SCP-2419

登録日:2017/03/05 Sun 22:52:54
更新日:2024/04/23 Tue 17:11:43
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煮立てて蒸発させた後の残渣が、そうそう焼き尽くされて消えるわけがあるまいに。


SCP-2419はシェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクト(SCiP)である。
オブジェクトクラスはEuclid。
項目名は「The Laughing Men(笑う人たち)」。


概要

コイツが何かというと、財団が建設した製油所&廃棄物処理施設である。
この手の場所系オブジェクトには珍しいことに、どこにあるかも明確になっており、アメリカ合衆国コロラド州サマー・スプリングスから北に75kmの場所に位置している。

建設されたのは1954年で、医療廃棄物をメインとする有害廃棄物を処理するため、財団が作り上げた。
が、稼働から19年が経った1975年に異常性が発現し、制御下の避難が行われて現在に至っている。

この施設はユニットA、B、Cの三つに分かれている。
ユニットAは地層処分による異常廃棄物の保管、
ユニットBは送られて来た廃棄物の処理、
ユニットCは異常性のない廃棄物の焼却に使われていた。

で、このオブジェクトの何が異常なのかというと、ユニットC=焼却炉の中に発生する人型実体、SCP-2419-Aとナンバリングされた実体群である。
排気シュートから外に出ようとするものの、大抵の場合よくても寸前までで、焼却炉の炎と高熱によって燃え尽きることになる。
この実体群は意思疎通を行わず、また個体同士は互いに無関心である。しかし、SCP-2419-A以外の知性体に対してはヒジョーに敵対的であり、攻撃性をこれでもかと露わにするのだ。


記録

最初の事案、この施設がオブジェクト認定されるに至った事件は、1975年に起きた。
ユニットCには焼却炉が六基あるのだが、作業員がそのすべてから叫び声が聞こえる、と報告したことからそれは始まった。
調査の後、サイト管理官は四号炉の火を落とすよう命令したが、それが行われた直後、排気シュートから例の実体群が出現、スタッフを灰溜めに引きずり落とそうと襲い掛かって来た。

これには現地の機動部隊が対応、再生能力を持っていることが判明したため、焼却炉に押し戻して再点火することで対処した。
なお、この件が片付くまでに5体の実体が鎮圧・捕獲され、研究のため別の施設に移送された……のだが、この実体のうち一つが、隔離下でのインタビュー中に自らの腕を折り取ってその骨でガラスを破り、インタビュアーだった博士を殺害するという事件が発生。

このインタビューは記録されていたが、その内容の一部がこちら。

写真だよ。君の家族のね。昔の — 君の名前がジョンだった頃、君がDクラスになる前の物だ。覚えているかね…?

例の実体群は、Dクラス職員のなれの果てだったのである。
そりゃ、場合によっては財団を恨むこともあるだろう。……で、何でそいつらが焼却炉から出て来るのか?

ここからは一気に、SCP-2419で何が行われていたのか、それは何のためだったのかを明かしていく。

まずはここに、元精神科医の経歴を持つ、ダニエル・ジェニングス博士の覚書がある。

君の要請を受けて、我々が拘留している5体の実体についての6ヶ月評価を終えた。

ここに来る前、私は刑務所の精神科医だった。出会った全ての人々には苦痛と悲哀に満ちた物語があった。ある時は、それらの物語は彼らを苦しめた苦痛に関するものだった — またある時には彼らが及ぼした苦痛に関するものでもあった。状況によって引き裂かれてはいても、そこにいる皆に美しい魂があったのだと感じた日もある — 彼らのうち何人かが為した所業を知り、彼らがそのために収監され苦しんでいるのを心のどこかで喜んだ日もある。

しかし毎日の終わりに、私はいつも自分にこう言い聞かせた — 彼らは皆、人だ。彼らは皆、人間なのだと。彼らは皆、他の皆と同じように尊厳を持ち、尊重され、愛されるに値すると。

例外は無い。

ジェレミア、私がこんな大層な話をしたのは、今から言う事を軽く取ってはもらいたくないからだ。あいつらは人間じゃない。人の形をした怪物だ。奴らは精神病の定義云々の範疇を遥かに超えている。奴らがやる事は何もかも、痛め付け、傷付け、殺すための行為だ。私は奴らに同情を寄せ得たかもしれないが、それは同情するだけの価値があってこその話だ。

