トランスフォーマー:オール・ヘイル・メガトロン

登録日:2015/10/25 Sun 22:55:00
更新日:2024/03/20 Wed 23:07:48
所要時間:約 7 分で読めます





メガトロン様、万歳!


THE TRANSFORMERS

ALL HAIL

MEGATRON




概要

トランスフォーマー』の本場アメリカでは、いくつかの出版社が本編アニメのアナザーストーリーとなる「コミカライズ版TF」を発行している。
本作『オール・ヘイル・メガトロン』、略称『AHM』はIDW社から刊行された短編コミックである。同社が手掛ける初代TF(Generation One)を元とする「リブートG1」シリーズの一つで、同シリーズの『More than meets the eye』『Robots in disguise』等とも関連している。

登場キャラクターは基本的にG-1シリーズまんまの懐かしのデザインで描かれている。
また、日本語訳版(後述)ではキャラクターや勢力の名前も旧日本版準拠で訳されている。ディセプティコンやらオプティマスやらがイマイチピンとこないファンにも安心である。

全4巻+幾つかの番外編で構成される形式だが、これら全てがまとめられた「THE COMPLETE」も刊行されている。
そしてこの「THE COMPLETE」は小学館集英社プロダクションよりアメコミTF初の邦訳版が発売されているため、(2015年現在)我々日本人でも手軽に読むことが出来る数少ないシリーズとなっているのである。
大判&フルカラーで総ページ数499の単行本は税抜3800円。これは安い!!



本作のテーマは「デストロンがサイバトロンに勝利した世界」。なんと物語開始時点でサイバトロン達は壊滅寸前の状態なのだ。
『戦え! 超ロボット生命体トランスフォーマー』ではほっとんどいいところなしだったデストロン軍団の雄姿がこれでもかと堪能できる、ある意味ファンが待ち望んでいたシリーズと言えよう。

……しかし、旧作で繰り広げられていた壮絶なボケやコント合戦を期待すると、間違いなく愕然とすることだろう。
『AHM』では実写映画版もビックリの壮絶な破壊・殺戮描写が目白押しである。流石に人間が死ぬシーンこそ描かれることはないが
  • 避難車両で大渋滞のゲートブリッジを平然と空爆・破壊するジェットロン
  • ニューヨーク湾の海底トンネルを海上からぶち抜くデバスター
  • 難民キャンプと化した地下鉄駅にSLが入線してきたかと思うと、変形して駅ごと人々を破壊する
  • 生身の陸軍歩兵を殺人音波とドリルアームで蹂躙するフレンジー
  • そうした様子を人間の放送電波へリアルタイム中継するコンドル
……といったシーンの連続である。業火の中で邪悪に笑うメガトロンのコマはちびっ子が読めば冗談抜きでトラウマになりかねない
更に味方陣営のサイバトロンも物語開始時点から相当に痛めつけられており、疑心暗鬼や小競り合いが頻発するギスギスしたムードが色濃く漂っている。


とにかくいろんな意味でハードな大人向けの作品だが、その硬派にまとめられたストーリーを新たなTFワールドの代表として称えるファンも多い。
広域指定暴力団サイバトロンが掲げる「正義」への欺瞞と自己批判、
デストロンを率いてきたメガトロンが求める「正義」と次代を担うスタースクリームらの考える「正義」の食い違い、
そしてただ蹂躙されるだけに終わらない人類の「正義」。
本作のメガトロンはまさに漢。スタースクリームも漢。スパイクも漢。コンボイもやっぱり漢。

前日譚となるシリーズが存在し、厳密にはこれ1つで完結するストーリーとは言えないものの、全体としてはほぼ単体の読み切りとしてまとめられているため(日本版では補足用紙も同封されている)、アメコミTFの入門書としても良い内容である。



本作の世界の名称はおそらく<Primax 708.10 Gamma>になると思われる。
これは「G1世界 7月 08年 10日 コミック」を意味し、数字部分は作品が始まった現実の時間のことで1話(1巻に収録)の発売日である2008年7月10日を表している。

1話の小売店限定の表紙(バリアントカバーの一つ)ではメガトロンがリフレクターで写真を撮っている。
こちらは2015年の『Ask Vector Prime』のFacebookページにて<Primax 708.10-R Lambda>であることが明かされた。
数字部分に追加されている「R」はこの小売店限定の表紙を表し、展開される媒体部分の「Lambda」は表紙における世界を指している。

世界観の定義については こちら も参照。



ストーリー

ある日、ニューヨークに謎のロボット兵団が現れる。
工事車両や戦闘機から人型に変形するそのロボット達は、情け容赦のない破壊活動を開始し、迎撃にでた米軍をも一蹴してしまう。
リーダー格と思わしき銀色のロボットは、F-22戦闘機を素手で粉砕しながら吼える。

「愚か者め。教えてやろう」「わしが……メガトロンだ!!」

彼らの名はデストロン。彼らの母星セイバートロンから始まった「トランスフォーマー」の戦争は、地球へ飛び火し、そして本格的に炎上を始めたのだ。
正義のサイバトロンを廃墟と化したセイバートロンに放逐したデストロンの蛮行を止める者は、最早存在しない。
地球全土にデストロンの魔の手が及ぶ中、米軍の残存兵力の指揮を執るウィトウィッキー大佐は、特殊部隊を率いる息子のスパイクに「敵首領=メガトロンの暗殺」を命じる。

はたしてスパイクの任務の行末は。デストロンはこのまま地球を完全征服してしまうのか。
そして、セイバートロン星で瀕死のまま眠り続けるコンボイ司令官を初めとするサイバトロン戦士の運命や如何に……?












