「……ハァ、ハァ、ハァ……うう……うぐお……」

ゴメオ。正式には5-メトキシ-N,N-ジイソプロピルトリプタミン(5-methoxy-N,N-diisopropyltryptamine)。
頭字語で5-MeO-DIPT(ごめお・でぃぷてぃー)と略される幻覚剤。日本国内では麻薬に指定され、違法である。
摂取から30分ほどで効果が現れ始め、3-6時間効果が持続する。摂取後1時間ほどは吐き気を催すこともある。
五感に幻覚を感じ、場合により高揚感や多幸感を覚え、聴覚や触覚、性感が鋭敏になり、肛門括約筋が緩む。

1時間ほど前、小瓶の中の液状のそれを、誤って鼻と口から摂取してしまった憐れな男―――『キング』は、その効果に苦悶していた。

体温が上がり、腹がシクシク痛む。尻の穴がヒクヒクする。吐き気を催し、目の前がぐるぐると回る。頭痛と耳鳴りがする。
なんらかの毒物。危険だ。このまま死ぬかも知れない。しかも、確実にあの少女と少年に誤解された。鬼だと思われた。誤解を解かねば。
だが、動けない。水を飲まねば。なんでこんな目に。厄日だ。

そんな状態のまま、少女と少年を追いかけることも出来ず、物陰にうずくまり、数十分は身動きもできなかった。草むらで吐き下しもした。
……そして、ようやく少し動けるようになった彼は、フラフラと山道をさまよい歩き……別の少女と少年たちの近くに現れたのだ。

だが……不幸にも、少年は銃を持った狂犬だった。彼はキングを撃ち……荷物を奪い、車を民家から調達し、少女と共に立ち去った。
キングは……悪運の強いことに、生きていた。偶然にも銃弾は絶妙な角度で肋骨に当たり、左第六肋骨を骨折させただけで済んだ。
それでも、ただでさえ朦朧としていたキングの意識は一瞬で刈り取られ、激痛と共に失神、倒れ伏したのだった。


「う……痛ッ……」

頭痛と共に、意識が覚醒する。生きている。痛みがある。殺されていない。眼の前が少しずつ明るくなり、自分の手足が見えてくる。
何が……あったか。いや、今思い起こすのはヤバい。脳みそがショートしかけてる。どこかへ隠れ、休息せねば。

ドッドッドッドッドッドッドッド

心音がやけに大きく聴こえる。ああ、そうだ、生きねば。生き残らねば。

ドッドッドッドッドッドッドッド

ドッドッドッドッドッドッドッド


違う。これは、自分の心音じゃない。誰か、他のやつの……!

ドッドッドッドッドッドッドッド

ドッドッドッドッドッドッドッド

ドッドッドッドッドッドッドッド

「あの……」

男に呼びかけられた。その顔を見た時、川田は何度目かの失神を……するところだった。
金髪をオールバックにした白人。青褪めた、怒り狂ったような凄まじい顔。左目のあたりに三本の傷。凄まじい威圧感。
そうか、俺はここで死ぬのか。川田はそう覚悟し、かえって冷静になった。深呼吸をする。頭が冴えてくる。


激痛と共に覚醒した時、既に少年少女はいなかった。どうやら殺されずには済んだらしい。偶然か、温情か。
銃で撃たれた割りに、大した傷ではない。内臓は無事なようだ。だが、焼け付くように痛い。左の肋骨が折れている。
手当てが必要だ。歯を食いしばる。謎の薬物の効果も全然消えていない。呼吸が荒く、脂汗と涙が溢れてくる。なんでこんな目に。

いや、もうひとりいる。その少年……なのか、学生服の男は、手で頭を押さえて朦朧としていた。

「あの……」

呼びかけに応え、こちらを見て、大きく目を見開いた。まあこっちの恰好を見ればびっくりするだろう。
武器は持っていないようだ。こちらは右手を挙げ、弱々しく微笑み、敵意がないことをアピールする。相手も弱々しく微笑み、片手を挙げた。

「ええと……こんにちは。俺は『キング』。『親』の役だ。敵意はない。安心してくれ」
「ああ……俺は『川田章吾』。……なんかフラフラしてるが、大丈夫かよ?」
「……ちょっと今、調子が悪くて……さっき撃たれたし。そっちも、フラフラだけど」
「運が悪くてね。パラシュートで投下された時、樹木に引っかかって……。落ちたら頭を打撲して、妙なガキどもに殺されそうになって……うう……」
「お互い、大変だな……ここにいても危ない。どこか、民家へ隠れて手当てしよう。肩を貸す。立てるか?」

左脇腹を押さえ、右肩を貸す。
「ああ……すまん。なんとか……」



拳銃とデイパックは、当然持ち去られていた。自分が殺されなかったのは……この男が近づいてきたからだ。
川田はそう思い、涙を流した。止まらなかった。彼は、俺の命を救ったヒーローだ。そう思った。
肩を貸してくれたキングの心音は、早鐘のように鳴り続ける。恐怖はもはや感じない。これが、俺を守ってくれる。

ドッドッドッドッドッドッドッド

ドッドッドッドッドッドッドッド

ドッドッドッドッドッドッドッド


「……どうやら、あの子供たちは立ち去ったようです。でも……二人、歩いてくる……」

平瀬村の民家。注意深くヘンゼルたちを軍用スコープで監視していた大和亜季は、機関銃を構えているY-12に告げる。
「危険ですか」
「いえ……手負いです。あの子供たちに撃たれた、学生服の男性と……威圧感のある金髪の男性。互いに肩を貸しています」
「どうしますか、ヤマト=サン」
「…………助けましょう。こちらから迎えに行きましょう!」

彼らの動きは覚束ない。亜季は決意し、Y-12に同行を促した。Y-12は同意し、周囲を警戒しつつ彼らに近づく。
近づくにつれ、妙な音と威圧感が増して来る。あの金髪の男性から発されているようだが、敵意や悪意は感じない。

「止まりなさい! 役と名前を!」

遮蔽物の陰から亜季が呼びかける。キングはビクリとしたが、川田が手を挙げて進み出る。尋ねて来るなら、鬼ではなかろう。
「……親の役だ。どっちもな。俺は川田章吾、こっちはキングさん。武器はねえし、ご覧の通り怪我してる。助けてくれないか」
ややあって、亜季とY-12が姿を現す。
「勿論です。私は大和亜季、こちらはY-12さん。我々も親の役です。協力しましょう!」


【F-02/01時50分】

【キング@ワンパンマン(リメイク)】
[役]:親
[状態]:ゴメオによる催淫(あと数時間持続)、キングエンジン(心音)、左第六肋骨骨折
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:帰りたい……
1:子どもたち(翠と中沢)の誤解をときたい。
2:一応、自分のできる範囲で子と親を保護する。
3:川田と共に民家へ身を隠し、回復を待つ。
4:銀髪の子供(ヘンゼル)を警戒。
5:大和亜季とY-12を信用する。
※その他
自分の役・各役の勝利条件・制限時間を把握。

【川田章吾@バトルロワイアル】
[役]:親
[状態]:頭に打撲
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:状況を把握する。
1:キングについていく。
2:大和亜季とY-12を信用する。
※その他
自分の役・各役の人数・各役の勝利条件・会場の地図・制限時間は全て未把握。
最終更新:2018年11月03日 10:01