森の中に打撃音が響く。
貫頭衣を纏っただけの少女、アルシアは無表情に腕を振るい、鷲掴みにしたアリス・カータレットの頭を木の幹にぶつけ続けていた。
────────────────────
木の下でアしゃがみ込んでいたアリスは、物音を聞いて飛び上がった。
聞こえたのは枯れ枝が踏み折られる乾いた音。誰かが付近を移動している。
アリスがしゃがみ込んでいた木を挟んだ向こう側を、枯れ枝を踏み折った何者かは歩いているようだった。生い繁った雑草を踏む音が一定のリズムを保って聞こえてくる。
思わず息を殺す。木が遮っていて姿は見えないが、それは向こうも同じ。子か親かそれとも鬼か。
このままじっとしてやり過ごすべきか、それとも接触すべきか。
少しの間逡巡したアリスは、取り敢えず様子を伺う事にして、木の陰からそっと向こう側をおっかなびっくり覗き見た。
「…………………?」
誰も居ない。
さっきまで歩いている音が確かにしていた。踝の上辺りまで伸びた雑草が、一定の間隔で倒れている。明らかに誰かが歩いていた筈なのだ。
「うそ!?」
思わず木陰から身を乗り出した瞬間。誰かに右手腕を掴まれ一気に捻り上げらた。
「ギ…アアアアッ!」
突如襲ってきた激痛に、愛らしい顔を歪めて、身も蓋も無く絶叫する。
なんとか振り解こうともがいていたアリスの視線と襲撃者の視線が交錯した。
「ひ………………」
引き攣った喉から絞り出されるうめき声。
目が合った瞬間、アリスの動きが、否、思考すらが停止した。
アリスの腕を捻り上げているのは、アリスと同い年か少し下の年の少女。左手でアリスの右腕を捻り上げ、右手一本で、自身に匹敵する刃渡りの巨大な鉈を持っている。
だが、それよりもアリスを恐怖させたのは、少女の瞳だった。
澄みすぎるあまりに無辺の奈落を思わせる、どこまでも虚ろで空洞な闇を湛えた黒瞳。
仮面の様な無表情と相まって、アリスを受けた印象は────死人。
恐怖に身も心も呪縛されたアリスを、少女────アルシアは掴んだ右腕を支点に振り回し、木の幹に身体の前面を叩きつけた。
顔がまともにぶつかり、鼻の奥が熱くなり血が香る。
「がっ………」
短く苦鳴を漏らして崩れるアリスの頭を鷲掴みと一定の間隔を置いてアリスの顔を幹にぶつけ続ける。
「痛いっ!やめっ!いたっ!」
薄い皮に覆われた骨と幹とがぶつかる度にアリスは悲鳴を上げ続けた。
────────────────────
アルシアは最初からアリスに気付いていた。
元より森の民であるエルフの血を引き、森の中で育ったアルシアにとってみれば、森の中はホームグラウンド、アリスの気配を察することなど容易い事。
アリスに気付かれないように近付き、不意を襲うつもりだったのが、アリスが顔を出したので方針を変えたのだった。
アルシアが態々アリスを甚振るのは趣味思考の故ではない。元より感情無き屍であるアルシアにそんなものは存在しない。
只、アルシアはこの場にいない主人の意思に沿っているだけだ。
アルシアの主人が殺戮を行うのは、偏に混沌神グルガイアに地上に蔓延る生命を贄として捧げる為。
捧げる生命は苦痛に満ちている程に贄としての質が良くなる。
数をこなさなければならない時には効率的に、逃げようとするもの、足が速いものを優先して手早く殺していくが、今アルシアが殺すべきはアリス一人のみ。ならば時間を掛けて質を高めて殺すのは当然の事。
一撃でアリスの頭を砕いて絶命させる事も出来るアルシアだが、死なない様に加減してアリスの頭を幹にぶつけ続ける。
既にアリスはまともに声も出せずに、僅かに呻くだけになっていた。
このままのペースで続ければ、そう遠くない内に死ぬだろう。
アルシアが十度目の打撃をアリスに加えたその時、アルシアの耳は近づいてくる足音を捉えた。
「………………………」
「………………………」
アルシアが視線を向けた先に居たのは、男女問わず人目をひく顔立ちの少年。
その瞳はアルシア同様無限の虚無を湛えている。
アルシアは素早くアリスと少年を見比べると
