じゃあまず、名前を教えてくれるかな?
「えっと名前……えー、『空手部の木村』です。」
 はい。身長・体重はどれくらいあんの?
「身長が、171センチ――」
 はい。
「――体重が、65キロです。」
 はい。スポーツは……空手やってる?
「スポーツは、空手。」
 はい。じゃ結構スポーツマンなんだ?
「スポーツは好きです。」
 ふん。じゃ体とかも結構自信はある方?
「そうですね、自分の範囲内で。」
 うん、うん。はい。今彼女とかはいるんだっけ?
「いや、彼女、てか……自分の彼女の……」
 うん。
「っと二話ぐらいに別れて……」
 うん。
「まぁ……友達という関係で……」
 うん。
「それぐらいです。」
 ふ~ん。



 命がけでデスゲームってのはどう?抵抗ある?


「はい、かなり。」


 あるんだ。



 ――絶望鬼ごっこパロディ死者スレ27より抜粋



「カバンの中身は……モルヒネ?と、菅野美穂のCD?これだけ?」

 そう呟きながらそれなりの容量のあるデイパックを逆さにして中身を探す。しかし出てくるのは、劇薬という表示が印象的な小瓶と一つのCDケースのみで、空手部の木村は肩を落としながら、なぜこんなことになったのだろうと何度も繰り返した問を自分に投げかけた。
 彼は大学で空手部に所属していること以外はどこにでもいそうな、極めて没個性的な人物だ。男前ではあるが、彼より顔が良いスポーツマンなどがいくらでもいる。いわば普通という言葉を体現したような人物である。普通に勉学と武道に励む好青年、それが彼だ。だから彼には、なぜ自分がこんな鬼ごっこなどに巻き込まれたのかとんと理由がわからなかった。パラシュートなど使ったのも初めてだし、恥ずかしながら飛行機に乗ったのもさっきが初めてである。そのため自分が椅子ごと落下させられたと知ったときにはたいそうたまげたが、今はそれよりも己の身が心配であった。

「あっ、内ポケットに何か書いてある。えーと……」

 答えの出そうにない疑問を頭から切り離し、木村は自分が見つけた文字へと注目した。それは逃避であった。目の前に現れた困難から目を逸らすには、小さな気づきに集中したほうがいい。そんな小市民的な考えからの行動である。しかしそれは、この場では新たな問題への第一歩に他ならない。

「『制限時間まで一人でも逃げ切る、もしくは、『鬼』が全員死ぬ。』……『『子』が勝利条件を満たしなおかつ『子』の生きている人数が『親』の生きている人数より多い。』……『制限時間までに生きている『子』の過半数を主催者本部(F-5神塚山山頂地下)に捕まえる、もしくは、生きている参加者の内過半数が『鬼』になる。 』……これ鬼ごっこなのか?」

 木村は聞き逃していたルールを把握したことにホッとしながらも、改めて把握したその危険極まりないルールに戦慄した。パッと見ただけだがこのルール、当たり前だがどの役か一つしか勝てるようにできていない。だいたい死という文字がある時点でろくなものではない。そしてなんとなくだが、ルールに穴があるようにも思える。最近話題の『バトロワ』みたいなものだろうか、しかしそれにしては幾分ルールが複雑なように思える。
 チラチラと周囲を確認したあと木村は木に背中を預けルールをじいと見た。『鬼』と『子』のルールはまだわかりやすいのだが、肝心の自分達『親』のルールはいまいちよくわからない。そもそも鬼ごっこで親ってなんなんだ、そう考えながらルールを何度も音読する。

「『『子』が勝利条件を満たしなおかつ『子』の生きている人数が『親』の生きている人数より多い』……そうか、この書き方が引っかかるんだ。」

 やがて木村は違和感の理由に気がついた。『親』だけが鬼ごっこの途中で勝利条件を満たせないのだ。『子』の勝利条件に便乗するようなあたりが「子を守る」ということなのだろう。自分が生き残るためには命がけで『子』を守れということだろうか。

「これって『親』と『子』は両方勝つのか?」

 そして素朴な疑問が頭に浮かんだ。ようするに自分は『子』が勝たないと勝てないのだが、そのとき『親』だけ勝つのか『親』『子』で勝つのかはルールに書かれていない。もし『親』だけだというのなら守るも糞もないことになろう。その場合は、『鬼』と『親』で『子』というポイントを奪い合うゲームということになる。守るべき弱者ではなく防衛すべき対象、缶蹴りの缶だ。24時間経った時に過半数のポイントを手にしていた方の勝ちというゲームだ。
 だがそうなると疑問が新たに生まれる。『子』はこのルールを知っているのかということだ。『親』『子』で勝てるときはともかく、どちからしか勝てないとなると『子』は『親』を避けるのではないか。それどころか、『子』が『親』以上の数にならないように『子』同士で間引き合うことも――

(あれ、ていうことは――)

「『親』は何もしなくても勝てる……?」

 思いついたのは悪魔的発想。
 今まで木村はどの役も同じ人数だと仮定して考えてきた。その場合、『親』が一人死ぬだけであとは『親』『子』全員が丸一日逃げ回れば勝ちということになる。よしんば元々『親』が『子』より少なければ、『親』は本当に何もしなくていいのだ。たとえ『子』の方が多かったとしても、『親』が一人一つずつ守るようにしてあとは『鬼』に間引かせれば良いのでは……?

「何考えてるんだ僕はっ!勝つって言ってもどうなるかわからないのに。それに人が死ぬかもしれないんだぞ……」

 頭に浮かんだ、生の裏技。
 それを振り払うように木村は頭を振る。
 一頻り振り終わったその目がモルヒネの小瓶へと向けられていることに彼は気づかなかった。



【不明/不明】
【空手部の木村@迫真空手部・性の裏技】
[役]:親
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(モルヒネ@現実、菅野美穂のCD@現実)
[思考・行動]
基本方針:家に帰る
1:『なにもしない』……?
※その他
自分の役・各役の勝利条件・制限時間を把握。
人物解説……ゲイビデオ「誘惑のラビリンス」第三章「迫真空手部・性の裏技」の登場人物。先輩部員の盛り上がった股間が気になってチラチラ見てたりするがそれは先輩部員が特異な人物であるためで彼自身は普通の好青年である。あくまで『KMR』ではなく三章の空手部の木村としての参加のため、某動画サイトで確認される特殊能力は一切備えていない。『創造』の能力もなければワイン片手に覚醒したりもしない。
最終更新:2018年06月23日 05:02