全てが因果地平の彼方へ消え去り大地には深い傷跡と塞がれたクロスゲートだけが残る。
そして戦いが終了した今彼らがこの会場に留まる理由が失われたためか体が消滅し始めた。
元々参加者ではなく巻き込まれた身――イデが侘びでも入れたのかどうか……。
どうやら彼らは元の世界に戻れそうである。
そうしてプリキュアを始めとする正義の味方は元の世界に帰還した。
共通する点はクロスゲートからこの会場に足を踏み入れた事。
ヤマトは巴マミの魔法陣惑星間ワープゲートを通り元の宙域に帰還。
ここに残ったのは巴マミ、キュゥべぇ、田所恵、エルエルフ、流木乃サキ、そしてカズマ。
エルエルフ達は次元の境界線を突き破り来たらしいが今は妙に次元が安定していて、
ヴァルヴレイヴも無くショーコとの通信も取れないため帰る術がない
ヤマトに乗り合わせることも出来たがそこまで迷惑をかける訳にもいかなかった。
巴マミを始めとする参加者が協力すれば次元の一つや二つ乗り越えることが可能らしいので付いて行く事を決意。
シャルロッテの背中に飛び乗り最後の戦いを見守ることにした。
「……カズマさん?」
背中に乗らないカズマに気付き声をかける田所。
彼の性格からすれば乗らないのが普通だろうが何か違う理由を感じる。
カズマは遠くを見つめ、カカロットとは違う方角を見つめていた。
「そうか……テメェはまだ生きているんだな」
疼く。
カズマの右腕が疼いて止まらない、あいつが、あの野郎がこの先に居る、殴らせろと。
「わりぃけどよ、俺はあっちに忘れちまったモンがある……
どうでもいいけどよ、俺にとっちゃ……アイツに取っても大切なモンがよぉ……」
対主催と呼ばれる所謂正義の味方がカカロットと言う絶対悪に集結している。
暁美ほむら、その中に共鳴する鹿目まどか、最後の月牙と化した黒崎一護、ゼブラ……。
初めはベジータ一人だったが美樹さやかと佐倉杏子の加勢に始まり戦力が集まった。
少しずつ、少しずつだか小さい星の煌きも合わされば惑星級の輝きを得ることも有り得る。
絶望するにはまだ早い。
「よぉく集まったなおめぇら……。
全開に近づいて強くなった奴がたくさんいてオラは嬉しいぞ!」
以前カカロットは笑みを浮かべ挑発なのか褒め言葉なのか訳の分からない言葉を放つ。
「おい!テメェふざけたこと言ってんじゃ――」
一護が怒りを顕にするが途中で止めてしまう――奥から感じる強い邪気に当てられた。
『こんだけ残ったか……だがそこの女神と共鳴した奴とベジータ以外は駄目だな甘すぎるッッ!!
よくそんな力でここまで残れたな』
勇次郎が心の底から思う事を包み隠さず言い放つ。
残念だがそんな力では戦う価値もない、帰れ、もしくは死ねと。
「本当にチョーシに乗ってんじゃねえぞ……!!」
ゼブラが常人なら反応出来ない速度で音を飛ばす――ボイスミサイル。
音速を超えた速度でカカロットを補足するも届かずに消滅。
気に当てられ消滅、これぐらいじゃカカロットに傷を与えることは不可能。
故にゼブラはこの中で一番弱く彼だけ身に着けているものがある。
乾いた音が緊張を破ると次に聞こえる音は大地に肉が落ちる音。
「どうだ?主催らしく首輪を爆発させてみたけど……これはつまんねーわ」
全速でカカロットへ飛ぶ黒崎一護。
無言で斬月を振るいカカロットを斬り裂こうとするも体を少し横に動かされ失敗。
そのまま横に払うも上半身を反らされ失敗、上から振り落とす。
腕に気を集中させ斬魄刀を防ぎそのまま放出、斬月で防ぐも大きく飛ばされる一護。
最初に出会った人間、それがゼブラで会った。
まだ一日も経っていないがそれでも同じ敵に対し背中を預け合った戦友。
その生命が簡単に消された、存在が消えた、魂を馬鹿にされた。
それで黙っていられるほど大人ではない。
「誰も劇的に死ねる訳じゃねぇんだぞ?全員が戦いの中で輝いて散ると思ってんのか?
そいつは違ぇぞ?オラでも分かる」
斬月で斬撃を衝撃と変えて飛ばし、片腕に霊圧を宿らせ無月としてカカロットに放つ。
この二つを簡単に回避し気弾を放つカカロット。
斬月で真っ二つし瞬歩で距離を詰め斬りかかるも失敗。
『遅い、遅すぎて欠伸がでちまうぜ』
片腕で斬月を握り締めるカカロットはそのまま一護を投げ飛ばす。
飛ばされる重力で体の中の内蔵に負担がかかるが無理やり停止させ空中で体勢を立て直し息を整える。
一護がカカロットを相手にしている間に左右に展開したさやかと杏子。
さやかは高く飛び空中から、杏子は槍を握りしめ地上から狙う。
剣は両腕で振るったほうが強い――雄叫びを上げカカロットに振り下ろすさやか。
これを難なく躱すカカロットに襲いかかるは杏子の渾身の突きである。
疾風迅雷――打突の一瞬に魔力を集中させた速攻の一撃だがこれも体をずらすだけで回避。
「まだだよッ!」
槍は分解を始め多節棍に、鎖で何重にもカカロットを縛り上げる。
もう逃さない、再度舞ったさやかがもう一度剣を力強く振り下ろす。
それに合わせ一護も斬月を掲げ一閃。
「オラを斬れると思ったか?」
器用に剣と触れる部分だけ感知し最小限の動きで避ける。
剣はカカロットを縛り上げる鎖の部分だけに当たり結果としてカカロットを開放した。
「そんな!?」
驚くさやかだがそんな暇はなくカカロットの蹴りを防ぐのに精一杯。
背後から斬り掛かる一護だが逆に背後を盗られる。
「オラは愛染と比べられる程弱くねえぞ?――っと!」
離脱――暁美ほむらの弓を回避し弾幕を張るカカロット。
「下がれッ」
気を振り絞り地上から同じく弾幕を張り相殺させるベジータであるが力は残り少ない。
気弾を放ち終えると再び大地に倒れこむ。
数が増えたため手数は圧倒的に増えた。
だが一人の負担が減ったわけでも無く、楽になった訳ではない。
戦況は然程変化していないのか。
「ほむらちゃん。ごめん!一度分離するよ!」
鹿目まどかが叫ぶと暁美ほむらは光に包まれる――そして。
瞳を明ければ目の前にはまどかが存在していて弓を張り詰めていた。
「私も戦線に参加するね――ほむらちゃんは時間停止は使えないけどその盾から武器は取り出せるし何個か入れといたからね!!」
カカロット目掛け矢を放つもどうせ避けられるので自分も飛翔し向かう。
ほむらは盾から何度使ったか分からない拳銃を取り出しカカロットを覗き込んでいた。
「私に今――出来る事」
空から無数の剣を降らせるさやか。
地上から大量の槍で迎え撃つ杏子。
数多の斬撃を飛ばす一護。
全方位から行われる八百万の攻撃にカカロットはどう対処するのか――簡単だ。
「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!」
目にも見えぬ速度で回転しながら気弾を放ち続ける。
数が多いならその分動きさせすれば全てを対処することも可能であり実際に行動していた。
槍は燃えて塵と化し剣は砕け大地に降り注ぐ、斬撃は全て消滅。
圧倒的強さを魅せつける。
「カカロットオオオオオオ」
全ての攻撃を片付け終えた彼に休ませる暇を与えないのか、迫る女神鹿目まどか。
神の領域に存在する彼女は肉弾戦までもが強化されている。
拳は瞬間移動より速くカカロットの体を捉え体を押し曲げる。
「やっぱ強えな……神様はよぉ!!」
お返しと言わんばかりに顔面に肘打ちをかますカカロット。
直撃を受け大地に降下する鹿目まどかに追い打ちをかけんと自分も同じく降下を開始。
追いつくと足を掴み再度空高く放り投げ気を集中させる。
「この空間じゃ私よりも強い……!!」
体勢を立て直しながら魔力で矢を精製し限界まで引き詰める。
「スプレットアロー!!」
大量の矢を放ち気弾と相殺――貫通させカカロットを狙うまどか。
大きな爆発が起こり誰もが「やったか!?」――そんな感想を抱く者はいない。
これで終わるなら誰も苦労しないのだから。
カカロットが勇次郎と共鳴して力を強くしたのなら。
勇次郎との共鳴を解除させれば弱まるのでは?
