正しい台詞(ペルシャ語)-口語ペルシャ語について

正しい台詞(ペルシャ語)にも書いてある通り、るろうに剣心ペルシャ語吹き替えでは標準ペルシャ語ではなく口語ペルシャ語の特徴が多くみられるが、ネット上には日本語による口語ペルシャ語の解説が少ないため、少しではあるが解説する。
無論、標準ペルシャ語との比較で説明するため、標準ペルシャ語の最低限の知識は欲しい
「ペルシア語」でググらんか!


+ 目次



1. 発音編

メルダース注意:便宜上ローマ字表記を用います。
ペルシア文字 ローマ字表記 カタカナ表記*1
اٙ(語頭), ا(語頭以外) ā アー
ب b バ行
پ p パ行
ت t タ行
ث s サ行
ج j ジャ行*2
چ ch チャ行
ح h ハ行
خ x ハ行
د d ダ行
ذ z ザ行
ر r ラ行
ز z ザ行
ژ zh ジャ行
س s サ行
ش sh シャ行
ص s サ行
ض z ザ行
ط t タ行
ظ z ザ行
ع ' ア行
غ gh ガ行
ف f ファ行
ق gh ガ行
ک k カ行
گ g ガ行
ل l ラ行
م m マ行
ن n ナ行
و v(子音の場合)
u/o/ou(母音の場合)
خの後で発音なしの場合は無表記
ヴァ行
ウー/オ/オウ
ه h
語末かつ直前の母音がeの場合無表記
ハ行
ی y(子音の場合)
i(母音の場合)
ヤ行
イー
※短母音はペルシア文字上では表記されませんが、ローマ字ではa/e/oで表記します

最初に、超おおまかにどういう傾向があるかというと、
a⇒eに変化しがち
語末の子音が簡略化されがち
③接尾辞や接頭辞が付くときに母音が落ちがち
あたりが挙げられる。


まずは日本語版Wikipediaにすら書いてあるような基本事項から。

1-1 /ā/は次に/n/や/m/が来る場合、口語では/u/に置き換わる。

 例(ān→un):
標準ペルシャ語 口語ペルシャ語
آن(ān) اون(un)
 「あぁん…」が「うぅん…」になると覚えよう。
 空耳では「うんてい道場」の「うん」になったりする。

 例(ām→um):
標準ペルシャ語 口語ペルシャ語
تمام(tamām) تموم(tamum)
 空耳ではよく「多分」になる。

 ただし、この規則は絶対ではない
 検証シリーズではپایان(pāyān)がpāyunとならずそのままpāyānになっていたり、
 آماده(āmāde)がumādeとならずそのままāmādeになっていることを確認できる。

 面白い例もある。「あの」「その」という意味のآن(ān)は最初に挙げた例のようにunに変化するが、
 「瞬間」という意味のآن(ān)についてはānで発音されているのをオニワバンスタイル検証にて確認できる。

 おまけ:るろ剣吹替で確認した、単語別ā→uの変化有無
単語(標準ペルシャ語) るろ剣吹替での発音 ā→uの変化有無 意味
آن(ān) اون(un) 「あの」「その」「それ」など
آن(ān) 「瞬間」
نشان(neshān) نشون(neshun) (dādanと合わせて)「見せる」
نشان(neshān) 「紋章」
مان-(-emān) مون-(-emun) 「私たちの」など
تان-(-etān) تون-(-etun) 「あなたたちの」など
شان-(-eshān) شون-(-eshun) 「それらの」など
همان(hamān) همون(hamun) 「あの」「その」など
آنجا(ānjā) اوجا(unjā) 「そこ」「あそこ」
دانستن(dānestan)
現在語幹دان(dān)
دونستن(dunestan)
現在語幹دون(dun)
「知る」
نادانی(nādāni) نادونی(nāduni) 「無知な」
ماندن(māndan)
現在語幹مان(mān)
موندن(mundan)
現在語幹مون(mun)
「残る」
توانستن(tavānestan)
現在語幹توان‎(tavān)
تونستن(tunestan)
現在語幹تون‎(tun)
「できる」
خواندن(khāndan)
現在語幹خوان(khān)
خوندن(khundan)
現在語幹خون(khun)
「読む」
رساندن(resāndan)
現在語幹رسان(resān)
رسوندن(resundan)
現在語幹رسون(resun)
「届ける」
گذراندن(gozarāndan)
現在語幹گذران(gozarān)
گذروندن(gozarundan)
現在語幹گذرون(gozarun)
「過ごす」「過ぎる」など
آسمان(āsemān) آسمون(āsemun) 「空」
پشیمان(pashimān) پشیمون(pashimun) 「後悔した」
جان(jān) جون(jun) 「心」
تکان(takānもしくはtekān) تکون(tekun) 「揺れ」「動き」
تمام(tamām) تموم(tamum) (kardanなどと合わせて)「完了した」など
تمام(tamām) 「全て」(?)*3
کدام(kodām) کدوم(kodum) 「どの」
آمدن(āmadan) اومدن(umadan) 「来る」
آرام(ārām) آروم(ārum) 「穏やかな」
※"Hamechi Aroomeh"の一節
حمام(hammām) حموم(hamum) 「風呂」
※"Hamoomi"の一節
قانون(ghānun) قانون(ghānun) 「法則」「法律」
الان(alān) الان(alān) 「今」
متأسفانه(mota'assefāne) متأسفانه(mote'assefāne) 「残念ながら」
امکان(emkān) امکان(emkān) 「可能性」
راند(rānd) راند(rānd) 「ラウンド」
کاپیتان(kāpitān) کاپیتان(kāpitān) 「キャプテン」
عنوان('onvān) عنوان('onvān) 「称号」
مانع(māne') مانع(māne') 「妨害」
پایان(pāyān) پایان(pāyān) 「終わり」
شیطان(sheitān) شیطان(sheitān) 「悪魔」
نگرانی(negarāni) نگرانی(negarāni) 「心配」
پنهان(penhān) پنهان(penhān) 「隠れた」
فرمانده(farmāndeh) فرمانده(farmānde) 「司令官」
قربان(ghorbān) قربان(ghorbān) 「犠牲」、(baleと合わせて)「かしこまりました」
انسان(ensān) انسان(ensān) 「人」
خانم(khānom) خانم(khānom) 「婦人」「お嬢さん」
افسانه(afsāne) افسانه(afsāne) 「伝説」
میدان(meidān) میدان(meidān) 「戦場」
امتحان(emtehān) امتحان(emtehān) 「試験」
بانو(bānu) بانو(bānu) 「婦人」
آماده(āmāde) آماده(āmāde) 「準備ができた」
آمادگی(āmādegi) آمادگی(āmādegi) 「準備」
انجام(anjām) انجام(anjām) 「遂行」
احترام(ehterām) احترام(ehterām) 「尊敬」
مدام(modām) مدام(modām) 「継続的な」
فراموش(farāmush) فراموش(farāmush) 「忘れた」
خوشامدگویی(khoshāmadguyi) خوشامدگویی(khoshāmadguyi) 「歓迎」
کامل(kāmel) کامل(kāmel) 「完全な」
دام(dām) دام(dām) 「罠」「網」
※"Biya berim dasht"の一節
 こうやって見ると、意外と変化のない単語が多い。
 しかし、変化のある単語は代名詞や基本的な動詞など使用頻度の高い単語が多い。
 また、変化のある単語の中でアラビア語由来の言葉はここに挙げた中ではtamāmやhammāmくらいである。

