさそうだが、これといって特徴のない……影のうすい男……そんな上っ面の下に隠れる、『人に求められている対応をする』という彼の人生哲学を翠は感じ取っていた。
(普段より疲れやすいけど、心の中覗くのは普通にできるみたいやな。にしてもこいつの考え方、どおりで都合良い展開になるはずや。便利な男と言えば便利な男やけど……洞察力の鋭さは要注意やな。)
「ん?名波さん、あれ……」
「……あ、うん、そうね。人みたい……人?」
呼びかけられて翠はハッと意識を戻す。中沢が指差す方を見た。道から少し離れたところに、人影――のような凄まじいオーラを放つなにかが見えた。
ドッドッドッドッドッドッドッド
ドッドッドッドッドッドッドッド
ドッドッドッドッドッドッドッド
辺りに響くのはキングエンジンが轟かせる重低音。その音の発信源は、一人の男。『地上最強』、『世界最強』などの名声をほしいままにする男、キングだ。
ドッドッドッドッドッドッドッド
(まず中身を確認しよう。)
その男の最初の行動は、支給されたデイパックの中身の確認という極めてオーソドックスなものだった。
そもそもこの男、なんか凄いオーラが迸っていて悪運の強い強面の一般人である。一応ヒーローらしい倫理観などは持ち合わせているが、あいにく戦闘力は正真正銘人間並みの人並みである。なのでその強さは純粋には武器依存だ。
しかしさすがキングというべきか、彼のデイパック、なんと支給品が三つ入っている。この鬼ごっこの『親』には支給品が二つと決まっているのに、何故か彼だけ『鬼』同様に三つなのだ。彼の役を間違えたのか単なる事務的ミスなのかは不明だが、このあたりの悪運の強さが彼がキングたる所以であろう。
ドッドッドッドッドッドッドッド
緊張しながら手を突っ込む。触れたのは、人生で触ったことのある感触。引き抜いてみるとそれはタブレットであった。
彼が引き抜いたのはなんと鬼の位置が分かるタブレット。鬼全員に支給されているスマートフォンの位置情報を確認できるという、超アタリアイテムである。本来は主催者側の鬼が参加者の『鬼』を監視するためのものなのだが、どうしたものか紛れ込んだらしい。だが無論そのことを知らないキングは、自分と思われる光点とその周りに偏っていたりバラバラだったりして散らばっている十個ぐらいの光点の意味もわからずやけに電池の減りが早くてよくわからないレーダーみたいなものしか使えないタブレットという認識であった。
ドッドッドッドッドッドッドッド
二つ目に手に触れ引き抜いて出てきたのは、醤油だ。
ドッドッドッドッドッドッドッド
キングエンジンが音を増す。醤油だ。どっからどー見ても醤油だ。醤油以外の何者でもない。実はほんとはコーラを入れる予定ででも下働きさせてる鬼達がつまみ食いしそうだったので鬼が苦手とする大豆製品を代わりに入れといたらそのまま配っちゃった、というエピソードがあったりなかったりするがそんなことはキングにとって知ったこっちゃない。重要なのは、これで自分にはなんの武器もないということだ。
ドッドッドッドッドッドッドッド
気落ちしながらも一応なにかまだ入ってないかとデイパックをひっくり返してみる。あった。小瓶だ。ラベルも何もないのでなにかはわからないが小瓶が出てきた。これは喜ぶべきことなのか。もしやヒ素等の毒物かもしれない。もし毒物なら武器として……いや、それは駄目だ。手に負えない。だいたい中身もわからない以上、使い道はないだろう。一応臭いでも嗅いで確かめておくべきか?そう思い慎重に蓋を開ける。
ドッドッドッドッドッドッドッド
昔理科の実験で危険な薬品の嗅ぎ方とか習ったな、などと考えながら蓋の開いた小瓶を恐る恐る顔に近づける。そして手で仰ぐようにして嗅いでみた。これは……なんだろう、全くわからない。わからないが、なにか嫌な予感がする。そう思い嗅ぐのを止めようとして、殺気。
ドッドッドッドッドッドッドッドン!!
痛い。鼻を打った。小瓶の中身の液体が顔にかかる。幸い目には入らなかったが鼻から入り込んだようだ。喉から口に周り鋭い苦味が口の中を襲う。死ぬほど苦い。殺人的な苦さだ。この苦さは確実に危険なものだ!だが!それ以上に背後に危険が迫っている!!
ドッドッドッドッドッドッドッド
ドッドッドッドッドッドッドッド
ドッドッドッドッドッドッドッド
振り返るとそこに、少年と少女がいた。キングは即座に察した。危険なのは少女の方だ。あの少女からはヒーローに近い雰囲気を感じる。Aまではいかないだろうが、一般人では相手取るのが困難なレベル。それが10m程の距離を取ってそこにいる。
(!?)
