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第6部 - (2007/04/05 (木) 20:59:05) の編集履歴(バックアップ)


54 名前: 共産党幹部(catv?) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 13:34:37.87 ID:FhggKygW0
◇◇◇


ドンッドンッ
扉が強い音でノックされている。

…せっかくの虚無の曜日…
私はこの本を読む。うん。読む。

少し長めだが、性能の良い自分の杖を片手で拾い上げ、くるんと少し廻す。
『サイレント』が発動。
周囲の大気を能動的に制御。瞬時にあらゆる音が消える。


…うん。これで、静かに本を読める。

今日はせっかくの虚無の曜日だもん。

もう私のレベルには届きもしない退屈な授業を聞く必要もない。

でも休日だとサガラに会えない…

本当は『レビテーション』で浮いて取れた本だけど…それを取ってくれたサガラ。
『シュヴァリエ』の称号を持ち、多くの任務をこなして多くのメイジを見てきた
私でも…人間の使い魔なんて初めて見た。とても珍しいサガラ。

ルイズと仲良さそうに話しているのをよく見かける。
キュルケがかっこいいとか逞しいとかうっとりしているのを聞かされる。
これはいつものこと、だけど。

55 名前: 共産党幹部(catv?) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 13:35:15.77 ID:FhggKygW0

サガラ… サガラ。

見たことの無い服装で、高いレベルのメイジや戦士特有の強い瞳で、
粗暴なようで意外と純朴で緻密な人柄…

いけない、1ページ分何を読んでいたのかわからなくなっている。
戻って読み直さねば…

うん。いや、もうやめよう。本の内容に集中したい。

集中集中…

集中集中…

視界の片隅で赤色が動いている。
この色は…

キュルケの髪…
本が奪われた。肩をつかまれて揺すられた。
むぅ…本読んでたいんだけど、でもキュルケだし。

杖を一振り、『サイレント』を解除する。

「タバサ!今すぐ出かけるわよ! 準備してっ」
急に音を取り戻した部屋で、動きを取り戻したオルゴール…
もっと激しく炎のようにまくしたててくる。

56 名前: 共産党幹部(catv?) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 13:35:37.38 ID:FhggKygW0

「虚無の曜日…」
カレンダーを指差す。そう、今日は虚無の曜日なのだ。
私もキュルケも休日は、主に私は本にキュルケは男の子に夢中であり
それぞれの休日を過ごすのが常である。

「わかってる、わかってるわ!でも私は恋をしてるの、恋!
 わかる!?ソースケにこの『微熱』の炎が燃え上がっちゃったのよ!」

ソースケ… サガラか。うん、ここ最近はずっとサガラの話をしていた。
なるほど、今回はサガラに熱をあげたのか。
でも、それがいったいどうして『出かける準備』に繋がるのだろう…
よくわからない。

「あぁそうね、あなたは説明しないと動かないのよね!
 私の恋人(予定)が!愛しき人がっ、あのにっくきヴァリエールと出かけたのよ!?
 しかもっ!しかも1頭の馬に2人で相乗りしてたの!
 私は追いかけなくちゃいけないのよ!
 この『微熱』の燃えるままに!!」

まくしたてるキュルケ。でも私達の間の不文律、キュルケが説明したら、
私が断らなかったら、お互いを可能な限りを超えて助けるという無言の約束…

仕方ない。この本はまた今度… いや、移動中でも読めるだろう。

57 名前: 共産党幹部(catv?) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 13:36:07.27 ID:FhggKygW0

立ち上がって窓際へ向かう。窓を大きく開け放ち、使い魔との感覚をリンクする。
シルフィード。こっち。いくよ。
数秒もしないうちに大空から黒くて大きな影が降りてくる。
それは逆光を脱すると蒼くきれいな体躯を持つ風のドラゴンの姿を見せた。
私の使い魔、シルフィード。
風のドラゴンであり、その両翼は広げると7mにもなる。
ひそかに私の自慢の使い魔だ。

