2004年春学期
労働経済論 井口泰 持込一切不可70分 記入別紙
出席20点、レポート50点、定期テスト30点
次の各問に対する答えとして正しいものをひとつ選び、その番号を別紙に記入せよ。
問1 失業の概念について、正しい記述は次のどれか。
1、ILOの定義によると、失業者とは働く能力があり、仕事を探しているものをさす。
2、完全失業率とは、完全失業者数を完全失業者数と雇用者数の和で除した値である。
3、各国の完全失業者のほとんどは、同時に失業給付の受給者である。
4、日本でもアメリカでも就職が内定している学生は失業者ではない。
5、ミスマッチ失業とは、摩擦的失業と構造的失業を合わせたものである。
問2 最近の日本の雇用失業情勢について、正しい記述はどれか。
1、デフレ下の完全失業率の上昇は、景気循環的失業の増加によってほとんど説明される。
2、最近の企業のリストラクチャリングの結果、中高年の大卒失業者は100万人を超えた。
3、雇用減少は、製造業で大幅で、2003年前半には前年比10万人以上が減少した。
4、完全失業率は若年層と高齢層で高く、失業期間は若年層のほうが高齢層よりも長い。
5、雇用保険の失業給付は、欧州諸国の失業給付や失業手当と比べ「置換比率」が低い。
問3 日本の賃金制度について、正しい記述は次のどれか。
1、年功賃金制度の伝統的な説明として、労働費保障仮説と熟練形成仮説がある。
2、1990年代に「職能資格制度」が導入され、「成果主義」賃金は廃止される方向にある。
3、欧米においては「職能給」が一般的で、「職務給」が一般的な日本と大きく異なる。
4、日本を代表する大企業では、2003年以降、「成果主義賃金」を本格的に導入している。
5、現場労働者の年齢別賃金カーブは水平で、右上がりの事務・管理労働者とは異なる。
問4 日本の女性労働率に関連して、正しい記述はどれか。
1、日本独自の特徴は、世帯主所得が高いほど家族構成員の就業率が下がることである。
2、女性のM字型の年齢・労働力率カーブは先進国では日本とフランスでしかみられない。
3、女性のM字型の年齢・労働力率カーブは近年、急速に逆U字型に変化している。
4、女性の労働力率は大卒の場合、結婚、出産によっても大きく低下することはない。
5、中高年女性の多くが就労するパートタイム雇用とフルタイム雇用の賃金率の格差は、
不況のなかで拡大している。
問5 日本における若年失業をめぐる論争に関して、正しい記述はどれか。
1、独身で親と同居し、パートやアルバイトとして就労または失業する若年者「パラサイト
シングル」の増加が若年失業率上昇の原因だという仮説は、労働経済学者に広く認知された。
2、若年層の高失業は、経済停滞による雇用水準の悪化であるが、高齢者に比べれば深刻では
ないという考えが今なお優勢である。
3、若年層の高失業は経済停滞の中で高齢労働者の雇用が過度に保護されているからだという
主張が多くの注目を集め、若年失業対策が強化されるに至った。
4、若年層の就職時点の経済情勢が悪いほど、就職後に短期間で離職するポテンシャルが
下がるとの仮説を「世代効果仮説」という。
5、アルバイト、パートタイム労働者または期間工など不安定に就業している若年層を指す
「フリーター」は若年層の完全失業率をむしろ引き下げる働きをしている。
問6 労働市場のUV分析について、正しい記述は次のどれか。
1、UV曲線は欠員率と失業率の関係を示し、通常右上がりの曲線となる。
2、UV曲線と原点を通る45度線との交点では、労働受給のミスマッチは存在しない。
3、UV曲線が原点から遠くなると、均衡失業率は低下し、労働市場の機能は高まる。
4、UV曲線から推定される均衡失業率と同一のUV曲線上の現実の失業率との差は、
需要不足失業率である。
