ふたば系ゆっくりいじめ 1059 でか帽子まりしゃと姉まりしゃ

でか帽子まりしゃと姉まりしゃ 26KB


差別・格差 飾り 群れ 姉妹物 創作亜種 M1リスペクト 二行作




【はじめに】

 今回は、M1さんリスペクトSSです。
 [M1&M1DC][即興ゆっくり物語3]スレの1267062014264.pngが元ネタです。

 「ゆっくりしないで お飾りがこんなカンジの赤ちゃんの SSでも漫画でも作ってね!」
 とのお言葉なので、荒沢さんネタの罪滅ぼしも兼ねて、やった。

 『それから、ひと月とちょっと』という文章から、二行作展開。
 例によって、あまりゆんやーしてないが、特に反省はしていない。





【本編】 

 大きな木の下に作られた、小さな巣。
 その中から、ぞろぞろとゆっくりの親子が這い出てきた。

「さあ、おちびちゃんたち! きょうは、おうちのそとで、おべんきょうだよ!
 もう、ぴょんぴょんは、ちゃんとできるね? いっぱい、れんしゅうしたもんね!
 おとうさんにおくれないで、ついてくるんだよ!」

 先頭を行くのは父まりさ。
 その後を、おちびちゃんがのたのたと着いて来る。 

「おちびちゃんたち、そろそろしゅっぱつするよー」
「まりさ、きをつけてね! れいむは、おるすばんしてるよ!」

 母れいむは、もみあげをピコピコさせて家族を見送る。

「おかあしゃん、いってくるにぇ!」
「おとうしゃん、れいみゅを、おいてかにゃいで!」

 元気な子まりさと、泣き虫の気がある子れいむが、ぽよんぽよんと跳ねてくる。
 仲良し親子のお散歩。実にゆっくりとした光景だ。
 ただひとつのことを除けば。

 子まりさ子れいむよりさらに遅れて、不気味なものがにじり寄ってくる。
 それは、まりさ種のお帽子だった。
 父まりさのものと同じくらいのお飾りが、ずーりずーりと音を立てて親子に近寄ってくる。
 まるで、お帽子そのものが意思を持って動いているかのように。

 這いずる音が聞こえると、父まりさの表情は曇る。
 何も恐れているわけではない。
 ただ、ゆっくりできていないだけだ。

 大きなお帽子のつばから、小さな顔が現れる。
 子まりさ。
 父まりさの実子であり、先ほどの子ゆ達の妹でもある。

 どういうわけが、大きなお帽子を被らされている末っ子まりしゃ。
 当然、その歩みは他の3匹よりも遥かに遅い。

 それを知ってか知らずか。いや、恐らくは知っているのだろう。
 親まりさはむしろ速度を速めて、軽やかなステップで森の奥へと跳ね歩く。
 姉まりしゃと妹れいみゅは、必死に食らいついていった。

 そして、末っ子まりしゃは離されていく。
 彼我の距離が1mに達そうとした時、まりしゃはたまらず、でか帽子から飛び出した。

「みんにゃ、まっちぇよぉおおお!!!
 まりしゃを、おいてかにゃいでよぉおおお!!!」

 父や姉の元へと急ぐ速さは、先ほどまでとは比べ物にはならない。
 文字通りの重荷を降ろしたことと、子ゆ特有の堪え性のなさが、そうさせているのだ。

 しかしこの末っ子は、ゆっくりの常識からすれば丸裸同然である。

「ゆ?」

 姉まりしゃが振り返る。

「おねえちゃあああん!!! おとうしゃあああああんんん!!!」

 泣き叫びながら、お帽子なしのまりしゃが駆け寄ってきた。
 人間の子供同士なら、それを受け止めて頭でも撫でてやるのかも知れないが。
 所詮はゆっくりということか。姉は慈しみとは正反対の行動に出る。

 ぷっきゅうぅ!

 姉まりしゃが膨らんだ。
 怒りを込めたぷくーは、末っ子まりしゃを脅えさせるのに十分だった。
 お帽子なしは、自分のでか帽子の中へ慌てて避難する。
 末っ子の頭だけが帽子の中へ滑り込み、つばから出た尻がぷるぷる震えている。

「おぼうしをかぶらにゃいのは、ゆっくちできにゃいよ!
 そんにゃこは、まりしゃのいもうちょなんかじゃにゃいよ!
 またゆっくちできにゃかっちゃら、ほんきで、ぷきゅーすりゅからにぇ!」

 ぴゅんぴゅんと怒りながら、姉まりしゃは妹に背を向けた。
 末っ子まりしゃは余程恐ろしかったのか、いつまでも尻と頭を入替えようとはしなかった。





『でか帽子まりしゃと姉まりしゃ』 (作・二行)