「いつ見ても、あなたのシルフィードは惚れ惚れするわね」
キュルケが褒めてくれる。シルフィードも喉を鳴らして喜んでいるようだ。
私も嬉しい。えへ。

「…2人、どっち?」
大まかな方角でもわからないことには追いかけることは難しい。
虚空を指差してキュルケにたずねる。

「ごめん、わかんない。慌ててたんだもの」
むぅ… でもシルフィードならきっと大丈夫だと、思う。
やれるよね?
シルフィードが頷く。

58 名前: 共産党幹部(catv?) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 13:36:51.51 ID:FhggKygW0

「馬1頭と人間2人。食べちゃダメ」
了解と、でも言いたげに…これはサガラか。
こちらに背を向けるシルフィード。
窓から広い背中に飛び乗る。続いてキュルケも。

すこし鼻をひくひくさせて首を回して周囲を見ると、シルフィードは一直線に
加速を始めた。
忠実で優秀な使い魔が仕事を始めたのを確認した私は、
キュルケの手から本を奪い取り、強い向かい風を小さな魔法で遮りながら、
続きを読み始めた。

…サガラがルイズと、相乗りでどこかに…


内容が1ページ飛んだ。
本に集中。


◇◇◇

80 名前: 共産党幹部(catv?) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 14:48:04.08 ID:FhggKygW0
◇◇◇

トリステインの城下町を、半ば寄り添うようにして俺とルイズは歩いていた。
といっても今あるいているメインストリートは道幅が5m程度で、
さらにはそくに露店や店からはみ出た商品がならび、また多くの人々で
ごったがえしていることもあり、それは必然といえば必然だ。
むしろ離れて歩けば、人の流れに飲まれてはぐれる可能性も否めない。

「む、ここは…いつものこれだけの人数がいるのか…?」
「さ、さぁ…。よく来るわけじゃないnaiからわからないけど…
 でも確かにこれはせまいわね…」

「あぁ、確かに貧民街のメインストリートならこれぐらいの混雑は珍しいことではないが…
 むぅ…」
腰に僅かな違和感があった。迂闊だ。
確かに馬に乗りなれていないということはあったのだが、3時間馬に揺られただけでこの様とは…
この世界での、超常に頼らない交通手段は馬が主であるようだった。
ここに来る途中にも街道で何台かの馬車を見かけた。そして逆に原動機などの
機械を使用した車やバイクなどはひとつも見かけていない。
馬になれる必要があるか…いや、馬になれる前にこそ帰るべきなのだろうがな。


ここで書き手にまさかの規制

ID変更



100 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 15:32:04.06 ID:FoSOhnag0

「ちょっ… 今誰かお尻触ったぁ! ちょっとソースケ!守りなさいよっ!」
「む、すまん考え事をしていた。もし必要なら肩車でもするか?」

「かっ…! ば、ばっかじゃないの!こんなところでそんなことっ、したら… 
 ものすごく目立っちゃうじゃない!それに…私は子供じゃないんだから!」
「そうか、了解した。ではもう少し寄ってあるいてくれ。ご主人」
右腕でぐっとルイズの肩を引きよせ、左手で人を掻き分けるように進む。
事前に説明してもらった道順ならば、ブルドンネ街―――この街のメインストリートを…
あそこだ、あそこから裏通りに入るはず。


…逃げ込むようにしてようやく裏通りに入り、一息つく。
ルイズの顔を胸板に引き寄せてしまったからな、苦しかったかもしれないと思って、恐る恐るに
手をはなす。
だが何故か、ルイズは胸に顔を埋めたまま動こうとしない。
耳が紅く変色している。まずい、これは酸欠の初期症状か!?

