ふたば系ゆっくりいじめ 656 かなう願いかなわぬ望み

かなう願いかなわぬ望み 19KB


虐待-普通 愛護 観察 理不尽 野良ゆ 都会 透明な箱 現代 虐待人間 愛護人間 独自設定 頭のおかしい人間が出る by触発あき

※独自設定垂れ流し
※頭のおかしい人間さんがでます
※ややハードな愛で描写あり
※作者名をコメント欄に入れてみるテスト。自己主張激しすぎ?
 でも読みたくない人は避けられるよなあ、とか


ゆっくりれいむは、永遠にゆっくりしようとしていた。

雪もちらつき始めた街角。通りの端に、そのゆっくりれいむはいた。
汚れていた。その髪も肌も土埃や排気ガスに染まって元の色もわからないほどだ。ゆっく
り特有の丸みも崩れ、ぐにゃりとつぶれたその姿は、栄養不足で体内の餡子が減ったため
だろう。紅白で鮮やかなはずのおりぼんもすっかりくすんでいる。
もとは饅頭という食べ物だったはずなのに、その有様は生ごみ以下だった。
今、街を歩くゆっくりは少ない。山と違い、街中は季節を問わず食べ物を得る機会がある。
それでもゆっくりというナマモノは基本的に寒さに弱く、好んで冬空の下、動き回ったり
しない。だから暖かいうちに食べ物を集め、冬ごもりをする。
れいむは冬ごもりに失敗した。
食べ物は思うように集めることができなかった。ただの段ボールでしかないおうちは毛布
もなにもなく、大して寒さを防いではくれない。食糧不足と寒さに体力を削られ、なおさ
ら冬ごもりの準備は難航した。そして、限界が訪れた。
野良のゆっくりには珍しくない、ありふれた結末だった。
今日もまた、厳しくなる寒さのなか必死に走り回ったが、食べ物は集まらなかった。そし
てついに体力が尽き、跳ねるどころかはいずることすらできなくなっていた。
だから、誰か食べ物を恵んでくれる人間はいないかと、人通りのある道に必死にやってき
たのだ。
そんな望みがかなうはずないなんてこと、野良としてそれなりの期間を生きてきたゆっく
りならわかることだ。しかし、れいむにはそうする他になかった。そんな奇跡と呼ぶのも
おこがましい無謀な賭けに出るしか道はなかったのだ。
その目論見は当然かなうことなく、道行く人々はれいむをよけて歩くばかりだ。目を向け
ることすらほとんどなく、たまにあっても顔をしかめるだけだ。道ばたのゴミを進んで片
づける世話焼きでも現れない限り、れいむはきっとこのままだろう。
れいむは寒さに遠のく意識の中、自分が「永遠にゆっくり」しようとしていることを自覚
した。

「ゆっくりしたいよ……」

ただひとつの、ゆっくりなら誰もが持つ、しかしなによりも大切で切実な願い。
だが、野良ゆっくりのその願いがかなられる事など、ほとんどない。
だが。

「あなた、ゆっくりしたいの?」

上からの声に目を上げれば、そこには暖かな微笑みがあった。
淡いピンクのコートで包まれたほっそりとした身体。長くきれいな黒髪。細面に大粒の黒
瞳が輝いていた。
れいむは思った。
きれいだ。穏やかで暖かで、なにより……とってもゆっくりしている。
だかられいむは絞り出すように叫んだ。

「ゆっくりしたいよ……!」

れいむの願いを、暖かな笑顔が受け止めた。

「わかったわ。わたしがあなたのことを、責任もってゆっくりさせてあげるわ」

凍えた餡子に響く、穏やかで暖かな声だった。
その声は夢のようにゆっくりしている。だかられいむはこれは夢なのだと思った。

「ゆっくりしていってね……!」

だかられいむは、眠るようにそう答えることしかできなかった。
薄れゆく意識の中、おねえさんがうなずくのを見たような気がした。
「どうせゆめなら、もっとみていたいよ」……そう望みながら、れいむの意識は闇に溶け
た。



