必殺仕置屋稼業(時代劇)

登録日:2019/07/05 Fri 23:44:59
更新日:2023/06/18 Sun 20:51:26
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一筆啓上、火の用心

こんち日柄もよいようで

あなたのお命もらいます

人のお命いただくからは

いずれ私も地獄道

右手に刃を握っていても

にわか仕込みの南無阿弥陀仏

まずはこれまで

あらあらかしこ

語り:草笛光子



『必殺仕置屋稼業(ひっさつしおきやかぎょう)』は1975年7月から1976年1月まで全28話がNET系列(現:テレビ朝日)で放送された日本の時代劇作品。
必殺シリーズの第6弾で中村主水シリーズとしては第3作目に当たる。


【製作の経緯】

1972年から、普通の物語ならば悪役となるであろう殺し屋を主人公とした斬新な時代劇として放映を開始した必殺シリーズは、内容の過激さも受けて普段は時代劇を見ない層にまで浸透する人気番組となっていた。
途中で『必殺仕置人殺人事件』の様な事実とは異なる中傷を受けたこともあった必殺だが、番組人気からシリーズは継続され、
『必殺』の二文字も第3作『助け人走る』と第4作『暗闇仕留人』で外されたのみで、第5作『必殺必中仕事屋稼業』で早々に復活していた。

そして、その『仕事屋』は『必殺』の二文字が復活したというだけに留まらず番組内容その物が高く評価されて過去最高の視聴率を叩き出す等、ピンチを乗り越えたシリーズは波に乗っていた。

……ところが、放送途中にネットワークの腸捻転解消*1が実施されることに。これにより番組後半から放送局と放送日を変更した結果、視聴率が半分以下にまで落ち込んでしまうという事件が起きた。

スタッフはこのままではシリーズその物が終了に追い込まれてしまうとして、次回作となった本作『仕置屋』での中村主水の三度目の登板を決定。

既にデビュー作である『必殺仕置人』から別格的な存在感を放っていた主水だが、こうした経緯を経て制作された本作では、最初から主水が主人公であることを強調されてビジュアルが作られた。

また、主水を囲む仲間として『仕置人』で主水=藤田まことと共演した沖雅也も再び起用され、こうした面でも原点回帰を意識させると共に放送局を変えて継続した必殺シリーズということを視聴者にアピールしたのである。

そして、本作では初めて、主水が年齢的にも立場的にも自分が完全な年長者にして裏の仕事のみで結び付いたチームのリーダーとなったことも注目すべき変化の一つ。
これ迄の『仕置人』では昔馴染みの悪友と、次の『仕留人』では親戚関係であることが判明して一気に打ち解けた義兄弟とも呼べる面々と仕事をしてきたことで仲間に依存する面すら見せていた主水だが、今作からは年長者としてもプロの殺し屋としても一線を引いて仲間と接するようになっていった。
これは、若い世代の仲間を率いた『必殺仕事人』以降の、延いては必殺シリーズその物の殺し屋チームの構図の雛型と云える。

そして、主水以外の二人の殺し屋である市松と印玄の殺し技も前作までとは比べ物にならない位に派手で現実離れしたギミックが用いられており、そうした意味でも必殺シリーズその物の転換にして、一つの完成を見た作品と云える。


……一方、これ程までの破格の扱いをされていながらも、本作でも主水のクレジットは『仕置人』以来のトメのままとなり、これは藤田サイドを落胆させることになった。
シリーズの人気を支える者への仕打ちとしてはどうか?と当然のように抗議をしたものの、沖の養父でもある事務所社長の強固な訴えもあってか有耶無耶となってしまい、この問題は次々回作である第10作『新必殺仕置人』まで引き摺ることになった。