穴に放り込んでコンクリートで埋めろ。それよりもっと良いのは、発見された焼却炉の中に戻してやる事だ。

奴らは気に掛けもしないだろう。

次に、1961年、ユニットBに配属されたスタッフへのオリエンテーションの一部を抜粋する。

君たちも気付いているだろうが、ユニットBの受け持ちは到着したDクラスの遺体の取り扱いだ — ユニットAまたはユニットCへ送る前に、それらが異常性を帯びているか否かを判断し、ちょっとした、あー、いわゆる“前処理”を施す。今日はここの部分を軽く話すとしようか。スライドを頼むよ。

しかし記憶処理薬は、あー、記憶処理薬は難しい。あれが何処から来ているのかをはっきり知っている者は誰もいないが、相当額の費用が掛かっていることは誰もがよく知っている。その上あれは、あー、あまり良くない。ハンマーを使って棘を抜こうとするようなものだ。

人間の脳は、あー、人間の脳というものは — 比較的よく保存されている限り — 後に一定の残渣を残すという事が明らかになった。私たちが抽出し、あー、精製できる物を。

この残渣は、十分新鮮な死体の精神から“煮立たせる”ことが可能だ。記憶の“蒸留”だと考えてほしい — 私たちの最も幸福な記憶のだ。私たちが慰めを最も必要とする時、それをもたらしてくれる人生のあらゆる部分 — 私たちを優しく親切にする要素。

…正確な記憶、特定の記憶を除去できるという訳だな。私たちはその記憶とこの、言わば“幸せスープ”を入れ替える — 彼らの精神はスープを使って新しく、快適な偽の記憶を作り上げる — ギャップを埋める。

要するにこうだ — 例え死んでも、Dクラスは私たちを支援する — 世界を支援し続ける。

続けて、このオリエンテーションを行ったウェスト博士が、同僚にあてたメール。
私を通さずに上層部とこの件を話したがる君のしつこさには飽き飽きしている。プロセスが死体を異常物に変えることは無い。先月の事案はまぐれあたりだ — テリーは間違いなく、蒸留プロセスを始める前に死体が異常であることに気付き損ねたんだろう。彼は杜撰だった(安らかに眠りたまえ)、それだけの事だ。

皆は面と向かってこれを伝えるのを怖がっているので、私から直に言わせてもらう。去年になって宗教に“目覚めて”以来、君はますます一緒に仕事をするのが耐え難い人物になってきている。

百歩譲って君が正しいとしよう — だからどうした? 彼らは死んでいるんだ、ジム。遺灰の山に“十分幸せな”考えが残っていたかどうかなんて心配しなくとも、この地上にいる私たちには問題が山積みなんだ。

続けて、ハモンド博士の覚書。
昨日、私はD-263175の死体を処理しました。妻を殺害して死刑判決を受けた男です。私は、彼が病院のベッドで死にかけている妹の手を握って過ごした6時間を蒸発させました。息子が最初の数歩を踏み出した時に感じた誇らしさの高まりを蒸発させました。彼の母親が見せたことのある全ての優しさを蒸発させました — 彼女の冷酷さと虐待しか残らなくなるまで。

私はあらゆる喜びの瞬間を取り去りました — そして、絶え間ない悲惨と苦痛と怒りに満ちている人生を後に残しました。

財団がDクラス職員を犯罪者層から徴用している理由が分かりますか、ショーン? 誰も私たちを止めないからです。誰も気にしない。刑務所は取るに足らない人間が集められる場です。犯罪者とはそういう者たちであろうと貴方が想像するような怪物しか残らなくなるまで、彼らの人間らしさが剃り落とされる場です。しかし、どれだけ私たちがそうしようと取り組んでも、そこにはいつも僅かばかりの謙虚さが残っていました — 私たちには手の届かない欠片が、彼らには残されていました。

今までは、です。私たちは成し遂げました。D-263175は遂に人々が思い描く怪物に成り果てました。私は彼の人間性を、最後の名残までも焼き捨てました。今、私は彼の死体をユニットCへ運び、残りを焼き捨てようとしています。