「ルイズ!ご主人っ!!意識はあるか!?おい!」
「……ん、ええっ…あっ!うん大丈夫全然なんともないんだからソースケなんてへっちゃらよ!!」

「俺がへっちゃら…?すまん、意味がわかりかねるんだが… そうだ、とにかく」
瞳孔を確認して気分が悪くないかを確認しなくては。
熱射病と酸欠などは併発すれば決して侮っていい症状ではなくなってしまう。

101 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 15:32:29.14 ID:FoSOhnag0

「失礼する、ご主人」
「へっ?あわっ、ちょっあんな何をっ、ってまだ心の準備ができてな…!!」
瞳孔は問題ないようだ。だが若干の発汗と顔面の温度上昇がみられる。まだ安心はできん。

「…ご主人、気分はどうだ?」

「え、あ……あんた何言って…、そのっ…」
「大切なことなんだ、気分はどうだ?ご主人」
先入観を与えると「言われて見れば確かに…」と答えてしまうことがある。
だから俺は通常通り、きわめて冷静に確認の手順を行った。

102 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 15:33:03.03 ID:FoSOhnag0

「ば…ばか。悪くないわ。 でっ、でも!いつもこんなことばかりだと思ったら大間違いよ!!
 私はそんなに軽い女じゃないんだからねっ!?
 ……ソースケ、だけだもん…
 っ!! えぇああ!なんでもないの今のは!!」
両手をぶんぶんと振って問題ないと主張するルイズ。言動に一部混乱が見られるようだが、
その様子を見るに体調を崩しているようには見えない。
相変わらず頬は上気し熱に浮かされたように赤くなってはいるのだが。

あとで水分の補給を進めるべきだな。

「買い物が終わったら、どこかで食事でもとろう。ご主人。」
「ひゃぅ!?え、あ…ま、まぁソースケがそういうならとってやらないこともないわよ。
 いいんじゃないの!」


赤い… やはり病院が必要なのだろうか。


◇◇◇

168 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 17:47:11.45 ID:FoSOhnag0
◇◇◇


こうして何とか武器屋にたどり着いた。
店内には所狭しと剣や盾が並び、弓やフリントロックと思わしき銃も見える。
だがグロック用の9mmパラベラムや爆薬類、暗視スコープ、通信機など、求めるものは当然の
ごとく、根こそぎ存在しなかった。

「旦那…貴族の旦那… ウチはまっとうな商売してまっさぁ。
 目ぇつけられるようなことはひとつもやってませんですぜ」

中東やアフガンなどの武器屋によくいるような小賢しい店主が手もみをしつつ出迎える。

「違うわ、客よ」

「へ?」
店主があっけに取られている。なるほどたしかに。ルイズの格好はマントを羽織った
早朝の豪華な服装。明らかに貴族である。
だが先日受けた説明によれば、貴族は全てメイジであり、メイジはほとんど貴族である
そうだ。
つまり、貴族は全て魔法を扱える。
ならば貴族が武器屋に客としてくるなど…なるほど、想像だにしなくともある。

「…あ、へ、へぇ!
 貴族様が剣をお探しになるとは…
 いえね、僧侶は教鞭を振るう、剣士は剣を振るう、貴族は杖を振るって、
 女王陛下はバルコニーから手をお振りになる…と相場がきまっておりますので、へぇ」

172 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 17:53:51.17 ID:FoSOhnag0

「使うのは私じゃないわ。使い魔よ」

「し、失礼いたしやした。最近は使い魔も剣を振るようで…」
調子のいい店主だ。だがこういった類は上手く組すれば情報を手にするのに重宝する。
金さえ積めばなんとかするタイプだと経験から直感した。

「えぇと、使うのはこちらの殿方で?」
店主がジロジロとこちらを見てくる。商売っ気たっぷりの視線だ。
大方、どの程度のものを売りつけられるかと算段をめぐらせているに違いない。

「ねぇ、ソースケ。何か欲しいの…ある?」
ルイズが上目遣いにたずねてくる。剣にはあまり詳しくないようであり、
それに薄暗い店内とお世辞にも上品とは言えない店主に僅か怯えているようにも
見える。

「…むぅ、見渡す限りでは…
 めぼしい商品はないな。使い物にならん…」
恐らくそこらにささっている剣も製鉄技術の低さで使い物になるまい…

「っいやいやいやいや!!
 見くびってもらっちゃあ困りますぜ旦那ぁ!
 ここにある商品は有名でこそ無いが、安くて最高の品ですぜ!