【物語】

北町より格上の南町奉行所へ移動となってはしゃいでいた主水だが、格上の南町では北町よりも規律が厳しく、袖の下を貰うのにも苦労する始末。

そんな中、主水は冷徹な雰囲気を纏う若い男が白昼堂々と“仕置き”をするのを目撃するのだった。

ある日、奉行所の前に開かれた屋台のふかし芋にかぶりついていた主水に、髪結い屋の女主人おこうが接触してくる。

おこうは、過去に主水が裏の仕事をしていたことを知っており、“仕置き”を頼むためにやってきたのだ。

おこうの言葉にも頷かなかった主水だったが、依頼人の惨死を目の当たりにし、裏の仕事への復帰を決意する。

顔が広く、かつて助けてやった恩義により主水の言うことなら何でも聞く捨三に協力を仰いだことで、心の壊れた怪力坊主の印玄が仲間になることに。

更に手駒の欲しい主水は、かつて目撃した若い殺し屋……竹細工師の市松に自ら接触して“仕置き”を依頼。

こうして、危険な市松も加えた“仕置屋”チームが江戸の闇を駆ける。


【主要登場人物】


演:沖雅也
美貌の若き竹細工職人で、裏の顔は冷徹な殺し屋。
優しかった父親も殺し屋、育ての親も殺し屋という環境で育ってきたことから、子供の頃より殺しをするのを当たり前と思う殺人機械の様な男に育った。
自分の腕に絶対の自身を持っていたが、殺し屋なんぞをしているモラルのない間抜けな役人だと思っていた主水を殺そうとした際に反対に殺されそうになったことから、いつか殺してやる為にも組むようになる。
子供の頃から殺しに関わってきた経験から依頼があると主水達が止めるのも聞かずに挑もうとする面や、殺し技の研鑽に励む様子まで見られた。
一方、外道仕事を嫌う主水の影響もあってか信頼出来る面子に対しての仲間意識も芽生えていったが、主水を仲介しないで個人でも殺しを受ける習慣が抜けなかったことが最終回の悲劇へ繋がってしまった。
また、殺人機械と言いつつも第一話から殺しを見られたと思い始末しようとした子供が盲目だったことから殺さずに済んだことに胸を撫で下ろす等、心の底では優しい男として描かれており、それが主水達が市松を見捨てない理由ともなった。
主水達は勿論、連れ込んだ女にすら冷たいが、自分が虚しい過去を送ってきたからか近所の子供達には優しく、竹とんぼを作ってやってたりしている。
親を亡くした子供を引き取ろうとした時には、その子の元の性質もあったのだろうが、その子が嬉しそうに自分の得物で蜘蛛を刺し殺すのを見て殺し屋の自分に子育ては出来ないと悟った。
前述の様に、クレジットでは沖が最初に配置されている為に主役を市松として紹介している記事も存在していた。

殺し技
先端を鋭く削った竹串による刺殺。
背後から首筋を刺すのが基本だが、折り鶴に仕込んで飛ばしたり、扇子に仕込んで刺したりとバリエーションが多い。
竹とんぼを殺しに使ったこともある。
折り鶴のものは、刺されても相手が気付かずに徐々に血の気が引いていくのを青いライトと、赤く染まった折り鶴で表現していた。
現実には不可能な大掛かりなギミックを持ち込んだのは必殺でも初であった。
後年『必殺仕事人Ⅴ』で組紐屋の竜を演じた京本政樹は姉がファンだった市松の動きを参考にして竜を演じたと語っている。


  • 印玄
演:新克利
躁鬱病を抱える怪力の破戒僧で捨三とは親友。
上州の出身で、本名は多助。
風呂屋に出入りしていた所を仕置屋に誘われることになる。
刹那的な享楽主義者で“仕置き”で得た金を手に女郎屋に駆け込んでから殺しに望むことすらあった。
絶倫で、抱いた女郎は数日間は使い物にならなくなってしまうらしく、店を跨いで人相書きが出回る程に悪名が轟いている。
幼い頃に母親が出ていった後に世を儚んだ身体の不自由な父親から無理心中を図られるも生き残り、今度は大人になってからやっとの思いで再会した母親は実の息子に肉体関係を求めてくるような色狂いになっており、虚しさと共に母親とその愛人を殺害して心が壊れた。
この件では、後に愛人の娘の依頼により主水達に“仕置き”にかけられそうになっており散々である。
主水や捨三とは違い、市松のことを無条件に信用することもある等、大らかで優しい性格のムードメーカー。

殺し技
“「止めて助けて」”や”「止めてやめて」”などとして知られる必殺シリーズでも屈指の面白技で、怪力で捉えた相手を屋根まで連れ出してから、思い切り突き飛ばして落下死させる。
第一話では相手を寝かせた状態で落としていたのだが、直ぐに相手を立った状態で落とすようになり、その際に自分では止まれない相手が叫ぶのが「“止めて助けて”」の情けない絶叫なのである。*2
そもそも2階程度から落とすんじゃ骨折程度で助かるんじゃねえかとか
車輪に嵌めて落としたりといった技?を見せたことも。
尚、屋根が無い場合には相手を折り曲げてから階段を転がしたり、必殺シリーズでは割とお馴染みの人体二つ折りを見せた回もあり、そちらの方が手間も取らないし確実に殺せているとの意見も。
尚、悪戯小僧に自分が落とされたこともあったのだが、落ちた先が薪の積み場所で助かっている。


演:藤田まこと
本作からお馴染みの南町奉行所同心になった。
出世と呼べる程の栄転なのだが、規律が厳しい南町では小銭稼ぎもままならず、建て増しした離れの毎月の支払いに追われ、下に付けられた目明かしの亀吉は女房と嬶への監視役になる等、散々な気持ちを味わっていた所で裏の仕事に戻ることになった。
……Op通り、何処までもサラリーマン気質である。
本作では元締めのおこうと最初に接触した場所でもある奉行所の前で営業している屋台のふかし芋を昼食替わりに良く食べてたり、飯屋ではたらく娘に一目惚れして金も無いのに通ったり、春画集めにハマったりといった姿も。
また、上司となった与力の村野は失敗による減俸も受ける駄目な部下の主水を乗せるために尽力しており、主水としても村野から出される個人的な金一封目当てに職務に励む姿も見せた。
最終回では市松の個人的な殺しから足が付いて仕置屋が崩壊。
……主水は、表の地位を捨てる覚悟により市松の命だけは救うのだった。
前述の様にクレジットではトメであり、後の必殺シリーズでも重鎮が演じた役柄に用いられる起こしが初めて使われ、特別な役(主人公)であることをアピールしていたが通じず、演じる藤田に不満を持たれたり、記事によっては主人公として記載されないといった問題を生んだ。
現在は『仕置屋』の主人公は主水として紹介されている。