 不釣合いに大きいお帽子の末っ子まりしゃ。
 何も、誰かに被らされているわけではない。
 でか帽子は、正真正銘まりしゃのものだ。

 3匹の子ゆっくりは、同じひとつの茎から生まれた。
 母れいむと父まりさの、初めての赤ちゃんだ。

 愛の営みを終えると、れいむの頭から茎が伸びた。
 実っていたのは、れいみゅとまりしゃ。それに大きなお帽子だった。

「「ゆっくりぃいいいいい!?」」

 面白い光景に、面白い顔と叫びで応える夫婦饅頭。

「すごく、ゆっくりした?あかちゃん?だね?」
「ゆっくりした?あかちゃんで、れいむもうれしいよ?」

 疑問符の多さが、動揺を物語っていた。 
 それでも頭を振り振り、長女と次女をしゅっさんっすれば、しあわせーで餡子が一杯になる。

「ゆっくちちていっちぇね!」
「ゆーん! すっごくかわいいよー! ゆっくりできるよー!」
「まりさにも、れいむにも、そっくりだよ! ゆーん! まりさがおとうさんだよー」

 こうして、れいみゅと姉まりしゃは産まれた。
 残るは、よく分からない赤ちゃん?だけである。
 母れいむがむず痒そうに頭を揺らすと、父まりさも覚悟を決めたようだ。

「さいごのあかちゃんがうまれるよ! まりさがついてるよ! がんばって、れいむ!」
「ゆーん! ゆーん! ゆゆゆゆゆっ!」
「おかあしゃん、ぎゃんばれー」
「いもうちょも、がんばりぇー」

 姉達も舌足らずの声で、母のしゅっさんっを応援する。

「「「ゆ!」」」

 ぷっちんという音を立てて、お帽子が茎から離れる。
 落ちる大きなお飾りの下に、僅かではあるが、赤まりしゃの顔が見えていた。

「まりしゃの、いもうちょが」

 嬉しくって仕方がないといった表情で、姉まりしゃが産まれたての妹の側へ跳ね寄る。

「うまれちゃ・・・・・・よ?」

 しかし姉の前にあるのは、可愛らしい妹の姿ではなく、やたら威圧感のあるお帽子のみ。
 姉まりしゃはなんだか怖くなって、父のぶろんどへあーに潜り込む。

 れいみゅはといえば、特に気にすることもなく、でか帽子へ向けてご挨拶をしていた。

「ゆっくちちていっちぇにぇ! れいみゅが、おねえしゃんだよ!」
「ゆっくちちていっちぇにぇ! ゆっくちちていっちぇにぇ!」

 生れ落ちたお帽子の中から、声がする。
 どうやら、末っ子まりしゃが産まれたことは、確かなようだった。

「おかあしゃん!? おとうしゃん!? おねえちゃん!? まりしゃのおめめ、みえにゃいよぉ!
 まりしゃは、ここにいりゅよ! まっきゅらは、ゆんやあああ!!!!」

 でか帽子が、微かに動く。
 帽子の小さな主が、中でもがいているのかもしれない。

 こんなにも子供が助けを求めているのに、親は不可解な出来事に当惑するばかり。
 饅頭のくせに冷や汗など流しながら、夫婦会議を経て自分達を納得させようとしている。

「ぱちゅりーは、おかざりがやぶれていたり、とってもちいさいあかちゃんは、
 ゆっくりできなくなるっていってたけど。
 このこは、とてもおおきくて、りっぱだよね?
 きっと、ゆっくりしてる、おちびちゃんだよね?」
「そ、そうだよ! ゆっくりしてる、おちびちゃんだよ!
 だって、れいむとまりさの、かわいいこどもだもん!」

 いつまでたっても救いの手が差し伸べられない哀れな末っ子。
 遂にはたくましくも、自力で帽子から這い出てきた。

「おかあしゃん! おかあしゃん! おかあ・・・・・・ゆ?」

 泣きながら光ある場所へ出た末っ子を迎えたのは、れいむの眼差し。
 それは母ではなく、姉れいみゅの瞳であった。

「れいみゅが、おねえしゃんだよ! ゆっくちちようにぇ!」

 でか帽子まりしゃは、ようやく自分が祝福されたことを知った。
 もしここで姉れいみゅが話しかけなければ、非ゆっくち症になっていたかもしれない。

「ゆ、ゆっくちちていっちぇにぇ!」

 末っ子まりしゃが元気にご挨拶すると、母は初めて彼女のために笑顔を咲かせた。

「ゆっくりしていってね、まりさ! れいむが、おかあさんだよ!」
「ゆゆゆ、ゆっくりしっていってね。おとうさんだよ・・・」

 それに引き換え、同種の反応はゆっくりしていなかった。
 父れいむはあらぬ方向を見て、おどおどと子に挨拶を返す。
 姉まりしゃに到っては、顔を父に沈めたまま、一瞥さえくれようとしない。





