イマジナリーライン

登録日:2021/02/16 Tue 13:25:02
更新日:2022/10/22 Sat 20:03:42
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イマジナリーライン(想定線)は、画面上に写って会話している二人の人物を結ぶ直線。漫画や映像の創作用語の一種。


概要

映像作品ではキャラクター同士を画面上の一定の位置に置き、一定の方向を向かせることで、読者に「誰が喋っているのか」などを分かりやすくする必要がある。このルールは「180度の原則」と呼ばれ、この時に必要となる概念がイマジナリーラインである。

「(カメラは)この線を跨ぐのはやめようね」というのが基本的なルール。
乱暴且つ端的に言ってしまえば「位置関係がごちゃごちゃになるカット割りはするな」「敢えてやるなら視聴者にわかりやすいように工夫しろ」という基本テクニック解説のための想像上の補助線(イマジナリーライン)である。



イマジナリーラインの例

例えばAとBが以下のような位置関係で話しているとしよう。
──はイマジナリーライン、abc(小文字)はカメラ位置、AB(大文字)は人物である。

    a

──A──B──

b       c

ドラマやドキュメンタリーなどを見ると、カメラがbの位置に置かれているときは、AとBの位置関係が画面内で変わらないことに気がつくだろう。
Aだけが映された場合でもAは画面の右側には映されず、Bだけが映された場合はBは画面左側には映されない。
これは二人が電話していて実際には相対していないという場合でも同じである。

このルールに則って映像を制作する際、カメラは基本的にこのイマジナリーラインを跨いではならない。
bの位置で撮ったあとにcの位置で撮ることはできる(その逆も可)が、bやcの位置からaの位置に移動したり、その逆を行なってはならない。
どうしても跨がなければならない場合は、後述する方法でラインを超える。
また逆を言えば、そうした処理なしにイマジナリーラインを無視している場合、ストーリーにおいてなんらかの異常事態が起こっていると言えるかもしれない。


なぜ跨いではいけないのか

ぶっちゃけ実に単純な話で、跨ぐとAとBの位置関係が左右反転して視聴者を混乱させるから、それだけである。
本で言えば右から読んでいたものが突然左から読まされるような違和感を与えてしまうのだ。

映像のルールが破られると、視聴者は何か普段と違うことが起こっていると思ってしまう。このためカットを組み合わせる(モンタージュ)際には統一したルールが設けられ、通常の事態と異常事態とが区別されていると言える。

カメラがイマジナリーラインを超え、元の位置と180度逆の方向を向くことを「ドンデン」と言う。

漫画の場合は一つの画面を複数のコマが構成する漫画においては目線誘導や後述するカミテ/シモテの概念が優先されることも多く、必ずしも絶対的なルールとは言えないが、それでも基本的な原則に違いはない。
映像と異なりカメラ位置が細かく変えられるため、背後や俯瞰したカメラ位置などで回転した位置のワンクッション挟むテクニックも多用しやすい。



線を跨ぐ場合

線を跨ぐ方法も存在する。一例としては以下の通り。アニメ監督の富野由悠季氏によれば、これでも積極的に線を跨ぐのは好ましくないとのこと。

  • 一旦線の上から撮る

    a

──A──d──B──e

b        c

上図において、aからb, cへ移動する際は、一度dにカメラを置いたカットを挟んでから行う。あるいは、カメラを徐々に動かしていき(カメラワーク)、eを経由して回り込ませる。また、

A→

  a

カメラがaにあり、被写体Aがその目の前を通り過ぎる時は、その画面の中でAの位置が左から右(またはその逆)に変わっても構わない。


  • 三人目を用意する

   b

──A──B──

 a

C


AとBをaから撮っている場合でも、CがAとBを見ている場合、Cとの間に新たにイマジナリーラインが形成されるため、bから撮ることも可能である。


  • 遠景から撮る
被写体がカメラから十分離れており、風景との位置関係などが示されている場合は、線を跨いでも構わない。

  • 時間を飛ばす
被写体がカメラ側に迫ってくる次のカットで時間が飛んでいる場合、線を跨ぐことができる。

etc.



似た概念

画面内の位置どりに関わる演出は、イマジナリーラインの都合上諦めなければならない場合がある。同様に、これらの演出のためにイマジナリーラインの整合性を諦めなければならない場合もある。

◆カミテ/シモテ

被写体の向く方向を統一することで、その被写体がどこへ向かっているのかなどを分かりやすくする手法である。

カミテは画面の右、シモテは画面の左を意味する*1

例えばあるキャラクターがカメラから見て右(カミテ側)へ向かって歩くことで学校に行くカットが挟まれた後、そのキャラクターが左(シモテ側)へ向かって歩くカットが挟まれた場合は、そのキャラクターは学校から帰っている可能性がある。

また、カミテの人物がシモテへ向かうカットと、シモテの人物がカミテへ向かうカットとが連続した場合、二人の人物はいずれ同じ場所に辿り着く可能性が高い。

カミテやシモテは、特別な意味を象徴する場合もある。カミテに置かれたものがシモテを向いているなら、未来やポジティブさを意味し、シモテに置かれたものがカミテを向いているなら、過去やネガティブさを意味するのである。

人物がカミテからシモテへ向かう動作は自然な感じを与える。シモテからカミテへ向かう動作はそれよりも弱い印象を与えるか、もしくは逆に自然に逆らう強い動作のような印象を与える。

漫画ではカミテからシモテへと読むため、動作は自然とカミテからシモテの方に向かって行われる。カミテからシモテへの動きはバトル漫画での主人公側の攻撃や威力の高い攻撃、シモテからカミテへの動きは敵の攻撃や遮られてしまった攻撃、といった風に使い分けられる。

◆ヘッドルーム

被写体を、画面を縦横にそれぞれ三分割した格子の交差する部分に配置する技法を三分割法と言う。

┏━┯━┯━┓
┠─┼─┼─┨
┠─┼─┼─┨
┗━┷━┷━┛

太線部を画面とすれば、例えば登場人物の目などは画面を分割する細線の交差する┼部分(三分割点)に配置する。三分割点は画面の縦横を黄金比(1:1.618)で内分する位置に近いため、このような構図は安定感を与える。安定感を崩したい場合は三分割点よりやや右上や左上に配置する。

シモテ側を向いている人物がシモテに配置されていると人物の背後に余分な空間が開くことになる。また逆に画面右端や上端との距離を詰めすぎると適切な空間(ヘッドルーム)が確保されない。このような構図は閉塞感などを与えるため、特別な意図がない限り人物は右上の三分割点などに配置されることがほとんどである。

また例えばカミテの木にとまっている虫などが突然シモテへ飛び立つようなカットを入れる場合、視聴者に事前にそれを仄めかすために虫を右下の三分割点よりややカミテ側に置くことがある。

【参考文献】

  • 富野由悠季『映像の原則』
  • 『アニメ研究入門 応用編』


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最終更新:2022年10月22日 20:03

*1 これは文字の書く方向に関係するらしく、西洋では左右が逆になるようである