かなう願いかなわぬ望み



夢は、覚めなかった。現実だった。
れいむはおねえさんに拾われて、おうちにつれていってもらった。広々とした一軒家、お
ねえさんは一人暮らしのようだった。
家に上がると、れいむはまず身体をきれいにしてもらった。
お風呂場に連れられ、スポンジタオルで肌を洗い、髪シャンプーで髪の汚れを落としても
らった。
ゆっくりは水に溶けるため濡れるのを嫌がるものだ。だが、餡の底まで身体の冷えていた
れいむには、水への恐怖よりお湯の暖かさへの喜びの方が勝った。

「ゆうぅ、ぽかぽか、あわあわ、ゆっくりできるよぉ」

おりぼんは別に洗濯されており、そのことが少し不安だったが、おねえさんに優しい笑顔
で大丈夫と言われ、れいむはゆっくりできた。
お風呂が終わると、ドライヤーで丁寧に乾かしてもらった。洗濯が終わり、アイロン掛け
で新品のようになったおりぼんを綺麗に結びなおしてもらった。
身支度が済むと、おねえさんはれいむを姿見の前までつれていってくれた。

「どう、れいむちゃん? これが今のあなたよ」
「ゆうう! れいむ、すっごくゆっくりしてるよおおお!」

鏡の中には、先ほどまでの汚い饅頭のできそこないなどとはとても思えない美ゆっくりが
あった。おりぼんがなければそれが自分だとわからなかったかもしれない。

「さあ、つぎはごはんをたべましょうね」

おねえさんは様々なあまあまを用意してくれた。ケーキ、焼き菓子、チョコレート。飲み
物はオレンジジュース。

「むーしゃ、むーしゃ、しあわせーっ!」

ゆっくりの心と体を満たすあまあまの数々を、れいむは感動の涙を流しながら存分に味わ
った。

「ゆふぅ……ぽんぽんいっぱいだよお……」

食べ終わった後はのんびりとした。部屋の中は暖房で暖かだった。
綺麗になり、腹も満ち、寒さに震える心配もない。生まれたときから野良だったれいむに
とって、生まれて初めての「ゆっくり」だった。

「おねえさん、ありがとう!」

れいむは心から感謝の言葉を言った。
ゆっくりは欲望を満たされればさらなる欲を出し、増長するものだ。厚意を見せた人間を
どれい呼ばわりすることすらある。だが、死の間際から「しあわせー」へのあまりの急転
直下な展開は、ゆっくりであるれいむにすら素直に感謝する余裕を与えたのだった。

「れいむちゃん、ゆっくりしてる?」
「ゆうう! れいむ、とってもゆっくりしてるよ!」
「本当にゆっくりしている?」
「ゆっくりしてるよ!」
「本当に?」
「……ゆうう? ゆっくり、してるよ?」

しつこく聞いてくるおねえさんに、れいむは違和感を覚える。
綺麗になって、おなかもいっぱい。暖かな場所にいて、これ以上望むこともない。
そこで、はっと気がついた。

「おねえさんはやくそくどおり、れいむのことをゆっくりさせてくれたよ。だから、もう
おわかれなの……?」

野良である程度、生き延びたゆっくりなら必ず知っていること。
人間は、おそろしいもの。下手な口を利けば簡単につぶされてしまう。人間を下に見る愚
かなゲスもいる。だが、れいむは冬ごもりを失敗させる無能ではあるものの、分をわきま
えてはいた。人間の強さを知っていた。だから今まで生きてこられたのだ。
あまりの「しあわせー」に忘れかけていたが、おねえさんは別に「飼いゆっくりにしてく
れる」と言ったわけではない。この「しあわせー」が続くとは限らない。冬空の下の寒さ
を思い出し、れいむは身震いした。
そんなれいむを気遣うように、おねえさんは静かに首を振った。