答えはイエスとは言えない。
まず一つの戦力を二つに分けたとしてもその力は圧倒的。
この状況で二人の獣を相手にするのは大変危険であり全滅の可能性もある。
そして何よりもカカロットも勇次郎も元から全開の領域に君臨しており全開には変わらない。
元より一護は覚悟を決めていた。
それが彼自身が月牙天衝に、全てを最後にする覚悟が出来ている。
「死神が死に怯えるなんてそれこそ可笑しな話だよな……!」
斬月を構えカカロットに瞳を合わせ息を呑む。
「お前がユーハバッハだろうが何だろうが関係無い……最後まで付き合ってくれ斬月」
霊圧を全開にさせ体から放出させ己の一撃を神なる一撃まで精度を高める。
「これは……?」
「あたしと同じだ……黒崎一護って言ったけ……あいつやる気だな」
あの力の感じはあの時と、自分の時と同じであった。
ほむらとまどかを逃しさやかと最後に時を過ごしたあの時と。
だが杏子は一護を止めない。あの時止められても自分は絶対に信念を曲げないと思う。
それはきっと一護も同じだと思う――覚悟は絶対に曲げない。
さやかも理解はしていないが感じ取った。
ああ、この人は最後まで闘うと決めた人だ、正義の味方で命を失う事を恐れない人だ。
止められない、どうやって止めればいいか分からない。
あたし達の勝利のために死んで、何て言えないし……。
二人の魔法少女は再度無数の武器を精製。
魔力が尽きるまで抗って最後に笑うのはあたし達だと。
今は一護の道を切り開くためにやってやると。
剣と槍と弓、そして銃弾。
四人の魔法少女の援護の元一護はカカロットに全力で直進する。
風を切り更に加速、速く、もっと速く、奴を倒せるように。
嵐のように吹き荒れる援護の中を掻い潜りカカロットの元へは簡単に辿り着けた。
問題はここからであり、一護最後の戦い。
「よぉ黒幕……大人しく斬られてくれよ!!」
斬月を縦に大きく振るい一閃。
普段よりも霊圧を強く帯びているため斬撃一つ一つが普段の月牙天衝を超える。
これにはカカロットも喜んだのが笑みを浮かべ移動。
背後を取り蹴りをかますが何度も背後に移動しているとさすがに一護も読めていた。
全力で斬月を振り回し横に一閃。
その太刀筋はカカロットの胸に大きな横一文字を刻み込み手応えを感じる。
『面白い……!おもしれぇぜ死神ィィィッッッ!!』
内なる勇次郎も歓喜の咆哮を挙げ一護を迎え撃つ。
カカロットは一護の両肩を掴み全開の力を込める。
「――ッッッッっっ!!!!」
一護の両肩の骨は粉砕――しかしまだ終らない。
斬月だけは離さず握り締め骨が粉砕しようが斜めに斬り上げる。
再度カカロットに傷を刻み込むも気にせず拳を一つ。
あまりの衝撃に意識が飛びそうになるが耐える――倒れるのは役目を終えてから。
ほむらの銃弾がカカロットの目を潰す。
さやかの剣がカカロットの足に突き刺さる。
杏子の槍がカカロットの両肩を拘束する。
まどかの矢がカカロットの腹を貫通する。
後は任せた――一護に告げるように。
放つ最後の月牙天衝は本当に終幕の一撃。
終わるのは死神としての人生ではない。
それだけではカカロットに死を与えることなど不可能。
己の命を掛けた正真正銘最後の月牙天衝。
「じゃあな――みんな」
全開に振り下ろされた斬月はカカロットを捉えていた。
溢れ出ている霊圧が光と成りて輝きだし誰もが一護の最後の姿を見ることは無かった。
しかし一護の全開の一撃が届いたのは事実であり彼の証である。
そして最後に分かることは『黒崎一護の霊圧が完全に消滅』したことだけ。
「今のは少し驚いちまったぞ」
「だから油断するなと……だが最高に愉しめたぜ死神黒崎一護」
光が晴れるとそこには正真正銘の死神が存在していた。
一護の全開の一撃により起きた爆風を背に歩いてくる悪鬼が二人。
これほど爆風が似合う人間が――生物が存在するのだろうか。
「もう私の結界に引きずり込む程力は残っていない……これはちょっと本気で危険かも……」
女神であるまどかでも目の前の二人は脅威に見える存在なのだろうか。
魔法少女である三人にはよく分からないが女神が危険視すると言う事は目の前の存在は想像以上に危険。
唯一の力であるベジータも瀕死状態のため四人で相手にする必要がある。
しかしほむらと杏子は普通の魔法少女の領域を出ていない。強さは一般の何倍も強いが。
さやかは破面や崩玉の力を受けて入るが全開には及ばない。
そして残る最後の希望女神鹿目まどかだが此処に来てイデオン戦の消耗が響いてしまう。
「やるなら女だろうと容赦はしねぇ……ッッッッ」
「まぁ落ち着けよ勇次郎――魔法少女は後一人いるだろ?」
デビルイデオンと決着を付け空から飛び降りる二つの影。
生き残った最後の巴マミ。正義の魔法少女の残り残機は九つ。
感情と力を手に入れた偽りの契約者キュゥべぇ。
「マミさん!!」
「え!?キュゥべぇ!?気持ち悪ッ!!」
「それは酷いと思うよさやか」
軽い言葉を飛ばすも現実は非常である、そんな余裕は存在しない。
マミは自分の分身を四人ベジータの回復に当て戦力の増強を図る。
何にせよ五人の魔法少女が揃ったのは事実。
後はこの絶望をどうやって未来へ繋ぐ希望へと塗り替えるか。
巴マミは一人飛び出しカカロットに牽制射撃を放つ。
これを指先で摘み上げ粉砕、気弾をお返しにと放つも華麗に飛び交い躱す巴マミ。
「ベジータさんが回復するまでカカロットは私が引き受ける――その間に勇次郎をお願い!!」
杏子達にそう叫ぶとカカロットの周囲に無数のティロ・フィナーレを精製。
ティロ・フィナーレによる全方位からの全開一斉射撃。
出し惜しみしてる暇はなく残る自分含め六人の巴マミでカカロットを抑えこまなければならない。
「一人でオラを抑えこむとはたまげたなぁ」
ゴットの状態に戻ったカカロットは再度気を爆発させ全てのティロ・フィナーレを破壊せんとする。
「一人ではなく六人……甘く見ないほうがいいわよ」
勇次郎の腕に刃を振り下ろすさやかだが斬れた感触がない。
鍛えられた筋肉は魔法の刃を通さず逆に弾き返しさやかの腕に衝撃が走る。
「ッ」
ほむらも援護で射撃するが勇次郎の気合で銃弾は大地に無残に転がり落ちる。
さやかから受け取ったレイジングハートとバルディッシュの融合デバイスを使用するにも勇次郎に叩き壊される。
「残念だったな……だが戦場でノロマなお前が悪いッッ!」
そのまま回し蹴りでほむらの顔面を跳ね上げ大きく飛ばされるほむら。
呼吸も出来ず勿論受け身も取れないため大きく大地を転がっていく。
上空から槍を持ち降下する杏子だが勇次郎は大きく口を開け――。
「信じられるか……こんなこと!?」
口で槍を噛み締めそのまま噛み砕き杏子を殴り飛ばす。
「足りんッ!満足にはッッ!!全開には程遠いぞッッッ!!!」
カカロット戦と勇次郎戦では地力が強いのはカカロットだが苦戦しているのは勇次郎だ。
カカロットはまだ戦闘を愉しんでいる――勇次郎から開放されたからだろうか。
勇次郎も戦闘を愉しんでいるように見えるがそれは全力で愉しんでいるため質が悪い。
このままでは遅かれ早かれ魔法少女は全員消滅してしまうだろう。
「分かってる――だから今は耐えるよ、だからキュゥべぇ貴方の力を貸して」
一歩引いた場所で戦線を見守る鹿目まどかはキュゥべぇと共にいる。
キュゥべぇから謎の光――魔力の源とも呼べる魔法少女の希望の力を吸収していた、
その光、その力は予想もつかない程のエネルギーを秘めている。
「クロスゲートは僕達で封じたよ」
「だから飛影もこの空間には来なかったのか……」
「終わらせるにはこれしか無い……来る途中にマミと僕で考えった結果……これだ」
「ここで二人を殺しても再びバトルロワイアルは繰り返される……だから私が全てを終わらせるッ……!」
「そうさだから今は全開を高めるんだ」
「キュゥべぇ、変わったね……」
「僕にも感情が芽生えたのさ、恐ろしいよあの範馬勇次郎と言う男は……底が知れない」
「でもそのほうが……とっても素敵だと思うよ?」
ティロ・フィナーレを全て破壊したカカロットは巴マミに肉弾戦を仕掛ける。
「レガーレ・ヴァスタリア!!」
無数のリボンで拘束しようとするがその場に彼はいなく目の前に拳が一つ。
マスケットで瞬時に防ぎリボンを遠隔で操り足を固定させ銃弾を一発。
急な射撃のため肩に直撃するが一発は一発である。
「お?ただの弾じゃねぇな」
「フレシェット弾……確実に息の根を止める」
杭のように重い一撃を放つ弾に切り替えカカロットに臨む巴マミ。
銃弾が弾かれるならより思い一撃を放てばいい。
そして当たらないのなら近接線に持ち込めばいい――肉弾戦は臨む所であった。
カカロットの拳を銃で上にかち上げるとそのまま射撃。
首を動かし杭を躱しながら残る左腕で腹に拳を一つ。
背中に仕込んでおいたリボンを巻き上げることによって上空に避難しティロ・フィナーレを精製、これを発射。
そこにカカロットの姿は無くお得意の瞬間移動で背後に回り腕をハンマーの用に振り下ろす。
直撃を受け血を吐く巴マミだがこの距離で外す訳も無く一発腹に杭を打ち込むことに成功。
その杭にはリボンが巻き付いてあり力強く引き寄せることによってカカロット諸共大地に落下。
再び起き上がり銃を構え直ぐ射出――杭を二本放ち己も直進する巴マミ。
砂煙が上がると同時に放った杭が逆流――カカロットが投げ返した。
これは読み通りであり杭を足場にし空を舞い空中から通常弾のマスケットを複数精製し雨の様に発射。
咆哮を挙げ拳で全て粉砕する――混じる杭には拳ではなく払う事によって無効化。
着地と同時にリボンを螺旋状にし突き刺すも上体移動で回避合わせてカウンターの蹴りを放つ。
リボンを急速で引き戻し防ぐも衝撃により魔力で出来たリボンは粉砕。
迫る気弾には地面に射撃し巨大な土壁を作り上げ防御――内側から壁毎破壊するようにティロ・フィナーレ。
空中で衝突し合うティロ・フィナーレとかめはめ波は大きな爆発を起こした。
「杏子もう一度フュージョン出来ないの!?」
「そんな簡単に出来る訳ねぇだろ!!大体合体すること自体異常なんだぞ!?」
そんな言葉を交わしながら二方向から勇次郎に攻めかかる二人。
ほむらの援護射撃も在るが勇次郎は腕なり足なり指なり……何にせよ銃弾は届かない。
しかし少しでも動きを止めることが出来るなら上々、後は任せろ。
上からさやか、左方から杏子の同時攻撃。
勇次郎は杏子の槍を叩きつけ常体を崩すと頭を踏み台にして飛翔。
その衝撃で顔から大地に埋まり込む杏子。
上空で睨み合う勇次郎とさやかだが剣は振るっても腕に捉えられ粉砕――拳がさやかを大地に突き落とす。
爆風が晴れる前から近接線を繰り広げるカカロットと巴マミ。
拳に合わせ杭を放つが関係無しに拳は突き進む。
巴マミのハイキックがカカロットの首に当たり一時動きを止める、そこに杭を放つ。
腕を盾に杭を止めるが左腕に風穴を開けてしまう。低い姿勢で懐に潜り込みゼロ距離で射撃。
銃身を掴まれ杭は大地に刺さり込み、そのままバランスを崩し大地に倒れこむ。
容赦なく足を振り下ろし巴マミの背中を踏みつけるカカロット、周囲に骨が折れる音が響く。
しかしその足をリボンで拘束、引き寄せ転倒させ己は転がりながら距離を取り体制を整える。
直ぐにカカロットも立ち上がり両者大地で睨み合う。
「――おぅ、遅かったなトリコ!これで全員揃ったか!」
「トリコ?俺は愚地独歩だ、ンな事知ってんだろ?」
武神の降臨――――――なら食人鬼トリコは一体――――――?
