『
ルール1:子供は、鬼から逃げなければならない。』
道の脇に立っている掲示板に貼られているチラシに書いてあるのは、その一文から始まる文章だった。
何十何百というチラシが、そこかしこに貼られた町で。
今も空からひらひらと落ちてくるチラシにも、全て同じ文字がある。
『ルール2:鬼は、子供を捕まえなければならない。』
……まさか、また、なのか……?
大場大翔は呆然とした顔であたりを見まわした。
見なれない町並みだった。
近くのショッピングモールに映画を見に、幼なじみ達との待ち合わせ場所に急ぐ途中で通った、普段は使わない近道。
そこから大通りに抜けたと思ったら、この光景だった。
後ろを振り返る。
当然あるはずの今来た道は、どこにも無かった。
『ルール3:きめられた範囲をこえて、逃げてはならない。』
代わりに見えたのは、霧だ。
見渡す限り一面に、うっすらと霧がかかっている。
遠くに見える海も、ある地点からは同じ、いやもっと濃い霧だ。
そしてもう一つ、おかしなところがある。
空が朱かった。
一機の飛行機がチラシをバラ撒く以外は雲もなく、昼か夜かもわからない空模様。
火花がぱらぱらと散っているそれは、絶対に現実にはないものだ。
……一度だけ見たことがあるけれど。
『ルール4:時間いっぱい鬼から逃げきれれば、子供の勝ちとなる。』
文の違いに気づくことなく、大翔は息をひそめて隠れた。
以前の、あの事件のときと同じだ。
小学校に閉じ込められて、命懸けの鬼ごっこをさせられた、あの時と。
『ルール5:親は、子供を守らなければならない。』
なんの説明もなく。
なんの為かもわからず。
ただただ、追い立てられる。
あの時の鬼ごっこと。
大翔が前回の鬼ごっこ――ことりことりに巻き込まれたのは、一月以上は前のことだ。
あまり思い出したくない出来事だが、それでもあれについて考えると、出てくる感想は一つ。
理不尽、だ。
今回の鬼ごっこ――とまだ決まったわけではないけれど、だからこそこれが鬼ごっこだと大翔は思う。
ろくに説明もしないし、説明したとしても不安を煽るようなことばかり言う、あの鬼達なら今の状況にも説明がつくからだ。
ふと、大翔はポケットの中に異物感を感じた。
財布を入れているのとは逆の、何も入れていないはずのそこから感じる感覚に、恐る恐る手を差し入れる。
指先に布と紙の感触がした。
……お守り?
なんの変哲もない、ごくごく普通のお守りと、折りたたまれた紙。
それが掴んだものの正体だった。
『「お守り」……生きている参加者一人を対象に選んで発動する。対象が『鬼』だった場合、お守りを対象にぶつけると対象は死亡する。使用後自壊する。』
大翔が紙を開くと、そっけなくそれだけ書いてあった。
数秒考えて、大翔の顔は曇った。
鬼達が、わざわざ自分達への武器を用意する、ありえないことだ。
わざわざ捕まえる相手に武器をもたせるなんて、馬鹿げてる。
だからこのことの意味は一つ。
ナメられている。
こんなものでも用意しないと、鬼があっという間に子供を捕まえてしまうと、そう考えているのだろうと。
「悠と葵ももしかしたら……」
たぶん、今回は前回より危険だ。
前は大人もいたし子供ももっと多かった。
それが今は大翔一人。
他に同じように巻き込まれた人がいても、例えばそれが幼なじみ達でも、バラバラにされていては一人で戦うのと変わらない。
まずは誰かと合流しないと。
そう方針を決めると、一つ気合を入れて大翔は歩き出す。
視線は飛行機、がチラシと当時に落とし始めたパラシュートがついた何か。
遠目には人のようにも見えるそれは、このわけのわからない状況をなんとかするものであってほしいと、大翔は思った。
【I-7/00時01分】
【大場大翔@絶望鬼ごっこ】
[役]:子
[状態]:健康
[装備]:『お守り』
[道具]:若干のお小遣いなど
[思考・行動]
基本方針:とにかく人と会う
1:鬼に警戒。
2:幼なじみが巻き込まれていたら合流したい。
※その他
自分の役・各役の人数・各役の勝利条件・会場の地図・制限時間は全て未把握。
人物解説……当企画のパロディ元である『絶望鬼ごっこ』シリーズの主人公で小学六年生。二巻の『くらやみの地獄ショッピングモール』からの参戦。正義感が強く友達思い。運動会ではリレーの選手に選ばれるなど運動神経は全体的に良い方だが、ペース配分が下手なため長距離は苦手。投下時現在、唯一のリピーターである。なお、彼が本文中で言及したように、絶望鬼ごっこの鬼は理不尽で基本的には公正なデスゲームをする気はない。彼は出典時期的に知らないが、時として鬼はルールを容易にねじまげ、同族でも殺しにかかる。もちろん労働待遇もブラックだ。
最終更新:2018年04月09日 22:41