 それから、ひと月とちょっと。
 もうじき、赤ゆ言葉も抜け切ろうとする頃である。
 れいむとまりさのおちびちゃんは、すくすくと成長していった。

 長女れいみゅは、面倒見の良さが見られる。
 将来は、(笑)の付かない母性豊かなれいむとなることだろう。

 姉まりしゃは、生意気盛り。
 父まりさにさえ口答えしたりする、反抗期のようだ。

 末っ子まりしゃは・・・多分、元気なのだろう。
 なにせいつもでか帽子に覆われてて、よく分からない。

 ただ忍耐強さはあるようで、いつも大きなお帽子を引きずって歩いている。
 でか帽子まりしゃは、修練のように一日中出歩いていた。
 姉にぷきゅーされて以来、雨の日以外は歩きを欠かしたことがない。

 だが、その歩みはあくまで遅い。
 お飾り自体、つむりまりさのそれよりは軽い。問題はその大きさだった。
 とにかくでかいので、飛んだり跳ねたりできないのだ。
 人間で言えば、常に匍匐前進を強いられているようなもの。
 疾走より匍匐前進の方が速い人間がいたら、気持ちが悪い。

 のーろのーろとずーりずーりして回るその光景は、異様なものだった。
 とはいえ、流石にひと月も経つと、群れのゆっくり達も慣れてくる。

「まりさ、いつもがんばるわね」

 ありすに話しかけられて、まりしゃはぴょこっと顔を出す。

「あ、ありすおねえしゃん。ゆっくちちていってね!」
「あらあら、まだおちびちゃんことばが、のこってるわね。
 そんなことじゃ、おとうさんみたいな、とかいはになれないわよ」
「ゆっくちがんばるよ!」

 再びお帽子の中にまりしゃは入り、ゆっせ、ゆっせとずーりずーりを続ける。
 末っ子の額に、お帽子の裏地が触れている。
 意識さえしっかり集中していれば、お飾りと饅頭はちょっとやそっとじゃ離れない。

「むきゅーっ。まりさ、ゆっくりしないでがんばるのよ!」
「ぱちゅりーおばあしゃん。ゆっくちちていってね!」
「げほげほげほ、まりさをみていると、おもいだすわ。
 ぱちぇもむかしは、まりさとあいのとーひこーを」
「ゆっくち、さよーならー」

 老人の長話を避ける賢さも、でか帽子まりしゃは身に付け始めている。
 以前このぱちぇに捕まった時は、日暮れまで話し込まれて困り果てた。

「しろっ! しろっ!」
「ゆっくちありがとう、おさえーきしゃま」
「くろっ! くろっ!」
「うん。むりはしないで、ゆっくちがんばるよ!」
「ぱんだー、ぱんだー」
「だいじょうぶだよ。いつか、おねえしゃんといっしょに、かりにいくよ!」

 長えーきを含め、群れのゆっくり達に、でか帽子まりしゃは愛されていた。
 それはお飾りの見事さばかりではない。
 いつもとっくんっに励んでいる健気さを、皆はちゃんと知っているのだ。

 だが、快く思わないものもいる。
 それは、同じまりさ種の饅頭どもだ。

「おい、そこのおちび、とまるのぜ!」
「ゆ?」
「きょうこそ、そのおかざり、まりささまによこすのぜ!」

 典型的なゲスまりさが、末っ子まりしゃのお帽子に噛み付いた。

「にゃにするの、まりさ! これは、まりしゃのおぼうしだよ!」
「こんなゆっくりしたおぼうし、おちびには、にあわないのぜ!
 まりささまがゆっくりつかってやるから、おとなしくするのぜ!」

 ゲスが、でか帽子を噛んだまま振り回す。
 帽子は大きくても、まりしゃの体は小さい。お飾りにしがみ付くのが精一杯だった。

「ゆゆゆっ! ゆゆゆっ!」
「これでもくらうのぜ!」

 勢いよく、まりしゃとお帽子が木に叩きつけられた。

「いたいめにあいたくなかったら、あしたこそ、おぼうしよこすのぜ!」

 ゆっへっへと笑いながら、ゲスが去る。
 残されたまりしゃは、以外にも怪我などしていなかった。
 立派なお帽子がクッションとなって、本体を守ってくれたのだ。
 お飾りの自衛本能なのか、それともゲスの計算なのかは、よく分からない。

 まりしゃは、再びでか帽子の中に潜り込んで、とっくんっを再開した。
 まりさ種の嫉妬とも軽蔑とも付かない視線。
 末っ子まりしゃはいつしか、それを完全に無視出来るようになっていた。