 この両手剣を見てくだせぇ!『トライアングル』の錬金術師が鍛え上げた
 一品ですぜ!岩石に叩きつけても壊れない最高級の品でさぁ!!」
店主は奥から金で華美に装飾されたバスタードソードを持ってくる。
だが俺はこのような大剣は使えない。それに携帯にも不便だ。

173 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 17:54:14.68 ID:FoSOhnag0

「…ふむ。それなら、俺の持っているこのナイフだが…」
腰に差したミリタリーナイフを抜き放つ。
「このナイフでその剣を叩いてみよう。それで壊れなかったら買ってやる」

店主はにんまりといやらしく微笑み、
「へぇへぇ、そんなちっぽけなナイフにゃあひけはとりませんぜ」
手もみをしながら、明らかに勝ち誇った顔で笑みを浮かべる。

「ねぇ、ソースケ…?」
「問題ない。これはどう見ても…
 ふっ!」
ナイフを垂直に振り下ろす。ガインと金属音が鳴り響き、金色の刀身に亀裂が入る。

「へ、へぇ!?」
店主が狼狽するのを横目に、2度目の金属音が響く。

金色の刀身は中心から完全に真っ二つに割れた。
さらに言えば、恐らくこれは高度なメッキであった。中心につれて色が赤銅に近づいている。

「まがい物だな…」
まがい物であったことを差し引こうとも、
S30Vをフルタング構造で組み上げたタクティカルナイフに勝る商品など元の世界ですら
そう多くは無い。
たしかに魔法という超常手段はあるだろうが、原子に至るまでの成分を分析し
理解しきった現代兵装には遠く及ばん。

174 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 17:54:39.97 ID:FoSOhnag0

「ひぃえ……なんてこった、目玉の品がパアだ…」

「店主、投擲用の短刀は無いか?使い捨てるタイプだ」
「へ、へぇ!投擲用のナイフですね?すぐに出してきまっさぁ!」
怯えたように…いや、真実怯えているのだろう。急に店主の動きが
あせりの混じったきびきびとしたものに変わった。
店主はカウンター奥の棚をあさり、投擲用の小型のナイフやダガーを取り出して
いる。

ルイズは相変わらず、雰囲気がつかめない様子で縮こまっている。
俺の裾を人差し指と親指の腹できゅぅっと僅かに握り締めているあたり、
本当にこういった雰囲気が苦手なのだろう。
投擲用品をいくつか購入し、早々に立ち去ることにしよう。

「店主、まだ……か……
 おい」

「へ、へぇ!いますぐに!」
「違う。そこにあるものはなんだ。いや、それの上だ…
 ボウガン…いや、それは…」

175 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 17:55:08.03 ID:FoSOhnag0

「い、いえね。こいつぁ…貴族の皆様がこぞって魔法を使いなさるもんで
 今じゃ誰も使わなくなっちまいましてねぇ…
 何せ人用に小さく作ったあるたぁいえ、まだまだでかくて重いですから。
 それに弩とはいえ、矢も鉄製。
 決していい武器たぁ言えませんぜ。


 アーバレストってぇ弓を射る武器なんですが。


 ご存知で?」


◇◇◇

224 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 19:02:02.86 ID:FoSOhnag0

あの後、本当にそんなのでいいの?としきりに聞いてくるルイズに頼んで、
アーバレストと矢をあるだけ購入してもらった。
購入してから気付いたが、重くてひどく使い辛い。取り回しの聞く武器ではな
いな。使いどころを考えねば…
連射の可能な武器でもない、威嚇用には使えるだろうが、
メイジは武器を怖がるのか?店主の話し振りでは、
魔法があるからこの武器は廃れたと言っていたが…
だから剣などの発展が遅れているのか?