 なお、実際の口語では、格式の高い言葉を除き多くの場合ānはunに変化するらしい。
 例えば、検証ではunに変化しなかったشیطان(sheitān)も実際の口語ではشیطون(sheitun)に変化する。



1-2 「~を」の意味を表す"را"(rā)が、口語では母音の後で"رو"(ro)に、子音の後では"و"(o)に変化する。特に後者の場合、通常直前の名詞と繋げて書く。母音/i/の後では"یُ"(yo)に変化する場合もある。

 例:
標準ペルシャ語 口語ペルシャ語
اینجا را(injā :ここを) اینجا رو(injā ro:意味は同じ)
قانون طبیعت را(ghānune tabi'at :自然の摂理を) قانون طبیعتو(ghānune tabi'ato:意味は同じ)
گوهو جوجی‌ را(goho juji :呉鉤十字を) گوهو جوجی‌یُ(goho jujiyo:意味は同じ)

 āは日本語話者には元々「オ」に聞こえがちである(ソースは筆者)ため、
 あまり/rā/が/ro/になっても違いは分かりにくいかもしれない。
 /o/にまでなるとrが消える分発音の差は大きくなる。



次は日本語での資料が見当たらない。どちらかというと規則というか傾向。

1-3 /st/は口語では/ss/(語末では/s/)に、/zd/は口語では/zz/(語末では/z/)になる。

 例:
標準ペルシャ語 口語ペルシャ語
نیستی(nisti) نیسی(nissi)

 時々そうなるかなくらいの頻度で観察される。
 悪即斬検証の「デレステやれ!」とか間違いなく/st/の発音が保たれてるし。
 /zd/が/zz/になる例は検証シリーズだと筆者未確認(そもそ/zd/という子音連続がレア)。



1-4 語頭の/h/はその前が子音の場合発音されなくなる。

 例:
標準ペルシャ語 口語ペルシャ語
باز هم (bāz ham) بازم / باز هم (bāzam)

 英語や韓国語でも似たようなことが起こることが有名な現象。
 h自体が弱い子音だから消えるのは仕方ないね。



1-5 語末の/ar/が/e/に変化する。

 例:
標準ペルシャ語 口語ペルシャ語
اگر (agar) اگه (age)
دیگر (digar) دیگه (dige)

 特にdigeの方は検証シリーズでも頻出する。
 耳をすませばあなたもディギェディギェ言っていることに気づくであろう。
 ただしこの規則で変化する単語は少ない。
 他はمگر(magar) → مگه(mage)やآخر(ākhar) →آخه(ākhe)くらいらしい。
 ただし、آخر(ākhar)に関しては、少なくとも「終わり」という名詞の意味で
 ākheにならずākharのまま使用されていることが確認できる
 (「終の秘剣」の翻訳に用いられている)。



1-6 動詞の活用が変わる。

 まずこの章を始めるにあたって、最低限の用語説明だけはしておく。
    • 一人称単数→「私」「僕」などのこと
    • 二人称単数→「君」「お前」などのこと
    • 三人称単数→「彼」「彼女」「それ」などのこと
    • 一人称複数→「私たち」「僕たち」などのこと
    • 二人称複数→「君たち」「あなたたち」などのこと(なお、ペルシャ語では敬称「あなた」を表すこともある)
    • 三人称複数→「彼ら」「彼女ら」「それら」などのこと

 正直ペルシャ語の文法で一番面倒なのは動詞である(筆者の感想)。

 比較として、英語で規則的な動詞は以下の形式である。
  ・現在形はhe/she/itが主語の時のみ-s(もしくは-es)が付き、
   他(一人称/二人称/三人称複数)は原形のまま
  ・過去形はどのような主語でも原型に-ed(もしくは-d)を付ければよい
例:英語の動詞watch現在形の活用
一人称単数(I) watch  
二人称単数(you) watch
三人称単数(he/she/it) watches ここだけ違う
一人称複数(we) watch  
二人称複数(you) watch
三人称複数(they) watch