殺し技
2本差しを利用した刺し技や斬り技。
笑顔で話していた相手をいきなり刺し殺したり、祝いの席や夜番を抜け出して往年の鉄道トリック並の苦労をして“仕置き”を成功させたこともある。
尚、シリーズ通して最強の剣客として描かれることの多い主水*3だが、本作では業では劣っていないと自負するも精神の在り方が鬼の境地に達し、市松すらも殺せないと匙を投げた兄弟子の木原全覚にはたじたじでイメージとはいえ幾度も斬られる主水の姿が見られた。


  • 捨三
演:渡辺篤史
銭湯『竹の湯』の釜番で、かつてスリをしていた所を主水に見つかり目溢しを受けて以来、主水を「旦那」と呼んで命を掛けて慕う。
主水の悪口を言われただけで怒ることも。
捨三が働く釜場が仕置屋のアジトともなっており、ここでは“仕置き”の相談の他にも主水達が胡瓜や饂飩にかぶりついている姿が多く描かれたが、これは家庭的な雰囲気を入れたいとして挿入された意図的な演出である。
ファンからはシリーズでも“最高の密偵”との評価を受けており、主水との強固な主従関係に支えられた完璧な仕事ぶりを見せる。
まだ建物探訪はしていないものの、同じトーンで話しかけ口八丁で獲物を引き寄せる。
生真面目で情が深いだけに冷酷な市松とは反りが合わず対立していた。


  • おこう
演:中村玉緒
上方出身の髪結い屋の女主人で、裏稼業の斡旋も行っている。
何処からどう嗅ぎ付けたのか、主水が『仕置人』であったことを知っており、自ら接触して“仕置き”を依頼したことが主水の復帰へと繋がった。
人情家で、力がなく不幸な身の上の依頼人の頼みを聞いていたが、主水としか接触していなかったので印玄や市松の“仕置き”を頼んだこともあった。
がめつく、何やかんやと理由を付けては頼み料を抜いており主水も頭が上がらなかった。
実は主水に惚れており、冗談めかしながらも厳しく接していたのも愛情の裏返しだった。
主水を誘うときに発した「いっぺんお仕置きした人間は一生その首枷から抜け出せんのと違いますか?」と、今際に愛する主水に抱かれながら発した「中村はん、この稼業やめたらあきまへんで。いつまでも続けとくんなはれや、いつまでもこの稼業、続けとくんなはれや」は、後々までの主水の人生を決定する言葉となった。
また、メタ的な意味でだが、主水は後の『必殺仕事人』では中村玉緒の父(2代目中村鴈治郎)の演じる鹿蔵によっても裏の仕事に復帰している。


  • 中村せん
演:菅生きん
  • 中村りつ
演:白木万里
主水の嬶と女房。
南町への栄転を喜んでいたが、結局は
中村家内コントもすっかりとお馴染みとなった。


  • 亀吉
演:小松政夫
手柄のない目明かしで、主水が南町に着任すると共に下に付けられた。
しかし、昼行灯と噂の主水のことは小馬鹿にしており、主水の普段の悪行や悪印象を与える噂をあることないこと吹き込んではせんから小銭を頂戴していた。
そんな調子なので主水から鉄拳制裁を受けることもあるが懲りる様子は見せなかった。
後に『新仕置人』で一話のみのゲスト出演をしている。


【余談】

  • 本作のOpは「時代劇らしくない」と言われた必殺の逆手を取ったとも呼べるもので、制作当時の京都の町をサラリーマン姿の主水、カブに乗って檀家を回る印玄、街角で雑誌を広げる市松が登場してくるものである。
    一応、ギャンブルをテーマとした前作『仕事屋』の時点で競馬やカードといった現代のギャンブルの場面が登場していたがキャラクターの現代の姿まで登場するのは流石に初であった。
    後に『スマステ』の必殺特集に出演した藤田は本作のOP映像を見て、後にスペシャルドラマとして制作された主水達の子孫が先祖の真似をして殺しを行う現代版『仕事人』と勘違いしていた。

  • 本作終了から僅か三ヶ月後に藤田まことと中村玉緒は勝プロ製作のTV時代劇『夫婦旅日記 さらば浪人』にて夫婦役で共演している。
    藤田の役どころは女房思いの剣豪という、主水と似ているようで真逆の人物。





追記修正、追記修正ばっかやってられっか!もう嫌、こんな生活!

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最終更新:2023年06月18日 20:51

*1 資本系列に対して捻れていたネットワーク体系の解消を目的として、1975年3月31日から毎日放送がTBS系列、朝日放送がNET(現・テレビ朝日)系列にネットチェンジしたもの。

*2 ただし、この時の文句は決まっている訳ではなく演じた役者によって違う。津川雅彦の情けなくも耳障りな悲鳴なんかが有名。

*3 『助け人走る』のゲスト出演では中山文十郎に手傷を負わせている。