 でか帽子まりしゃが振り向いて欲しいまりさは、ただひとつ。
 姉のまりしゃだった。





 姉まりしゃは、でか帽子まりしゃのことが大嫌いだった。
 まず、出会いが最悪。
 可愛い可愛い妹ができたと思ったら、そこにいたのはでかいお帽子。
 姉は妹から裏切られたような、馬鹿にされたような思いを抱いた。

 それからは、やることなすこと全て気に食わない。
 あんよが遅いことも、大事なお飾りを投げ出そうとしたことも。
 そのくせ、母や妹や群れの皆に好かれていることも。

 そして一番カチンとくるのは、父や群れのまりさに嫌われていることだ。
 まりさをゆっくりさせないまりさなんて、恥ずかしいにもほどがある。
 それと同時に、妹の悪口を言う他まりさにも、ゆっくりできない何かを感じるのだ。
 まりさでゆっくりできないまりさなんて、不条理にもほどがある。

 以上、人間の言葉を用いれば正味11行で済む思いを、姉まりしゃは背負い込んでいた。
 これをゆっくりの言語に置き換えれば、何百行となるか分かったものじゃない。
 となれば姉餡子の中では、妹に対する感情が幾重にも渦巻くことになる。

 家の中でゆっくりしようにも、イライラして餡子が煮え立つようだった。
 そんな時に、無神経なでか帽子に目の前を横切って来られると、姉としては爆発せざるを得ない。

「ゆっ! このでかぼーし、じゃまだよ!」

 姉まりしゃとしては、思い切り体当たりを食らわせたつもりであった。
 しかし、中身スッカスカなお飾りへの攻撃は、何の手ごたえもなかった。
 むしろ、姉の体の方がすり抜けてしまい、ごろごろと転がる羽目になる。

「ゆゆゆゆゆゆゆ?」

 姉まりしゃは、柔らかいものに受け止められた。
 仰向けのまま目線を向けると、そこにいたのは、母。

「おねえちゃん。いもうとをいじめちゃ、だめでしょ!」

 ぷくーこそなかったものの、叱られたことは、姉まりさをさらに傷つけることになった。

「ゆん! こんなおぼうしだけのまりさ、いもうとなんかじゃ、ないよ!」
「まりさ!」
「おねえしゃん・・・」
「おねえちゃん? まりさにいもうとなんかいないよ!
 いるのは、れいむおねえちゃんと、でっかいうんうんぶくろだけだよ!」
「まりさ、いいかげんにしないと、ぷくーするよ!」
「ぷくーは、やじゃぁあああ!!!」

 母の言葉に、姉ではなく末っ子の方が脅えてしまった。
 ゆんゆんと挙動がおかしくなった母を尻目に、姉まりしゃは外へ飛び出した。

 れいむがお帽子越しに末っ子をすーりすーりしていると、姉れいみゅが帰ってくる。
 紅い方の姉は、丸い石ころを吐き出すと、能天気なことを言い出すのであった。

「みてみて、ゆっくりしたたからものさんだよ。
 これで、れいむと、まりさと、まりさでゆっくりあそぼーね!」





 いつまでたっても、姉まりしゃは帰ってこなかった。
 でか帽子まりさは、巣穴から空を見上げる。
 雲が、きめえ丸よりも早く動いていた。

「ゆっくち、いってきます」
「ゆ? どこいくの?」
「おねえしゃん、むかえにいってくるね」

 母が止める前に、まりしゃはあんよを早めて外に出る。
 普段は間延び気味のあんよ取りも、ずりずりずりずりと擦れるようなものに変わっていた。

 横殴りの風が襲う度、でか帽子の主は額に意識を集める。
 気を抜けば、飛ばされそうだ。
 事実、この風でお飾りを飛ばされたゆっくり達の声が、辺りに響いていた。

「まつのぜ! まりさのおかざりさん、ゆっくりするのぜ!」

 いつものゲスが、こちらには目もくれず、自分の分身を追いかけていた。
 ゲス饅頭の行く先には崖があったような気もするが、まりしゃにそれを告げる余裕はない。

 妹まりしゃはひたすら、姉を探す。

(おねえしゃんはきっと、あのごつごつさんのところに、いるよ)

 姉まりしゃがたった一度だけ教えてくれた、ゆっくりプレイス。
 そこを目指して、でか帽子はひたすら進む。

「ゆわわわわ! おそらをとんでる・・・」

 ゲスまりさの声が、風の間に聞こえたような気がした。



 地表の所々に丸い石が突き出て、ごつごつした場所がある。
 そこは群れの外れにあり、一番見晴らしの良い場所でもあった。

 そんな姉まりしゃのお気に入りプレイスに、でか帽子がやってくる。
 妹の読み通り、姉はそこに佇んでいた。

「なにしにきたの・・・」

 お帽子を引きずる音で気付いたのか、向こうを向いたまま姉が問いかける。

「おねえしゃん。なんだか、おそらがゆっくちしてないよ。 いっしょにかえろ?」
「いわれなくても、かえるよ。でも、でかぼーしと、いっしょにかえるきはないよ」
「にゃんでそんにゃこと、いうにょ・・・」