、アリスに逃げるだけの余力は無いと判断して、嘆きの鉈を構え、真っ直ぐ少年めがけて走り出した。
────────────────────
少年────桐山和雄は向かってくるアルシア目掛けてイングラムの引き金を引いた。
アルシアから受けた暴行により、木の下に崩れ落ちたアリスには見向きもしない。向かってくる相手への対処が終わった後、生きていれば今後の方針を決める為に使う。
何処までも虚ろな桐山の心は思考を全く妨げず、桐山は冷酷に何から対処すべきかを判断する。
パララッ
乾いた銃声が連続し、アルシアの顔から上半身にかけて複数の弾痕を穿つ。
通常ならば致命傷になる傷だが、アルシアは元より充填された魔力で動く骸、血を流すことも無く、傷はたちどころに塞がり、全く意に介さず走り続ける。
「………………」
明らかに人智を超えたアルシアを見ても桐山は動じることは全く無い。
足に狙いを切り替え、動きを止めようとするが、放たれた弾丸は悉く地面に突き立てられた鉈に当たっただけだった。
アルシアは銃を知らないが、桐山が自分の知らない飛道具を用いると認識、地面に鉈を突き立てると、棒高跳びの要領で跳んだのだ。
鉈の柄を支えに宙を舞うアルシアは、前方宙返りをし、回転の勢いと自身の運動エネルギーを用いて鉈を引き抜き、桐山の脳天目掛けて振り下ろす。
だが、その様な大振りな攻撃が通じる桐山ではない。
上空から落ちてくる鉈の軌道と落下速度を正確に予測して、前方へと駆ける。
ズゥン!と鈍い音がして、桐山の左30cm程の所に大鉈が落ち、地面を切り砕くが桐山は意に介した風も無く間合いを詰めて、未だ宙に在るアルシアの身体に拳を見舞った。
体躯で劣るアルシアが桐山の強打に抗する術は無く、鈍い音を残してアルシアの矮躯が後ろに飛ぶ。
だが、動く骸であるアルシアにいくら強打であるとはいえ、只の拳撃は意味を為さない。
空中に居ながら両手で、拳打の為に伸ばした桐山の左腕を絡めとり、関節を極めようとしてくる。
このアルシアの動きに桐山は冷静に対処。身体を左に回転させ、左腕を狙ったアルシアの動きを回避しつつ、回転運動により生じた勢いを乗せた右の上段回し蹴りをアルシアの胴に入れて蹴り飛ばした。
肋の折れる感触を桐山の脚に残し、5mも飛んだアルシアだが、当たり前の様に着地を決め、桐山目掛けて駆け出す。
「………………………」
アルシアの異常なタフネスを見ても意に介さず、桐山は冷静に距離を測る。
今のアルシアは素手。間合いでは桐山が有利。
狙うはアルシアが間合いに入ると同時に放つカウンター。
「………………………!?」
間合いに入ると同時に一撃を見舞う。その動きに入る直前、アルシアの速度が上がった。
桐山の狙いを外すべく、速度を落として駆け出し、桐山の間合いの直前で全速を出したのだ。
この動きにも桐山は反応。対処すべく動こうとするが、その時既に桐山を己の間合いに捉えていたアルシアが、駆け寄る勢いを乗せたアッパー気味の掌打を桐山の顎へと放つ。
仰け反って掌打を回避し、カウンターの膝蹴りをアルシアの顎に入れる。顎の骨が割れる感触が膝に伝わり、アルシアが仰け反るが、桐山も膝が崩れる。アルシアの掌の上が顎を掠めて、軽度の脳震盪を起こしたのだ。
右手のイングラムのマガジンが空になるまで、アルシアの左膝に銃撃を加えると、無言のまま桐山は駆け出す。
アルシアを現状の装備で斃すのは困難を極める。しかも己の支給品は『式札』。現状の打破には役立たない。
脳震盪を起こした身では、アルシアとの戦闘継続は愚行。ならば仕切り直すまで。
瞬時にこれらの思考を纏めた桐山は、銃撃でアルシアの動きを止めると、落ちていたアリスのデイバッグを拾ってこの場を後にした。
【E-07/00時42分】
【桐山和雄@バトル・ロワイアル(漫画)】
[役]:子
[状態]軽微な脳震盪
[装備]:イングラムM10サブマシンガン ・アリスのデイバッグ(内部未確認)
[道具]:式札
[思考・行動]
基本方針:ほかの参加者との接触。
1:鬼を殺せる武器の調達
※その他
各役の人数・各役の勝利条件・会場の地図・制限時間は全て未把握。
