SCP-2646

登録日:2023/04/25 Tue 23:30:23
更新日:2023/12/09 Sat 23:08:43
所要時間:約 11 分で読めます





水をやるよ。だからおまえの水をよこせ。


SCP-2646 - 給水塔(Water Tower)

SCP-2646とは、SCP Foundationが確保しているSCPオブジェクトである。
タイトルは「Water Tower/給水塔」。

給水塔とはなんじゃらほい

オブジェクトの解説の前に、タイトルにもなっている「給水塔」とはなんぞやと。

住宅地の近く、団地の敷地内、工場の敷地内、高速道路のパーキングエリア、浄水場などで、このような建造物を見たことのある財団アニヲタ支部職員は少なくないはずだろう。
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この謎の建造物が給水塔である。
「高架水槽」と呼ばれることも。

で、この給水塔とはどのような役割を持っているのかというと、簡単に言うと「水タンク兼重力式水道ポンプ」である。
水道の栓をひねれば蛇口から勢いよく水が流れ出る。
一見すると当たり前のことだが、蛇口から水が出るということはそれ相応の圧力が水道(の配管)にかかっているということである。
全く圧力をかけていなければ流れない。
つまり、水道にはただ水を流すだけでなく、一定の圧力をかけておく必要がある。
その「圧力をかける」ための方法の一つが給水塔である。
高所に設置した水タンクから、位置エネルギーを使って水道に圧力をかけることにより、水が流れるようにするための施設だ。

また地下水の豊富な場所においては、地下水の浸透を阻止することで、地下水に紛れて侵入してくる異物や雑菌を排除するという役割もある。

…ただ、住宅地周辺にこういった巨大な塔がデンと居座っているのは見栄えの点で良くないという声がある、点検の際には高所に登る必要があるなどで、ポンプの高性能化も相まって(=大型の給水塔で送水する必要がなくなる)、現代では減少傾向にあるようだ。

ただし、重力を用いて送水するという特性上、停電になっても(給水塔内に水がある限り)送水できるという電動式のポンプにはないメリットも有る。

+ メタ的な考察。雰囲気が損なわれるのが嫌という人は見ないように
で、この給水塔であるが、どうにも「怖い」「不気味」という印象を持つ者が少なからずいるようである。
(例えばGoogleで「給水塔」と打つと、「給水塔 怖い」などが候補として表示される)
住宅地の周辺に立つ、無機質かつ奇っ怪な外見の巨大な塔というのは、その異質さから恐怖心を掻き立てられるのかもしれない。
そんな「給水塔の持つ不気味さ」をSCPにしたのが、本オブジェクトとも言えるだろう。


…本題に入る。
で、このSCP-2646のオブジェクトクラスは…

Keter。


なんで給水塔がKeterなの?と思う方も少なくないだろう。実際、当初は本項目の作成者もそう思った。
しかしこいつはKeterなのだ。

特別収容プロトコル

SCP-2646は、州間高速91号線の工事チームを装ってサイト-2646ベータに駐屯する、現地の観測チームによって見張られている。
一般人に差し迫った危険が無い限り、エージェントはSCP-2646区域内及びSCP-2646-1への接近は行わないようになっている。
また、SCP-2646-1の位置はログ-2646に毎日記録されることとなっている。

「位置を記録」という点で、このオブジェクト、とりわけSCP-2646-1と指定されている何かが「動ける」と察する事はできるだろう。

SCP-2646-2は標準ヒト型生物封じ込めユニットに収容されている。生活とインタビューは、精神病棟を装った区画で行われている。

補遺

事件2646-09を受け、観測チームのメンバーは30日ごとに現地から転任させられることとなった。
また現地の研究員は、SCP-2646-1の本来の位置を特定するため日報を書くことともなっている。
さらにこの日報は、SCP-2646の研究に関与していない研究員に、対照文書SCP-2646-Aと比較させられる。仮にこの対照文書と一致しない報告を行った場合。いかなるスタッフも直ちにクラスB記憶処理が施され、プロジェクトから転任させられる。

この補遺からは、「何らかの形で記憶や認識に影響する能力も持っている」と察することもできるはずだ。

説明

SCP-2646は、アメリカ・マサチューセッツ州の某所に位置する、とある市の給水塔であるSCP-2646-1と、その給水塔が某高校に影響を与える現象。
「建造物+現象or影響地域」のオブジェクトである。
…が、基本的にはSCP-2646-1、つまり給水塔がオブジェクトと思ってもよいだろう。