何ていい気分だろうか
人を喰らった中でも最高級の味
言葉では説明出来ないし伝えることは無理だ
この味は俺の味覚に合うように出来上がった味だ
流石は小松、俺の最高の相棒だぜ
今なら神だろうがカカロットだろうが負ける気がしない
「だからお前は寝てろスタージュン」
気絶させる位に殴ったはずだがもう起き上がるとは……。
これはデビルイデオンが消滅する前の出来事である。
全開を感じ絶対的な強さを試したいトリコは一刻も早くカカロットの元へ向かいたい。
だが邪魔をするかのように立ち上がるスタージュンは害虫の様な存在。
ここで殺そう――喰らう気も起きん。
立ち上がるスタージュンは不安定で戦いの疲労が蓄積されている証拠。
それでも立ち上がるのはサイヤの血の影響か、強い意志の現れなのか。
「――!!おもしれぇ……!!」
スタージュンは進化した。
額に浮かぶは第三の目――これは全開による覚醒ではない。
本来の時間軸で起こり得る――彼の眠る力が時を超えて開花したのだ。
(しかしこの力はよく理解できていない――だが!!)
再び真田幸村の魂をバーナーナイフに纏わせ紅蓮の槍、天覇絶槍を展開。
構え見据えるはトリコの心臓。
ここで止める――それが同じ世界の情けだ。
一斉に飛び出しトリコはフォークを、スタージュンは天覇絶槍を突き刺し激しく衝突。
その衝撃故に腕の骨に罅が走るが気にしている暇はない、攻めろ、攻め上げろ。
問答無用で天覇絶槍を右肩に突き刺しそこから炎を伝わらせ燃え上がらせる。
「んのおおおおおおおおおおおおおお!!」
何千℃も超える天覇絶槍を掴みあげ無理やり引き抜くトリコは腰を落とし釘パンチの姿勢へ。
風穴から吹き出す鮮血がスタージュンの瞳を潰し確実に拳を放つ。
しかしこれを後方に飛び躱し、投合――爆発を起こし体制を立て直す。
その動きはまるで全てを見透かしているように。
「あいつ……見えているのか!?」
「そうか……この額の目は――グルメ細胞とは――!!」
グルメ細胞の遺伝子を持って生まれたスタージュン。
食運が無かろうと彼は素質を持って生まれてきた。
しかしドラゴンボールの願いの力と麻薬食材により洗脳され加担。
バトルロワイアルに身を委ねた彼にグルメ細胞は愛想を尽かしてしまった。
正気に戻り全てを精算しようと垣根の覚醒を促し田所を逃がす……そしてトリコを倒す使命に取り掛かる。
その姿にグルメ細胞は共鳴した――スタージュンの思いに答えてくれた。
伝説の超サイヤ人の血も合わさり今の力は正に全開。
覚醒した第三の目――それはグルメ細胞の動きを読み取る真眼。
つまり相手の未来の動きを読み取ることが出来る。
迫るトリコのフライングフォークは止まって見える。
ゆっくりと歩き出すが全ての軌道が目に見えるため当たる気がしない。
グルメ細胞の覚醒とは普段感謝している食の神様が人類に授けた叡智の力。
食と言う当たり前に感謝し続けた者にしか舞い降りない奇跡。
よって人を喰らおうが、ジュリアシステムと共鳴しようが、今のトリコに負ける可能性など皆無。
トリコはもう後がない――人を喰らいすぎた。
彼に残されている未来は己が覇道を握るしか道はない。
何度飛ばしても当たらない攻撃。
スタージュンに負けるという事は此処で死ぬ。
死ぬのは怖い、もっと美味いモンをたくさん喰らいたい。
死にたくない。
どうせ当たらないなら放つ必要はない。
死にたくない。
右腕に全開の筋力を固める。
死にたくない。
スタージュンが射程圏内に侵入してきて槍を構えやがった。
死にたくない。
この距離ならどっちも外さねえ。
死ぬわけにはいかない。
俺は喰い足りねえ――
「俺はまだ喰い足りねえ!!二百連釘パンチィィィィッッッ!!!!」
考えるよりも先に拳が放たれていた。
生き残りたいと言う野生に眠る本能が覚醒し今のトリコは限りなく全開に近い。
「忌々しい細胞と共に消え去れトリコォォォォォォォォ!!!!」
燃える魂真田幸村と共鳴しグルメ細胞を開花させたスタージュンも正に全開。
そして神が微笑むのは間違いなくスタージュンである。
故に勝者など最初から決まっていた。
全ての釘を打ち砕き紅蓮の一撃はトリコの心臓を貫く。
「あっけねぇ……でも清々しいや……」
死ぬのは怖いが今の気分は何処か心地よくゆっくり眠れそうだ……。
「全部終わっちまったか」
力尽きて倒れかけるスタージュンを支えた男。
「遅かったな反逆者……」
カズマが駆けつけた時には最後の攻撃を放つ直前であった。
劉鳳の仇であるトリコを殴りに来たが乱入はしなかった。
因縁の対決に割って入る程カズマは無粋な男ではない。
――トリコを殴れなかった件に関しては納得がいっていないようだが。
「まあ怒るな……喰われた人の仇は取ったつもりだ……劉鳳の分もだ……」
「そうかよ……っておい――」
笑ってやがる。
こいつもあいつも……笑いながら死にやがった。
人の人生の価値は死ぬ時まで分からない。誰の言葉か覚えていない。
こいつらはこの顔だけ見ると最高だったのかもしれない。
「まぁ俺には関係ない話だけどよ……っと」
スタージュンの体をゆっくりと大地に下ろすカズマ。
穴を掘って埋めてやろうと思ったがそこまで関係ではないし、何よりも嫌がりそうだから。
適当な岩に腰を下ろし空を見上げるカズマ。
来た時には太陽が輝いていたが今は夕日が照らしている。
夕日を掴むように腕を伸ばす。
そして手に収めるように拳を握った。
「全部――全部終わったぜ、劉鳳……」
こうして反逆者の戦いは終わる――残るのはくだらない願いに巻き込まれた傷跡のみ――
「余所見しているなんて舐め過ぎよッ!!」
リボンでカカロットを締め上げ動きを拘束。
縛られて動けない所に杭を二つ、更に銃を変え二発放ち距離を詰める。
「トリコは死んじまったか……二度目の喰人で大分期待はしていたんだけどな」
依然余裕を魅せるカカロットは瞬間移動でリボンの拘束から脱出。
そのまま巴マミの背後を取り気弾を爆発させ大きく吹き飛ばし己も追いかける。
そのまま蹴り落とし大地にクレーターを創った。
そのつもりだったが瞬間移動が出来ない。
「レガーレ・ヴァスタリアは相手の神経を麻痺させ動きを封じる魔法……あなたには特別に瞬間移動用の魔力で作り上げたの」
やっと魔力が効き始め何度もマンネリ化していたカカロットの瞬間移動を封じることに成功。
これで戦闘における攻撃成功率が大幅に上昇、其れに伴い勝率も上昇するだろう。
瞬間移動を封じられたカカロットだが筋力だけでリボンの拘束を破壊。
杭を投げ返し巴マミの両肩に深く突き刺さる――これで巴マミの残機はなくなった。
今まで強気で肉弾戦に臨んだのは残機が残っていたからであり、通常状態で戦えば無理が生じる。
カカロットの瞬間移動を封じただけでも十分役目を果たしたが戦線を離脱する訳にはいかない。
ここで出来る限りの傷を与えまどかとベジータに託さなくてはならない。
杭を引き抜き地上に投げ捨てる。
カランカランと音を立て転がり続ける杭は魔力切れか消滅。
もうヤマトも召喚する魔力も残っていない――今まで通りの戦闘スタイルでいくしかない。
寧ろ何時もの戦闘スタイルで戦える――それこそが全開なのかもしれない。
気弾の追撃を何とかしなくては死ぬ。
魔法で防げば爆風で立ち上がることは不可能、結界を作る魔力と時間がない。
分身を戻せばベジータと言う切り札が失われる。
故に簡易的魔法陣を作成――気弾を収納し別の次元へと飛ばす。
ヤマト召喚のような他世界に干渉するような大型魔法は使えないが門を開くだけなら造作も無い。
肩にマスケットを二つ装備、大地に刺さる杭にリボンを巻き付け足場を固定。
全ての魔力を消費し無数の銃を精製、カカロットを囲い込む。
そして前方には必殺のティロ・フィナーレ。
今巴マミが出来る全開を披露し最終射撃に移行する。
「これで消えなさいカカロット!!この哀しみの連鎖を生む悪夢と共に!!」
一斉射撃が開始された。
無数の魔弾は悪魔を滅ぼさんと一つ一つが覚悟を握り締めたかのように力強く降り注ぐ。
「魔法少女……今回も招いて正解だったぞ……次も誘ってやる――かーめーはーめー……ッッッッ!!!!」
鍛えぬかれた脚力で大きく後退し魔弾の範囲を自分一直線に誘導した。
そして一網打尽、数々の悪を滅ぼした正義の必殺が希望を打ち砕く。
「ティロ・フィナーレッッッッッッ!!!!」
「波アアアアアアアアアアアアアア!!!!」
カカロット――悟空の放つかめはめ波は今まで通り全ての壁を破壊する。
銃弾は全て飲み込まれ足止めにもならずに消滅してしまった。
そして最後の砦であるティロ・フィナーレもまた正義の一撃に破れてしまう。
今まで孫悟空に倒された悪役もこんな絶望を浮かべていたのだろうか。
