モンタージュ(映像表現)

登録日:2022/05/27 (金曜日) 11:41:13
更新日:2023/02/14 Tue 10:53:40
所要時間:約 15 分で読めます




映像表現におけるモンタージュとは、映像同士を繋ぎ合わせることで新たな意味を持たせることである。

概要

たとえば、男性の顔を写したカット(=一つづきの映像)の直前に棺桶のカットを写せば先の男性の表情が悲しんで見え、棺桶の代わりにスープを写せばその人物は空腹に見え、女性を写せば鼻の下を伸ばしているように見える。これをクレショフ効果という。

映像表現は言語表現とは本質的に異なるが、もし語用論のように捉えるならば、一つのカットが大まかな意味を表し、視聴者はそれと関連性の高い描写を前後のカットから探し出していると言えるかもしれない。*1

■カットとショット

カットは、カメラを撮り始めてから撮り終わるまでの間の映像や、その一部を切り取った断片を指す。モンタージュはこのカット同士を組み合わせて、それぞれのカットの持たない意味を作るものである。

ショットは、個々のカットの種類を表す。例えばそれがフカンで撮られているかアオリで撮られているか、といったカメラアングルの状態や、ショットサイズなどに関するものである。

■デクパージュ

遠藤大輔は『ドキュメンタリーの語り方: ボトムアップの映像論』の中で、画面を構成する有意の記号(≒人や物といった情報)の数量に応じ、ショットを以下の三種類に類別している。これはデクパージュと呼ばれる。

  • 限定配列
体や建物の一部のような「全体にしては少なすぎる」情報だけを与えるもの。
  • 設定配列
風景など、複数の記号が映り込むことで、そのショット単体では複数の意味を取り得るもの。
  • 連関配列
人と人, 人と物などを写し、それらの関係性を表すもの。

漫画ではシーンの意味を決定する「キメ」の前後に、キメの予兆である「フリ」と、それに対する反応である「ウケ」のコマが必要だが、映像でも、まず限定配列や設定配列で視聴者に「何が起きている/起きようとしているのだろう」と疑問を持たせたり、あるいは逆にそれ以外の疑問を払拭した上で、キメとしての連関配列を挿入する。

デクパージュは画面に占める人物の大きさとは無関係である。むしろ、そうした曖昧な基準を脱却するために生み出された概念こそデクパージュであると言える。

方法

限定配列は、最も重要な情報が画面の外にあるようなショットである。
設定配列は画面内に全ての情報が収まっているが、何が重要かが分からなかったり、全体の意味が曖昧だったりする。
連関配列はその時点で重要な情報が画面内に二つあるショットである。

通常、設定配列は映される時間が長く、限定配列は時間が短い。連関配列で映される時間は二つの中間くらいである。

遠藤は、通常、限定配列の次にはどのショットが来てもよく、連関配列は連関配列同士のショットが連続することを嫌い、また設定配列は設定配列同士で連続するのはより好ましくないとした。

遠藤は、ショットの主な被写体を身体(の一部), 人数, 風景の三つに分類し、それぞれに対し特定の意味があるものとした。たとえば、

  • 「作業」を表すのは「身体体の一部」が含まれる連関配列である。
  • 「属性」を表すのは「人数」の多いショット(=設定配列)である。
  • 「行動」を表すのは「身体」全体が映るショット(=設定配列)である。

デクパージュはいわゆるショットサイズ等とは切り離して考えられる。例えば、限定配列はクローズアップやオープンフレームで撮られることが多いだろうが、限定配列だからといってクローズアップであるという訳ではない。

語用論の観点から考察するとするなら、限定配列や設定配列は「弱い推意」(複数の意味に取られ得るもの), 連関配列は「強い推意」(ある程度意味が推測できるもの)というように、デクパージュは映像を言語のように捉えた例と言えるかもしれない。

■180度の原則

人と人とが向き合っているとき、カメラは二人の人物を結ぶ線を跨ぐことは原則としてできず、もし行った場合は異常な事態であることを暗示する。詳細は「イマジナリーライン」の項目を参照。

モンタージュの種類

■場所

1.風景を写した後2.人物などを写すとその場所にその人物が居るように見える。
特に1.のカットで特定の建物に向けて視線誘導が行われている場合、その人物はその建物に居る可能性が高い。

■移動

1.人物のカットの後に2.飛行機や電車などの移動手段を表すカットを挿入し、その後同じ人物を別の場所で撮った写真を挿入する。すると人物が移動したように見える。
基本的に移動の前後で画面内での人物の向きは合っている(たとえばカミテへ向かった人物は、ふつう次のカットではシモテから出てくる)。