以下、本編の微ネタバレを含むので注意。




登場キャラクター

台詞無しのチョイ役も含めればすごい数になるので、特に目立っている者をピックアップ。

デストロン

メガトロン「“破壊活動”というのなら、せめてこれくらいやらんか」
ご存知破壊大帝。放送コードという軛から解き放たれた本作ではマジで情け容赦のない悪の帝王として活躍する。
だが原作同様、「力による秩序と平和の構築」の成就の為、そしてデストロンという勢力の未来の為、一心不乱に働く漢でもある。
数百万年の戦いの果てに勝利を収めた彼が始めたのは、何の価値もない地球というゴミ惑星の征服と、新拠点の構築だった。
暇つぶしとしか思えない作業に部下たちは疑念の目を向け始める。果たしてメガトロンの真意とは……?

スタースクリーム「かつては俺もあなたに憧れていた。来るべき世界の象徴として、崇拝してたんだ」
ご存じ自称ニューリーダー。今回もやはりニューリーダー病を発症する。
……が、それはTV版のような自分本位のボンクラによるものではなく、彼なりの正義に根付く行動であった。
本作の彼は「若かりし覇王(候補)」というに相応しい。メガトロンとの関係は単なる上司と部下を越え、父と息子のそれに近いモノがある。
彼がメガトロンの真意を知って行動する場面は文句なしの名シーン。まぁ番外編ではヘタレてるんだけど…… やっぱりスタスクはスタスク

スカイワープ「俺の名前はスカイ…ワープだ!」
黒いスタスク黒いジェットロン。出番は少なめだがその粗暴さで印象を残す。
ジェットロンであることに誇りを持っており、トランスフォーマーの複製実験の産物たるインセクトロン達を「出来損ない」として毛嫌いしている。
スタースクリームはメガトロンと論争を続け、サンダークラッカーは仕事をさぼり気味なので、一人喜々として破壊に精を出す。

サンダークラッカー「ジェットロンを敵に回すとはいい度胸だ」「俺はあいつほど優しくないぞ」
青いスタスク青いジェットロン。原作でも比較的穏健派であった彼は今作でも同様。
無力な地球人の虐殺にはかなり早い段階から飽き飽きしており、破壊任務をスカイワープにほとんど押し付けている。
自我無きスワーム達の境遇を哀れに思い、メガトロンに彼らの介錯を願い出でてもいるが、聞き入れられることはなかった。

サウンドウェーブ「フレンジー」「虐殺セヨ」
ご存じ情報参謀。お得意のジャミングウェーブで通信網やミサイルのロックオンを完全に封殺し、デストロンの地球制圧の要として活躍。
いつにもまして無口だが、カセットロン部隊への「愛情」の描写はTV版以上。

ボンブシェル「たしかに…人間を使った実験に勝る喜びはありません」
インセクトロンの心理工作兵だが、本作では成功確率1000分の1の、トランスフォーマーの複製実験で産み落とされた邪悪な天才として設定されている。
かつて活躍したデストロンの凶悪な戦士・シックスショットが齎したロストテクノロジーを吸収し、
現在ではワープ装置・スペースブリッジを唯一作成できる存在として重用されている。
対サイバトロン戦争勝利の影の殊勲者。現在の興味は「人間とトランスフォーマーの融合」。

デバスター
お馴染みビルドロンの合体兵士。
IDW版TFでは「合体TFは巨大になるほど自我を失う危険な存在となる」設定があり、初めて安定した合体兵士であるデバスターは戦局を大きく動かした。

スワーム
ボンブシェルの作成の過程で生まれた、醜悪な自我無き機械捕食体。ざっと3000体以上はいる。
現在は廃墟化したセイバートロン星に投棄されており、同地で暴れまわっている。


サイバトロン

コンボイ
我らが司令官。が、今作ではのっけから余命いくばくもない状態に陥っている。
スペースブリッジを通してセイバートロンへ一人ずつサイバトロンが追放される中、最後に残った彼はスペースブリッジを破壊して追撃を防ぐ。
辛うじてセイバートロン星へワープするものの、その時には既に深手を負い、指揮官の証たるマトリクスも奪われていたのである。

マイスター「まさに惨敗だよ」「そして希望の光が消えた」
クールな日本限定の副官。IDW版では単なる一兵士だが、その人柄と実力は皆の尊敬を集め、コンボイ無き後のサイバトロンのまとめ役になっている。

