鳴り響く轟音。
周囲を覆い尽くす威圧感。
盲目の月夜にも理解出来る。これは鬼だと。
全身が強張る。轟音で距離も動きも掴めない。
肌に突き刺さる威圧感。外部情報を耳に頼る月夜にとっては致命的な轟音。
周囲の状況が全く分からない中、月夜は只恐怖した。
襲い掛かられても、間合いが掴めず、相手の動きが判らないのでは対処の仕様が無い。状況が掴めないまま、強まる威圧感に全身が強張るのを覚えた。


クスリの回った頭でキングは眼前の少年少女について考察した。
二人共剣呑な空気を漂わせているが、これは何時もの事なので気にしない。
刀の柄に手をかけた少女の方はまあ善良な人間だと思う。
しかし、銃を持った少年の方は何やら強烈に嫌な予感がする。戦闘能力それ自体は大した事はないが、感じる嫌な気配は、怪人の中でもとびきり凶悪な者に匹敵する。
一人一人ならまだしも、2人並んでいると、実に妙な組み合わせで有る。そもそも接点というか、共通項が見出せない。
自分の様に、この地に放り出されて、仕方無く一緒にいるのだろうか。
考えていても仕方ない。無言で考えていたキングは、意を決して一歩を踏み出した。


キングの不幸は二つ。
キマった薬の為に、キングエンジンの轟音がどうにも止まらなかった事。
そしてもう一つは、出会った二人の片方が、狂犬という比喩ですら足りぬ狂人であった事。
キングエンジンの轟音で月夜の耳が塞がらなければ、キングが只の一般人だと即座に聴き取ったろう。
一度死んだという経験が無ければ、ヘンゼルはキングが放つ圧に押されて固まったままだったろう。
結果としてヘンゼルよりも先に月夜が行動して、キングと交渉しただろうが、そんな結果は訪れなかった。


「ネヴァー・ダイ……。ネヴァー・ダイなんだ。僕は殺されない。僕達は決して死なない。殺すのは…僕達だ!!」

子も親も関係無い。鬼ですら、例え真実地獄の底からやって来た怪物だろうと、決して己は殺されない。
ネヴァー・ダイ。糞溜の中でヘンゼルの精神わ支えた信仰は、死と蘇生という奇跡を経て、狂信へと至る。
キングの放つ威圧感に怯んだヘンゼルは、狂信に精神の平穏を求め、内に漲る殺意を解き放つ。
何であろうと殺すだけ、己は決して死なないのだから、常に自分が殺す側。
狂い切った精神に相応しい、狂った信仰に基づいて、ヘンゼルの身体が動く。

キングエンジンの轟音の中でも、右手に握られたM19が火を噴いた音は、月夜の耳にハッキリと届いた。


────────────────────────


静まり返った場に、ヘンゼルの哄笑が響く。
訳の分からない事を喚きながら笑い続けるヘンゼルに構わず、月夜は無言でキングに近付いた。
倒れた男が生きているのは、耳朶に聞こえる鼓動と呼吸音で理解している。
取り敢えず、ヘンゼルを誤魔化すべく無言で脈を取る。

「……………………………………」

「どうしたの?死んでないならトドメを刺すけど」

顔を歪めた月夜を見て、至近で起きた殺人にショックを受けたのだろうと当たりをつけた、ヘンゼルが声を掛ける。
嗜虐の意図がたっぷりと込められた声が、この可憐な容姿の少年の本質を、何よりも如実に表していた。
月夜は無言。剥き出しの白い肩が震えているのは、目の前で起きた殺人を止められなかった事に対する憤りか。

「…………………………………………………………………………」


────こ、この人。全くの素人です!?

握った手首から理解(わか)る情報。皮膚の堅さ、肉のつき方、骨の太さ、骨肉の靭さ。それら全てが物語るのは、この男が全くの素人だという事実。
念の為に首筋や胸に指を這わせてみたが、結果は同じ。
「大胆なんだね~」「僕にもやってよ~」などというヘンゼルの煽りに、額に青筋が浮かぶのを覚えた。

────こんな相手に怯えたのですか私は!!