 思わず赤ゆ言葉が出る、末っ子。

「まりさが、ゆっくりしてないからわるいんだよ!」
「おねえしゃん、まりしゃがなにかわるいこと、した?」
「してないよ! ぜんぜんしてない! でも、ゆっくりできないんだよ!」
「ごめんなさい・・・」
「ごめんなさいは、なきごえじゃないよ。
 ほんとーにわるいことしたときじゃないと、ごめんなさいしちゃ、いけないいんだよ。
 おさえーきさまが、そういってたよ」
「でも、おねえしゃんは、まりしゃのせいで、ゆっくりできていないんでしょ?
 まりしゃは、おねえしゃんと、ゆっくりしたいよ・・・」
「おねえちゃんだって、まりしゃと、いもうとと、ゆっくりしたいよ」
「ゆ?」

 風が一時、止んだ。
 嵐の前の静けさだったのだろう。

「でも、なんだか、まりさのなかみが、むーずむーずするんだよ。
 まだいもうとと、ゆっくりするなって、あんこさんが、はなしかけてくるんだよ」
「ゆぅ。とにかく、おうちかえろ?
 いっしょにかえりたくないにゃら、まりしゃ、さきにいくね・・・」

 さっきまでの勢いとは裏腹に、帽子が擦れる音は一気に重くなる。
 あんよ取りもずりずりから、ずぅーーりずぅーーりに。
 末っ子まりしゃは俯きながら歩いているのだが、傍目にはいつものでか帽子にしか見えなかった。

 一陣の風が吹く。狂風であった。
 木が軋み、葉は舞い散り、草が薙がれたように倒れる。
 脆弱な生き物、特にゆっくりは簡単に舞い上がり、虚空に投げ出された。

「ゆゆゆっ、ゆゆぅううう?」
「お、おねえしゃん!」

 でか帽子をしっかりと地に付け、末っ子まりしゃは風に耐えていた。
 しかし、姉の悲鳴を聞くと、荒れ狂う外界に頭を突き出す。

 姉まりしゃが、吹き飛ばされようとしていた。
 とうにお帽子は彼方へ去り、姉自身のあんよも浮き上がり始めていたのだ。

「ゆんやぁぁあああっ!」

 でか帽子まりさが、叫んだ。そして、飛んだ。
 大きなお飾りが風で膨らむ。
 そのまま鉛色の空へと吸い込まれても、おかしくはなかった。
 だが、幸運が味方したのだろう。
 でか帽子は姉の元へと流され、まりしゃとまりしゃを受け止めて再び着地することができた。

「ゆぅっ・・・。まりさのおぼうしが・・・」
「おねえしゃん」
「まりさ、もう、おうちかえる」
「ゆん。ゆっくちできないかもしれないけど、まりしゃといっしょに、かえろ。
 このでかぼーししゃんなら、かぜしゃんも、ゆっくりふせげるみたいだよ」
「わかったよ。おそとはゆっくりできないね」
「おでこさんを、ぴったりおぼうしにつけてね」

 小さな2つの額が、大きなお帽子の裏地に、仲良く張り付いた。
 これであんよが2つになったから、速度も倍になるかというと、そうではなかった。
 むしろ、不慣れな姉のせいで、歩みは遅くなったかもしれない。
 それでも、末っ子まりしゃは嬉しかった。
 始めて、姉をこんなに身近に感じられるのだから。

「ゆ、このおと」
「あめしゃん・・・」

 雨音は、ゆっくりにとって死神の声である。
 長く水に浸かれば、体が溶けて生命がなくなる。

 未だ、我が家は遠かった。
 2つのまりしゃは、でか帽子を信じて進むしかない。

「ゆっせ、ゆっせ。ゆっ! つめたい! みずたまりさんが、できてるよ!」
「くらいと、みえにゃいね。ちょっとだけ、おぼうしさんを、あけるよ」

 ほんの少しだけ、末っ子まりしゃがつばを上げた。
 光が差し込み、視界も開ける。
 そして見たくもないものまで、見えてしまった。

 末っ子まりしゃによくご挨拶してくれたありすだったのだろう。
 カチューシャで、かろうじて分かる。
 それでしか判別できないほど、グチャグチャに溶けていた。

「ありすおねえしゃん、どうして・・・」
「ゆ! まりさ、みちゃだめ!」

 姉まりしゃは妹の頬を押し、無理矢理視線を逸らせる。
 同時に、ありすだったものから、目玉がコロリと転がった。
 綺麗な綺麗なありすの瞳。強い雨に打たれて、穴が開いてなくなっていく。