「おう、お前…懐かしいな!『使い手』かっておい!
 なぁ聴こえてるんだろ おーい!!」

何か視界の隅で錆びた剣がガチャガチャ言いながら声を発している気がするが
気のせいだ。絶対に気のせいだ。いくら魔法の溢れる非常識な世界といえ…
そんなものはありえない。不気味すぎる。
そして武器が喋るという点でアルと似ているのもなにか嫌だ。

そのまま何事も無かったかの用に広場へ向かい、食事を取るのに適当な店を探
していたのだが、尾行の視線を感じ振り向くと、そこにはキュルケとタバサが
いた。

225 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 19:02:39.22 ID:FoSOhnag0

紅く炎のような髪とツヤのある褐色の肌をした美女がキュルケ。
そしてさらにその対称にあたるような蒼色の少女、タバサ。
海よりも空に似た透き通るブルーの髪と瞳をもった、小柄なルイズより更に
僅か低く、華奢な身体と、短く切りそろえた髪にメガネが特徴の恐らくこの
中でもっとも強力なメイジであろうタバサは、
ここ数日、幾度かすれ違い、短い会話を交わしただけの少女だ。

ただ、その数回だけで戦いを経験したものの気配、をお互いに感じ取った
気がしていた。
だがよくわらん。

「はぁ~い、ソースケ。あとルイズも。」
「……」
キュルケはいつもどおりの扇情的な眼差しを送ってくる。
タバサもまたいつもどおり本に没頭している。

「あーら、キュルケ!ここっ、こんな平民の町にくるなんて、
 ずいぶんお暇なのねっ!」
ルイズが適当な扱いを受けたことに大してチクチクと言い返すが、
ここにいる俺と君もその平民の町にくる暇人なのだと言うことに気がついて
いるのだろうか…
227 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 19:02:59.07 ID:FoSOhnag0

「あら、暇じゃなくてよ?
 あたし、ソースケにデートのお誘いをしようかと思って。

 ねぇソースケぇ。私だったら、こんなヴァリエールの小娘と違って、
 あなたの欲しいものも何でも買ってあげるわよ~?
 ねぇ、一緒に街を周って下さら…な・い?」
むぎゅ
キュルケの豊満というにはあまりにも十分すぎる胸が二の腕に押し付けられ、
片腕を絡め取られる。まずい。まずいまずいまずい。
戦士の感覚が告げる。早く逃げろと。
だが身体は自分のものではないぐらいに硬直してしまい、
全身の毛穴からいやな汗がぶわっと吹き出る。

「ままっ、ままま待て!おお俺はっルイズと!そうだご主人と!
 この後も予定があるのだ!だから君と行くことはでででっできん!!」
声が裏返っているのが自分でもわかったが、直し方を知らないので
そのまま伝えたいことだけを伝えるしかなかった。

キュルケは妖艶に微笑み、
「ね・え。
 私と周ってくれるなら、こんな貧乳の小娘と違って
 楽しませてあげるわよ…」

「だだだっだからだな…!!」

228 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 19:03:24.64 ID:FoSOhnag0

「なぁ~にやってんのよ……!」
一瞬千鳥かと思うほど地を這うような低気圧なのに圧は高いという
謎の驚異に晒される。
うむ、色んな意味で懐かしい。
などと現実逃避をしているうちにビシィッという音がして

