実現したこちら葛飾区亀有公園前派出所のアイデア・出来事

登録日:2024/03/19 (火) 22:34:07
更新日:2024/03/27 Wed 22:43:32
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この項目では、こちら葛飾区亀有公園前派出所(以降こち亀)で描写された技術・習慣などのアイデアなどのうち、後年になってから実現したものを解説する。

概要

こち亀は、1976年に連載を開始し2016年に完結するまでの40年という、長期間に渡って連載された漫画である。
40年で作品の時代観もゆるやかに変化しているのだが、未来を見据えたと思われる描写も多々存在し、その中には現実となったものもいくつかある。
それを根拠に、一部の読者から「こち亀(あるいは秋本先生)は未来を予言している」などと冗談半分で評価されることがある。
しかしながら、公的な特許の説明で引用されたり拒絶理由に使われた事例もあり、なかなか侮れないのだ。


技術面で実現したもの

  • 二次元コード決済*1
129巻「驚異のシルバーiT!の巻」掲載。初出は2002年。
携帯電話(いわゆるガラケー)上に表示されたバーコードを読み取って買い物をする描写があり、これは現在の二次元コード決済によく似ている。
原型は2002年(実証実験を含めると2001年)に存在しているが、自動販売機の購入にしか使えなかったり、Suicaなどの電子マネーよりも複雑な手間がかかるなどという実用的とは言い難いものだった。
スマートフォンで使えるようになるのは2017年のOrigami Payサービス開始*2、全国的に普及するようになったのは2018年のPayPayサービス開始まで待つことになる。
2022年時点で、二次元コード決済の取引額は111兆円に登り、コロナ禍や還元キャンペーンを追い風に急速に普及した。クレジットカード・電子マネーに続く第三の勢力として期待されている。

  • テレビのインターネット配信
同じく129巻「驚異のシルバーiT!の巻」掲載。初出は2002年。
この回では携帯電話の技術についてクローズアップされることが多いが、インターネットでテレビが見られるようになったという説明がある。
TVerやNHKプラスがこれに近いシステムで、インターネットを使ってテレビの番組が「合法的に」見られるサービス。
YouTube上のニュースを除く同時配信は長らく行われていなかったが、テレビ離れの対策からか2022年にプライムタイム限定ではあるが同時配信が開始された。
また現在では、インターネット放送局であるAbemaTVもアニメや独自番組で知名度を上げつつある。
ただし、既存のローカル局への配慮問題*3や、インターネットでは視聴者が多くなるとサーバーの増強が必要になるという致命的なデメリットを抱えているため、課題も多い。

  • 駅での発電・電力自由化
72巻「空飛ぶ事業家!の巻」掲載。初出は1990年。
儲けのために人力で発電する描写の中で、駅のドアを回転ドアにして人力で発電するアイデアがある。
流石にそのままではないものの、2006年に圧電素子が仕組まれたマットを東京駅の改札に置いて発電する、いわゆる「床発電」の実証実験が行われた。
ちなみに東京駅レベルの利用者数だとすぐに床が劣化してしまったようだが、将来的には自動改札機や電光掲示板などの駅設備で使用する電力の一部をまかなえるよう目指しているとか。
なお、「個人が電気を売って儲ける」というくだりは、現在の電力自由化やソーラー発電の余剰電力買い取りに近い。ただし電力販売競争による環境破壊や供給の不安定化などの問題を抱えているので、これから普及するかはまだまだ未知数なところ。

  • ビデオ通話
59巻「テレビでこんにちは!の巻」掲載。初出は1988年。
金欲しさにインターネット関連の仕事のアルバイトを見つけた両津が副業禁止のはずだが会場に行ってみると、離れたところにいる人同士がお互いを映して飲み会をやる光景があった。現在のビデオ通話システムと言っていいだろう。
ちなみにそれはモニター付きテレビカメラが一斉に向かい合った非常にシュールなもので、特定の人の顔をよく見るにはバイトの両津が何度もカメラを動かす必要があるのだが、これはパソコン・スマホはおろかインターネットすらなかった時代の話なのでこのようなものになったようだ。