SCP-2646-1がいつ建設され、水源として使用され始めたかは公式の記録には残っていないようだ。
…この給水塔、認識災害特性を持っているのである。
ちなみに、市の職員はSCP-2646の認識災害を被っていると判断されている模様。
ただ、財団研究員は2018年の冬あたりからSCP-2646が出現し、活動を始めたと推定している。

今回の「主役」といえる、SCP-2646-1はとある市の給水塔

2019年3月24日時点でのSCP-2646-1。

画像出典:http://ja.scp-wiki.net/scp-2646 ,by CirclesAndSquares,2023/04/26閲覧
この画像は『 クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス 』に従います。

高さは44m、直径は25mで、約45万リットルの容量を持つ。
45万リットルというと途方もない量に思えるだろうが、もっと大型のものでは数百万リットルオーダーの容量を持つ給水塔もあるため、SCP-2646-1は給水塔としては比較的小規模とも言えるだろう。
(ちなみに、例えば世田谷区の駒沢給水所は2775立方メートル=277.5万リットルの容量の給水塔を2つ持つ)
SCP-2646-1は外部からの入り口を持たず、また外壁の破壊は不可能だった模様。いつもの謎の破壊耐性。

SCP-2646-1の第一の異常性は、一回に付き最大40mほどの距離を転移可能ということ。
こいつ、テレポート能力を持っているのである。
んでも、給水塔という大型の建造物がある日突然近くに現れた、あるいは突然テレポしてきたら、そりゃ大騒ぎになるでしょ?と思うかもしれないが…
第二の異常性として、SCP-2646-1は認識災害能力を持っており、テレポしてきても周囲の人間に「この給水塔は昔からここにあった」と信じ込ませてしまう。

たった一人を除いて。
え?どういうこと?それは後ほど。

仮にSCP-2646-1の位置について「あんなところになかったはずだぞ?」などと聞いても、SCP-2646-1の認識災害を受けた人物はその話には関心を示すことはなく、質問を続けられると苛立ちを見せる。
ちなみに、対象人物はSCP-2646-1に関するあらゆるインタビューにおいて、「ええと、誰だって水は必要だ」と回答している。

ところが、SCP-2646-1の認識災害を受けない人物がたった一人だけいた。
SCP-2646の影響を受けている高校の化学教師、SCP-2646-2ことクラウディン先生だ。
SCP-2646-2、つまりクラウディン先生がなぜ認識災害を受けないのかについては未だに謎である。

2018年4月14日、クラウディン先生は無謀危険行為・規制薬物影響下での運転・爆発物所持・自爆テロを企てた疑いでタイーホされた。どう見てもただのテロリスト
クラウディン先生は警官にSCP-2646の特性について話したものの、とある精神病院に勾留された。まあ警官も当然ながら認識災害を被っているのだろうし、そうなるな…。先生のやろうとしたことはテロ以外の何物でもないが
2019年4月18日、クラウディン先生は財団エージェントによって回収され、精神療養施設への移動を装ってサイト-188に移送され、SCP-2646-2に指定された。

先生「…それで、あの給水塔ですが、2018年の3月のいつかは忘れましたが、高校に向けてテレポートしたんです。ええ、最初は見間違いかと思いましたが」

インタビューによれば、ことの発端は2018年の3月。SCP-2646-1はクラウディン先生の高校に向けて30m転移した。
当初は勘違いかと思っていたが…。
SCP-2646-1、再び26m転移し、高校に隣接する野原にやってくる。
見間違いではない、あの給水塔は移動していると確信したクラウディン先生は、他の人々に「あの給水塔、あんなところにありましたか?」と聞いてみる。
…が、既に認識災害の影響下にある周囲の人々は、上記の通りクラウディン先生の質問には関心を示さなかった。
そしてSCP-2646-1、今度は高校のサッカー場に転移。
この時点で先生は地元警察に「あの変な給水塔、絶対おかしいですよ!」と垂れ込んだのだが、警察の回答は「調査に値しない」の一言。

地元民にも警察にも無視されたクラウディン先生、ついにSCP-2646-1を破壊するために爆発物を入手。
だがSCP-2646-1に向かう途中、蛇行運転を警察に制止され、逮捕となった。

ここまでの情報なら、SCP-2646は「テレポートと認識災害の能力のある給水塔」それだけである。
訓練されたアニヲタ支部の職員読者諸氏なら「認識災害能力で大きな騒ぎになってないから、テレポート範囲を封鎖するだけでよさそう。Euclidあたりが妥当かな」とか思ってしまうかもしれない。