「いいえ。そんなことはしないわ」

れいむはほっと息をついた。だが、おねえさんの言葉はそこで終わりではなかった。

「わたしはれいむちゃんのことを責任を持ってゆっくりさせてあげるって約束したわ。ま
だそれを果たせていない」
「ゆうう? れいむ、とってもゆっくりしるよ! おねえさんのおかげで、おりぼんもき
れいになって、ぽんぽんもいっぱいで、とってもとってもゆっくりしてるよ!」

質問の意味が分からず、れいむは首を傾げて斜めになった。野良で夢見ることすらできな
かった「しあわせー」の数々、これ以上にゆっくりできることはれいむの餡子脳には浮か
んでこなかった。
おねえさんの意図を伺おうと顔を見たら、目があった。
そして、れいむは固まった。
おねえさんの目は、ぞっとするほど真剣だった。

「ねえ、れいむちゃん。あなたの一番ゆっくりできることって、なに?」
「ゆ? い、いちばんゆっくりできること?」
「綺麗にしてもらうこと? 食べること? 寝ること? おうたを歌うこと?」
「ゆ? ゆ? ゆゆ?」

矢継ぎ早の質問にれいむは混乱する。自分がゆっくりできることはわかる。今日おねえさ
んにしてもらったこと全部だ。だが、どれが一番かと言われると、わからなくなってしま
う。
れいむはうんうん唸って、真剣に考えだす。

「……そうね、急に言われてもわからないわよね。じゃあ、みんなのお手本を見せてあげ
るわ」
「おてほん?」

おねえさんはれいむを抱き上げると、歩きだした。
向かった先は下へ向かう階段だった。地下へと続いている。この家には地下室があるよう
だった。

「さあ、れいむ。好きなのを選んで」

おねえさんが分厚い扉を開いた。
目に飛び込んできた光景、身体に響く無数の音に、

「な、なんなのこれえええええ!?」

れいむは絶叫した。
そこには整然と積み上げられた透明な箱があり、それぞれにゆっくりが入っていた。
そのいずれもが、奇妙な有様で苦しみうめいているのだ。
それなのに、

「みんな、ゆっくりしているでしょう?」

おねえさんはさっきまでとまったく変わらず、穏やかで優しい微笑みを浮かべている。
れいむには訳がわからなかった。

「みんなぜんぜんゆっくりしてないよおお!?」
「そう? たとえば、どのゆっくりがゆっくりしてない?」
「ちぇん! あのちぇん、ゆっくりしてないよ!」

れいむが目で指し示したのは、大きな透明な箱の中で跳ね続けるちぇんだった。
箱の底面はルームランナーのようにベルトが回転している。そして箱の面のひとつ、ちぇ
んの背後には、画鋲のピンがびっしりと逆さに張られている。もしちぇんが跳ねるのをや
めたら、ベルトに運ばれ串刺しにされてしまうことだろう。

「わか、わか、わかるよおおおお!」

涙と涎を垂らしながら必死に跳ねるその様は、ゆっくりしているとはほど遠い。
だが、おねえさんの微笑みはやはり崩れない。

「ちぇんは、『かけっこするのが一番ゆっくりできる』と言ったのよ」

声もまた、穏やかなものだった。

「危なく見えるかもしれないけど、大丈夫。画鋲のピンはそんなに長くないから、大けが
にはならない。ただ、すごく痛いだけ。それにルームランナーはちぇんが限界に来る頃、
一定時間止まるように毎日調整しているわ。食事の時と眠るときも止めてあげる。だから
ちぇんは、ずっと『かけっこ』できるの。絶対に死なせない、ずっとやめさせない。ステ
キでしょ?」

おねえさんは笑みを深くして、確信を込めていった。

「だってわたし、ちぇんと約束したもの。『責任を持ってゆっくりさせてあげる』って」

ちぇんは死にものぐるいで走っていた。わき目もふらず、ただ延々と。やがて、限界が来
たらしい。ちぇんはぐちゃりとルームランナーの上につぶれ、動かなくなった。同時に、
ルームランナーは止まった。「よし、計算通り」、とおねえさんはつぶやいた。
れいむはぞっとした。