  • 音声入力制御システム
75巻「音声入力でコンニチハ!の巻」掲載。初出は1992年。
音声入力をする際、発話者の音量を検出し声が大きければ「もう少し小さい声で」、声が小さければ「もう少し大きい声で」と促し、適正な音声入力をサポートするというもの。作中では両津がボイス予約式のビデオデッキで使用していた。
この発想自体は特段複雑なものではなかったと思われるが、特筆すべきはこれが特許申請の拒絶理由に使われたことである。
2000年に三菱電機が同様の仕組みを特許申請したところ、審査官が同話を引用し、「音声認識、音声出力が可能な装置において、発話者の音声入力の音量レベルに応じて案内音声信号を出力するものが記載されている」として審査を拒絶した。
ざっくり言えば、「キミの発明はこち亀レベルの有名な漫画で紹介されてるんだから、特段すごい進歩性があるとは言えないよ」ということである。
なおこの特許は、のちに説明を一部修正の上受理された。

  • 書いた文字が消せるボールペン
42巻「はつめい博士の巻」掲載。初出は1986年。
厳密には万年筆であるが、消しゴムで消せる特別なインクを発明し、特許料5億円を儲けた博士が登場する。
これは2006年発売の消せるボールペン(いわゆるフリクションペン)のようなものと言える。
「温度によってインクの色が変わる」という消せるボールペンの基本的な仕組みは1972年に発明されており、それを透明にできないかという発想からできたもの。
なお、消せるボールペンは熱によって透明になるので、熱さえあれば付属のゴムでなくても消すことができる。

ビジネス・習慣面で実現したもの

  • プロゲーマー
28巻「アンコール雪之城の巻」掲載。初出は1981年。
この回の冒頭で両津はボーナス全部をはたいてコングゲームの筐体を購入し、ハイスコアに挑戦している姿が描かれた。
そして両津は「わしはいずれプロのゲーマーとなる」「囲碁やボウリングも元は娯楽だが、今やプロもいる」と主張。
両津の主張に対する中川や部長の反応は非常に冷めたもので、この段階では単なる娯楽でしかなかった電子ゲームでプロを目指す発想はいい年の大人のすることではない=ギャグとしての扱いであった*4

そこから後に90年代になると対戦型格闘ゲームが大ブームを巻き起こし、そこから発展した大規模な格闘ゲーム大会の登場とそれに挑むプロのゲーマーの出現、さらにはオンラインゲームの発展に伴って格ゲー以外のジャンルも含めた競技として対戦ゲームを行う「eスポーツ」が誕生するなど、両津の主張通りに電子ゲームは単なる娯楽の垣根を越えたものへと発達していった。
こち亀自体も連載期間がさらに長期化し、90年代以降になるとより強くサブカルチャーの要素を取り入れて作品を描くようになった中で、両津のゲームに興じる姿に周囲(主に部長)が疑問を抱くことはありつつも、両津自身が格闘ゲームやレースゲームなど多数のジャンルのゲームで大会に出場する話も登場。
むしろ両津はこの時代の変化に急速に馴染んでおり、おそらく作中最も「時代が追いついた」事例でかつ「時代についていった」ネタと言える。初出当時の作者も未来のこの状況は予見できなかったものであろう。

  • スーパー銭湯
74巻「銭湯レジャーランド化計画!の巻」掲載。初出は1991年。
この回では、不人気で潰れる寸前だった松ノ湯に、様々な種類の温泉やアトラクションを設けた「松ノ湯ランド」という現在のスーパー銭湯を作ろうと両津が提案する。結局資金難で頓挫するのだが、この話が収録されたのは1994年。スーパー銭湯の元祖は2003年に開業した大江戸温泉物語とされているので、10年近く時代を先取りしていたのだ。ただし「施設が充実している温泉施設」そのものは1970年代に少数ながらも存在していた他、1990年代には愛知県にある複合型入浴施設「竜泉寺の湯」が人気を博した事例がある。

  • 倍速視聴
46巻「よく学びよく遊べ!の巻」掲載。初出は1985年。
内容を楽しむためではなく、学校の話題についていくためだけにテレビ番組を3倍速で見る少年の話が出てくる。
当時はギャグとして描かれた演出だが、現在は「内容を効率よく知りたい」「忙しい」などの理由から主に若者の間で動画を倍速視聴する習慣が一定の支持を得ており、「タイムパフォーマンス(タイパ)」という言葉まで出現した。
もちろん「倍速だと見た気がしない」という反対意見も根強く、時間に追われる若者的な文脈で否定的に語られることも多いが、特に学習の分野では集中力が上がるという研究結果もあるなど、一概に悪いことばかりではない。