例:英語の動詞watch過去形の活用
一人称単数(I) watched 全部同じ!
二人称単数(you) watched
三人称単数(he/she/it) watched
一人称複数(we) watched
二人称複数(you) watched
三人称複数(they) watched

 しかし、ペルシャ語は規則動詞であっても
  ・全ての動詞の現在形・過去形に対し、主語の一人称/二人称/三人称
   それぞれの単数複数に応じて計6種類の異なる形がある
 というものである(フランス語やスペイン語、ロシア語などと似ている)。
例:口語ペルシャ語の動詞خریدن(kharidan)現在形の活用
一人称単数 می‌خرم(mikharam) 全部違う!
二人称単数 می‌خری(mikhari)
三人称単数 می‌خره(mikhare)
三人称単数 می‌خریم(mikharim)
三人称単数 می‌خرین(mikharin)
三人称単数 می‌خرن(mikharan)

例:口語ペルシャ語の動詞خریدن(kharidan)過去形の活用
一人称単数 ‌خریدم(kharidam) 全部違う!!
二人称単数 ‌خریدی(kharidi)
三人称単数 ‌خرید(kharid)
三人称単数 ‌خریدیم(kharidim)
三人称単数 خریدین(kharidin)
三人称単数 خریدن(kharidan)


1-6-1 動詞の活用-過去形

 とはいってももちろん規則はある。
 例えば、「私」(一人称単数)が主語であれば、動詞の語末はamとなる。
 動詞کردن(kardan:する)の一人称単数過去形は、kardanから語末のanを除いたもの
 kard(これをkardanの過去語幹という)に、amを語末に加えた形کردم(kardam:私はした)である。

  کرد(kard:過去語幹) + م(am:「私は」を表す語末) → کردم(kardam:私はした)

 同様に、「君」(二人称単数)が主語の場合はiを語末に加えればよい。
 「君はした」はکردی(kardi)となる。

 前置きはこれくらいとして、まずこの「語末に加える人称マーカー」が標準語と口語で変わることがある。
語末に加える人称マーカー
主語 標準ペルシャ語 口語ペルシャ語
一人称単数 م(-am) م(-am)
二人称単数 ی(-i) ی(-i)
三人称単数※ د(-ad) ه(-e)
一人称複数 یم(-im) یم(-im)
二人称複数 ید(-id) ین(-in)
三人称複数 ند(-and) ن(-an)
※ 過去形では標準語/口語いずれもこの語尾はつかない

 上記の通り、三人称単数、二人称複数、三人称複数において標準語と口語の違いがみられる。
 例えば、「彼らはした」は標準ペルシャ語ではکردند(kardand)、
 口語ペルシャ語ではکردن(kardan)となる。
 ただし、二人称複数についてのみ、るろ剣ペルシャ語版でも時々inではなくidで発音している模様。
 加えて、باید(bāyad)やشاید(shāyad)のように、昔は動詞の三人称単数形だったが今ではその意識が消えている単語については、*بایه(*bāye)や*شایه(*shāye)となることはない。
 また、後述するように過去形においては三人称単数のマーカーは用いられないため、差異は無くなる。

 まとめると、動詞kardan(する)の過去形は下記の通りである。
動詞kardan(する)の過去形「~した」
主語 標準ペルシャ語 口語ペルシャ語
一人称単数「私はした」 کردم(kardam) کردم(kardam)
二人称単数「君はした」 کردی(kardi) کردی(kardi)
三人称単数「それはした」※ کرد(kard) کرد(kard)
一人称複数「私たちはした」 کردیم(kardim) کردیم(kardim)
二人称複数「君たちはした」 کردید(kardid) کردین(kardin)
三人称複数「それらはした」 کردند(kardand) کردن(kardan)
※過去形では標準語/口語いずれも語尾はつかない

 このような感じで、ペルシャ語の動詞の過去形は過去語幹+主語に対応した語尾で表される。
 過去語幹はすべての動詞に対し原形から語末のanを取り外して作られるため、
 主語に対応した語尾さえ覚えれば動詞の過去形をすぐに導き出せる。


1-6-2 動詞の活用-現在形

 先ほどペルシャ語で一番面倒なのは動詞と言ったが、
 今の感じだと何とかなりそうだと思うかもしれない。
 しかし、筆者が面倒と感じたのは過去形ではない。現在形である。
 ペルシャ語の教科書を見ても、現在形は過去形よりも後回しで説明されることが多い。

 例えば、先ほども登場したکردن(kardan)の一人称単数現在形はمی‌کنم(mikonam)である。
 amは過去形と共通だとして、mikonは何処から来たのか、と思うであろう。
 まず、miの部分はどのような動詞の現在形にも付く共通の部品である。
 konの部分はkardan固有の現在語幹と呼ばれる部分である。
 過去語幹とは違い、基本的に動詞の原形から現在語幹を規則的に導くことはできない
 これが面倒。
 ちなみに、ペルシャ語検証に巫女が大量発生しているのはこのkardanの現在形のせいである。

 ここで話が戻るが、この現在語幹が標準ペルシャ語と口語ペルシャ語で異なることが多い
 以下はその一例である。いずれも検証シリーズで確認可能である。
動詞の現在語幹
原形 標準ペルシャ語の現在語幹 口語ペルシャ語の現在語幹
شدن(shodan) شو(shav) ش(sh)
گفتم(goftan) گو(gu) گ(g)
گذاشتن(gozāshtan) گذار(gozār) ذار(zār)
دادن(dādan) ده(deh) د(d)