巴マミが最後に目にしたのは光り輝く美しい破滅の閃光だった――。
「マミさああああああああああああああああああああん」
が起きた方向に目を奪われるさやかは今にも加勢に行きたい。
しかしそんな甘い幻想は叶わず余所見の末勇次郎の蹴りを直接腹に受け飛行。
確実に骨を持って行かれ地面を何度も跳ね転がっていく。
「おいおい……子供相手に大人気ねえんじゃねえか?」
「フン……雑魚は引っ込んでろ!!貴様は土俵にすら立てんぞ愚地独歩ッッッ!!」
愚地独歩に飛び蹴りを放つ勇次郎。
未だ全開の境地に辿り着いていない独歩は正に最弱であり戦うに値しない。
そう判断した勇次郎はこの一撃で場外、この場から吹き飛ばそうとしていた。
「舐めるんじゃねぇぞオーガ」
見事な回し受けを披露し勇次郎を後方に受け流す――その技は美しすぎた。
「で?続きはどうした武神」
魔力で空中に身体を固定し空間を蹴り飛ばし方向転換。
気づけば独歩の目の前に勇次郎の足があった。
「へへへ……意味分かんないぜこりゃ――」
インパクト――顔を歪めながら吹き飛ぶ独歩は勇次郎が地上最強の上、全開の境地に辿り着いていたことを思い知る。
独歩の身体は大きく岩にのめり込みその後一切動くことはなかった。
残る杏子は焦らず間合いを保ちゆっくりと深呼吸。
「お前もあの女の仇を取りに行かなくていいのか?」
「邪魔するつもりだろ……それにマミは死んでなんかいねえ」
爆風の中から立ち上がる巴マミの姿。しかしすぐに倒れてしまう。
上半身だけをゆっくり立ち上げカカロットを探す。
何処にも見当たらないが目の前に、目が眩んでよく見えないだけ。
銃を精製する魔力も無く黒く濁るソウルジェム。
このままじゃ魔女になってしまいみんなに迷惑をかけてしまう――そんな事を考えている時ではない。
残りカスの魔力で鋭利なリボンを精製しカカロットの胸に突き刺す。
無論刃は通らず無駄な攻撃に終わってしまう。
次はどうしよう、カカロットを倒すには、私に出来ること――。
「最後の……ティ、、、ティロ・フィナーレ……」
「もう頑張った……ありがとう、じゃあな」
カカロットは最後に感謝の言葉を発した。
正直な所魔法少女である巴マミがここまで出来るとは予想もしていなかった。
しかし実際には傷を与え瞬間移動を封じる大活躍――カカロットに大きな損害を与える。
見つめるその瞳は孫悟空のように優しかった――。
美しい手刀が巴マミの首を跳ね飛ばすのに時間は必要なかった。
無残に落ちる巴マミの首。
そこに身体は存在するのに命がない。
元々契約した時に全てはソウルジェムに移行したため最初から命は無いのだが。
二回に渡るバトルロワイアルの経験でカカロットは魔法少女のシステムを理解していた。
前にも鹿目まどかは奇跡を起こし魔女から魔法少女へ戻り、神の力を一部使役する活躍を見せた。
それ程魔法少女は何を起こすか解らない、故に。
手に集中した気弾は大地に着火。
その場にある巴マミの首を跡形もなく吹き飛ばした。
「テメェエエエエエエエエエエエエエエ!!」
親友であり先輩であり師匠であり……何より友達の巴マミの死亡に激動する杏子。
目の前の勇次郎を気にすること無く全速でカカロットに駆ける。
「やっぱり死んでんじゃねえか」
つまらんと言わんばかり言葉を吐き捨てる勇次郎。
このまま佐倉杏子を行かせてもいいがそれでは自分が楽しめない――女だろうが戦場に立てば敵。
一瞬で距離を詰める跳躍、振りかざす拳は破滅の一撃。
「テメェは引っ込んでろよォ!!」
手を祈るように捧げ魔力を瞬速で高める杏子。
彼女が願った結果、己を中心に魔力の爆発を展開。
腕を交差させ防ぐ勇次郎だが爆発の威力を防ぐことはならず吹き飛び血を流す。
そのまま杏子は勇次郎を気に留める事無くカカロットを襲撃する。
「死ね!死ね!いいから死にやがれ!!」
突き、突き、突き。当たらなければ殴る、振るう、薙ぎ払う。
有無を言わさず連打を繰り出しカカロットを殺しにかかる杏子。
全てを冷静に避けて微笑むカカロット。
「心配すんな……最後はドラゴンボールでみんないk「死ねって言ってんだよこっちは!!」
「死んだ奴がそんな簡単に生き返るならなぁ!!神様何ていらないんだよ!!」
渾身のフルスイングは悪鬼の顔に直撃した。
「あたしの家は教会だから神様の存在は信じているさ」
「お告げを聞きに来てくれる人もいた……皆が神様の事を信じていたよ……でも」
「何でも神が全てを解決してくれる事はないんだよ!!ましてや命の蘇生何て有り得ない!!」
「生命ってのはそんな安いモンじゃないんだよ!?簡単に復活してりゃあ神なんざ必要ないんだよこんな世界は!!」
「感動的な台詞だな、オラの心に響いた……でも無意味だ」
顔にのめり込む槍を掴み粉砕――破片を杏子に投げつける。
気弾を連発――爆風で何もかも見えない。
腰を落とし迎撃の体制に移る――佐倉杏子は爆発を受けながらもこちらに走ってくる。
佐倉杏子の数は無数――幻覚の一種か。
闘気を解放――ゴットの気に当てられ消滅する幻覚。
「本体がいない――!?」
大地から出現する巨大な槍の上には佐倉杏子の姿。
魔力で気配を断ちカカロットが気で探れないように接近。
ロッソ・ファンタズマは犠牲――最後の一撃のための。
槍を構えた佐倉杏子も一護やマミと同じく覚悟は出来ている。
槍の上に着地したカカロットの身体には大地から出現時に発生した岩の破片で傷ついている。
血が至る所から流れているが致命傷ではないだろう。
対する杏子は魔力の枯渇、精神の疲労、体力の消耗……満身創痍もいいところ。
そして杏子は本来の魔法少女の力だけで戦っている――全開ではないのか?
「全開って何だよ……そんなの関係無いよね……あたしは――」
そもそも全開の定義とは何だろうか?
このふざけた『全開バトルロワイアル』を開いたカカロットならば真意を知っているだろう。
巻き込まれた身からしてみれば迷惑の他何でもなく、運命を大きく歪められてしまった。
ここまで来るのにもさやかが魔女だったり自分も魔女になってしまったり……。
散々だ、素晴らしい程散々な人生だ――さやかに想いを告げれたのは満足だが。
「――ってそんなの言っている暇ないのかい……」
無言で気を溜めるカカロット――巴マミと同じように佐倉杏子を消し去るつもりだ。
終盤まで残った一人の少女に褒美を与えるかのように気を溜めていく。
ゴットを包む紅い闘気が膨れ上がり夕日と共鳴――反吐が出るほど美しく輝く。
杏子はマミとは違い遠距離で戦う戦闘スタイルではない。
よってかめはめ波に当てる技を持ち合わせていない――だから。
槍を構え打突の構え――正面から打ち砕く。
かめはめ波の中を槍一つで猛進し続ける杏子。
進めば進むほど己に衝撃が入り骨など既に粉砕――内臓も逝かれているだろう。
戦えるのは魔力で作り上げられた身体だから。契約に少しは感謝すべきか。
身体の消滅を感じる。
凄まじいカカロットの威力に痛みは感じなく、痛覚も切っていない。
痛みを感じない程の素晴らしい技なのか――ならその力をもっと希望のために使えばいいのに。
こんな純粋に戦いを求め世界を巻き込む奴だ、生き残ったらもう一度、現に二回目の殺し合いを開いている。
三度目も在るだろう――また無関係な人が巻き込まれてしまう。
残りの魔力を全身に纏わせ少しでも進めるように策を打つ。
それでも身体は消滅――避けることは出来ない。
最後に花火のように散ってやろうかと思ったがそんな魔力は無い。
「有りもしない奇跡に縋った人生か――まあ悪くはなかったかな?」
そもそもスーパーサイヤ人ゴットと魔法少女。
どちらが勝利するかなど初めから分かっていたこと。
奇跡はそんな簡単に起きない、故に奇跡と呼ばれる。
カカロットが勝利することは最初から運命によって決められていた。
「じゃあなさやか――ただいま父さん、母さん、モモ――マミさん」
佐倉杏子
その最後は閃光の中で塵と化す。
「これで後はベジータに鹿目まどか、暁美ほむら、愚地独歩それと範馬勇次郎――あとはお前だな……美樹さやかだっけ?」
杏子を消滅させた閃光が沈んだ時そこには美樹さやかが剣を握り立っていた。
その瞳から溢れる涙、勇次郎の攻撃により血で染まる身体。
さやかも満身創痍、外から見れば死に行くような者――カカロットに特攻するようにしか見えない。
狂ったように笑うさやか。
笑わなきゃやっていられない。
勝手に殺し合いに巻き込んでおいてその上自分の大切人達を殺しているあいつが許せない。
出会ったエースや高町なのはだってこんな出会いをしていなければきっと友達になれた。
託されたデバイスも破壊されなのはが戦った証も無くなった――誰のせいだ?