互いにどうしたものかと固まるなか、キングは感じた。なにか、来る。自分の中から、なにか熱いものが。おそらくはさっきの液体のせいだろうか腹がしくしく痛むと共に体温が上がる。そして――目の前の少女から、目が離せない。
ドッドッドッドッドッドッドッド
ドッドッドッドッドッドッドッド
ドッドッドッドッドッドッドッド
「逃げましょ!」
「あ、ま、うん!」
一際響く今日一のキングエンジンに驚いてか少女は少年の手を引っ張り踵を返して逃げ出した。まずい、これはなにか勘違いされたパターンだ。経験則でわかる。急いで誤解を解かねば。
キングはそう思うと傍から見れば鬼の形相で立ち上がった。
(アレはアカン!アレ絶対鬼や!!)
翠はどこにそんな力があるのかわからない勢いで中沢の手を引き元来た道を戻る。アレはヤバい。気配に押されて念力を使おうとした瞬間こちらに目を向けてきた。誘い込まれた?罠だった?何かの条件を満たした?わからないが、相手が戦闘に慣れているのは確かだ。翠もそこそこ修羅場は潜ってきていると思っているが、人を傷つけることを主にしている超能力者がどれだけ危険かはよく理解している。そしてアレは、考えうる中で最悪の相手だ。まるで対処の仕方が思いつかない。『戦う』という選択肢をとる意味がない手合いだ。恐らくはあの姿は仮のもので人間では無いのだろう。でなければ、あの人型の何かから神にも匹敵するオーラが感じられた理由がわからない。翠はそう思うと走り続ける。いつしか先の三叉路に来ていた。
「右!左!どっち!」
一方翠に手を引かれる中沢は「どっちでも良いとか言ったらぶっ飛ばされるんだろうなあ」などと考えながらチラチラと後ろを見ていた。中沢的にもアレはヤバい相手だと思うが、翠のテンパり具合を見て若干冷静である。そして同時に彼は、キングの手に小瓶がありその顔が濡れていることに気づいていた。思いっきり顔に小瓶をぶつけて痛がっていたあたり、少なくとも人間離れした人間なのだろうと判断する。だがそれはともかく今は翠をなんとかしなくてはならない。半ばパニックになっているようだ。こういう時は相手の言うことをストレートに聞いたほうが良い。それが中沢の処世術である。
さて、右か左かあるいは。翠と中沢は選択を迫られる。
追うかそれとも。キングも選択を迫られる。
そしてキングが手にした小瓶。薬物の名はゴメオ。幻覚剤であり強力な――惚れ薬。それはこの先何を引き起こすのか。
今の段階では誰も何もわからない。
【E-03/00時15分】
【名波翠@テレパシー少女蘭】
[役]:子
[状態]:疲労(小)、キングへの恐怖
[装備]:『お守り』
[道具]:
[思考・行動]
基本方針:こんなアホなことをしでかした奴に一発焼き入れて帰る
1:逃げる!
※その他
自分の役・各役の人数・各役の勝利条件・会場の地図・制限時間は全て未把握。
【中沢@魔法少女まどか☆マギカ】
[役]:子
[状態]:健康
[装備]:『お守り』
[道具]:学生鞄(中身は教科書とかノートとか筆記用具とか)
[思考・行動]
基本方針:とりあえず人を探す
1:名波さんに着いていく。
2:知り合いがいたら合流したい
※その他
自分の役・各役の人数・各役の勝利条件・会場の地図・制限時間は全て未把握。
【キング@ワンパンマン(リメイク)】
[役]:親
[状態]:ゴメオによる催淫、キングエンジン
[装備]:
[道具]:デイパック(タブレット@絶望鬼ごっこ、醤油、ゴメオ@現実)
[思考・行動]
基本方針:帰りたい……
1:子どもたち(翠と中沢)の誤解をときたい。
2:一応、自分のできる範囲で子と親を保護する。
※その他
自分の役・各役の勝利条件・制限時間を把握。
【タブレット@絶望鬼ごっこ】
鬼の位置がわかるタブレットで充電器とセットで一枠。原作ではどういう理屈で判断しているのか不明のため、ここでは鬼のスマートフォンの位置をバトロワで杉村が持っていた機械のように表示するものとする。凄まじく強力なアイテムなのだが、電池の減りが激しい(1分で1%消費とする)ので多様は厳禁。
【ゴメオ@現実】
ドラッグ。使用者曰く、「ケツの穴がひくひくしてくるし、腹の中がぐるぐるしている」「気が狂うほど気持ちええ」「あぁ^〜たまらねえぜ」という感じだとか。もちろん違法薬物である。
最終更新:2018年06月10日 00:45