 例えば、「~になる」という意味の動詞شدن(shodan)の三人称単数現在形(「それはする」)は、
 標準ペルシャ語ではمی‌شود(mishavad)、口語ペルシャ語ではمی‌شه(mishe)である。まるで別物やんけー!
 筆者もここら辺は全く覚えていないので、ペルシャ語の口語での活用を調べるときは
 "調べたい動詞 wiktionary"でググってwiktionary英語版からその動詞のページを開き、
 "Conjugation of 調べたい動詞 (colloquial Tehrani)"と書いてある活用表を参照するといい。
 (日本語のwiktionaryはまだまだ発展途上であるため外国語を調べるときは英語のページの方が充実している)


1-6-3 動詞の活用-「~です」動詞(コピュラ)

 さて、ここまで一般的な動詞の話をしてきたが、英語でいうところのbe動詞についても触れよう。
 その名を”بودن”(budan)という。
 …あれ、英語もbで始まるけど、ペルシャ語もbの音で始まるんだーと思ったそこのあなた!
 鋭い!「印欧祖語」で検索だ!
 英語のbe動詞が例外的な活用をするように、ペルシャ語も少し例外的な活用をする。
 ただし、過去形は一般動詞と同様に過去語幹(bud)から規則的に作ることができる。
 要するにbudamとかbudiとかになる。優しい。

 問題は現在形となる。なお、この動詞にはمی‌(mi)がつかない。
 まずは標準ペルシャ語の活用を見てみよう。
動詞budan(~である)の現在形
主語 標準ペルシャ語
一人称単数「私は~である」 هستم(hastam)
二人称単数「君は~である」 هستی(hasti)
三人称単数「それは~である」 است(ast)/هست(hast)※
一人称複数「私たちは~である」 هستیم(hastim)
二人称複数「君たちは~である」 هستید(hastid)
三人称複数「それらは~である」 هستند(hastand)
※「居る」というように存在を表す場合はhastとなる

 三人称単数(上の表の「それはした」)のみ少し例外的で、
 残りは”hast” + 「語末に加える人称マーカー」であることが分かるだろう。
 そもそもこのhastは何処から来たんだ…という疑問は無しとする。

 では口語を見てみよう…
動詞budan(~である)の現在形
主語 口語ペルシャ語
一人称単数「私は~である」 هستم(hastam)
二人称単数「君は~である」 هستی(hasti)
三人称単数「それは~である」 ه(e)/است(ast)/هست(hast)
一人称複数「私たちは~である」 هستیم(hastim)
二人称複数「君たちは~である」 هستین(hastin)
三人称複数「それらは~である」 هستن(hastan)

 何でやねん!(`゚益゚)
 ということで、もともと変則的だった三人称単数にさらに別の形が追加される。
 というよりこの追加された”e”こそが通常の形となる。
 さらに、”e”は前の単語と分かち書きせず繋げて書くことが多い。

例:「あれは人斬り抜刀斎だ」のペルシャ語訳(新選組三番隊組長検証より)
標準ペルシャ語 口語ペルシャ語(こちらが実際の翻訳)
آن باتوسای آدمکش است
(ān bāttousāy-e ādamkosh ast)
اون باتوسای آدمکشه
(un bāttousāy-e ādamkoshe)
※آدمکش(ādamkosh) = 人殺し = 人斬り。
 ペルシャ語版ではMB英語版の翻訳”the Manslayer”を直訳している。
 また、ānとunの違いは1-1参照。

 残り、二人称複数(私たちは~)と三人称複数(それ/彼/彼女らは~)は一般動詞と同じような変化である。
 そういえば言い忘れていたが、ペルシャ語の動詞は通常日本語と同じく文の最後にくる。
 上の表ではاست(ast)になる場合もあると書いているが、実際には
 「理論的にはاست(ast)になっていると言える」という具合である。
 どういうことか説明しよう。
 なお、ここからの説明は筆者の独自研究が多量に含まれているため、
 あくまでも理屈であって事実とは異なる場合があることをご了承いただきたい。

 例えば「緋村剣心(کنشین هیمورا:kenshin himurā)だ」が口語ペルシャ語でどうなるか考えてみよう。
 上の表をそのまま適用すれば、こうなる。
「○○は緋村剣心だ」
主語 口語ペルシャ語
一人称単数 کنشین هیمورا هستم(kenshin himurā hastam)
二人称単数 کنشین هیمورا هستی(kenshin himurā hasti)
三人称単数 کنشین هیموراه(*kenshin himurāe)→?
一人称複数 کنشین هیمورا هستیم(kenshin himurā hastim)
二人称複数 کنشین هیمورا هستین(kenshin himurā hastin)
三人称複数 کنشین هیمورا هستن(kenshin himurā hastan)

 一人称複数(私たちは緋村剣心だ)って何だよ…というツッコミは無しや。
 残念ながら、この表の"*kenshin himurāe"というのは間違っている。
 (アスタリスク*をつけているのは間違った表現であることを示すため)
 理由は口語ペルシャ語の「特定の母音2つが並ぶのを嫌う性質」にある。
 具体的には以下のような母音連続が嫌われている。

  ・ā + a
  ・ā + e
  ・e + a
  ・e + e
  ・e + i※

 ※ei という二重母音は存在するが、ここでは「短母音e + 長母音i」を指す。

 そもそも標準語の時点でいかなる母音であろうと連続するのは好まず、
 yや'などの渡り音を挿入するのだが(詳しくはググらんか)、
 口語ペルシャ語では一部用法で「2つの母音を合体させる」という対処法を採る。
 合体させる方法としては、 母音に e < a < ā = i という強さ関係があり、
 強い方に吸収されるという感覚である。すなわち、以下のようになる。

  ・ā + a → ā
  ・ā + e → ā
  ・e + a → a
  ・e + e → e
  ・e + i → i

 ここで上の間違った例に戻ろう。
 himurāeというのは ā + e の連続が起こっているため、himurāになるはずである。
 いやいやそれじゃ動詞完全に消滅するじゃん!!!