キュルケがあとじさる。

「なっ…!何するのよルイズ!!
 このあたしの手を叩くなんて…!」

「ソースケが困ってるでしょうがっ!!
 コイツは私の使い魔っ!ツェルプストーのアバズレには一片たり
 とも渡さないわ!!」
む、叩かれるのは俺かと思ったが…
キュルケには気の毒だが、これもまた…ここまでで勝ち取った信頼だ。

229 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 19:03:47.26 ID:FoSOhnag0

最近は、…ルイズとの暮らしも苦に感じることは無く…いや、むしろ
楽しささえ感じられる。
ここの暮らしは平穏だ。
強力な武器がそもそも存在していないからこそ、ある程度の気が許せる。
日々はのどかで、何の心配もせずに生きていられる。
ルイズもころころと表情が変わる様はかわいらしく、魅力的な少女だ。

……ミスリル。

……千鳥。

……アル。
……大佐殿。
……少佐、クルツ、マオ…
……風間、常盤、林水閣下…


……俺は…


「大丈夫?ソースケ…? どうかした?」
「あ、あぁ…。問題ない」

230 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 19:04:09.59 ID:FoSOhnag0

気付けばキュルケは、いくつかの決まり文句を残してタバサと共に
帰ったようだった。
ルイズは、険しい顔をしていたであろう俺を覗きこみ、
心配そうに眉をしかめていた。

「問題ない。あぁ……問題、ない。」

「そう。安心したわ。
 じゃあ行きましょう。
 はっ、はぐれ…っないように!!はぐれないように!
 手を組んであげる!
 使い魔なら、ちゃんとエスコートしなさいよね」

満面の笑みを浮かべて腕に組み付くルイズ。
契約を済ませたころから、徐々にだがこの世界の文章も読めるようになってきた。

…適応してきているのか。


右腕に温かみを感じながら、胸に僅かな空虚を感じていた。


◇◇◇

282 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 20:06:39.69 ID:FoSOhnag0
◇◇◇


少し前からルイズの様子が変だとは思っていたが、
ここ最近はその感覚も短くなってきている。
今ではむしろこちらこそ普通といえるぐらいの頻度だ。

ルイズは、毛布やマットまで揃い、ずいぶん快適なった俺の寝床を見て、

「も、もし寒かったら…『こっち』で一緒に…
 って、ああああ!!なんでもないの!
 気のせいっ!気のせいだから!
 いーから寝なさい!!」

などと言う。確かに護衛という範疇では最適とも言えるが、
それは色々とまずいので自分から諦めたのはある意味安心した。

ルイズは、人気の無い廊下を異動している最中に、

「て、…手!
 繋ぎなさいよ。いいのっ!
 繋ぐだけなんだから!
 貴族の私が手を繋いで上げるんだから、光栄に思いなさい!

 ってあっ、きゅっ、キュルケ!?
 違う!違うの!手なんか繋いでない!
 コイツはバカで体温が高いから… なーんーでーもーなーいーっ!!」

などと慌てふためいたり。

283 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 20:07:15.71 ID:FoSOhnag0

それ以外にもいくつかの事例があったのだが、もはや珍しいことではない。
あぁ、わかる。
俺はもう、知っている。

これは好意というものだ。

俺には不慣れな、そう…ひどく不慣れな暖かい感情を向けられている。
そして、それが心地よいことも俺は知ってしまっている。
千鳥……そして、大佐殿…

そして、この頃から『土くれのフーケ』という名を、噂で耳にするようになった。
貴族から金品や財宝を巻き上げているらしい。
さらには、高度なレベルのメイジであるという話も聞く。

俺には関係ないことだが、
ただひとつ、それと同時に、この学園には『破壊の杖』と呼ばれる単一品の宝物が
あるという話を聞いた。フーケがそれを狙っているという話もあるのだ。

盗賊、か…
もしここを狙うようであれば俺も動かねばいけないだろう。
宝物庫の周囲にトラップを設置しようとも思ったのだが、相手が高度なメイジで
あるということが二の足を踏ませた。
俺は、今まで『元の世界での戦い』しかしたことが無い。
『魔法使いとの戦い』など、想定すらしたことが無い。
ギーシュとの戦闘はあったが、あれもただの対複数のケンカ程度に過ぎない。