5、UV曲線が原点方向に移動すると、労働市場のミスマッチは高まり、インフレーションの
懸念が生じる。
問7 労働市場に関する理論について、正しい記述はどれか。
1、インセンティブ賃金仮説(ラジア)は情報が完全でも、長期雇用の下で労働限界生産力と
賃金が一致しないと考える。
2、伝統的なミクロの労働供給理論では、市場賃金が留保賃金を上回ると、当該個人は
就労すると考える。
3、知的熟練理論(小池)は仕事内容を「通常の作業」と「通常でない作業」にわけ、
「通常の作業」に対処できる熟練を「知的熟練」と呼ぶ。
4、仕事競争モデル(サロー)は労働市場においては価格競争は成り立たず、企業は採用後
の教育訓練コストが高い人材を優先的に採用すると考える。
5、シグナリング理論では、大学教育は現在の教育投資により個人の能力が高まって将来の
賃金を高めるが、人材資本理論によれば、人材選別の役割を果たすに過ぎない。
問8 G.ベッカーの家計生産関数の理論について、正しい記述は次のどれか。
1、家計生産関数の理論によると、家庭内労働は市場で得られる家事サービスと同様に
評価される。
2、妻の賃金が高まると、育児のシャドウプライスが上昇し、子供の数は増加する。
3、育児に対する社会的援助は育児シャドウプライスを低下させ、子供の数は減少する。
4、女性が就業する場合、その所得効果が代替効果を上回れば、子供の数は減少する。
5、家計生産関数は、多くの場合子供の質は不変と仮定してきたが、家計が子供の量より
質も選好すれば、家計所得が増加しても子供の数は増加しない可能性がある。
問9 最近の労働供給関数の推計に関する記述について、正しい記述は次のどれか。
1、若年者の労働力率は、高等教育進学率、パート労働比率、親との同居率に依存するが、
特に教育費の影響が大きい。
2、女性のM字型の労働力率カーブを推計するのに、年齢やコーホート・インデクスを変数
とした3次多項式が用いられている。
3、女性の労働力率には年齢、学歴などのほか既婚者については、学齢未満の子供の有無、
親との同居率、さらに夫の労働時間が大きく影響している。
4、マイクロ・データと確率決定モデルを用いても、安定的な労働力率は推定できない。
5、60歳代前半の高齢者の労働力率は主として、老齢年金と賃金の比率、61歳以上の定年制の
普及率などの影響を受ける。
問10 日本の小しか現象に関する議論として、正しい記述は次のどれか。
1、1990年代の合計特殊出生率低下の最大の理由は、1夫婦あたりの子供の数の減少であった。
2、1990年代後半以降、失業情勢は悪化したが、夫婦あたりの平均の子供の数は上昇してきた。
3、日本では、子育ての直接費用と比べ、子育ての「機会費用」が非常に高い。
4、女性の高学歴化は就業率を高め、晩婚化を促進しているが、所得が高まるため、
フルタイム就業の女性一人あたりの子供の数はパートタイム就業の場合より多い。
5、少子化現象は大都市部の高学歴女性においていっそう顕著で、2003年に東京都の
合計特殊出生率2を下回った。
問11 ワークシェアリングについて、正しい記述は次のどれか。
1、ワークシェアリングにより雇用維持・創出を可能にするには労働者の手取り賃金を
下げないことが最も重要である。
2、労働時間短縮は非賃金労働費用が大きい場合、時間当たり労働費用を引き上げ、
長期的に雇用にプラスに働く可能性もある。
3、ドイツでは女性のパートタイム労働者の多くは20時間前後で就労し、男性の
パートタイムは30時間台で就労している者が多い。
4、フランスで法定労働時間を35時間に引き下げることによって、雇用増加を実現した結果、
先進諸国で35時間労働制を導入する動きが高まっている。
5、日本では「短時間正社員」をコンセプトとするワークシェアリングへの動きがあるが、
