続々と投下されつつあるパラシュートがまたひとつ、地獄に舞い降りる。
 突然のスカイダイブから見覚えのない町並み、それらを一巡して一言。

「これもうわかんねぇな」

 褐色の青年『田所』は、呆然と呟くのだった。

 彼は自身の置かれている状況が全く理解できていなかった。
 つい先刻まで、自身の自宅で密かに思いを寄せる後輩と共に、屋上で楽しい一時を過ごしつつ、アイスティーを振る舞うために席を外した所までは覚えている。
 ぼんやりとした記憶の片隅で、親やら子やら鬼やら説明のような事は聞いた気がする。しかし脈絡が無さすぎて全く内容が理解できない。

「頭にきますよ!」

 田所は愛する後輩との蜜月の時を邪魔されたことに激しい怒りを抱いた。
 折角自分が苦労して山門芝居のアドリブのような違和感ありまくりの台詞を連発してまで遠野を屋上に誘い出すことに成功したというのに、これではまた振り出しである。

(折角遠野に俺の熱い思いを伝えられると思ったのになぁ~……これも無駄になっちまった)

 汚ならしい目線の先には、遠野に一服盛るつもりだった睡眠薬が握られていた。
 田所は同性愛者、つまりホモである。当然、後輩の遠野も男性ではあるが、相手が同じホモだとは限らない。
 自身の恋愛感情が社会全体からみれば少数派であることは田所も理解しているが、それでも遠野への思いは押さえられなかった。
 だからこそ、昏睡させ犯し、力ずくで自分のものにする計画までたてたのだ。

「アイスティーをいれに行ってからどれだけ時間がたったかわかんねぇけど、流石に遠野も怒って帰っちゃったよなぁ……」

 落胆しつつも、そのままここに突っ立っていても意味はない。
 それにブリーフ一丁だと肌寒いので、手掛かり探しのついでに何か着るものがないか、座席を漁り始める。

「ファッ!?」

 驚愕する田所。座席の下のスペースからディバックが出てきたまでは良かったが、中に入っていたのは一振りの日本刀であった。
 時代劇でしか見たことのない物珍しいアイテムに若干の感嘆を覚えるが、鞘から刀身を抜き取ると直ぐ様顔色が変わる。
 模擬刀かと予想していたが、怪しく輝く刀身は素人目でも本物であると分かる。

(マジ真剣じゃねぇか……これで俺に何をしてほしいってんだよ)

 この場所全体の何処と無く不気味な気配もあり、自分がとんでもないことに巻き込まれていることを実感したのか、「クゥーン……」と子犬のような嗚咽を漏らしつつ田所は刀を鞘に納める。

「そういえばあの声……子を守れ、とか言っていたな。俺以外にもここに連れてこられてる奴等が居るのか?」

 他に同じく拉致された人間が居るのなら、自分よりも詳細な情報をもつ者も居るかもしれない。少し物騒だが、自衛のための武器も手元にはある。

「こんな不気味な場所からはとっととおさらばしたいんだよなぁ~ 頼むよ~」

 手元に武器があることと、同じ境遇の第三者の存在に思い至って余裕ができたのか、先程から飛行機があちこちにビラやらをばらまいていることに気がついた。
 タイミングよく足元に落ちてきたものを拾い上げて目を通すと……

ルール1:子供は、鬼から逃げなければならない。』
『ルール2:鬼は、子供を捕まえなければならない。』
『ルール3:きめられた範囲をこえて、逃げてはならない。』
『ルール4:時間いっぱい鬼から逃げきれれば、子供の勝ちとなる。』
『ルール5:親は、子供を守らなければならない。』

「うーん、つまり鬼ごっこをしろって事か?  ……あ ほ く さ 」

 なぜ自分がこんな馬鹿げた事に付き合わなければならないのか。忘れかけていた怒りが沸々と胸にたぎってくる。

(これってあれか、テレビのドッキリか何かじゃないんですかね?)

 しかしただのドッキリにしてはタチが悪すぎるし、素人に真剣渡したりとか完全に訴訟問題である。
 ふと見ると、自分と同じようなパラシュートがちらほら飛行機から放り出されているのが目に留まった。
 そのうちのひとつが、運が良いのか悪いのか田所の近くに不時着しそうであった。

「あの辺にィ、パラシュート、落ちそうっすよ。じゃけん見に行きましょうね~」

 得体のしれない恐怖感をまぎらわせるためにわざと明るく宣言すると、田所は警戒しつつ歩きだした。



【A-09/00時010分】
【水泳部の田所@昏睡レイプ! 野獣と化した先輩】
[役]:親
[状態]:健康
[装備]:睡眠薬(持参)、日本刀
[道具]:デイパック(不明支給品1)
[思考・行動]
基本方針:家に帰る
1:付近に落下したパラシュートを確認しに行き、人がいたら話を聞きたい。
※その他
自分の役・各役の人数・各役の勝利条件・会場の地図・制限時間は全て未把握。
人物解説……
ゲイビデオ「真夏の夜の淫夢」第四章「昏睡レイプ!野獣と化した先輩」の登場人物。
体調の悪そうな後輩を労ったり、サンオイルを塗ってあげたりする人間の鏡であるが、その裏では睡眠薬による昏睡レイプを計画するような人間の屑でもある。
あくまで『野獣先輩』ではなく四章の水泳部の田所としての参加のため、某動画サイトで確認される特殊能力は一切備えていない。迫真空手は修得しておらず、支給された日本刀もあくまで現実水準のもので邪剣夜ではありません
アイスティーに睡眠薬を盛る直前からの参戦なのでブリーフ一丁。

『睡眠薬』
先輩の所持する睡眠薬。医薬品とは思えない程効き目が早く、耐性のない存在は良くて数分、最悪一分弱で相手は昏睡す

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最終更新:2018年04月09日 22:50