284 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 20:07:49.79 ID:FoSOhnag0

図書室で調べたり、各教諭・校長殿に協力を仰いではみたのだが、
そういった話を聞いた者すら見つからないという状況だ。
校長殿は何か知っていることもあったようなのだが、最近は何かと仕事がある
らしく、話をする機会も無い。
シエスタ達、使用人の皆にもあたってはみたのだが芳しい結果は得られなかった。

いよいよ、この学園では手詰まりになったかと思ったその日。


目覚めた俺は、何故か地上30mの塔からロープで吊り下げられていた。


なぜだ。


◇◇◇

323 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 20:45:08.30 ID:FoSOhnag0
◇◇◇


あぁもうばかばか。なんなのよ。
キュルケが突然、ソースケを賭けて勝負だとか、本当に主人なら
ちゃんとその実力が見合わないとダメだとか、あなたにソースケは
つりあわないだとか言ってきて、
いつも通りキュルケに言い返してただけなのに、
全然自分でもわからないほど引っ込みがつかなくなって…
しかもタバサがやけに手際よくソースケを眠らせてあんなところに
吊るしはじめた…

キュルケが言うには、あのロープを魔法で切ってソースケを助けた
方が勝ちでソースケに相応しいって…

ソースケは、ソースケは……私の使い魔だから!
私の使い魔なんだから…!


324 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 20:45:45.84 ID:FoSOhnag0

「『ファイヤーボール』っ!!」
ドガァァッン!!
ソースケの後ろに見える塔の外壁が爆発した。失敗!
本当の『ファイヤーボール』なら…

「おーっほっほっほ!ロープじゃなくて壁を爆発させるなんて…
 流石はゼロのルイズね!
 『ファイヤーボール』はこうやるのよ!!」
『微熱』のキュルケの振るった杖の先から、
メロンほどの大きさの火球が飛ぶ。

それは一直線にソースケを縛るロープに向かい…

「うおおおおっ!むんっ!!」
ソースケが必死に反動をつけて動いたため、ロープも一緒に動き、
キュルケの放った火球はあえなく後ろの塔に当たって炸裂した。

「へ…?」
「はぁ…?」
「……」
私、キュルケ、タバサ…三者三様に、目の前の出来事に呆けていた。
だって、だって…

326 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 20:46:15.53 ID:FoSOhnag0

「ソースケっ! 私のために、避けてくれたのっ!?」
うぅ、まずい。絶対私耳まで真っ赤になってる。急に体温が上がって
空気を冷たく感じるもん。
もうばかばか、ばかソースケ。なんでこういうことしちゃうのよ。
私、私…!


「いや待て、落ちたら死ぬ!」

「……は?」


「ロープが切れたらどうなると思っている!
 いくら下が芝生とは言え、この高さでは助からんぞ!!」


◇◇◇

336 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 20:53:09.13 ID:FoSOhnag0
◇◇◇


あ、危ないところだった…
なぜあの2人は俺を狙って…いや、きっとロープを狙っているのだろうが
それでも同じことだ。
意味がわからない。なぜ俺が命を狙われなければならない。
メイジなら浮遊できる魔法で助かるのだろうが俺はただの人間だ。

はっきり言ってこの高さでは助かる理由が思いつかん。
完全に絶体絶命だ。

「早くおろしてくれ!何か悪い点があったなら直す!
 俺はこんなところで死ぬわけにはいかない!

 ルイズ!ルイッ…… な…っ!?」



 ルイズ達がこちらを見上げたまま硬直している。
 その視線が俺と合わないところ見ると、更に後ろに何かが…



――――そこには、岩山が立っていた。


◇◇◇ 

まだまだ進行中…

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