それは恥辱。在ってはならない、許されざる事態。
それは失態。犯してはならない、決して知られてはならない事態。

いくら轟音で耳を塞がれたとは言え、こんな只の素人に怯えた自分が許せない。怯えた事実が許せない。
即座にヘンゼルをこの男共々ブッコロして、全てを糊塗したい衝動に月夜は駆られていた。

因幡月夜はお子ちゃまである。
その剣腕と容姿と怜悧さから誤解され易いが、因幡月夜のメンタルは外見相応のところが多分にある。

「はあああああ…………………」

取り敢えず大きく息を吐いて気を鎮める。まだヘンゼルをブッコロする訳にはいかない。
全く以って気を許せないが、こんなんでも目の代わりにするしかない。
他の人────出来れば親と合流したいが、この男を起こせばヘンゼルが殺しにかかるので論外だ。

「ねえねえ、ソイツ何か持ってた」

「タブレットに小瓶が二つ」

後ろも見ずに、キングの所持品をヘンゼルに渡す。
ヘンゼルが小瓶の中身を確認するのを聴き取りながら、キングの体を調べる。
身体を探った時に、肋骨が折れているのに気がついていた。おそらくは高速で飛来した弾丸が、絶妙な角度で肋骨に当たり、向きを変えたのだろう。
軽量高速で飛来し、円錐状をしている為に重心が後方にある銃弾では、稀に有る現象だが、銃は専門外の月夜には、その辺は分からなかった。


────────────────────────

タブレット等に興味の無いヘンゼルは、小瓶の中身を調べていた。
二つ目の小瓶の蓋を開けて、匂いを嗅いだヘンゼルは、口元を笑みの形に歪めた。
一つ目は何だか判らなかったが、これは判る。
使った事も使われた事もあるシロモノだ。
思わず笑い出しそうになるのを堪えて、ヘンゼルは小瓶を二つ共ポケットに収めた。

「それでさ、これからの事なんだけど」




────────────────────────


「こっちの方で合ってる?」

鼻唄混じりにハンドルを握るヘンゼルに、無表情に頷き、毛布だの缶詰だのが乱雑に積まれた、後部座席に座る月夜は開けた窓から外の音に耳を傾けている。
バックミラーで月夜の様子を窺って、ヘンゼルはポケットの中に想いを馳せる。
ポケットの内の釘と『小瓶』がその役割を果たす時を考えると、自然と唇が釣り上がった。
ロアナプラで"遊んだ"イワンの様に、スマートボールの打ち台にする対象は、今のところ月夜である。
全部打ち込むまで生きてて欲しいな~。などと思いながらヘンゼルはアクセルを踏み込んだ。

静まり返ったこの島で、車での移な動は兎に角目立つが、鬼が襲って来ても車の速度に追いつく事は出来ないだろうし、前に立ちはだかれば、質量と速度を以って排除────要するに轢けば良い。
銃撃が厄介だが、移動する目標に当てるのは難しい。
そんな考えの全てを明かした訳では無いが、車での移動を主張したヘンゼルに、持久力の無い月夜も賛同。
ヘンゼルが適当な民家を物色して鍵を見つけた車に乗り込み、同じく民家で調達した物資を積んで、拡声器を使った者が居ると思しき場所へと向かっていた。




────────────────────────


【H-03/01時40分】

【ヘンゼル@BLACK LAGOON】
[役]:子
[状態]健康、上機嫌、車を運転中
[装備]:拳銃、鉈、金槌、S&W M19@現実(川田から奪取)
[思考・行動]
[道具]:釘、川田のデイパック(ハリセン@バトル・ロワイアルが入っている)
デイパック(タブレット@絶望鬼ごっこ、醤油、ゴメオ@現実)
[思考・行動]
基本方針:皆殺し。
1:因幡月夜と同行する。機会が来れば、或いはグレーテルと合流したら月夜を殺すつもり。
2:面白いオモチャが手に入った!!
※その他
自分の役・各役の人数・各役の勝利条件・会場の地図・制限時間は全て未把握。特別支給品の有無は不明。

【因幡月夜@武装少女マキャヴェリズム】
[役]:子
[状態]健康(盲目)、不機嫌、車で移動中
[装備]:摸造刀(亜鉛合金製)
[道具]:不明
[思考・行動]
基本方針:信頼できる人間を探し、確かな情報を入手する。
1:ヘンゼルを警戒しつつも同行する。人殺しは阻む。襲ってくれば斬る。

※その他
自分の役・各役の人数・各役の勝利条件・会場の地図・制限時間は全て未把握。
盲目のため、文字の読解や顔の判別等は不可能だが、優れた聴力で広範囲の探知が可能。
ビラに書かれていた事はヘンゼルに尋ねて把握したものの、ヘンゼル自身が怪しいため内容についても疑っている。


【F-02/01時40分】

【川田章吾@バトルロワイアル】
[役]:親
[状態]:頭に打撲、失神
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:状況を把握する。
1:???

【キング@ワンパンマン(リメイク)】
[役]:親
[状態]:ゴメオによる催淫、気絶中、左第六肋骨骨折
[装備]:
[道具]:無し
基本方針:帰りたい……
1:子どもたち(翠と中沢)の誤解をときたい。
2:一応、自分のできる範囲で子と親を保護する。
3:ヘンゼルを警戒
※その他
自分の役・各役の勝利条件・制限時間を把握。
最終更新:2018年10月13日 17:47