 ということで、間のいい人は気づいたであろう。
 こういうときだけ標準語と同じاست(ast)が用いられるのである。
 ただし、himurā astも嫌な母音連続(ā + a)が発生しているため、himurāstになる。
 …まあ、eの場合と比べればstが残っている分ましだ。
 さらに、1-3の傾向によりst→sと発音される場合もある。
 以上をまとめると、口語における「緋村剣心だ」はこうなる。

「○○は緋村剣心だ」(正しいバージョン)
主語 口語ペルシャ語
一人称単数 کنشین هیمورا هستم(kenshin himurā hastam/hassam)
二人称単数 کنشین هیمورا هستی(kenshin himurā hasti/hassi)
三人称単数 کنشین هیموراست(kenshin himurāst/himurās)
一人称複数 کنشین هیمورا هستیم(kenshin himurā hastim/hassim)
二人称複数 کنشین هیمورا هستین(kenshin himurā hastin/hassin)
三人称複数 کنشین هیمورا هستن(kenshin himurā hastan/hassan)

 「理論的にはاست(ast)になっていると言える」というのは、
 結局astではなくstになってしまうということだったのだ。

 念のため注意しておくと、エザーフェの場合は標準語と同じようにyを挿入する。
 エザーフェって何ですたいという方はググらんか。


1-6-4 動詞の活用-「~です」動詞接尾辞形

 接尾辞形ってなんだそれCCO!と思われるかもしれないが、
 ここではあまり深く考えなくてもいい。
 とりあえず、1-6-3で紹介したhastamやhastiなどが短くなるよ、という風に思おう。
 日本語でいえば「『である』を『だ』に言い換えてもいいよ」みたいな話?

動詞接尾辞形
主語 標準ペルシャ語 口語ペルシャ語
通常形 接尾辞形 通常形 接尾辞形
一人称単数 هستم(hastam) م(-am) هستم(hastam) م(-am)
二人称単数 هستی(hasti) ی(-i) هستی(hasti) ی(-i)
三人称単数 است(ast) 接尾辞形なし ه(e)/است(ast) 接尾辞形なし
一人称複数 هستیم(hastim) یم(-im) هستیم(hastim) یم(-im)
二人称複数 هستید(hastid) ید(-id) هستین(hastin) ین(-in)
三人称複数 هستند(hastand) ند(-and) هستن(hastan) ن(-an)

 右矢印の左側が1-6-3で出てきた一般的な形、右側が接尾辞形である。
 要するに、実は1-6-1で紹介した「語末に加える人称マーカー」の
 過去形の場合と一致する。
 面倒な三人称単数が接尾辞形無しで助かった

 実際の使い方はというと、例えば

  ممنون هستم(mamnun hastam) = ممنونم(mamnunam)

 のように言い換えることが可能である。
 実際検証シリーズに登場したことがあるのは接尾辞形を用いたmamnunamの方である。
 あそこの毛なんなん…
 なお、通常は上の例のように接尾辞形は直前の単語につなげて書く。
 「接尾」という名前はこういう意味である。

 たーだぁーし!主に標準ペルシャ語では、直前の単語がه(e)で終わる場合のみ
 この接尾辞形も直前の単語と離して書く。
 その場合は下の表のようにつづられる。

直前の単語がه(e)で終わる場合
主語 標準ペルシャ語
通常 直前の単語がه(e)で終わる場合
一人称単数 م(-am) ام(-am)
二人称単数 ی(-i) ای(-i)
三人称単数 接尾辞形なし
一人称複数 ایم(-im) ایم(-im)
二人称複数 ید(-id) اید(-id)
三人称複数 ند(-and) اند(-and)

 よく見ると、アレフ(棒みたいなやつ)が右側に追加されている。
 アレフはeとの母音連続を避けるための渡り音(')を表すわけだが…
 思い出したであろうか。
 口語の場合、渡り音ではなく別の方法で母音連続を避けるのだった。(1-6-3参照)
 つまり、語末のeの音は強さ関係によって接尾辞形の母音に吸収され消えてしまう。
 例えば、زنده (zende:生きている)に「私は~である」という意味の接尾辞形م(-am)を追加すると

  زندم / زنده ام / زنده‌م (zendam)

 となる(zendeamではない)。
 標準語と異なり口語ではアレフを付けて分かち書きする必要が無いが、
 正書法が無いため分かち書きしてもいい。多分。コミケで納豆うめぇ
 アラビア文字を知っている人なら違和感があるかもしれないが、
 分かち書きしない場合、上の3つのzendamの記法のうち一番左のように
 هを語中形や語頭形にせず直接مを加えるという綴りにすることも多い。
 本文では以降分かりやすさのためにこの記法を採用する。


1-6-5 動詞の活用-現在完了形

 英語でいえば「have + 過去分詞」のあれである。
 ペルシャ語では基本的に「過去分詞 + 「~です」動詞接尾辞形」となる。

 ペルシャ語の過去分詞とは、1-6-1で出てきた過去語根に
 ه(e)を加えたものである。
 例えば動詞شدن(shodan:なる)の場合、語末のanを除いたもの
 شد(shod)が過去語幹であり、そこにه(e)を加えたものشده(shode)が
 過去分詞である。