「ゆうう! ちぇんがくるしそうだよ! やめてあげてよ!」
「そうかしら? じゃあ、聞いてみましょう。ちぇん! あなた、ゆっくりできてない?」

動きを止め、息も絶え絶えだったちぇんがびくりとふるえた。そして、チョコの奥から叫
んだ。

「わかるよー! ちぇんはとってもゆっくりてるんだよー!」

そう言うと、再びぐんにょりと潰れた。気を失ったらしい。

「ね? ゆっくりしているって言ったでしょ?」

れいむは呆然とするばかりだった。
それかられいむは「一番ゆっくりできることをしている」ゆっくりたちを、次々と紹介さ
れた。

「このまりさは、『静かにゆっくりするのが一番ゆっくりできる』と言っていたわ」

その透明な箱の中にいるまりさは、口がなかった。口のあった場所はつるりとした肌があ
るだけだった。その跡形のなさは、ふさがれたとか縫われたとかといった感じではない。
口をのどの奥から口と言う器官すべてを取り除いて、餡子をつめて小麦粉の皮でふたをし
たようだった。
ほっぺたのあたりには透明なチューブがつながっていた。

「いろいろ静かにする工夫をしたけど、結局まりさがわめきちらすのが一番うるさかった
の。だからおくちをとってあげたわ。動いて音もでないよう、あんよも焼いた。この透明
な箱も防音だから、外の音はなんにも聞こえない。ごはんはチューブからオレンジジュー
スを注入してあげているわ」

れいむが見ると、まりさはぎょろぎょろと目を向けてきた。ゆっくりにしても異様に大き
く、よく動く目だった。無音のなか、まりさは見ることしかできないのだろう。


「このれいむは『大事なおちびちゃんといっしょにいるのが一番ゆっくりできる』と言っ
ていたわ」

そのれいむは、頭に大きなこぶが二つついていた。こぶにはそれぞれ目と口と髪とおかざ
りがあった。
赤ゆっくりだ。
赤ゆっくりがれいむにくっつけられているのだ。おそらくあんよをはがされ、親れいむの
頭を切り開き、無理矢理つけたのだろう。
融合させられた親子は、目をギョロギョロとあちこちをバラバラに見ており、だらしなく
開いた口からは涎をたらしている。

「絶対に離ればなれにならないよう、くっつけてあげたの。みんないっしょで、しあわせ
そうよね?」

おねえさんがほほえみかけると、「げげげっ」と親子のれいむはわらった。


「このぱちゅりーは、『本を読むのが一番ゆっくりできる』と言っていたわ」

透明な箱の中ではぱちゅりーが淡々と本のページをめくっていた。瞬き一つしない。いや、
できない。
瞼が切り取られていた。
目の縁には、透明なチューブが取り付けられていて、時折そこから水が漏れでていた。

「ずっと本を読見続けられるよう、まばたきをしないで済むようにしてあげたわ。そろそ
ろ読み終わりそうね。また本を換えてあげなきゃいけないわ」

ぱちゅりーは機械のように一定時間ごとにページをめくるだけだった。本当に読んでいる
のかわからなかった。


ほかにも、様々なゆっくりがいた。
「『すっきりー』が一番ゆっくりできる」と言ったありすは、振動する箱の中で延々とす
っきりし続けていた。箱の中に満たされたオレンジジュースと自らが放出したカスタード
を栄養に、すっきりーはいつまでも止まらないようだった。
「ありすって本当にすっきりが好きね」とおねえさんは笑った。

「あまあまを食べるのがゆっくり一番ゆっくりできる」と言ったまりさは、チューブから
あまあまをちゅうちゅう吸っていた。チューブの元は二つに分かれていて、片方はオレン
ジジュースが、もう片方はまりさの後頭部に刺さっていた。まりさは自分の餡子とオレン
ジジュースが混ざったものを吸っているのだ。
「あまあまを無限に用意なんてできないから、まりさ自身にも協力してもらったの」と、
おねえさんは笑った。

