タイ

  • 日本書紀』巻八、仲哀天皇二年夏六月、角鹿(つぬが)より発って
   渟田門(ぬたのみなと)に来た神宮皇后が船上で食事していると、
   かたわらに鯛が多く出た。皇后がその鯛に酒を注ぐと、鯛はみな酔って浮かんできた。
   漁師たちはこの鯛をやすやすと獲り、喜んで「聖(ひじり)の王(きみ)の賞(たた)へる魚」
   と呼んだという。以降6月ごとに、その海ではタイが酔うように浮かぶという。
   日本書紀ではこれを「海鯽魚」と表記している。

  • この「浮きダイ」現象は実際に観測される。広島県豊田郡幸崎町(現三原市)能地付近の海で
   春季に見られるという。
   一説に、春に外海より産卵のために瀬戸内海に入ってくる鯛が、能地近くで急潮に流され
   体の自由を失い、急に深みから浅瀬に流され、浮袋内のガスが膨張して浮かび上がるという。
   明治末期、浮きダイ専門の漁師が一漁期に50~60貫獲ったという記録が残る。

(『世界大博物図鑑 魚類』荒俣宏)


最終更新:2012年04月13日 17:27