残された物が燃えてくれるよう神に祈ります。


そこで起きていたことは

結論から言えば、SCP-2419は記憶処理物質を精製するための施設だった場所である。
ヘッドカノンなので強くは言えないが、SCP-3000の発見は71年である。

当時の財団における記憶処理薬はコストが高く、しかも劣悪なものだった。
ではどうするか? 財団が考えたのはつまり、実験で死んだDクラスの死体からポジティブな記憶を抜き出して蒸留、はめ込み用の欺瞞記憶(のアーキタイプ)を作り上げることだった。
SCP-2419はそのための施設であり、ユニットAで異常・非異常を判別、ユニットBで記憶を抜き出し、残った死体をユニットCで焼き尽くす。そういう手順が組まれていたのだ。

……SCP-1730を知っているならわかると思うが、「焼却処分」というのは財団世界においてもっともアテにならない処理方法の一つである。
ましてや霊的実体がフツーに存在するこの世界、燃やせば終わりなんて誰が決めたのか。

焼却炉に投げ込まれたDクラスたちは、幸せだった記憶を全て抜き取られ、ネガティブな記憶のみで構成された、いわば怨霊となって、恨み骨髄の財団職員を襲っているのだ。本来それを相殺すべきポジティブな部分、人間性の部分がないのだから、至極当然の結末と言える。

元がただの人間なので焼却炉が稼働している限り外には出られないが、消えてしまえばその瞬間Dクラスたちは外に飛び出して人を襲う。だから、ひたすら燃やし続けるしかないのだ。


……ところで、最後にSCP-2419のオペレーターからのメッセージがある。
例の素敵な鋼鉄ハッチだけでは不十分だ。

いいか。いい加減ここでカッサンドラよろしく不吉な予言をするのも疲れてきたが、状況は芳しくない。石油バーナーを燃料ガスに切り替えた頃から、奴らが限界質量に達することは殆ど無くなった。何かあるとすれば技術者がミスを犯すか — 或いはバーナーが点いていない時間が少々長過ぎる場合だ。

ああ、焼却炉には大きな穴がある。ああ、もし十分そこを熱くしておけば、人間の脂肪は燃焼してあんたの仕事を半分まで終わらせてくれるだろう。だがそんなのは、肉が煙突を詰まらせるのに十分な量まで成長したら何にもならない。もしそんな事態になれば排ガスは出ていかなくなる — よほど運が良くない限り、酸素の入る余地無しでバーナーを稼働させ続けることは不可能だ。俺たちはそんな風にして焼却炉を6基全て失う羽目になる。

で、それはいつ起こるか? 奴らはいずれ帰ってくるぞ。一人残らず。

焼却記録を改めさせてもらった。五号焼却炉だけでも3000人以上のDクラスの死体を処分している。合計すると、奴らは1万体はいることになる — あっという間だ。全員、再生能力がある。全員、あらゆる幸せな記憶が蒸発させられている。全員、20年分の新しい記憶、それも概ね俺たちから火炙りにされた記憶を持っている。

俺は財団で15年以上働いてきた。数多くのDクラスが数多くの惨い死に様を晒すのを見届けてきた — だから、人が恐怖や苦痛の叫びを上げているのがどんな風に聞こえるか多少は分かっているつもりだ。
SCP-2419の連中は恐怖や苦痛で叫んではいないんだよ、ブライアン。
そもそも叫んですらいない。

奴らは笑っている。


SCP-2419実体は、燃やすことで進行を食い止められる。
だが、無限再生する肉を燃やし続ければ灰となる。灰は燃えない。灰は消えない。積もり積もって、やがて焼却炉を埋め尽くす。
そうなれば、彼らを止める方法はない。

笑う理由を説明する必要は、あるのだろうか?





あれ? このナンバーって別の記事じゃなかった?

と思った諸兄も多いだろう。実は、ここまでの記述は2017年に執筆された新しいものである。
この前の記事である「Cross-stitch(交差編み試験)」は作者自らによって取り下げられており、そのあと同じナンバーで書かれたのがこれなのだ。
現在は旧SCP-2419はSCP-3246として投稿されている。


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最終更新:2024年04月23日 17:11