「おうたがいちばんゆっくりできる」と言ったれいむは、スピーカーの入った透明な箱の
中にいた。おねえさんによると、れいむがおうたを歌っている間は録音し、れいむがおう
たをやめるとスピーカーから録音したおうたが流れるのだという。透明な箱は防音なので
外からはわからないが、箱の中は24時間絶え間なくおうたが聞こえるのだという。
「おうたをたっぷり歌えて聞けて、とっても楽しそうよね」と、おねえさんは笑った。

何匹も何匹も、自分が一番ゆっくりできると言ったことを続けさせられているゆっくりを
見せられた。
みな、苦しんでいるようにしか見えなかった。

「みんな、ほんとうにゆっくりしているの……?」
「当たり前じゃない。一番ゆっくりできることをさせてあげてるんだもの。ゆっくりして
いないはずがないわ」
「でも……」
「うん、そうね。確かに、もうゆっくりできないって言った子はいたわ。ひどい嘘つきよ
ね」
「うそつき……?」
「ええ、嘘つきよ。だって一番ゆっくりしていることをしているはずなのにゆっくりでき
ないってことは、最初に嘘をついたことになるもの。そういう子にはお仕置きしてあげる
の」
「どんなおしおきなの……?」

れいむはごくりとつばを飲み込んだ。
こんな苦しいことを続けさせられるのなら、おしおきの方がいっそマシだと思ったのだ。
だが、おねえさんの答えはそんな考えを打ち消させた。

「いろいろやったけど……そうね、この前は紙やすりを使ったわ」
「かみやすりさん?」
「そう。目の細かい紙ヤスリ。ザラザラした紙って言えばわかるかな? それでね、全身
をこすってあげたの。毎日、10分ずつぐらいだったかな? すこしずつすこしずつ、慎
重に、皮がやぶれてしまわないように削って、餡子を吐きそうになったらその日はおしま
い。それを一ヶ月くらい続けたわ。最後は皮から餡子が透けて、綺麗だった。これ以上は
削りようがなかったから、野良に返してあげたわ」

毎日少しずつ、死なないように削られる。死ねないよう苦しめられる。それも一ヶ月。
それはどれほど苦しいのだろうか。どれほど恐ろしいことだろうか。
れいむはここにいるゆっくりたちが、自分の言った「一番ゆっくりできること」を続ける
理由を理解した。そんなおしおきよりは、死ぬよりは、今の方がまだマシなのだ。

そして、なにより戦慄すべきことを悟った。
自分もまた、お姉さんに言われたのだ。
「責任を持ってゆっくりさせる」、と。
そして問われたのだ。
「なにが一番ゆっくりできることか」、と。

れいむは必死に考えた。
なにを答えてもきっとゆっくりできなくなる。それ以前に思いつくようなことは既にほか
のゆっくりがやっている。
逃げることも考えた。だが、おねえさんは大して力を入れないでれいむを抱いているよう
に見えるのに、れいむのあんよはびくともしない。まるでゆっくりのあんよを知り尽くし、
要所を完璧に押さえているかのようだった。
「野良でいることが一番ゆっくりできる」と言って逃げ出すこともできない。なぜなら、
れいむは野良で死にかけていて、とてもゆっくりしているとは言えない状況だった。そん
なことを言えば、嘘つきとして「お仕置き」されてしまうだろう。
八方ふさがり、絶望的な状況の中、れいむの餡子脳は奇跡的にひらめいた。
みんな、「なにかをすること」を「具体的なお願い」をして大変なことになっている。な
ら、「なにもしないこと」を「漠然とお願い」すればいい。

(「おねえさんとずっといっしょにいたい」っていえばいいよ!)