マミさんが死んだ――誰のせいだ?
杏子が死んだ――誰のせいだ?
「全部あんたがいけないんだ……あんたがッ……あんたがぁああああああ!!」
投影する剣をこの手に握り締め大地を蹴り上げカカロットへ特攻。
そこに息を吐くかのように気弾を連発するカカロット。
さやかはこれを防ごうともせず直進――気弾は身体に直撃し消滅するが――。
「その気になれば痛みも……崩玉の力も合わされば身体だって再生出来るんだからああああああ」
失われた身体はさやかの意思を反映して瞬時に再生されていた。
痛覚の感覚もリンクを外し今のさやかは痛みを感じない哀しみの復讐鬼。
どうせ一度は死んだ身――自分の人生だ、最後ぐらい好きに暴れてもいいだろう。
気弾が何発飛んでこようが関係なく足を進める。
一歩。
頭に直撃し吹き飛ぶ――瞬時に再生。
一歩。
(ソウルジェムが真っ黒になってんじゃねえか……)
カカロットも気弾を辞めるつもりはない。
さやかが止まるまで打ち続けるのみ、こちらに限界はない。
一歩。
(もう少しで……もう少しであいつに辿り着けるッ!!)
一歩。
崩玉の再生能力に依存しつつカカロットへ向かう、確実に一歩ずつ。
再生速度、精度が低下し始め足が重くなるが構わず進む。
「さやかちゃん……」
魔力を極限まで高める鹿目まどかはその工程故に動けない。
全てを終わらせるために必要な準備であり、ここを離れることは全ての絶望に繋がる。
巴マミ、佐倉杏子、そして今は美樹さやかの死を目撃しようとしていた。
「キュゥべえまだなの!?このままじゃさやかちゃんが!?」
「今は耐えるんだまどか!!僕が今まで集めたエネルギーを全て君に託すのにはまだ時間がかかるんだ!!」
全てを終わらせるために――。
だから魔法少女よ、散ってくれ。
「えへへ……ソウルジェムが……あ、今は崩玉か……こんなに黒くなちゃった……」
大地に倒れ天を仰ぐさやかは笑っていた。
瞳から流れる一筋の涙と表情が彼女の心情を表す。
カカロットの元には辿り着けなかった――再生が追いつかなくなってしまった。
魔力の限界を超える使役はソウルジェムと崩玉を絶望に染め使える魔力が枯渇。
今のさやかは魔女になる寸前の絶望だった。
「さやかちゃんは……正義の味方、でも立てない……ッッ」
身体を漆黒の意思が包んでいく感覚――前にも一度感じた魔女になる感覚。
魔女から戻ったさやかはもう一度魔女になるのか?
それとも女神である鹿目まどかが存在する空間で魔女になるまえに消滅するのか?
どちらも解らないが言えることは唯一つ――美樹さやかという存在が消えることだけ。
巻き込まれて巻き込まれて巻き込まれて巻き込まれて巻き込まれて巻き込まれて巻き込まれて……。
思い返せば凄い人生だった
普通の中学生が今は数多の世界を救うために戦っている――恭介も褒めてくれるだろう。
「き、恭介……ごめんあたしもう……」
もうダメだ、魔女になってしまう、あの忌々しい姿に。
命が終わってしまう、死んでしまう、やっぱり死ぬのは嫌だ、怖い。
そして何よりも魔女になって皆に迷惑を、絶望を振りまくのが嫌だ。
お願いだから。
お願いだから魔女になる前にあたしを殺して下さい。
お願いだから――。
「お願いします……あたしが魔女になる前に殺して下さい……ベジータさ……ん」
回復を終えたベジータがさやかの傍に立っていた。
巴マミの魔力による回復で戦闘可能な状態まで回復に成功したベジータ。
全開まで回復とはいかなかったが瀕死からの回復により戦闘能力は上昇。
それ故に巴マミの分身を割いてもらい結果として彼女の死に繋がってしまった。
無言で小さな気弾を放出し魂であるソウルジェムを破壊。
さやかは涙を流しながらも笑顔でその人生に幕を下ろした。
そして怒りに震えるベジータ。
「子供の女に守ってもらって全開になったかベジータ!最後はやっぱオメェしかいないよな!!」
「全開だと……黙れ!!」
怒りの闘気を開放しスーパーサイヤ人キングは最高の輝きを発動。
周りを輝かせる粒子は未現物質、力の源は魔法少女の希望。
この会場で出会った友情の力で立ち上がる戦士がここに一人。
「何が全開だ!その言葉を使い何人の人間を犠牲にした!?全開という言葉を使えば全てが許されると想っているのか!?」
「何言ってんだ?オラ達と戦える奴ら何てそりゃ全開じゃなきゃ務まらんだろ?」
「ならば貴様一人で無限獄でにも堕ちろッ!全ての人間の意思を代表して俺が貴様を殺すッッ!!」
「オメェがオラを殺すってか……寝言は寝て言えよベジータ……ッッッ!!」
瞬間、拳と拳が衝突しそれだけで爆発が起きる。
正確には爆発など起きていない、有り余る力の衝突が爆発のように感じるのだ。
この戦いは正に全開の始まり。
拳と拳の激しい応酬の繰り返し。
逸れて顔や身体にも直撃するが関係無く拳を打ち続ける。
覚醒したベジータと魔法少女と死神の戦いにより力を消耗しているカカロット。
それでもカカロット優勢に変わりはないが流れは確実に変わっていた。
ベジータが先手を狙い気弾を収束、瞬時に爆発。
瞬間移動を封じられているカカロットは両腕を交差させ防ぐも全てを防ぎきれない。
背中に受け継ぐ未現物質の翼を展開させ爆風を払い除け飛翔。
加速を利用した蹴りを放つもこれを捕まれ逆に投げられる。
気弾の追撃を翼で身体を包み防御、衝動が身体に走るもこれぐらい耐えるべき。
ベジータは立ち止まらない――全ての思いと希望のために。
私に出来ること。
私に出来ることは何なのか。
全開と呼ばれる力も持ってない。
本来の力も使えない。
今の私は一般人もいい所。
友達が死んだ。
先輩も死んだ。
私に出来ること。
私に出来ること。
私に残っているもの。
それは魔力。
この魔力で何が出来る。
私に出来ること。
「私の魔力――つまり私の魂も使って、まどか」
今私に出来ること。
私の約束はあなたを救うこと。
それはもう叶っていた――別のあなたに出会うことによって。
交わした約束は果たされ今の私に戦う理由はない。
悲しいことに戦力が乏しく力不足のお荷物――最初の頃を思い出す。
あなたを救うために契約してこの力を手に入れた。
巴さんやあなたと修行して――何度も、何度も繰り返して。
信じてれば奇跡は起こせる、起こしてみせる。
どんなに大きな壁があっても超えてみせる――そう祈っていた。
そうして私たちは惹き寄せ合うようにこうしてまた出会えた。
未来を描く必要も無い――私はもう立ち止まっている。
あなたに出会えた時点で私の人生は一つの終着点に着いた。
もうこの世界に未練はない――だから。
「ありがとうほむらちゃん……あなたの覚悟を無駄にはしないッ!!」
あなたの笑顔をもう一度見られて満足だから――。
暁美ほむらの姿は魔力として紫の美しい光となった。
暖かい、何て暖かい光だろうか。
暁美ほむらの魂の暖かさに触れ力を手に入れたまどか、哀しみの涙を流すまどか。
「ごめんねほむらちゃん……どの世界でもあなたに迷惑をかけて……ごめんね……ごめんねッ!!」
あなた一人に負担をかけて何度も、幾つもの世界で戦わせてしまった。
その最後もまどかは概念となり手の届かない存在となってしまった。
暁美ほむらにはたくさんの運命を背負わせてしまった。
「僕が集めた希望の力も魔力に変換終了……遅くなってすまない」
契約で集めた希望の力、魔女になる時に生まれる絶望の力。
それらを全て魔力へと置き換えまどかに託すキュゥべぇ。
本星が破壊された今バックアップもなく、彼等を構成する力の供給もない。
遅かれ早かれインキュベーターは消滅する――死ぬのは怖くない。
(今までたくさんの魔法少女を結果として殺してきた僕が死を拒むなんて許されないさ)
キュゥべぇの身体も魔力と成りて消滅していく。
最後の最後に魔法少女達の力に成れて本望だ。
きっと別の個体、ベジータに全てを託したあの個体も満足して逝ったのだろう。
マミ、杏子、さやか、ほむら……君たちには本当に申し訳ない。
これで全てが許されるとは思っていない。
だけど僕はこの身を捧げようじゃないか――最後の希望って奴に。
「後は頼んだよまどか――この世界を救うのは救済の女神である君にしか出来ない」
暁美ほむらとキュゥべぇの力を受け取った鹿目まどかはもう涙を流さない。
全ての決着を付ける時が来たのだ、泣いている暇はない。
過去から繋がるこのバトルロワイアルに終止符を討つ時が来た。
カーズを始めとする以前の参加者とほむらを始めとする今回の参加者。
全ての意思を引き継ぎ鹿目まどかはカカロットへ立ち向かう。
この戦いを上空から見守っていたのはエルエルフと流木乃サキ、そして田所恵。
シャルロッテの背中から全てを覗いており戦う力がない彼等は何もすることが出来ない。
「この戦いどっちが勝つんでしょうか?」
「カカロットが勝てば俺達は死ぬ……それだけだ」
田所の疑問を簡単に流すエルエルフ。
彼の見積もりではどう考えてもカカロットが優勢。
今は休んでいるが勇次郎も控えている所を考えると対主催の降りは圧倒的。
そしてカカロットが勝ち勇次郎と一騎打ちが始まった場合おそらく勝つのはカカロットだ。
どっちにしろここでカカロットを殺さなくては全てが終わる。
ハルトが死んでから流木乃サキは哀しみの連鎖から抜けださていなかった。
元より彼とヴァルヴレイヴが無ければ未来など無く軍事利用されるだろう。
エルエルフはハルトから託され導くつもりだろうが流木乃には信用できなかった。
下を覗きこむと一人勇次郎に向かって歩いていた。
誰だろうか――カズマも己の世界に戻り、クロスゲートも封鎖された今生き残りはカカロット周辺に集合している。
見たことのない人間、つまり正規の参加者だろう。
その身体は全身を真っ赤に染め上げ今にも死ぬ空気を漂わせる満身創痍。
でも、どこか見覚えがあるような――!!