■動作

被写体を分割するように写すと、その人物の動作を表す。

■見た目

1.人物が何かを見ているカットの後に2.別の何かを写すと、2.は1.の人物が見ている対象物であるという意味になる。

■会話

二人の人物を、一方はカミテ, もう一方はシモテに置いて交互に写すことで、会話しているように見せるもの。ここで両方の人物とも同じカミテまたはシモテに置いた場合、同じ意見であるか、もしくは会話が噛み合っていないことを表す。

■抽象的な表現

例えば葡萄, レモン, りんごのカットを次々と写すことで「果物」という意味を成すなど、複数のカットを組み合わせてそれらに共通する意味を想起させるもの。

■クロスカッティング

二種類の異なる映像を交互に流すと臨場感や緊迫感などをもたらす。例えば、追う人物と追われる人物を交互に流すことなどがこれにあたる。
異なる場面の人物が同じような動きをしていたりショットが同じだったりすると、片方の場面がもう片方の場面を暗示する意味になる。

カットバック

異なる場所にあるもの同士を交互に写す手法。たとえばロープを引いて崖を登る人物を写したのち、その人物の見えないところで密かにロープを持つ人物とを写し、崖を登る人物の知らないところで起こっている異変を視聴者にだけ伝えることで緊迫感を与える。

フラッシュバック

人物の想像した映像や思い出した映像を写す手法。逆に未来を写すのは「フラッシュフォワード」と呼ばれ、回想シーンで用いられる。

■マッチカット

類似する動作を組み合わせるもの。1.投げた骨のカットの次に2.白い人工衛星を写すなどがこれにあたる。動作や形状を契機として、異なる場所や空間にあるものを繋げる効果がある。
裏を返すなら、文章における直喩がそうであるように、時間や場所が変わったことを設定していると言えるかもしれない。

■スマッシュカット

無関係なカット同士を組み合わせるもの。強い違和感があり、視聴者にインパクトを与えることができる。反面、使いすぎると飽きられやすい。

■ジャンプカット(=ニンジャ)

同じ構図のショット同士を連続させることを指す。視聴者に映像の虚構性を意識させる効果がある。
構図が変わっても被写体やデクパージュが同じならジャンプカットと呼ぶ場合がある。

インサートカット

人物を同じ視点から撮らざるを得ず、意に反してジャンプカットが起きてしまうような場合に風景などを挿入することでこれを回避するもの。

ジャンプカットの積極的な利用

ジャンプカットは一般に好ましくないとされるが実際にはカメラを固定(または人物の動きに合わせて僅かずつ移動)して遠景から撮る際にジャンプカットが用いられることがある。

■イマジナリーライン超え


■音に関するもの

例えば、カットを変えても直前のカットの音源からの音が連続して聞こえている場合がある。この技法を「ずり下げ」と呼ぶ。

黒澤明は無音のカットの後に大きな音の鳴るカットをつなげることでインパクトを与える手法を使った。

モンタージュの方法

カットを変えるのには様々な方法がある。

  • O.L.(オーバーラップ)
前のカットをフェードアウトさせるように薄くし、次のカットをフェードインさせるように濃く写してカットを変えるもの。
時間の経過を表す場合と、意味の繋がりを表す場合とがある。
前者の場合、ほぼ同じショット同士を繋げて他の条件を同じにした上で、二つのカットの違いに注目させる。
後者の場合、異なるショット同士を繋げることで二つの映像を重ね合わせ、人物の置かれた状況などを暗示する。

  • ワイプ
画面内を何かが移動し、その何かが横切った直後に次のカットを写すもの。

  • ポン引き/ポン寄り
カットが切り替わると同時にショットサイズだけが変わるもの。たとえばカットが変わる前後でフルフィギュア→バストアップと変える。

漫画において

伊藤剛は、漫画においてコマ同士を繋ぐ方法を「コマ割り」と「コマ構成」に分けている。モンタージュに近いのは「コマ構成」の方と言える。漫画には時間を示唆する方法はあっても映像のように強制的に時間が流れるわけではないことや、読む方向や魅せゴマなどの制約(「コマ割り」の範疇のもの)も存在する。故にこの二つは安易に同一視されるべきではないのかもしれない。

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最終更新:2023年02月14日 10:53

*1 先の例で言えば「男性は棺桶を見ている」が"推意前提"であり、「男性は悲しいと思う」が"推意結論"だろう。