モノス(未確認生物)

登録日:2016/3/9 (水) 20:21:00
更新日:2023/06/20 Tue 17:53:35
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モノスとは、ベネズエラに生息するとされる獣人タイプの未確認生物(UMA)である。
「未確認生物を撮影した最も良好な写真」として知られる。



UMA本などにおいて、写真や映像の有無の重要性は言うまでもない。
それらがなければ、UMAの話というのは「遠くのほうにぼやっと姿が見えました」みたいなふわっとした目撃談しか残らない場合が大半だからである。


しかし、UMAを撮影した写真などというものはたいていぼやけていて何が写っているのかさっぱりわからないか、
どうみても人形orCGのどちらかである。


そうした中で、このモノスの存在が一際輝く。
上記のように、モノスの写真は「未確認生物を撮影した最も良好な写真」と呼ばれているのだ。
そのため、UMA本などにもほぼ必ず定番として収録されている。

射殺後の死体を捉えた写真なので、「ぼやけていてよくわからない」などということは全くなく、バッチリ映っている。
しかも、撮影されたのは1920年代。CGなど無い時代だし、生々しくてとても人形には見えない。
子供の頃にその手の本で見て、トラウマになった人も多いだろう。

本項では一応、グロ・ホラーが苦手な人に配慮して写真の掲載は避ける。
それくらいインパクトがある写真なのだ。いや本当に。
大丈夫な人は是非検索して見てほしい。


ちなみに「モノス」はベネズエラの公用語であるスペイン語で「サル」を意味するため、
「謎の獣人モノス」というのは「謎の獣人サル」みたいな意味になる。
そのためモノ・グランデ、撮影者の名前から「ド・ロワの類人猿」、もしくは後述の「アメラントロポイデス」の名前で掲載されていることも多い。 
しかし本項では日本で一般的なモノスの名前を使うことにする。


射殺されたモノス


この写真が撮影されたのは1920年。
撮影者はスイスの地質学者のフランソワ・ド・ロワ一行で、当時ベネズエラ奥地で油田の調査をしていた。
獣人に出会ったのはタラ川という川の付近(エル・モノ・グランデ渓谷とか書いている本もあるが、これはこの動物の名前と地名とをごっちゃにした誤訳)。
ド・ロワの証言によると、獣人は二頭おり、一行の姿を見ると大きな奇声を上げて威嚇をし、さらに物を投げて応戦してきた。
彼らには尾がなく、体高は150センチほどだったという。
ド・ロワたちも応戦し、一頭を射殺。もう一頭は逃げていった。

ド・ロワたちは証拠を残しておこうと、手近にあった石油缶に獣人を座らせ、顎の下に枝をつかえさせて支え、正面から一枚撮影した。



これが世にも有名なモノスの写真である。











しかし、子供の頃トラウマになった人も勇気を出してもう一度よく見てみよう。
おそらくこう思われるだろう。
















「……これただのサルじゃないの?」


実際、ド・ロワたちの証言はさておき写真のみから判断すれば、この動物の特徴は南米に生息するクモザルと完全に一致する

手足が体に対して長いのはまさにクモザルの特徴だし、後ろ足はどう見ても樹上生のサルに特有の形状で、
ド・ロワたちが証言したような地上性のサルには見えない。
顔も見れば見るほどクモザルそっくりである。

さらによく見ると額の当たりに菱形の模様があるが、これはクモザルの一種チャアタマクモザルの顔の模様と完全に一致している。


クモザルにしてはやけに巨大に見えるのは、接写している上に写真の中に大きさを比較できるものがないためであると考えられる。
実際、石油缶の大きさから逆算するとこの獣人の体高はせいぜい70センチという試算もある。
そうでなくとも、一緒に写っている植物などと比較しても、それほど大きくないことは察せられる。
(多くのUMA本ではこの点をごまかすためか、植物はカットされていることが多い)。



著名な超常現象研究者であるアイヴァン・サンダーソンは、この写真を「ただのクモザルだろ」と一蹴している。
サンダーソンはファフロツキーズ現象オーパーツの名付け親でもあり、自身もアフリカの奥地で怪鳥コンガマトに襲われたという証言もしている。
早い話が超常現象やUMAに対しては完全な肯定派なのだが、そんな人物の目から見てもこの写真はうさん臭さ満点だったわけである。


さらに同じく著名な未確認動物学者のローレン・コールマンは、写真の中にバナナの木が写りこんでいることをツッコんでいる。
バナナは南米に自生していないため、この写真がベネズエラで撮影されたものなら、かなり人の手が入った農園などの近くということになる。
……ジャングルの奥地で撮影したんじゃなかったのか?
それに、そんなところに獣人が出たなら、もっと多くの人に目撃されていないとおかしい。わざわざバナナ農園まで運んで死体を撮影したのか?