「お願いシャルロッテ!!彼処に向かって!!」
流木乃の叫びに応じて降下を開始するシャルロッテ。
「おい、何を考えている!?」
「アレを見て」
「ただの参加者の一人――!?」
「あ、あの人ってもしかして?」
「確かめる必要がある……か」
何が歩いているかは分からない。
だがその心を知っていた。
再度向かってきた愚地独歩を吹き飛ばし首を鳴らす勇次郎。
魔法少女を一人で片付けたカカロット。
抱く感想が羨ましい、俺も強い奴と戦いたい。
そして今はベジータと鹿目まどかを同時に相手にしようとしていやがる。
「俺も混ざるしかねぇじゃねえか……喰わせろ……ッッッ!!」
吹き飛ばした愚地独歩は動かない。
死んでいるわけではないが立ち上がる力も残っていないだろう。
武神と呼ばれた漢も世界を超えれば弱者に過ぎん……実に退屈した相手だった。
「――!?」
そんな強者を追い求める勇次郎の目の前に一人の漢が立ち塞がる。
その姿は何度も――腐るほど見てきたあの漢。
理解が出来なかった。
地上最強を超えた勇次郎でも今の状況は理解できない。
こんなの奇跡や魔法でなければ――。
「そういや奇跡も魔法も存在する……か」
ならば目の前の漢と戦うのに理由はいらない。
繰り出す拳と合わせて迎え撃つ拳。
突然現れた漢の力はとても貧弱で簡単に吹き飛んでしまった。
満身創痍の身体で受け身を取ることも出来ず転がり続けていた。
「弱いッ!貴様の力はその程度か■■ッッ!!」
勇次郎の怒号に答えるかのように立ち上がる漢は再度蹌踉めきながらも走りだす。
跳躍し顔面に飛び膝蹴りをかますも避けられ大地に激突。
生きている左足で勇次郎の足を払うも硬い彼の足を払うことは出来ず己の足に走る激動。
勇次郎は漢の髪を掴み上げ顎を高く固定すると勢い良く蹴り抜く。
顎を跳ねられ天空高く飛ばされる漢だが瞳は生きている。
0,5秒。その瞬間を狙いバックに閉まってあったレヴァンテインを投げつける。
勇次郎の左肩に深く突き刺さるのを確認しながらも大地に身体を叩き落としてしまう。
痛みに耐え切れず呻き声を上げるが嫌がる身体に鞭を打ち再び立ち上がる。
勇次郎は肩に刺さるレヴァンテインを引き抜きじっくりと眺めた後水平に持つ。
そして膝の打突点と一致させると剣を終着点に膝と腕を交差させる。
簡単にレヴァンテインは折れてしまい残骸を捨てる勇次郎。
「まさかこれで終わりじゃないだろう……邪ッッッ!!」
鍛えぬかれた脚力からの奇襲のような跳躍から繰り出される飛び膝蹴り。
これが本物の飛び膝蹴りだ――受け取れ。
漢は顔面から直撃し再度大きく吹き飛ばされてしまう。
弱い、弱すぎる。
この局面でこの戦力の低さは信じられない。
こそこそ隠れていても有り得ない程の弱さ……本来は違う。
満身創痍、慣れない環境での戦いで己の力を発揮できていないのだ。
そんな相手と戦い怒り狂う勇次郎――その顔は笑顔。
敵が弱く怒っているのは確かだが純粋に戦闘を楽しんでいる。
まるで■と■の喧嘩のように――。
駆けつけたシャルロッテはある程度距離を取り勇次郎の戦いを見つめる。
流木乃は確信した――あの男は■■■だ、生きていると。
でもあの状況からどうやって脱出したかは分からないし容姿が違う。
いや、あの力を使っているのならば容姿が違うのも納得できるが本体は何処に行ったのだろうか?
「イデが侘びを入れたのか――しかし」
「エルエルフあれは■■■だよね!?生きているんだよね!?」
「ああ……だが期待はするな。あれは■■■であって■■■ではない」
そして漢は立ち上がり再び勇次郎と向き合う。
何故戦うのか――そんなこと拳に聞け。
「おい――お前は何故戦う?」
勇次郎の問に答えることもなく歩み寄る漢。
フラフラでやっと辿り着き拳を伸ばすも力が全く入っておらず意味が無い。
逆の拳で腹に打ち込むも同様に「ぽすっ」と言う腑抜けた音だけが響く。
もう再び拳を握る力もない――生きた屍。
「戦う力もなくただ生き続ける生きた屍――お前は何を見ている?」
再び問いかけるが答えが返ってくるわけもなく息を吐く漢。
勇次郎も諦めたのか大きく腕を振り上げる。
もう立ち上がれないように脳を打ち砕くかのように粉砕させる。
そうすれば自分もカカロット達の極上の戦いに参加できる。
死ね。そう呟き腕が振り下ろされた。
「――地上最強」
「!?」
腕が脳に触れる直前に己の腕で防ぐ漢。
そんな力は何処から出てくるのか、勇次郎の腕を払い除け渾身の回し蹴り。
勇次郎の顔面を吹き飛ばし格闘での初打撃を見舞いした。
「やれば出来るじゃねえか……■■ィィィィッッッ!!!」
満面の笑みを浮かべ拳を顔へ――お返しを放つも躱される。
ならば、そのまま肩を掴み骨を粉砕、追い打ちでぶん投げる。
吹き飛ばされる漢は次の一手を考えていた。
勇次郎に勝つには生半可な攻撃では勝てない――全開を放たなくては。
「何を考えている――邪ッッッ!!」
まだ空中に浮いているはずなのに勇次郎は上にいた。
全速力で走る彼は飛ばした漢に追いつきその腹の上に着地。
漢は大地の衝撃と勇次郎の攻撃の板挟みにより大量に吐血。
骨の折れる音、内臓が潰れる音、壊れてはいけない物が壊れる音……正に地獄絵図。
「お前何者だ――■■じゃねえのか?」
その漢はあまりにも弱すぎた。
本当に知っているあの漢かどうか分からなくなってしまう程に。
だがその容姿、その顔立ち、その気迫、その魂は本物。
勇次郎は確認を求めるが漢は口を開かない。
先程聞こえた『地上最強』の言葉を幻聴だったのだろうか、ならば興醒めよ。
少しでも期待した己が馬鹿に見える……もう此処で終わらせよう。
最後にはこの拳で顔を粉砕して忌々しい記憶ごと消し去ってしまおう。
■■はイデオンとの戦闘で死んだ――もうこの世にはいないのだから。
忘れちまったのか?
「――!?」
まただ。
この声、この言葉は耳に残るこの声は正に■■のもの。
しかし――ならこいつは?