いっしょにいるのだから透明な箱に閉じこめられることはない。変なこともさせられない
はずだ。すばらしい思いつきをさっそく実行しようとしたところ、おねえさんは語りだした。

「そうそう。まだ加工の途中なんだけど、『わたしといっしょにいるのが一番ゆっくりで
きる』って言ってくれたゆっくりがいたのよ」
「……ゆ?」

つれてこられた先は、地下室の一角に置かれた作業机だった。その上にはペットボトルが
ある。一度切断したのだろう、そのペットボトルには真ん中あたりがテープでとめられて
いる。
なぜ切断したのだろう? きっと口が小さすぎるからだ。「それ」をつめこむには。

「おねえさん、昼間はお仕事があるの。職場にゆっくりをつれていくと、嫌がる人もいる
のよね。でも、これなら安心。カバンの中に入れてい行けるもの」

ペットボトルのなかにはみっしりとつまっていた。無理矢理、ぎゅうぎゅうに押し込めら
れていた。
肌があった。髪があった。お飾りがあった。目があった。

「さ、ごはんよ」

おねえさんがペットボトルのふたをあけると、ゆ、といううめきが漏れた。そうだ、あん
な状態ではもう「ゆっくりしていってね!」と言えるわけがない。口が開けないのだから。
ペットボトルのなかには、無理やりゆっくりが詰め込まれていた。
苦しいのだろう。痛いのだろう。でも、それでもおねえさんにとってはゆっくりできてい
るように見えるはずだ。
だってそのゆっくりは、「おねえさんといっしょにいるのが一番ゆっくりできる」と言っ
たのだから。

「ゆわああああああああああ!」

れいむは叫んだ。恐怖のあまり、喉もさけよとばかりに叫んだ。目からは涙が、顎のあた
りからはおそろしーしーが、とめどなく流れた。
それでもおねえさんはほほえみを崩さなかった。

「あらあら、れいむちゃんったらはしゃいじゃって……」

そして、とん、とれいむを作業机の上に置いた。

「さ、れいむちゃん。ここにいるゆっくりは、みんな紹介してあげたわ。だから、そろそ
ろ教えて?」
「……ゆ?」
「れいむちゃんは、なにが一番ゆっくりできる?」

れいむはおねえさんと目が合い、固まった。
ぞっとするほど澄んだ瞳だった。ありえないほど無垢な微笑みだった。
おねえさんは本気だ。本当の本気、かけらの邪心もなく、ただ純粋にれいむをゆっくりさ
せようとしている。
このとてつもなく純粋なおねえさんは、きっとれいむが一番ゆっくりできることと言った
をさせてくれる。
このあまりにも無垢なおねえさんは、きっとれいむが一番ゆっくりできると言ったこと以
外を、させてくれない。

「ゆ……」
「ゆ?」
「ゆっくりしていってね!」

れいむは叫んだ。このあまりにゆっくりできない状況に、ゆっくりの本能ができたことは
それだけだった。
ゆっくりできない。だから、ゆっくりしてほしい。無垢なる望み。
生まれて初めて、野良のれいむが餡子の底から自分のまわりなにもかも、世界のすべてが
ゆっくりすることを望んだ全力の叫びだった。
れいむの魂の絶叫を受け、

「ありがとう、れいむ。わたしはゆっくりしているわ。それで、れいむが一番ゆっくりで
きることって、なに?」

しかし、おねえさんはまったく動じていなかった。

「ゆっくりしていってね! ゆっくりしていってね!」
「ゆっくり! ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってねーっ!」

れいむは何度も叫ぶ。それに呼応し、透明な箱の中から、声を出せるものはゆっくりの定
型句を叫びだした。
しかし、おねえさんの微笑みは崩れないし、
瞳は揺らぎもしない。
れいむは知らない。こんなこと、何度もおねえさんが経験していることに。
そして最後にはどのゆっくりも何らかの願いを言ってしまう。いつまでも叫んではいられ
ない。
おねえさんはれいむが願いを言うのを、ただじっと待つ。過去、おねえさんが根負けした
ことはない。