「おねえしゃん・・・」
「ゆっくりしないで、いくよ。ありすのぶんまで、ゆっくりしよう」

 カスタードが、まりしゃ達の足元まで流れてくる。
 それには気付かないフリをして、家路を急いだ。

 雨足は一向に、衰えない。
 肺もないのに、でか帽子の中は息切れの喘ぎが充満していった。

「ゆはー、ゆはー。まりしゃおねえしゃん」
「ゆ?」
「れいみゅおねえしゃんが、たからものひろってきたんだよ。
 ゆっくりした、いしころしゃんだよ」
「ゆーん、それはゆっくりできそうだね」
「それでね、たからものさんで、ゆっくりあそぼって。
 れいみゅおねえしゃんと、まりしゃおねえしゃんと、まりしゃで」
「そうだね。ぜったい、ゆっくりしようね」
「おねえしゃん」
「ゆゆ?」
「まりしゃ、おねえしゃんといっしょにいれて、うれしいよ。まりしゃは」
「ゆとっぷ。そこからさきは、かえってからきくよ。
 だから、なにがなんでも、かえりつくよ!」
「ゆん!」

 いじらしい姉妹の上にも、哀れな死骸の上にも、平等に雨は降り注ぐ。
 方々の水溜りは池のように大きくなり、行く手を阻もうと待ち構える。
 群れのあちこちで、断末魔が奏でられていく。





 父まりさは、への字口でお外を眺めていた。
 2つの子まりさは、まだ帰って来ない。
 出来れば上のまりしゃだけでも、とついつい思っては頭を振って思考を止める。

「ゆっくりぃぃぃ・・・ゆっくりぃぃぃ・・・」

 母れいむは呟きながら、狭い巣の中を右往左往していた。
 父が雨から逃れるように巣へ帰ってくると、そこにいたのは2つのれいむだけだった。

 降雨の前は、虫さんが多く取れる。
 だから狩りに夢中になってしまい、その結果雨でずっとゆっくりしてしまうものも多い。
 父まりさは、流石にそこまでアホではなかった。
 しかし、もっと早めに帰って子供達に、天気の崩れを教えてやるべきではなかったのか。
 悔恨に似た心情が、父の餡子に浮かんでは沈んでいく。

「ゆっくりぃぃのひぃぃ、まぁったりぃのひぃぃぃ」
「おかあさん、きもちはわかるけど、すこしゆっくりしよ?」
「でも、れいむのかわいいかわいい、まりさとまりさがいないんだよ。
 まりさをおこってしまったけっかが、これだよ!
 すっきりぃぃのひぃ、ゆぅぅゆぅぅゆぅぅぅ・・・」

 父は、それを見付け、青ざめた。
 ずぶ濡れのでか帽子が、こちらに向かって近付いてくる。
 紛れもない、末っ子の帽子。

「いきのこっちゃたよ」
「ゆ? どーしたの、おとーさん?」
「よりによって、ゆっくりできない・・・」
「ゆゆゆ! おかーさん! まりさが、まりさがかえってきたよ!」
「ゆーっ!?」

 幸いにも、父の呟きに気付いたものはいなかった。
 自分自身は気付いたのだろうか。
 自らの子供に格差を付けようとする、ゲスな本音に。

 れいむとれいみゅは、狂喜した。

「ゆゆーん! おかえり、まりさ!」
「ゆっくり、いや、ゆっくりしないではいってね!」

 れいむは飛びつかんばかりに、でか帽子を迎え入れた。
 まりさ親父はれいむ親子の勢いに負け、巣の奥へと押し込まれる。
 れいむ達も帰ってきたお帽子に場所を譲った。

 でか帽子は室内に入ると動かなくなり、しばし沈黙が続いた。
 帽子のつばの水分が地に吸い込まれ、乾き出す。

「ゆっくち、ただいま・・・」

 小さな饅頭が1つ、顔を出した。

「ゆわーん! まりさ、よかったよー。ずっとゆっくりしちゃうかとおもったよ!」
「ありがとう、おねえしゃん」
「よかったね、おちびちゃん。
 おちびちゃんだけでもかえっててきて、おかあさんうれしいよ」
「まりさだけじゃないよ!」
「ゆ?」
「ゆっくりただいま!」