  • レンタサイクル
52巻「使いすて万歳!の巻」掲載。初出は1986年。
「ものには使用期限を決めないと駄目」という持論の元、何でも使い捨ての商品を開発する人を尋ねる回。
その商品の中に、安価なプラスチックでできた500円の「使い捨て自転車」が登場し、それなりにヒットする。
流石に使い捨てはまだないものの、「お金を払って一定時間自転車を利用する」という観点で言えば、基地局で借りて別の基地局に返却する…という乗り捨て型のレンタサイクルやコミュニティサイクルが現在都市部や観光地で広がりを見せている。
なお、レンタサイクル先進国の中国では、乗り捨てができる制度を導入したところ自転車がゴミのように積まれて放置されるという笑えない事態も起きたりした。

  • ゲーム内の課金システム
98巻「電脳ラブストーリーの巻」掲載。初出は1996年。
恋愛ゲームを進める本田がゲーム内の美女に高額アイテムをねだられ、クレジットカード番号を教えて買ってしまう回。
恋愛ゲームの課金が普及したのは2000年代のこととされている。
現在はもっぱらソーシャルゲーム内におけるアイテム課金(いわゆるガチャ)依存・確率の不明瞭さが社会問題になっており、2012年以降景品表示法や資金決済法で規制がなされるほどである。それでも日本におけるゲームの課金額は合計で1兆円を超えており、ゲームになくてはならない存在として完全に定着した。
なおこの時代はPCゲームの課金どころか、家庭用ゲーム機が圧倒的に主流だった時代であり、別の意味でも時代を先取りしていると言えよう。
余談だが、98巻には当時のパソコンブームからかパソコンに関する話が多い。*5

実現した出来事

  • コンビニにおける警察官の常駐
121巻「コンビニエンスな警察官!!の巻」掲載。初出は2000年。アニメ版では232話「こちらコンビニ派出所」として放映された。
24時間営業によってセキュリティを強化したいコンビニと、土地不足の都内で安く派出所を増やす警察の利害が一致するはずだと主張するコンビニ好きな両津の提案によって、都内のコンビニに警察官が1名専属するくだり。
なお、目的は当然ながら両津のように仕事をサボるためでも自堕落な若者を叱るためでもなく、近年増えつつある詐欺をコンビニで防いだり、警察への情報提供をする環境を作りやすくしたり、店内の治安を向上するためとのこと。意外にも利害が一致していたのだ。
一見冗談のように思えるが、ほぼ同様の取り組みが2023年に千葉県で行われてニュースになった。
また106巻「派出所コンビニ化計画!!の巻」では逆に派出所でコンビニのように日用品などの販売を行う事例が描かれているが、こちらは実現していない。

  • ベイブレードの流行
109巻「ハイテクベーゴマ大ブーム!?の巻」掲載。初出は1998年。
閉店する駄菓子屋から仕入れた大量のベーゴマを現代風に改造した「ハイテクベーゴマ」という玩具が、子どもたちの間で大流行する話。
1年後の1999年に「ベイブレード」という、まさにベーゴマの進化版がタカラトミーから発売され、空前のブームとなるのは御存知の通り。
「誰でも簡単に回せる」「漫画とのメディアミックス」などその後の商品展開も一致している。


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最終更新:2024年03月27日 22:43

*1 一般的に知られているQRコードは、デンソーウェーブの登録商標である。

*2 Origami Pay自体は2016年から存在しているが、当初は通信がBluetooth方式だった

*3 インターネットで全国どこでも番組が見られるようになれば、県域放送を担うローカル局の存在意義が薄れてしまうという懸念がある。事実、インターネットでラジオを聞けるRadikoではGPSで閲覧制限をかけており制限解除には課金が必要。

*4 70年代末~80年代初期にはスペースインベーダーに纏わる社会問題の影響もあってか、同様に「ゲームに熱中する大人」「ゲームのプロを名乗る人物」をギャグとして描く作品は珍しくなかった。

*5 Windows95が発売された時期。それ以前にもパソコンはあったがOSを使うための複雑な設定が必要であり通信量も非常に高かったので、ごく一部のマニア向けのものだった。一般に普及したのは1995年以降。