要するにモノスの写真は、本来なら肯定的な立場であるはずの研究者から見てすらも、ツッコみどころ満載なのである。



ド・ロワたちは、この獣人を撮影後に解体して食べてしまったらしい。
頭骨だけは持ち歩いていたが、破損したため廃棄してきたと証言している*1
ド・ロワは「かさばるし、あまり獣人には興味がなかった」とか話しているが、そうだとしても科学者でありながら、
貴重な証拠であるはずの標本をさっさと食べてしまうというのは腑に落ちない。
頭骨にしても、破損していたとしても破片でも持ち帰っていれば、貴重な物証になった筈である。
(哺乳類の場合、歯の一本だけでも分類などの重要な手がかりになりうる)


以上のことから考えて、ド・ロワたちはどうやら「南米の動物のことなんか何も知らない西洋人をひっかけてやれ」くらいの軽い気持ちで、
クモザルの死体を獣人に仕立て上げたというのが真相のようである。
詰めの甘さから考えて、この写真がここまでメジャーになるとは思っていなかったのだろう。



上述のようにこの写真は現在でもUMA本には定番として載っているが、ここまで否定的証拠が揃っているため、解説文でも
モノスの実在自体は肯定しながらも「ま、この写真はクモザルっぽいけどね」などと書くのが定番になっている。
現在のところ、この写真を本物と考えている未確認動物学者はほとんど存在しない。



政治的利用



ここまでならまあよくある話である。問題はここからだ。
すなわち、なんでこんな一発ネタみたいな写真が、100年近く後まで語り継がれることになったのかである。

それにはもう一人の人物が関わっている。
その名はジョージ・モンタンドン。
ド・ロワの知人の人類学者だった彼は、撮影から9年後にこの写真を「南米の新種の類人猿」として発表してしまう。


もちろん当時のヨーロッパでも、すでに知識のある人の間ではクモザルの存在はとっくに知られていた。
ましてや人類学者であるモンタンドンが、この写真の正体に気が付かなかったとは考えにくい。
しかし彼にはこの写真に飛びつく理由があった。



それは、彼がガチガチの人種差別主義者であり、人類の進化に関するぶっ飛んだ奇説にハマっていたということである。

白人至上主義者だったモンタンドンは、白人と有色人種はそもそも祖先からして違う生物だと考えていた。
すなわち白人はクロマニヨン人から進化したが、黒人はゴリラチンパンジーから、アジア人がオランウータンから直接進化したとか考えていたのである。

ここで彼にとって大きな問題が起こる。
アメリカ先住民の祖先にあたるサルがいない。
アメリカ大陸には類人猿などいないからである。


そこに都合よく表れたのがモノスの写真だったわけである。
自説にハマるあまり冷静さを失ったのか、クモザルでも無知な読者を騙せればいいと思ったのか、
とにかく彼はこの写真の生物にアメラントロポイデス・ロワシという学名まで付けてしまう*2
もちろん写真一枚を根拠にした学名など正式なものとして認められていない。
ちなみにモンタンドンは新種である根拠として「歯が32本ある」ということを挙げているが、上述のようにド・ロワは頭骨を持ち帰っておらず、
なんでそんなことを確認できたのかは謎としか言いようがない。


ともかく、モンタンドンにとっては、これで無事アメリカ先住民の祖先というミッシングリンクが埋まったわけである。




……もちろんそんなことがあるわけはないし、こんな人物に担ぎ出されたところで、この写真の信憑性が1ミリも増えたりはしないのは言うまでもない。
ちなみにモンタンドンはこの後反ユダヤ主義に加わり、最期はレジスタンスによって妻と共に殺害されている。


だが、問題だらけとはいえ一応プロの人類学者が学名を与えたということで、この写真は世界各国の書籍に掲載されるようになり、
そのまま現在に至るわけである。



それにしても気の毒なのはこのクモザルである。
撃ち殺されただけでも悲惨なのに、人種差別主義者に利用されて100年後まで「謎の獣人」とか言われて死体をさらされ続けるとは、あんまりではないか。




ただし、モノスの他の目撃例が無いわけではない。
例えば1951年に、フランスの探検家が、やはりタラ川の近くで遭遇したという報告をしている。
日本のUMA本には1954年にイギリス人ハンターが襲撃されたという事例がよく載っているが、海外の文献では確認できない上に
どの資料でも襲撃された場所が誤訳である「エル・モノ・グランデ峡谷」になっており、信憑性は疑問)




追記・修正はモノスと2ショット写真を撮ってからお願いします。

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最終更新:2023年06月20日 17:53

*1 一部の書籍では、「原住民に襲われた際に壊れた」と表記している

*2 表記は「Ameranthropoides loysi」。直訳すると「ロワのアメリカの類人猿」の意