 まりしゃの横に、もう1つ。
 同じような顔がぴょこっと飛び出す。

「ゆっ、ゆっ、ゆわぁぁぁぁ!」
「おちびちゃん! れいむのかわいいかわいい、まりさとまりさ!
 ゆぇええええん! ゆぅぅぅぇええええん!」

 父だけは、口を大きく開けて呆然としていた。
 2つとも生きていたことに、ではない。
 でか帽子の下にある2つの顔が、まるっきり同じものに見えたからだ。

「れれれれいむ。つかぬことをきくよ」
「なに、まりさ?」
「どっちが、おねーちゃんで、どっちが、いもうとなの?」
「どーしちゃったの、おとーさん。こっちが、おねーちゃんよ」
「ゆっくりー!」
「でこっちが、いもうとまりさ」
「ゆっくちー!」
「そそそそそのとおりだね。ゆっくりりかいしたよ」

 父のつもりだったまりさには、全く見分けが付かなかった。
 結局は、子供のお飾りしか見ていなかったのだろう。

 これからこの成体まりさは、実の子さえ分からない惨めさに耐え続けることになる。





 あの豪雨により、群れは大きな犠牲を出した。
 それでも楽天的なゆっくりどもは、前向きに復興に取り組んでいた。

「くろっ! くろっ!」
「ごめんねー、こっちじゃないんだねー」
「しろっ!」

 長えーきは、張り切って群れを取り仕切っている。
 その近くにいつもいた、とかいはありすの姿は、ない。
 今は老ぱちぇが長の知恵袋として、側についている。

「むきゅげほげほ。また、いきのこってしまったわ」
「ぱんだー」
「わかってるわ。いきてるあいだは、ゆっくりして、ゆっくりさせなきゃね」
「しろっ!」
「あのおちびちゃんたちは、どうしてるかしら。げっほげっほ」

 老ぱちゅりーの視線の先には、まりさ一家の巣穴。
 その中には、まだ体力が回復しきっていない、まりしゃ姉妹が寝息を立てている。

「「ゆぴー、ゆぴー」」

 あの一件以来、姉まりしゃは妹のでか帽子の中で過ごすようになった。
 むーしゃむーしゃする時も、すーやすーやする時も。

 姉にしてみれば、お飾りをなくした引け目があって、他のゆっくりに顔を見せたくないのかもしれない。
 ただ、それだけではないようだ。
 寝息を立てているお帽子を、母れいむがそっとめくる。 
 そこにある2つの顔は、誰よりもゆっくりしていたものだった。





 時は流れる。
 子れいむは大人びてきて、あちこちから求婚を受けているようだ。 
 子まりさはというと、未だブカブカのでか帽子の中にいる。
 成長していないわけではない。
 2つのまりさが大きくなるにつれ、お帽子も同じくらいスケールアップしていた。

 まりさ姉妹は、今でも仲良く1つのでか帽子の下で暮らしている。
 たまにはその中に姉れいむも入って、小石など蹴って遊んでいるようだ。
 今日も、3姉妹仲良く室内お帽子内にいるようだ。

「ゆーん、おちびちゃん、なかよくゆっくりしてるよー」
「それはそうと、れいむ」
「なあに、まりさ」
「いえが、せまいんだけど・・・」

 今やまりさ姉妹のお帽子は、ドス級にまで成長していた。
 流石に小さな巣穴では、手狭感は否めない。
 床も壁もお飾りが侵食し、総カーペット張りのような状況である。

「でもふわふわして、ゆっくりしてるよ?」
「いや、まあ、そうなんだけど」

 長女れいむが、お帽子から這い出る。
 そして、まりさ姉妹もひょっこり顔を見せた。

「「おかあさん、おとうさん、おねえさん、はっぴょうっがあるよ!」」
「「ゆ?」」

 両親は顔を見合わせる。
 長女だけは既に知っているらしく、妹達に微笑みかけていた。

「「まりさたちは、ひとりだちするよ!」」
「「ゆゆゆ!」」





 大きな木の下に作られた、小さな巣。
 その中から、ずーりずーりと大きな帽子が這い出てきた。

 巣立ちせんげんっをした翌日。
 家族に見送られながら、まりさ姉妹は住み慣れた家を後にする。

「「おとうさん、おかあさん、おねえさん。いままで、ありがとう!」」
「ゆーん、さびしいよぉー」
「ゆっくりできなくなったら、またかえってきてね」

 2つのれいむが、ぐすぐすと泣いていた。
 その後ろには、まりさ親父。
 何となくバツの悪そうな顔で、我が子の旅立ちを見送っている。

「「それじゃみんな、ゆっくりしていってね!!!」」
「「ゆっくりしていってね!!!」」
「ゆっくり・・・」

 れいむ達はもみあげを激しくピコピコさせた。
 別れもまともに言えないダメ親父は、ただ立ち尽くしているだけだ。

 まりさ姉妹は、どうせなら群れを離れて旅をしてみよう、という気になっていた。
 その旨を長えーきに告げると、長は深く肯いて、ありがたい言葉を贈った。

「しろっ! しろっ! くろっ! しろっ! くろっ! くろっ! くろっ!
 しろっ! しろっ! しろっ! くろっ! しろっ! しろっ! ぱんだー!」
「「ゆっくりりかいしたよ!」」
「むきゅげほげほげほ。なら、このぱちぇからも、ゆっくりしょせーくんを」
「「ゆっくり、さよーならー!」」