プロール「我々も落ちるところまで落ちたな」
ジャパニーズ・パトカーのボディがカッコいい「副官」。IDW版では本来の設定どおりに彼がサイバトロンの副官として描かれている。
しかしその求心力はマイスターに劣っており、神経をすり減らす日々を送っている。
また、彼自身も脳筋気味な他のサイバトロンをどこか見下している節がある。
恐らく番外編最大の衝撃を与える男

リジェ「確かに、俺はこの戦争に全面的に賛成してるわけじゃない。だからってデストロン扱いか?」
透明化能力を持つ諜報員。対デストロン戦争の諜報最前線に立っていた男。
しかしその立場故、デストロンに情報を売ったと睨まれ、肩身の狭い思いをしている。

アイアンハイド「俺たちは負けた! デストロンどもにこっぴどくやられて、こんな場所に追いやられたんだ!」
何かと荒っぽいサイバトロン赤組の代表格。
コンボイとは戦争初期からの付き合いであり、彼の先輩にあたる。当初はペーペーの彼を見くびっていたが、戦いの中で深い信頼関係を築いていく。
それだけに今回の事態は彼にとって耐えがたく、相当に情緒不安定な状態に陥ってしまった。

サンストリーカー「言ったはずだぞ。お前にも、他の奴らにも…その話はしたくないと!」
黄色いボディのイカシタアイツ。が、IDW版TFにおいては最も過酷な運命を辿ってきたサイバトロン戦士でもある。
かつて地球に潜入した時、デストロンの離反者スコルポノックの息がかかった人間の組織・マシネーションに囚われ、
人間とトランスフォーマーを融合させる「ヘッドマスター」の被検体として解体実験を受けていたのだ。
相棒となったハンター・オナイオンと命がけで「交流」し、救出されハンターと分離した現在もなお、その悪夢に苦しんでいる。

チャー:「よし、決めたぞ! 本日よりお前を、わしの副官に任命する!」
イカレ暴走族のホットロディマス、元デストロンのドリフト、お目付け役のパーセプター達で構成される荒事部隊「レッカーズ」の指揮官。
宇宙を航行中にデストロンの攻撃を受けるが、かろうじてセイバートロンに帰還し、コンボイら本隊との合流を目指している。
恐らく番外編最大の被害者。

ドリフト
今作で初登場し、後に実写劇場版でも活躍する侍。
元々はデストロン所属の「デッドロック」なるTFだったが、現在ではレッカーズの一員となっている。


人類

アンディ:「最新鋭のF-22ラプターに乗ってたけど…」「撃ち落とされた」
米空軍F-22部隊の隊長。デストロン襲来に際しての初動迎撃に出動するが撃墜され、命からがら脱出する。
サラとブリッジに出会った後、ニューヨーク市内に点在する難民キャンプのリーダー格に収まるのだが……。

サラ:「甘えないで!」
ジャガーに追い回されるアンディと合流したことで、一緒に追い回されることになった女性。
「TF界の女は強いの法則」に漏れず、彼女も難民キャンプの主導者として戦う。

ブリッジ:「最後にあんたを助けて、あいつらを一匹倒すのもいいかもな」
髭面の黒人。過去にいろいろ経験したらしく、アンディたちを追いまわすジャガーを火炎瓶で撃退する手際の良さを見せる。 おいジャガー
少々沈みがちなところがあるが、彼もまた難民たちのリーダーとして戦う。

チャールズ:「…俺も連れて行ってくれ。ちょっと会いたい奴がいてね」
元兵隊の警官。スキンヘッドのマッシブ黒人。
後半から登場する人類戦士。息子を殺された復讐の為、ランブルを追う。

ダニー・ウィトウィッキー:「他にもいるというつもりか!? 我々の目を盗んで! どこだ? どこにいる?」
米軍大佐。ウザったいパーティーの招待客をどうやって殺そうか思案中に呼び戻され、対トランスフォーマー作戦の前線指揮を執ることになる。
……が、誘導兵器と通信を封じられた状態では成すすべもなく部隊は壊滅。なし崩し的に米本土の残存戦力の暫定指揮官になってしまう。

スパイク・ウィトウィッキー:「父さん、俺なら大丈夫だよ」
G1のスパイクとは名前だけしか共通点が無い、米軍特殊部隊の戦士。
ハリウッドアクション映画の主役を張れるワイルドなナイスガイ。潜入やバイクの運転もこなす。
かつて米政府が接触していたトランスフォーマーの技術を使ったビーム銃を確保するため、ニューヨークの隠し武器庫を目指す。

ハンター・オナイオン
かつて、地球に潜伏していたサイバトロン達と偶然交流し、そしてサンストリーカーと共にマシネーションに拉致された青年。
「ヘッドマスター」の片割れとして死にゆくサンストリーカーを救うべく奮闘し、一種の“友情”を築く。
完全に元の姿には戻れなかったものの、サンストリーカーと分離した後は平穏な生活に戻ったはずだったのだが……。


追記・修正はデストロンの勝利を願いながらお願いします。

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最終更新:2024年03月20日 23:07