歩兵(軍事)

登録日:2011/01/30(日) 18:01:05
更新日:2024/03/12 Tue 15:52:31
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彼らはこれまでの
全ての戦争と共にあった
そしてきっと
これからも




ほへい

軍隊における前線戦闘部隊のうち、戦場において徒歩で戦い移動する兵士の部隊のこと。
あくまで戦場での移動・戦闘方法が定義なので、戦闘までに馬等の家畜、輸送車両・装甲車両、航空機を使っても徒歩で戦闘すれば歩兵である。

古今東西おおよそ全ての軍隊において存在し大きな割合を占め、またその根幹・主力をなす兵種。

主な武装は古くはなどから、手榴弾、軽量な砲、とにかく人間を傷付けたり脅したり殺したり出来るものである。
その場に落ちているものをとっさに拾って武器にできるのも歩兵ならでは。その極致がIDE:即席爆発物である。
を持つ場合もあった。



【歩兵の意義】
―陸戦の女王として―

前述の通り歩兵は太古から存在した。
古くは騎兵が猛威をふるい闊歩する時代から、艦隊が鉄の暴風を巻き起こし、砲兵が大地を抉り、戦車や装甲車が蹂躙し、
航空機が音速を超えてミサイル・爆弾を雨霰と投下する現代までもだ。

それらに比べれば歩兵は如何にも脆弱で、矮小で、とるにたらない存在に見える。にもかかわらず、歩兵は戦場で戦い続けた。


いったいどうしてだろうか?




それは、唯一歩兵だけが「占領が可能」であることに他ならない。

戦争が人間同士の争いである限り、最後には敵を屈服させなければならない。
それに必要なのが敵地の支配――敵の自由の剥奪――、即ち占領である。
ただ殲滅するだけでは、やがて敵は戦力を回復し、何度でも反攻してくるだろう。
陣地でも、拠点でも、市街でも、敵の支配権を隅から隅まで追い出し、監視・警戒し、管理する。
こうして四肢を奪って初めて、敵は降伏するのだ。
そこで必要なのは、空舞う超速でも、重厚な装甲でも、全てを引き裂く火力でもない。
面を支配する数、柔軟な運用能力、敵味方を判断する頭脳、対人交渉能力。
戦車や航空機や艦船や、まして無人兵器には無いこれらの能力を必要とされる。
穴蔵に籠った敵を引きずり出せるのも歩兵のみである。

遥か彼方の昔より姿形や付加される任務こそ変われど、この本質はまったく変化していない。
故に歩兵は常に存在してきたし、これからも存在し続けるのだ。
たとえ戦場が宇宙になろうとも、巨大兵器や超兵器が世界を席巻しようとも。

戦場の女王と呼ばれる理由である。



【歩兵の特徴】
●占領が可能
長々と書いてきたので改めて書かないが、重要な点である。

●柔軟な運用能力
人が生きていられるところなら、山でも森でも川でも沼でも砂漠でも氷河でも歩兵は存在しうる。
能力が激減する場合もあるが、まったく行動不能となる他の兵科(戦車、砲兵、航空機等)と比較にならない適応能力である。
また、最悪一名でも行動可能であり、部隊の分割・統合も柔軟に行える。
そして、人間に行える行動は大体可能ということ。
被災地復旧から治安維持、土木作業等、専門部隊より劣るものの戦闘・占領以外にも様々な任務をこなすことが出きる。


戦闘兵種としては火力(攻撃力)・直接的な防御力は低いものの、地形を生かして防御的な運用が向いている。



【歩兵の歴史】
前近代における軍の成立と歩兵の出現はほぼ同一といっていいだろう。
社会制度や兵種自体の少なさから占領という本質より兵力・軍そのものとの見方が強い。



〈古代〉
初めは単に粗末な武装をもった徒歩兵だったが、
社会制度の進歩から、西洋ではポリス社会に於いて商業平民階級が貴族のみで構成された騎兵・戦車兵(チャリオット)に対抗して、
長い槍と大盾を装備するファランクス重装歩兵が出現し民主制への道を辿る。
更に、投げ槍・短剣・大盾を装備し機動性を増したローマ式重装歩兵が出現した。
こちらも平民階級。