れいむの願いはきっとかなえられる。
しかし、望みはかなわない。
それでも、今は。
れいむは叫び続ける。

「ゆっくりしていってね!」



by触発あき

・過去作品
ふたば系ゆっくりいじめ 163 バトルゆ虐!
ふたば系ゆっくりいじめ 172 とてもゆっくりした蛇口
ふたば系ゆっくりいじめ 180 ゆっくりばけてでるよ!
ふたば系ゆっくりいじめ 181 ゆっくりばけてでるよ!後日談
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ふたば系ゆっくりいじめ 204 餡小話の感想れいむ・その後
ふたば系ゆっくりいじめ 211 むかしなつかしゆーどろ遊び
ふたば系ゆっくりいじめ 213 制裁は誰がために
ふたば系ゆっくりいじめ 233 どすらりー
ふたば系ゆっくりいじめ 465 おぼうしをおいかけて
ふたば系ゆっくりいじめ 469 おぼうしをぶん投げて
ふたば系ゆっくりいじめ 478 おぼうしのなかにあったもの
ふたば系ゆっくりいじめ 513 ネリアン
ふたば系ゆっくりいじめ 534 ラストれいむロストホープ
ふたば系ゆっくりいじめ 537 地べたを這いずる饅頭の瞳に映る世界
ふたば系ゆっくりいじめ 574 けがれなきゆっくりパーク
ふたば系ゆっくりいじめ 596 復讐の為の人生なんて
ふたば系ゆっくりいじめ 611 とくべつなあまあま

nue010 anko705のあの人の人生

上記より前の過去作品一覧は下記作品に収録
ふたば系ゆっくりいじめ 151 ゆっくりみわけてね!



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感想

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  • ゲスになって答えればいい
    「おねえさんのおうちはでいぶのゆっくりプレイスだからみんなでていってね!」
    どうなるかな -- 2014-03-11 21:04:52
  • 「ゆっ!れいむはふつうのくらしがしたいよ!ゆっくりしていってねっ!」
    俺ならこう言うと思う。
    希少種の場合はお姉さん、どうするんだろーωー

    ______
    / \/\/\/ \ ←?
    |° ° |
    |* ∀ * |
    \______/ -- 2012-11-03 17:45:48
  • 沈黙が一番の答えか。 -- 2012-01-26 21:06:17
  • 「れいむのぺにぺにをおねえさんのまむまむでえいえんにすっきりーさせてくれるのがいちばんゆっくりできるよ。」 -- 2011-11-02 21:28:02
  • おねえさんがゆっくりしてるのがいちばんゆっくりできるよ
    って言ってみたらどうなるかなぁ -- 2011-08-30 11:23:04
  • とてもゆっくりできました!
    上げてから即落としましたねw
    やせ形で目がギョロギョロしてて人と話すのが苦手なお姉さんを想像しましたw -- 2011-06-06 04:32:44
  • 怖いな…… -- 2011-05-25 12:01:06
  • ↓その逆ギレするとこめっちゃ見たい。
    -- 2011-01-12 01:07:14
  • お姉さん絶対わざと曲解してやってるだろww
    ↓の人みたいに「おねえさんがれいむのどれい」云々みたいな、虐待に繋げにくい無茶振りされたら逆ギレしそうw -- 2010-11-14 09:02:56
  • やったねれいむちゃん、願いが叶うよ!ww
    天国から地獄への急降下がえごいなw -- 2010-10-23 17:51:52
  • 素晴らしい。なんて優しいお姉さんなんだ -- 2010-10-10 02:45:39
  • 俺もこういうのはゆっくりできない。このお姉さんを打破するゆっくりの登場を願う。 -- 2010-09-12 00:58:34
  • 「おねえさんがれいむのいうことになんでもしたがうどれいになってくれたらいちばんゆっくりできるよ!」 -- 2010-08-22 21:43:54
  • こういうのでゆっくりできないのってもしかして俺だけ…? -- 2010-07-26 09:22:37
  • やさしいお姉さんの話で心がほんわかしました。 -- 2010-07-26 01:20:04
最終更新:2010年01月08日 08:35
ツールボックス

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