労使間でフルタイムとパートタイムの均等処遇に関し、意見の隔たりが障害になっている。
問12 「春闘」に関する記述で正しいのはどれか。
1、「春闘」において、もはや高い賃金引上げ率を獲得しやすい業種での交渉を優先し、
その成果を広く他業種にも反映させる「パターン・セッティング」が機能していない。
2、経済停滞とデフレの下で、賃金引上げ率が年々小幅になってきたので、経営者と労働組合の
団体交渉の意義は高まってきている。
3、日本の労働組合は産業別労働組合として発生してきた性格から、産業内の賃金格差は
大きく縮小してきた。
4、近年、企業と労働者個人の間の個別紛争処理に対するニーズが高まってきたため、
多くの労働組合は顧問弁護士を雇用するなどして、これに対応している。
5、不況の中で、ストライキは増加傾向にあり、労働組合組織率も30%を超えている。
問13 アジアの途上国の労働市場の説明について、正しい記述は次のどれか。
1、中国では内陸部を中心に賃金・雇用水準は順調に改善してきたが、沿岸部との
所得格差が大きく、推定で農村部で1億7000万人以上の過剰労働力が存在する。
2、1997年の通貨危機後、東南アジア諸国では都市から農村へ労働力の逆流が見られ、
農村では生活水準が急速に低下し、年インフォーマルセクターが大きく縮小した。
3、1970年代以降南アジアでは、土地細分化が進み、農村層が分解して、都市フォーマル
セクターが急速に拡大して、農村人口を吸収した。
4、香港や台湾では、中国への生産拠点の移動や、不動産価格低下による
不良債権問題などから、近年、成長率の回復と雇用問題の悪化がみられる。
5、韓国ではアジア通貨危機後、IMFの管理下で財閥改革や労働法改正などを背景に
失業が増加し労働争議が多発したが、最近は成長率が回復し失業率も急速に改善した。
問14 国際的な人の移動の現状について、正しい記述は次のどれか。
1、ITブームの崩壊とともに、欧米に流出したアジアの高度労働者が帰還する動きがみられ
アジアから欧米への人材流出の流れは完全に反転した。
2、2001年9月の同時多発テロ事件後、先進国は不法移民・不法滞在者に対する摘発を強化する
一方、移民の社会的統合のための政策を重視する動きも強まっている。
3、アジアでは、通貨危機の時期に外国人労働者を帰国させる動きが加速した結果、外国
人労働者に対する需要は大幅に低下した。
4、日本では、不況にかかわらず外国人労働者が増加し、2002年時点で少なくとも76万人の
外国人労働者が就労し、日系労働者がその半数の40万人以上を占める。
5、日本への中国人留学生が急増した背景には、中国における一人当たり所得の急速な増加に
加え、円安により、日本における教育費が実質的に低下した影響が大きい。
問15 国際労働移動に関する理論について、正しい記述は次のどれか。
1、ルイス=ラニス・フェイのモデルは、途上国が工業化を進めた場合、労働供給が制限的な
状態から非制限的な状態に転換することを予測している。
2、トロダによれば、インフォーマル・セクターからフォーマル・セクターへの移動確率を
考慮した農村期待所得が都市期待所得と移動・仲介費用の合計より大なら農村から都市へ移動する。
3、グリューベルによれば先進国と途上国の間の労働移動に制限がる場合、途上国の熟練
労働者の先進国への移動は、先進国労働者の賃金を低下させる。
4、「移民連鎖」の理論によれば、途上国を母国とし、先進国に流入する労働者は、出稼ぎ期、
定住期、統合期を経て、最終的には母国に帰国しなければならない。
5、トダロの理論を国外に拡張すれば、先進国での就業確率が相当高くなければ、仲介業者への
手数料や、移動費用を支払い、外国に出稼ぎする経済的合理性は存在しない。
最終更新:2008年07月16日 20:20