※アルシアと戦闘し、現状の装備で斃す事は出来ないと知りました。
────────────────────
千切れた脚を拾ってくっ付けたアルシアは、無言で嘆きの鉈を担ぎ上げる。
中々手強い人間だった。今度の神楽は今までのものとは違う様だ。
未知の飛び道具を使うとはいえ、これ程までに損傷を受けるとは思わなかった。
損傷自体は直ぐに治るが、充填された魔力の減少は問題だ。
「………………?」
アルシアは全身に力が満ちて来るのを感じた。まるで主人に魔力を注がれている様な。
アルシアは知らないが、此処は地獄。アルシアの主人の故郷が形容される場所そのもの。
地獄に満ちる空気は、アルシアの身体を動かす魔力に近い性質を持つようだった。
この分ではそう時間を掛けずに魔力は満ちるだろう。
魔力についての心配がなくなったアルシアは、首を巡らしてアリスが倒れている場所に視線を巡らせる。
「………………?」
居ない。あの状態で動けるとは思っていなかったアルシアは、僅かに首を傾げた。
どうやら外見にそぐわぬ体力の持ち主の様だった。気配すらも感じられない。硝煙の臭いが邪魔で血臭を嗅ぎとれない。
物音も聞こえない辺り、余程遠くまで逃げたのだろう。
次からは獲物の脚を潰しておこう。そう考えながら周囲を見回すと、地面に落ちている紙袋から見覚えのある品が見えた。
「これは………」
紙袋の中から出て来たものは、彼女の主人が用いる武具の一つである槍と紐のついた刀。
取り敢えず紙袋の中にしまい込む。残りの一つ、得体の知れない材質で出来た小さな板も取り敢えず捨てずに仕舞う。
改めて周囲を見回したアルシアは、行方の知れないアリスを諦め、桐山の去った方角へと駆け出した。
【E-07/00時53分】
【アルシア@白貌の伝道師】
[役]:鬼
[状態]健康 魔力消費(中)
[装備]:嘆きの鉈・群鮫@白貌の伝道師・紐付き柳葉刀@BLACK LAGOON
[道具]:スマートフォン(鬼)
[思考・行動]
基本方針:出逢った全てを殺す
1:桐山を追う
2:次からは獲物の脚を最初に潰す
※その他・各役の人数・各役の勝利条件・会場の地図・制限時間は全て未把握。
※桐山の顔を把握しました
※アリス・カータレットの顔を把握しました
※【群鮫(むらさめ) @白貌の伝道師】
白銀龍の角を穂に、大腿骨を柄に使った短槍。
刃に“硬化”の二重掛け。更に切っ先への衝撃で“重剛”の魔力付加が発動し、運動エネルギーを倍化させるため、直撃した際の威力は絶大。
使い手の意思に感応して重心配分が変動し、投擲において絶妙な精度を誇る。
※【紐付き柳葉刀@BLACK LAGOON】
シェンホアが使う武器。通常の刀剣として使う他に、紐を伸ばして振り回したりする使い方がある。
紐の長さは十数mは有る。
────────────────────
アリスは藪の中で気絶していた。
桐山とアルシアの戦闘時の銃声を聞いて、意識が明白となり、二人が戦っている隙に藪の中へと這いずって隠れたのだった。
アリスは恐怖していた。いきなり暴力の嵐を見舞ってきたアルシアもそうだが、遠目に見えた桐山の仮面を思わせる顔立ちが、アルシアとそっくりだったのが恐怖を倍増させた。
鬼同士が殺しあっている様にしか到底見えず、死に物狂いで身を隠して安心した拍子に意識を失ったのだった。
尤もその為に、アルシアはアリスの気配を掴めずに立ち去ったのだが。
顔を血に染めて倒れ伏すアリスが目覚めるのはいつの事か。
【E-07/00時55分】
【アリス・カータレット@きんいろモザイク】
[役]:親
[状態]:顔に打撲傷。鼻血。額から出血。気絶中
[装備]:
[道具]:無し
[思考・行動]
基本方針:元の世界に戻って、みんなで修学旅行へ行く
1:親、子供と合流する
2:親だと信じてくれるかな…
※その他
※アルシアの顔を把握しました
※桐山の顔を把握しました
※アルシアと桐山を鬼役だと思っています
※原作での修学旅行エピソード前からの参戦です
最終更新:2018年06月10日 23:21