他にも弓兵・投石兵も特技をもった補助兵力として存在した。
むしろ、集団で動けば良いファランクスと異なって個々の判断で集中・分散、目標変更などをしなければならない弓兵や投石兵は高い練度が必要だった。

〈中世〉
古代では軍の主力を成したものの、洋の東西で鐙の出現によって騎兵がこれにとって代わる。
しかし尚も数的には主力であり、長柄武器・弩・打撃武器等が主な武器となった。
また、馬上に身を聳えさせていて狙われやすく、馬が討たれると歩兵に逆戻りしてしまう騎兵には歩兵の支援が常に必要でもあった。

〈近世〉
時代が下ると槍襖による対騎兵戦法の再発見と火薬の発明によって、一転、歩兵は再び戦争の主役となった。
古代のファランクスを彷彿させる長柄+銃のテルシオ陣形。
その発展として銃剣装備のマスケット銃兵のみで構成される戦列歩兵の出現である。


〈近代〉
後装式小銃・機関銃の出現により伝統的な密集陣形からバラバラの散兵戦が主力となる。
このため、個々の兵に求められる戦況判断能力も装備使用能力も飛躍的に高くなり、軍人は市民からの徴兵から職業軍人中心へと移っていった。
塹壕戦の萌芽がみえはじめる。


〈現代〉
塹壕戦の出現、戦車・航空機等の発明により陸戦の主役は明け渡したものの、本来の役割を保持し続けた。
20世紀末からは、その柔軟性から非対称戦争での活躍が期待されている。
一方、現代の歩兵には「政治的に一番脆弱な兵種」という問題がつきまとうようになった。
歩兵はその性質上、マスコミに密着されやすい。そして歩兵は常に民間人との接触が多い兵種である。
すなわち、戦場の極限状況に理性のタガが緩んで蛮行を冒した歩兵が一人出てそれが報道されてしまえば一気に野党の攻撃のターゲットになり、軍隊(戦争、下手をすれば政権)全体の動きを縛るようになったのだ。
これは20世紀中盤までの軍隊にはなかった状況であり、先進国の歩兵は「もっとも統率が難しいがもっとも厳しく統率されないといけない」という参謀部にとって頭の痛い兵種にもなっている。


【歩兵の種類】
歴史が古いだけあって細かく分類しようとすると限度が無いが、近現代での主な歩兵達を簡単に述べる。
ちなみに狙撃兵や偵察兵・特殊部隊隊員は、その兵士の任務を指す言葉である(ソ連およびロシアでは訳語の関係で狙撃兵≒歩兵だが……)。


〈軽歩兵〉
火砲や装甲車両が少ない軽量な歩兵部隊のこと。

〈自動車化歩兵〉
自前の輸送車両(無装甲)で移動する歩兵。戦場内移動、戦闘は主に徒歩。

機械化歩兵
戦車の性能向上に伴い、歩兵を装備車両で移動させるようにしたもの。歩兵戦闘車・装甲兵員輸送車で戦場内移動もし、乗車したまま戦闘もできる。
ロボットやアーマースーツを身につけた部隊ではない。念のため。

〈空挺兵〉
車両の代わりにヘリ・グライダー・航空機で移動し直接戦場に赴く。降下後は他の歩兵と同様に行動する。
緊急展開に向くが重火器は少ない軽量部隊である。

〈海兵〉
海軍歩兵・陸戦隊などとも。
もとは艦艇の治安維持部隊だったが、上陸作戦や湾口警備を主な任務とするようになった国もある。
厳密には海兵⊂歩兵といいがたいが、海兵の主力に歩兵がいることは間違いない。

〈機動歩兵〉
『幸運を祈る、戦士よ
 わたしはきみを、心から誇りとする。』







戦場の犬たち、血なまぐさい彼ら。アヒルのようにトコトコ歩き、自分自身で敵とわたりあう歩兵達。
そんな彼らに栄光あれ!

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最終更新:2024年03月12日 15:52