 「~です」動詞接尾辞形については直前までの1-6-4参照。
 例えば、「(私は)~になってしまった」の場合、動詞شدنは
 標準ペルシャ語→شده ام(shode am)、口語ペルシャ語→شده‌م(shodam)となる。
 ただし、接尾辞形なしの三人称単数(主語がそれ/彼/彼女)の場合、
 標準ペルシャ語では一般形のاست(ast)を用いて現在完了形をあらわす。
 よって標準ペルシャ語のshodan三人称単数「(それ/彼/彼女は)~になってしまった」は
 شده است(shode ast)となる。

 では口語ペルシャ語の場合はどうだろう。
 やはり1-6-3の通りeで終わっている単語の後だからاست(ast)を用いる?
 その場合三人称単数「(それ/彼/彼女は)~になってしまった」は
 شده‌ست(shodast)なのだろうか?

 答えはそうではない。
 口語ペルシャ語の場合、三人称単数では「~です」動詞が完全に省かれる。
 つまり、三人称単数「(それ/彼/彼女は)~になってしまった」は
 شده‌(shode)が正しい。

 まとめると、以下のようになる。
動詞شدن(shodan)の現在完了形「~になってしまった」
主語 標準ペルシャ語 口語ペルシャ語
一人称単数 شده ام(shode am) شده‌م(shodam)
二人称単数 شده ای(shode i) شده‌ی(shodi)
三人称単数 شده است(shode ast) شده‌(shode)
一人称複数 شده ایم(shode im) شده‌یم(shodim)
二人称複数 شده اید(shode id) شده‌ین(shodin)
三人称複数 شده اند(shode and) شده‌ن(shodan)

 もしかしたら、
 「口語の場合、現在完了形と過去形は発音が一緒になるのでは?」
 と思うかもしれない。確かに、動詞شدن(shodan)の一人称単数過去形は
 شدم(shodam)で、現在完了形もشده‌م(shodam)である。
 しかし実際は、アクセントの位置が異なる*4
 過去形の場合、語尾の人称マーカーにアクセントが来ないため、
 アクセントの付く母音に ´ を付けるとすると、شدمはshódamとなる。
 一方、本来過去分詞は語末にアクセントが来るため(یشده → shodé)、
 母音が合体してもアクセント位置が保たれ、現在完了形شده‌مはshodámとなる。

動詞شدن(shodan)の過去形と現在完了形の比較
(アクセント記号付き)
主語 口語ペルシャ語
過去形 現在完了形
一人称単数 shódam shodám
二人称単数 shódi shodí
三人称単数 shód shodé
一人称複数 shódim shodím
二人称複数 shódin shodín
三人称複数 shódan shodán


1-6-6 動詞の活用-仮定法現在形

 仮定法現在形とは…………突っついとけ!(投げやり)
 作り方自体は簡単で、基本的には普通の現在形(1-6-2参照)の
 "می‌"(mi)を"ب"(be)に変えれば仮定法現在形となる。

例:口語ペルシャ語の動詞خریدن(kharidan)仮定法現在形
主語 口語ペルシャ語
仮定法現在形 参考:通常の現在形
一人称単数 بخرم(bekharam) می‌خرم(mikharam)
二人称単数 بخری(bekhari) می‌خری(mikhari)
三人称単数 بخره(bekhare) می‌خره(mikhare)
一人称複数 بخریم(bekharim) می‌خریم(mikharim)
二人称複数 بخرین(bekharin) می‌خرین(mikharin)
三人称複数 بخرن(bekharan) می‌خرن(mikharan)

 ただし、"آوردن"(āvardan/āvordan)の現在語根"آر"(ār)のように、
 現在語根が母音から始まる場合は代わりに"بی‌"(biy-)を付ける。

例:口語ペルシャ語の動詞آوردن(āvardan/āvordan)仮定法現在形
主語 口語ペルシャ語
仮定法現在形 参考:通常の現在形
一人称単数 بیارم(biyāram) می‌آرم(mi(y)āram)
二人称単数 بیاری(biyāri) می‌آری(mi(y)āri)
三人称単数 بیاره(biyāre) می‌آره(mi(y)āre)
一人称複数 بیاریم(biyārim) می‌آریم(mi(y)ārim)
二人称複数 بیارین(biyārin) می‌آرین(mi(y)ārin)
三人称複数 بیارن(biyāran) می‌آرن(mi(y)āran)

 ここまでは標準口語共に一緒だが、1つだけ注意が必要なことがある。
 それは、口語では直後の母音がoである場合、"ب"の発音が be ではなく bo になることである。

 例えば、1-6-2でکردن(kardan)の一人称単数現在形はمی‌کنم(mikonam)であると学んだが、
 これを仮定法現在形にするには"می‌"を"ب"に変えればよかった。
 つまりکردن(kardan)の一人称単数現在形はبکنمだが、
 これを標準ペルシャ語ではbekonamと読み、口語ペルシャ語ではbokonamと読む。

動詞kardanの仮定法現在形
主語 標準ペルシャ語 口語ペルシャ語
一人称単数 بکنم(bekonam) بکنم(bokonam)
二人称単数 بکنی(bekoni) بکنی(bokoni)
三人称単数 بکند(bekonad) بکنه(bokone)
一人称複数 بکنیم(bekonim) بکنیم(bokonim)
二人称複数 بکنین(bekonid) بکنین(bokonin)
三人称複数 بکنن(bekonand) بکنن(bokonan)