しかし、こいつはKeterなのだ。

なぜKeterなのかは以下の補遺を読めばわかるだろう。

補遺:事件2646-09

2019年5月16日、サイト-2646ベータに転任したスタッフはとんでもないものを見た。

SCP-2646(-1)が転移し、件の高校に合体している姿を。

SCP-2646研究員は全会一致で、ガス漏れを装って教員と生徒を避難させることを決定。
教員と生徒はガス中毒の検査・治療と称してとある病院に搬送されたことで、すべての個人の大まかな封じ込めが確立された。
検査では全員が水中毒の症状を示していることが判明し、治療が行われた。

だが。
学校の記録によると、生徒73人と教員6人が行方不明。
生徒だけでも70人以上行方不明というのは普通に大事になりそうだが、インタビューを受けた教員と生徒の中に行方不明者を知っていた人物はいなかった。

そればかりではない。
SCP-2646に駐屯する観測チームが、「あの給水塔は以前から高校にあった施設だ」と証言したのだ。
これらの研究員はSCP-2646-1の認識災害を被っていると判断され、全員がクラスB記憶処理を受けたあとに経過観察のため収容された。

さらに問題なのは高校の校内。
校内には生徒に対し「水の授業」に参加するように促す張り紙が複数発見されている。
また、合計283個の水飲み器が廊下に2m間隔で設置されていた。ちなみに全て使用可能。
いくつかの教室からは机と椅子が取り払われ、そのかわりに部屋の中央に稼働中の噴水があった。
職員室では、ジム・カフェテリア・地下室にプールを設置するための設計図が発見された。
なんだこれは。シュールだが不気味な光景である。

調査チーム「…おい、あれはなんだ?」

さらに調査チームは、3階で以前には存在しなかった、「水」と書かれた謎のドアを発見。
このドアを開けると…

その先にあったのは、SCP-2646-1内部の足場であった。
SCP-2646-1の内部はごく普通の給水塔であった。

…貯められていた水に、行方不明となった生徒73人+教員6人の溺死体があることを除けば。

この時点で、SCP-2646-1の貯水率は73%となっていた。

マサチューセッツ州政府に潜伏する財団エージェントは、建物の安全性の問題を理由としてこの高校の閉鎖を通告した。
生徒はBクラス記憶処理を施され、隣接校区に移籍させられた。
教員はAクラス記憶処理を施され、解雇通知の文書を送付された。財団流の「解雇」じゃなくてよかった…
行方不明者はガス漏れで死亡したと通知するために、行方不明者の家族にエージェントが派遣されたが…
家族はSCP-2646の認識災害作用下にあり、そもそも被害者のことを覚えていない事が判明。


こいつがなぜKeterなのか、おわかりだろう。
こいつは「テレポート能力を持ち、認識災害能力で気づかれないようにして住民を捕食する、人食い給水塔」なのだ。
Keterと言ってもクソトカゲアベルのように「単純に手がつけられないほど強い」もの、地球滅亡ホームランコマンドのように「被害範囲が洒落にならないもの」から、星になったサラブレッドお天道様のように「特に被害は出さないけど捕まえられないからKeter」、SCP財団サイトのような「財団の秘密ばらまき系」まで様々だが、
こいつは直球勝負の不気味な人喰いモンスターのKeterだ。
それも、財団に破壊・無力化を検討させるほどの。

…無力化を検討させるまでに至った経緯は、次の後日談で。

補遺:事件2646-11

2019年6月5日、SCP-2646-1を観察するエージェントは、SCP-2646-1の場所が対照文書SCP-2646-Aと一致しないことを報告した。
エージェントはSCP-2646の認識災害を被ったとみなされ、現場から回収されて記憶処理を受けた。
…だが、この後が問題である。
代わりにサイト-2646-ベータに転任したエージェントは、SCP-2646-1が市の繁華街、それも商業地区に向けて転移したことを報告。
この給水塔、明らかに意思を持っており、しかも「獲物」の多数いる場所を把握しているのだ。
SCP-2646-1の無力化はO5の承認待ちとなっている。

街で見かける給水塔。
それ、本当に昔からそこにありましたか?
もしかしたら、その給水塔…人間を捕食しているかもしれませんよ?


「生徒諸君へ。水の授業と、SCP-2646の追記・修正に参加するように」


CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-2646 - Water Tower
by CirclesAndSquares
http://www.scp-wiki.net/scp-2646
http://ja.scp-wiki.net/scp-2646

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最終更新:2023年12月09日 23:08

*1 2023年3月31日 栃木県宇都宮市にて編集者撮影

*2 2023年3月31日 栃木県宇都宮市にて編集者撮影

*3 2023年4月5日 千葉県東庄町にて編集者撮影