「ダメです……やっぱり応答がありません」

 円谷光彦は、がっくりと項垂れていた。
 彼の手にあったのは、彼の属する少年探偵団のみが持ち、相互通信機能を持つDBバッジだ。
 数々の殺人事件や爆破事件を解決に導いた仲間たちに通信を試みたが、どうやら電波の具合が悪く通信はノイズがかかる。

 そもそもここは孤島だ。
 このDBバッジの電波圏は半径約20kmで、それを思えば本土との通信は難しいだろう。
 強いて言えば、同じ島にDBバッジを持っている江戸川コナン、灰原哀、小嶋元太、吉田歩美のいずれかがいれば通信は可能かもしれないが……。

 ……いや、思い返せば、みんなで一緒にいる時に拉致されたのならともかく、光彦ひとりでいる時に気づけばこんなところにいた。
 少年探偵団の仲間と一緒に拉致されたと考えるのは少々厳しい考えかもしれなかった。
 光彦は、DBバッジをポケットにしまった。

(今回はぼくひとりだけみたいです……)

 光彦は、その心細さに自信が失われるのを感じた。
 誘拐や殺人やテロに相当な数だけ巻き込まれた事は光彦だったが、大概は仲間が一緒にいた。
 だから、数えきれないほどの事件に遭遇しながら生きてこられたともいえる。

「こんな時、コナンくんや灰原さんがいてくれたら……」

 ……ずっと以前、蛍を取りに行った森でひとり、殺人鬼に追われた事を光彦は嫌でも思い出した。
 あの時は、確かにコナンたちの助けがあった。今度は助けてはくれない。
 他にも様々な事件があった。あの冒険、あのゲーム、あの殺人事件、あの爆破テロ……と、考えるとキリがない。

 コナンも哀も、そのたびに毎回光彦よりずっと賢く、頭が切れて、大人のような行動ができる。
 時に憧れ、時に信じたくなる。
 頼られる事はなかったが、特にコナンに何か考えがありそうな時は、協力する事で助けになれるのが嬉しかった。

 だが、ふと光彦は我に返った。

「いいえ、そうです。ぼくにだって、きっと出来る事が――」

 彼らに頼ってばかりではいられない。
 それに、光彦だって、名探偵にあこがれる一人の男だ。プライドがある。
 何度も助けられてきたのは確かだし、コナンを信じて自分の命を託した事だってある。
 だが、あれだけ度々事件が起こる以上、もしかしたら、これからも今回のように光彦だけでどうにかしなければならない状況が、いくらでも来るかもしれない。

 自分だって少年探偵団なのだ。
 自分に自信を持っていこう。
 光彦は、すぐに誰かに頼る思考をやめて、自分で考えてみた。

(まずは何か、ぼくだけの力で考えないと……)

 そうだ、今回はどうにも様子がおかしかった。

 貼りだされていたルールを見ると、何かの組織が企画して作ったのは明白だった。
 過去に飛行船でテロ組織のバイオテロに巻き込まれた時や、水族館でオスプレイに迎撃されそうになった時のように、複数犯や組織犯がいる。
 フーダニット、誰が。
 ハウダニット、どのように。
 ホワイダニット、何故。
 そういった推理小説の基礎を応用し、考えながら、このゲームの謎を解いて脱出するのだ。

 ……でも今は情報不足だ。これからの行動の為に、まずは誰かを探さなければならない。
 光彦以外にも、この島には「子」「親」「鬼」が要る筈。
 彼らもまた、光彦のように突然巻き込まれた可能性が高いだろう。

 ……とにかく、誰か、信頼できそうな人を探して、他の人がどういう境遇なのかも把握しないと。
 もし本当に「鬼」がいて、それがこれまで出会ってきたような殺人犯や爆破犯や犯罪者たちのような相手なら、極力警戒が必要。
 ここでも推理が必要になる。

 それを推理する方法について、今回はコナンたちの事を頼れない。
 それならば、光彦自身の知能を持ってどうにかするしかない……。いざという時は、自分の考えを信じて勇気をもって行動しないとダメだ。

 光彦は、そう思いながら踏み出していった。



【A-8/00時10分】
【円谷光彦@名探偵コナン】
[役]:子
[状態]:健康
[装備]:『お守り』
[道具]:DBバッジ(現在通信不能)
[思考・行動]
基本方針:出来れば子と合流。
1:生還の為に行動する。子や親らしい相手と合流したい。
2:このゲームは誰が、どのように、何故行ったのかを考える。
※その他
自分の役・各役の人数・各役の勝利条件・会場の地図・制限時間は全て未把握。
『お守り』については把握しているは不明。
DBバッジは20km圏内に仲間がいなければ効果を示さないが、現在はここに来るまでにどこかに打ってしまったのか更に調子が悪く、余計に通信ができない状態。
[人物解説]
米花小学校一年生。少年探偵団所属。
常に丁寧な言葉を使い、小学一年生と思えないほどの知能を持っている(ただし人並)。
運動神経もそこまで悪くはなく、持久力も実はコナンより上。
知識量、頭の回転の早さ、運動神経、正義感などあらゆる面で小学生として高水準にも関わらず、周囲が凄すぎて凡人止まりにされる少年。
原作の出来事もアニメの出来事も回想していいような、ざっくりとした感じで参戦(コナンの本筋にあんまり関係ないので、ざっくりした描き方でも大した矛盾は出ないと思われる)。
最終更新:2018年04月19日 13:16