そう悩んでいると顎を蹴上げられ後ろに後退する勇次郎。
この力は――。
「お前は一体何者だ!!」
「僕は時縞――――――――
――――――――自分の息子の顔も忘れちまったか親父?」
後に地上最強の称号を手に入れる漢、範馬刃牙此処に在り。
そうかやはりお前は刃牙か――分かっていたさ。
「よく言ったな……身体を借りているならばその持ち主に恥じぬ行い……見事だ」
「親父……アンタ何言ってんだよ?」
「最後まで刃牙でいるつもりか……見事だ時縞よ」
「――でもすいません、イデの限界です、僕はもう死にます」
「心配するな……ソウルジェムが砕けている今、俺も死ぬ」
最後に伸ばした拳は互いに交差しそれぞれの意思を相手に響かせた。
時縞ハルト。
その最後はイデの介入により範馬刃牙の身体をジャック。
イデの侘びにより一時的にこの世に魂を宿らせ範馬勇次郎の夢を叶えた。
範馬勇次郎。
その最後は仮初の魂であるが息子である範馬刃牙と戦い終了。
彼がキュゥべぇと契約した願い。
『息子との決着』
この願い故に彼はソウルジェムが壊れてもこの世に生き続け全開に辿り着いた。
そして願いが叶った今、その魂は在るべき所に還る――。
地上最強の漢、その最期は息子との夢を果たし笑顔のまま――逝った。
時縞ハルトの最期が確認されたと同時に消え始めるエルエルフ達。
どうやらイデは彼等を元の世界に帰すつもりだ。
残されたマギウスは何を想うのか――。
世界を暴く彼等の戦いはまだ終わっていない――。
さぁ、これで残るのはカカロット――最終決戦の幕開けだ。
互いの拳が顔と顔に届き両者大きく身体を吹き飛ばす。
ベジータは翼を羽ばたかせカカロットに向かい身体を反転、蹴りをかます。
カカロットはこれを掴み天に放り投げ気弾で追い打ち、しかし翼で防がれる。
予想の範囲内であり距離を詰め腹に拳を、反対の腕に気を溜め爆発。
この距離、この速度の攻撃を防げる筈も無くベジータは爆発で吹き飛ぶ……爆発寸前に気弾を飛ばしカカロットにも損傷有り。
体制を立て直すベジータの傍には魔力を全開まで磨きあげた鹿目まどかの姿があった。
「ベジータさんお願いがあります」
そう告げるとカカロットに聞こえないように耳打ちするまどか。
別に聞かれても問題ないが後の不安を取り除きたいため耳打ちに。
これを聞いたベジータの表情は驚きの色一色。
彼にはこんな事思い付かないし、付いたとしても実行できるのは神の領域に限定される。
そして顔に笑みを浮かべる――前にも同じような状況があったことを思い出し。
「分かった――失敗するなよ?認めたくないがあいつは強い」
「全ての人の希望を受け取ったんです――失敗は許されません」
そう告げると二人は互いに拳と拳を突き出す。
何の縁かここまで生き残った最期の戦士――共に全力を着くそうでは無いか。
二人共どんな感情かは測り知れぬが笑顔を浮かべ動き出す。
ベジータは再びカカロットに羽ばたき戦闘を仕掛ける。
鹿目まどかは一つの矢を張り詰め天高く放つ。
放たれた矢は空中に大きな魔法陣を展開――夕焼けに色を刻み込む。
魔力の知識が無くても分かる程の魔力反応が魔法陣から伝わりそして。
一本の矢が無数の矢と化しカカロットに降り注ぐこの技は鹿目まどかの技。
「何処に居たってあなたを逃がさない、降り注げ!天上の矢!!マジカルスコールッ!!」
天井より降り注ぐ無数の矢がカカロットを殺さんと発動。
カカロットは躊躇いもなくかめはめ波を放つ。
矢を全て消滅――奥に聳える魔法陣さえも破壊し来るベジータを迎撃。
死角の裏拳を浴び空中で蹈鞴を踏むベジータだがいち早く距離を取り追撃を防ぐ。
(後は魔力を集中させるだけ――)
キュゥべぇとほむらの魔力を受け取った鹿目まどか。
二人の魔力を変換し受け取るのに時間が掛かったがこれから行う行為にはもう一つ。
普通に戦闘をするならば支障はないがそれではカカロットは倒すことは難しい。
出来たとしても別の『彼』が再び歴史を繰り返してしまう。
ならばここで完全に因果の連鎖を断つ必要が有りそのためには時間が再度必要になってしまう。
「頼みました……ベジータさんッ」
全てはベジータに託されていた。
再び激しい拳の応酬を繰り返すサイヤ人。
神と王の激突はこれまで何度も繰り返されてきた。
やがては戦友になる両者だがその結果は何時も変わらず神の勝利だった。
そして今も神に軍配が上がっていた。
激しい連打の中一瞬の隙を突き狙いベジータの顔面に拳を叩き込む。
蹌踉めく間に懐に潜り込み腹に拳を一発。
血を吐いている間に気を集中、ゼロ距離で爆発させベジータの身体を天に飛ばす。
追撃の手を休める暇なく気弾を連打。
ベジータは未現物質を精製、空中に壁を作り気弾を防ぐ。
壁は気弾を吸収後カカロットに倍の力を持って跳ね返す。
この世に存在しない物質を生み出す力――それが未現物質。
幾多の世界が絡み合うこの会場での発動は更に存在しない世界からの召喚となりその効果は無限大。
死して尚垣根が残した遺産はベジータの糧となり勝利に貢献していた。
跳ね返されようが所詮は己の出した気弾であり回避するのに造作も無い。
距離を再度詰め拳を放つ――これに合わせカウンターを放つベジータ。
「何ィ!?」
しかし拳の先には何もなく空を切るだけ。
質量を持った残像を発動させたカカロット――既にベジータの背後を陣取る。
翼の上から蹴りをかましベジータは大地に激突。
その強さは圧倒的である。
カカロットは大地に向けてかめはめ波を。
ベジータは空中に向けギャリック砲を放つ。
全開と全開の一撃は美しい閃光の後に大爆発――爆風が晴れる前に両者は動き出す。
爆風の中でも両者は肉弾戦を展開。
拳を躱し、拳を放つ。
それでも駄目なら足を使い相手を倒す。
喧嘩にしか見えないがその戦闘は世界を天秤に掛ける究極の一戦であり介入は不可能。
「ベジータ……どーせドラゴンボールで生き返るんだ!!新しくやり直せばいいだけだぞ」
「黙れ!!命は貴様が想っているほど安くは――グッ!?」
言葉の最中に拳を腹に貰い身体を折り曲げるベジータ。
カカロットはそのまま拳を組みハンマーのように振り下ろす。
翼を硬化させ威力を軽減するがそれでも衝撃は骨に大きく響いてしまう。
その翼は自由に空を飛び交う蒼穹の証であり垣根の意思――意地が宿っている。
翼から鋭利な羽を展開、それを射出。
「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!」
迫る無数の羽を拳で撃ち落としていくカカロットだが腐っても未現物質。
破壊されてもカカロットの拳に傷を付け損傷させる。
そしてその猛攻を乖離抜けた羽達はカカロット本体に己を刻み込み……。
全ての羽が散った時カカロットの身体は真っ赤に染め上がっていた。
「どうした界王拳でも使っているのか?」
「テメェ……ッッッ!!」
だがベジータに挑発できるような余裕は存在しない。
王の挑発は神に対する冒涜であり逆鱗に触れる。
溜めの動作を一切見せず瞬速でかめはめ波を放つカカロット。
その速度故に気づいたのは自分に触れる直前。
「チィッ!!」
己の気弾を己に当てることで爆発的な初速で範囲から離脱。
自分に気弾を当てるのだから威力を抑えたと言っても腐っても気弾である。
少なからずダメージを受けてしまうが仕方がない。
それにかめはめ波を完全に避けたわけではなく一部が左腕に掠り荒々しい生傷が誕生。
しかしながら今更傷など気にしても遅すぎる――命の心配をしろ。
大地を転がりながらもカカロットの位置を見失ってはいない。
立ち上がりと同時に大きく翼を展開させ飛翔。
空中で旋回し両腕に気を集中させ構え――次の瞬間。
「ビックバン・アターーーークッッッッ!!」
渾身の気弾を放つ。
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
カカロットは拳を気で纏いビックバン・アタックを跳ね返した。
「くそったれええええええええええええええ!!」
次の瞬間気づけばベジータは花火のように舞い上がっていた。
「お願い、早く、早く!!」
弓に全開の魔力を込める鹿目まどかだがその威力故に展開まで多くの時間を有してしまう。
このまま遅くなってしまったらベジータも彼女たちと同じように。
ゼブラ、黒崎一護、巴マミ、佐倉杏子、美樹さやかのように死んでしまう。
そうなってしまっては意味がなく散っていた魂に、魔力を託したキュゥべぇと暁美ほむらにも申しが立たない。
しかし焦って早くなる物ではなく寧ろ焦ってカカロットに防がれては元も子もない。
今は耐える――最期に向けて耐える時。
「――ッ!?」
何度も起きる閃光そして爆発。
その一つ一つの度にベジータはダメージを蓄積していき破滅へのカウントダウンが加速する。
そんな中爆風が風で無くなった後にキラリと輝く一つの点。
カカロットに気付かれてしまった。
「しまった――今狙われると全てが無駄になっちゃう!?」
微笑みを浮かべながらこちらに迫るカカロット。
気功の技なら距離があるため対処できるが近距離でなら不可能。
魔力を集中させている今過度な動きだけで中断――最悪の場合二度と仕留める機会を失う可能性もある。
しかし防ぐ術はない――もう誰もこの空間には生きていない。
「させるかああああああああああああ!!」
横からベジータが全速で割り込みカカロットの腹に拳を一発。
翼で加速を促し相手を吹き飛ばさず拳をめり込んだまま遠くまで運ぶ。
「ファイナルギャリックキャノン!!」
その拳から気を放出させカカロットの腹に爆発をお越し大地に叩きつける。
そこには初めて悪魔がクレーターの中央に倒れているのが確認できる。
「こっちは任せてお前は自分の使命に専念しろォ!!」
ベジータの咆哮に鹿目まどかは頷き弓を再度張り詰める。
全ては最期のために――このふざけた殺し合いを終わらせるために。
「オラは怒ったぞベジータアアアアアアアアアアアアアアア!!」
怒りに膨れ上がるは大量の闘気、体中から放出し大気を揺るがす漢。
「今更か……貴様に巻き込まれた参加者も同じ意見だぞ!!」
その刹那――カカロットはベジータの背後に瞬間移動をしていた。
巴マミが封じた魔法も自力で解いたカカロットはそのまま拳をハンマーのように振り下ろす。
そのまま下に移動、ベジータが大地に落ちるよりも前にその身体を蹴り上げる。
上空に気弾の連発――全弾命中。
そして最期にもう一度瞬間移動でベジータの頭上に移動し頭を掴む。
そのまま大地へ直行し触れる寸前に地面にぶん投げた。
「ガハァ!?……ちくしょう……ちくしょうッ!!」
大地に何度も拳を放つベジータ。
何度戦っても俺はカカロットに勝てないのか。
今まで何度も修行を重ねた、ブルマにも協力して貰って取り組んでいた。
しかしセルの時もブウの時も最期はカカロットに全てを託すしか無かった。
カカロットが敵にいる今、ここはベジータが踏ん張らなくては世界が終わってしまう。