 ちなみに動詞kardanの場合は特別に仮定法現在形に"ب"を付けなくても許されるので、
 基本的にبکنم(bekonam/bokonam)ではなくکنم(konam)が用いられる。


1-6-7 動詞の活用-現在形・仮定法現在形共通

1-6-7-1 接頭辞による母音脱落

 現在形・仮定法現在形に共通して、口語では、
 現在語幹が2音節(母音が2つ)以上の場合、"می‌"(mi)や"ب"(be)が付くと、
 現在語幹の最初の母音が脱落する。

 例えば、動詞انداختن(andākhtan)の現在語幹انداز(andāz)は
 aとāの2母音を含む(つまり2音節である)が、
 これに"می‌"(mi)や"ب"(be)が付くと、最初のaが脱落して
 mindāz- / bendāz-となる。

動詞andākhtanの現在形
主語 標準ペルシャ語 口語ペルシャ語
一人称単数 می‌اندازم(miandāzam) می‌اندازم(mindāzam)
二人称単数 می‌اندازی(miandāzi) می‌اندازی(mindāzi)
三人称単数 می‌اندازد(miandāzad) می‌اندازه(mindāze)
一人称複数 می‌اندازیم(miandāzim) می‌اندازیم(mindāzim)
二人称複数 می‌اندازین(miandāzid) می‌اندازین(mindāzin)
三人称複数 می‌اندازن(miandāzand) بمی‌اندازن(mindāzan)

 なお、1-6-6の例で出した動詞آوردن(āvardan/āvordan)の現在語幹آر(ār)は
 母音が1つであるため、この現象が発生しない。


1-6-7-2 現在語幹が母音で終わる場合

 1-6-3で取り上げた
 「"هیمورا"(Himurā)に三人称単数の"ه"(e)が続くとどうなるの」
 という問題、実は動詞の現在語幹が母音で終わる場合でも同じことが起きる
 例えば、口語ペルシャ語اومدن(umadan)の現在語幹は"آ"(ā)である。

口語ペルシャ語اومدن(umadan)の現在形
主語 口語ペルシャ語
一人称単数 می‌آام(*miāam)می‌آم(miām)
二人称単数 می‌آی(miāy)
三人称単数 می‌آه(*miāe)→?
一人称複数 می‌آیم(miāym)
二人称複数 می‌آین(miāyn)
三人称複数 می‌آان(*miāan)می‌آن(miān)

 一人称単数および三人称複数の場合は、1-6-3で提案した母音合体理論で説明可能。
 二人称単数・一人称複数・二人称複数は文字的にはそのままくっつけるだけである。
 三人称単数はまさに1-6-3と同じ問題が発生。

 だがご安心を。考え方は1-6-3と全く同じで、こういうときだけ標準語と同じاد(ad)が用いられるのである。
 よって、以下のようになる。

口語ペルシャ語اومدن(umadan)の現在形(正しいバージョン)
主語 口語ペルシャ語
一人称単数 می‌آام(*miāam)می‌آم(miām)
二人称単数 می‌آی(miāy)
三人称単数 می‌آاد(*miāad)می‌آد(miād)
一人称複数 می‌آیم(miāym)
二人称複数 می‌آین(miāyn)
三人称複数 می‌آان(*miāan)می‌آن(miān)



1-7 人称代名詞の接尾辞形が変わる。

 人称代名詞の接尾辞形ってなんだそれCCO!と思われるかもしれないが、
 まず人称代名詞とは、日本語でいえば「私」「あなた」などで、英語では"I" "you"などを指す。
 人称代名詞の接尾辞形とは、大雑把に言えば英語でいう
 "my" "your"などに近い役割を果たす形だと考えてよい。
 ただし、英語では日本語と同じく「私の+○○」という順番であるが、
 ペルシャ語の場合は「○○+私の」という順番である。
 そして、1-6-3の「~です」動詞接尾辞形のように、単語の後ろに直接くっつける。
 例えば、「私の名前」はاسمم (esmam)となる。
 اسم(esm)が「名前」、語末のم(am)が人称代名詞の接尾辞形である。

 相変わらず前置きが長いが、この接尾辞形がが標準語と口語で変わることがある。
人称代名詞の接尾辞形
主語 標準ペルシャ語 口語ペルシャ語
一人称単数 م(-am) م(-am)
二人称単数 ت(-at) ت(-et)
三人称単数 ش(-ash) ش(-esh)
一人称複数 مان(-emān) مون(-emun)
二人称複数 تان(-etān) تون(-etun)
三人称複数 شان(-eshān) شون(-eshun)

 一人称単数(私)以外全て微妙に異なっている。
 お気づきかもしれないが、一~三人称複数の場合は、
 1-1で見た「あぁん…」が「うぅん…」になる現象、つまりān→unの変化である。
 「~です」動詞接尾辞形と全く同様に、直前の単語がه(e)で終わる場合は
 標準ペルシャ語は渡り音が挿入され、口語ペルシャ語は母音が合体する。
 テラマンドクサーイ!のでこれ以上の説明は省略する。


1-8 語末の子音が落ちることがある。

 そりゃぞんざいな発音ならそういうこともあるわね…やっぱこう…
 という話ではあるが、特に顕著な例としては、

  語末の子音が (任意の子音) + r である場合、rが消える

 というものがある。
 例えば、چقدر(cheqadr:「どれほど」)は語末の子音が d + r と上の条件を満たしており、
 口語ではچقد(cheqad)と発音される。
 cheqadr→cheqadへの変化に関してはよく知られた話であるが、
 実際検証シリーズを聞いていると、