 素早く立ち去るでか帽子。
 まりしゃひとつだった頃の鈍重さは、もう、ない。

「げほむきゅきゅ。あのこたちなら、だいじょうぶよね」
「まっしろっ!」





 群れを離れ、岩場を抜け、深い森で夜を明かす。
 でか帽子は月日を経るごとに頑丈になり、テントの役目を立派に果たした。

 暑い日も雨の日も嵐の日も、まりさ姉妹はいつも一緒だ。
 不安な時、寂しい時は、お互いにすーりすーりして慰めあう。
 もしかしたらこのまま、番になってしまうかもしれない。

 山を越えてしばらくすると、ゆっくりの群れに行き着いた。
 大きな帽子の側を、ゆっくりしたれいむが通り過ぎる。

「ゆ? なに、これ? おぼうし?」
「これは、まりさのおぼうしだよ!」

 姉まりさが、れいむに顔を見せる。

「ゆゆ?」
「まりさのおぼうしでもあるよ!」

 妹まりさも、続けて顔を出す。

「ゆゆゆ?」
「「まりさたちは、ふたつでひとつのゆっくりだよ。ゆっくりしていってね!!!」」





(終)



元ネタ絵 byM1

挿絵 by儚いあき

挿絵 byゆんあき


【過去作】





※ぬえ
 nue059 「スキャット・ゆん・ジョン」
 nue022 「ゆナッフTV」
 nue009 「ブラックペーパー・チャイルド」

 その他の作品に関しては、ふたばSS@WIKIの『二行の作品集』をご覧下さい。
 餡娘ちゃんとWIKIあき、そしてM1さんに、感謝。


トップページに戻る
このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
感想

すべてのコメントを見る
  • いい話だったんだよー。でもおやまりさがダメダメなんだよーわからないよー -- 2018-09-18 23:00:13
  • 素直に可愛い姉妹だった、たまにはこういうのも -- 2016-08-12 07:14:31
  • どうせなら二匹別々に独り立ちしてぼうしの取り合いとか希望 -- 2013-04-01 20:05:32
  • 何か、あれみたい。 -- 2013-02-28 01:08:00
  • このまりさ姉妹をゲスと感じる奴の気がしれない
    親父まりさは気持ちはわかるがゲスが少し入ってるな… -- 2012-09-22 02:28:36
  • 面白いww
    良い話だった。 -- 2011-07-19 12:22:34
  • なぜれいむはアクセルwww -- 2011-01-19 15:59:05
  • たまにはこういうのもええじゃないか -- 2011-01-08 11:12:19
  • 良い話だなー(ほっこり

    父まりさが駄目だなーw -- 2010-12-12 11:38:23
  • きめえまりさは死ねよ
    まりさを殺さないゆっくりもシネ -- 2010-11-29 02:57:43
  • これは酷い。全然可愛くない。潰す気にもならん。 -- 2010-11-28 23:37:36
  • だったら潰れてひとつになれよ
    嘘つき糞まりさ -- 2010-11-17 15:46:17
  • いいねぇ。たまには真正のハッピーエンドもゆっくりできるね!
    後まりしゃかわいい・・・ -- 2010-10-18 04:18:25
  • 所詮まりさ種にはゲスしかいないと言う訳だな
    さぁお前らの罪を数えろ。んで死ね -- 2010-09-22 21:06:26
  • 飾りが小さい、体が小さい(未熟ゆ)って事には優越感全開で制裁するけど、大きいと逆の効果でるんじゃね?
    異端でゆっくりできないと変わっててゆっくりできる(例:つむり)ってのが凄い曖昧な饅頭だけど
    作中じゃゲスが「おちびにはもったいないゆっくりしたおかざりをよこせ」って言ってるから
    大きなお飾り自体はゆっくりできる物、そして成体になった二人の大きな帽子はプラスに働いて幸せになると思う

    ただしドゲスに奪われて死ぬ -- 2010-09-16 16:49:26
  • 異端だから、この後、殺されるんだろうな -- 2010-08-20 01:29:53
  • ゆっくりできる絵本みたいな話だった -- 2010-04-19 18:27:13
  • ほんわかした話だのぅ -- 2010-04-03 13:30:46
最終更新:2010年03月27日 18:04
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。