だがどうすればカカロットに勝てる――この全開の超越者に俺はどうしたらいいのか。
「そんな弱い意思はもう捨てたはずだ――俺はもう大事な故郷を失いたくない」
惑星ベジータ、そしてカカロットの話では地球も消滅したらしい。
ここでカカロットに負けると全ての世界が危険でありドラゴンボールの使用も危うい。
(ドラゴンボールか……今後は改める必要があるな……)
人の命は一瞬で消えてしまう。
故に人生というのは魅力的である。
その生命を何度も使役するのはいいのだろうか――ベジータが言える台詞では彼の価値観は動き始めている。
命の尊さを知らないあの男に負ける訳には行かなかった。
「もう少し力を貸せ――垣根、キュゥべぇ!!」
再び翼を羽ばたかせ飛翔するベジータの周りに輝く未現物質。
分解の時が迫っていた――。
正義の魂に燃えるベジータだが強くなった訳でも無くカカロットに集中砲火を受ける。
ただの拳、普通の蹴りでも神の一撃は全てが破滅の領域にある。
それに耐える王もまた全開の戦士だがその差は歴然。
骨も折れ内蔵も潰れているのは確実。
魔力と未現物質で構成されている今だからこそ耐えているがもう限界が来ている。
「堕ちろ!!」
最期に蹴り飛ばされた先には鹿目まどか。
このまま衝突しては全てが水の泡――己の身体を無理矢理大地に擦り付け停止。
摩擦で左腕全体に火傷が走り生々しい傷も見えなくなり紅蓮のように染め上げる。
「ベジータさん!!」
「も……もう終わったのか?」
震える声でまどかに語りかけるベジータ。
その身体は限界を突破――気を抜けば死ねる。
しかしまどかは無言……まだ時間が必要。
そしてカカロットは上空で腕を掲げ気を全開に溜めていた。
「この空間全てのエネルギーを吸収した元気玉だ――ちっと時間が掛かるが2分もかかんねえからその間に別れを告げろ」
絶望。
夕日と重なり奇しくも美しく輝く元気玉には全ての絶望が詰まっている。
まどかの弓に灯る魔力も負けない輝きだが足りない――カカロットを殺すには足りない。
ここまで来て全てが水の泡になってしまうのか、死んでいった者達の努力は無駄になるのか。
そんなことは許されない。
やってやる。
不完全ながらもやってやる。
全開に矢を張り詰めるまどか――仕掛ける気だ。
「おい、ここで放ったら――」
「きっとカカロットは殺せないです……でも何もしないよりはッ」
「魔力をすっげー感じるが弱い……オラを倒すには足りねえ」
カカロットやベジータが言う通り完全なる不完全。
それはまどか自身も気づいており、仕方がなく放つ体制に移る。
本当は皆の希望を絶望に染まらせたくない、負けたくない。
でも目の前の壁は高くて、崩すことも無理で――。
コツン。
突然足に当たる金属のような球体。
こんな時に風にでも飛ばされたのだろうか。
瞳を落としてみるとそこには――。
「ど、ドラゴンボール!?」
「まさか……誰が集めた?」
驚きの声を挙げるまどかとベジータ。
全ての始まりでも在るドラゴンボールが確かにまどかの足元に在った。
その数は六個であり願いを叶えるには一つ足りないが魔力の媒体としては十分過ぎるエネルギーを秘めている。
一体誰がこれを、転がってきた先に瞳を向けると一人の漢が倒れていた。
武神愚地独歩。
その生命は既に終生を迎えているが最期の最期にドラゴンボールを回収していた。
回収故にカカロット戦に遅れてしまった独歩。
土御門とスタージュンの主催二人に接触したのは彼だけであった。
それ故にドラゴンボールを託されたのだ。
勇次郎戦で既に心臓は止まっていたが意地でここまで運んできたのだろうか。
それもあるがキュゥべぇが消える直前に魔力で独歩の身体に一瞬の生命を吹き込んだことは誰も知らない真実である。
何にせよこれでまどかの魔力は全開に高まり最期の矢が今放たれる。
「それでも最期に勝つのはオラだ……うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
全開に膨れ上がった元気玉がカカロットの元を離れ全ての生命を消滅させるべく大地に接近。
その威力は正に全開であり何重もの世界が消滅するぐらいの質量は確実に秘めている。
「ファイナル……フラアアアアアアアアアアアアアアアアアアシュッッッッ!!」
黙って見ていられる程穏やかではなくベジータも最期の全開を放つ。
残り少ない気を惜しみなくだし希望の力も未現物質の力も全開にさせ勝負を付ける。
激しくぶつかり合う意思だがカカロットが圧倒的有利。
その速度はお世辞にも遅くなったとは言えず元気玉は進撃を続ける。
「遅くなってごめんなさい――此処から先は私が!!」
まどかは弓に全ての願いと希望を込めた。
この殺し合いに巻き込まれた全ての魂に救済を。
何度も繰り返される哀しみの連鎖に終止符を。
「この殺し合いに巻き込まれた人達はあなたの勝手な願いに巻き込まれた!」
「オラの願いは最高の戦いを繰り広げること……中々楽しめたぞ!!」
「そんな中巻き込まれた人達は誰しもが叶えたい夢を持っていたの!!
海賊王になること、地上最強になること、天下統一、世界を救う使命……あなたはそれを踏みにじった!!
人々の希望を破壊したの!!」
「だからオラは全てをドラゴンボールで無かったことにするそれで解決する」
「人の命の大切さが解らないあなたに世界を生きる権利はないの!!
全開?そんな都合の良い記号だけを使って己を正当化させてるだけの輩に夢を叶える資格何て無い!!」
「言うだけ言ってろよ……オラはもう後に退けねーからよ」
「だからここで全てを終わらせる――運命だろうが全開だろうが関係無い。
私達は皆生まれながらにして立ち塞がる壁を打ち砕く反逆者――私の叛逆の物語を完結させるの……!!」
想いの内を全て言い放ち呼吸を整える鹿目まどか。
横を見るとベジータは笑っていた。よく言った、そう言っているような気がする。
そして全開まで張り詰めた矢を放つ時が来た。
これで全てを終わらせる――!!
「天元突破」
緑に輝くは螺旋と進化の輝き――彼等にも迷惑を掛けてしまった。
「アルティメット」
全開の一撃は究極の一撃――全てを乗せた意思の一撃。
「スターライト」
死者の希望をこの矢に乗せて――絶望を打ち砕く。
「ブレイカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
この物語は夢のような激しい物語――
――終わりもまた儚い夢のように……
空中で激しい激突をする元気玉と希望の全開。
絶望と希望の衝突は絶望の圧倒的優勢。
一度失くした信頼は取り戻すのに大幅な時間を必要とする。
絶望から這い上がるのも同じである。
故に絶望に染まるのは然程難しいことではなく寧ろ簡単。
意思が負ければ人間誰しも絶望に身を委ねてしまう。
ファイナルフラッシュも元気玉の前では簡単に飲み込まれてしまう。
だがベジータの意思は折れない、生き残った者は繋がれた希望を果たす役目がある。
彼の中に眠る垣根とキュゥべぇの意思も死んではいない。
その生命が尽きようとも勝利の先にある未来の為に全開を尽くす。
彼らが時間を繋ぎ止めた結果、鹿目まどかの全開が到着する。
魔法少女の希望とドラゴンボールの願いの力、そして進化の力を秘めた究極の一撃。
過去に行われた殺し合いでも放った高町なのはの意思を受け継いだ全開の一撃。
一つの矢は深い闇を斬り裂く一筋の彗星と成り世界に希望を振りまくだろう。
そんな希望が詰まった全開の一撃を絶望が止められる筈がない。
カカロットは笑っていた。
ベジータは鹿目まどかにこの作戦を聞いた時に昔を思い出した。
魔人ブウとの戦いの時と全く同じである。
カカロットの時間軸からすればその終末は知らないが彼でもきっと同じ事をする。
魔人ブウと言う巨大な絶望に勝ったのはカカロット達。
その決め手は元気玉……ミスターサタンやベジータの協力の結果だ。
世界の人々に力を分けて貰いやっとの想いで放った全開の希望が絶望を粉砕した。
今と全く同じ状況であった。
カカロットと言う巨大な絶望に参加者全ての意思を繋いだ全開の希望。
絶望が希望に勝てる筈がない――この輝きを前にしたら誰でも呟くだろう。
元気玉は矢に貫かれ空中で消滅――矢はカカロットに迫る。
戦ってきた人間全員の希望と一人の欲望。
どちらが勝つかは明白である。
カカロットは笑っていた。
こんな大切なことを忘れていたのか。
本当に馬鹿だ、と。
でも彼は生きていれば気付いていても歴史を繰り返すだろう。
だからここで終るのも彼のためである。
悪魔カカロットの最期は希望の前に倒される結果となった。
孫悟空が最期に思い描いたのは懐かしきあの日々だった――。
「後は私が世界を繋いでみせる――」
最期に生き残ったのは鹿目まどかとベジータの二名。
数多の人間を巻き込んだこの歴史も気付けば二人しか残っていない。
時間で言えば一日も経っていないがとても濃く地獄のような時間が今終わりを告げる。
最初に言わせて貰う。
ドラゴンボールで全てを修復するなど無理だ。
これは薄々ベジータも感じ取っていたが神であるまどかには分かっていた。
これ程の世界を巻き込んだのだ、たった一つの世界の願いじゃ元に戻せない。
復元出来るのは精々一つの世界だけ。
それを決めることなんて誰にも出来ないし誰にも支配権は無い。
そこで鹿目まどかは一つの道を切り開く。
修復が不可能なら新しい世界を構築すればいい。
可能か不可能か――それは行動しなければ解らない。
嘗て全ての世界線から魔女を排除した彼女なら出来るかもしれない――そう願いたい。
ベジータは黙って己に残る力を全て鹿目まどかに託していた。
彼は眠っているかのように静かで笑っていた。
彼は鹿目まどかを信頼している、だから惜しみなくこの世界を後にしたのだ。
瞳を閉じる。
そこには皆で遊ぶ過去の風景。
そして二度に渡る殺し合いに出会った人々の想い出が頭の中を駆け巡る。
もう手に入らないあの素晴らしい日々を私はもう一度手に入れる。
勿論私は今度こそ本当に概念になってしまう。
今回のようにドラゴンボールの力でも介入は不可能だろう。
流石にこれには叛逆出来そうもなく今度こそこの世界から鹿目まどかと言う存在が消えてしまう。
何故だか全く恐怖を感じず寧ろ清々しい。
もし世界の再構築が成功したならもう一度暁美ほむら達の日常が見られるのだ。
だから後悔はない――何て言い切れないけどもう何も怖くないのは本当です。
皆の魂は私が責任を持って世界に届けます。
記憶の不都合は起きないように努力はするけど不備があったらごめんなさい。
……その前に絶対世界の再構築を成功させなきゃ!
もし何処かで出会う奇跡が起きたらそれはどっちも記憶はないかもしれません。
でも笑ってくれたらそれはとっても嬉しいなって。
――あなた達の希望を絶望で終わらせたりはしない――
――だからさやかちゃん、マミさん、杏子ちゃん、ほむらちゃん。
――またね。
【全開バトルロワイアル 終幕】
最終更新:2014年02月23日 16:52