  ・فکر(fekr) → fek
  ・صبر(sabr) → sab

 のようにcheqadrだけでなく他のパターンでもrが脱落しているのを確認できる。
 とはいえfekrやsabrは独自研究の範疇を出ないことはご承知を。
 とりあえず個人的にはこう発音されてるように聞こえるよ、というまで。


1-9 母音の同化

 短母音の音色が直後の母音の音色に近づくことがある。
 (音声学的に言えば、舌の位置が同化(assimilation)する。)
 標準か口語かというより、発音がフォーマルかインフォーマルかの問題ではあるが。

 これはペルシャ語吹替でも露骨に分かる例がある。

口語ペルシャ語اومدن(umadan)の現在形(正しいバージョン)
単語 標準/口語ペルシャ語
(フォーマルな発音)
標準/口語ペルシャ語
(インフォーマルな発音)
شروع(shoru') /ʃoɾuːʔ/ uɾuː(ʔ)/
گروه(goruh) /goɾuːh/ /guɾuː(h)/

 شروع(shoru')は「開始」の意味、گروه(goruh)は「グループ」の意味の単語で、どちらも検証で数度登場するが、
 前者は「ルー」などと、後者は「食()う」や(エザーフェと合わせ)「狂(る)え」などと空耳されており、
 短母音oが直後のuの音に近づいていることがわかる。

 また、1-6-6で説明した be- が bo- に変化する現象も同様の理由と考えられる。
 その他にはجلو(jelou)が場合によっては/d͡ʒolo(w)/と発音される場合がある。

 しかし、吹替の発音がそこまでぞんざいでないためか、上記事象以外はあまり確認できない。
 例えば短母音eが直後の長母音iに影響されてiの発音に変化する現象は筆者の感覚ではほぼ存在しない。


1-10 その他。


 代表的なのは、「良い」という意味を表す"خوب"(khub)が
 口語ペルシャ語では"خب"(khob)になることであろうか。

 ただし、khobになる場合は主に間投詞に限られる。
 簡単に言えば、日本語で単純に「良い」という場合は"خوب"(khub)のままで、
 日本語で「良し!」という場合は口語形"خب"(khob)となる。
 日本語では間投詞に古い語形「良し」が保たれているが、
 ペルシャ語では逆に間投詞に砕けた語形が現れるのだから面白い。

 なお、khobに「とても」の意味の"خیلی"(kheili)が付くと、
 kheiliはkheileのように発音される。

 あとは、یک(yek:一つの)がیه(ye)になることもある。

標準ペルシャ語と口語ペルシャ語で違う単語
標準ペルシャ語 口語ペルシャ語 意味 備考
خوب(khub) خب(khob) 良し 「良い」という形容詞的な用法だとるろ剣吹替でもkhubとなる
خیلی(kheili) خیله(kheile) とても 上記のخب(khob)と組み合わさったときだけ現れる模様。
参考:vajehyabでは「テヘラン方言で"باشد"の意味」としている。
یک(yek) یه(ye) 一つの 「1」という名詞的な用法だとるろ剣吹替でもyekとなる
-مت(mota-)
例:متأسفانه
(mota'assefāne)
-مت(mote-)
例:متأسفانه
(mote'assefāne)
アラビア
語由来の
接頭辞
文字上は変化無し。
本当はmota-とmote-の差が標準語と口語の差かどうかは不明。
ただし、黒柳恒夫著のペルシャ語辞書上はmota-とある一方で
るろ剣吹替ではmote-で発音していることや、このページでの
ローマ字表記がwritten(文語)でmota-、spoken(口語)でmote-に
なっていることから、標準語と口語の差と判断。



参考文献


英語であればネット上にも情報が数多く存在し、
書籍であれば日本語でもいい情報が書いてあったりする。
下記をご参考されたし。

日本語サイト

英語サイト
  • http://artyom.ice-lc.com/pvc/simpleverbs.php
    口語ペルシャ語の動詞活用を検索できる。
    ・ページ左側の"spoken"と書いてある方のリンクが口語ペルシャ語のローマ字表記
    ・ページ左側の"written"と書いてある方のリンクが標準ペルシャ語のローマ字表記
    ・ページ右側の"نوشتاری"と書いてある方のリンクが標準ペルシャ語のアラビア文字表記
    ・ページ右側の"گفتاری"と書いてある方のリンクが口語ペルシャ語のアラビア文字表記
    となっている。
  • Toosarvandani, Maziar D. 2004 "Vowel Length in Modern Farsi" (pdf)
    1-9 母音の同化 で説明した事象について記載されている。

ペルシャ語サイト


日本語書籍
  • ペルシア語文法ハンドブック 著・吉枝 聡子 https://www.hakusuisha.co.jp/book/b206220.html 
    ぶっちゃけこれがあれば十分(もちろん標準ペルシャ語も含めて)。
    お近くの図書館にあればラッキー



以下編集中。正直何を書いても大体上の英語サイトかペルシア語ハンドブックに既に書いてある

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最終更新:2023年08月27日 03:59
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*1 あくまでも例。正しい発音を表しているわけではないのであしからず。

*2 チャ行の濁音に近いため本当はヂャ行で表記するのが望ましいが、シャ行の濁音に近い"ژ"は"ج"と比べ使用頻度がかなり低く、これらを区別しなければならない機会は多くないため、慣用的にジャ行で表記することとする。

*3 陸蒸気検証部分にて”تمام دنیا”(tamām-e donyā)という表現を確認。

*4 なお、ペルシャ語のアクセントも多くのヨーロッパ言語と同様強弱アクセントと言われている。一方日本語はピッチ、つまり音程の高低によるアクセントであり、性質が異なる。