ふたば系ゆっくりいじめ 1074 妖怪饅頭の話・裏 ―食べ物の怨み―

妖怪饅頭の話・裏 ―食べ物の怨み― 32KB


虐待-普通 自業自得 実験・改造 野良ゆ 赤子・子供 ゲス 現代 独自設定 呪い


ポールあきとのお約束条項

 ・前回に続いてオカルトな内容だけど、今回は虐待もあるよ!!!
 ・前作のあとがきで書くといってた二作品は、ちゃんと書く予定だけど、まだまだ練り込みが足りないから、ちょっと待ってね!!!
 ・前作と対になってるよ!!! 別に前作を読まなくても問題はないはずだけどね!!!
 ・呪とかに関する解釈は、間違ってる解釈を敢えて採用してたりするよ!!!


――――――――――――――――――――

兄――頭の大きなモノが
口――誰かの不幸を口にする

その様子を「呪」と表す

――――――――――――――――――――

人間は、科学によって急激な発展を遂げた。
ありとあらゆる不可思議は、あばき尽くされ、蹂躙され、日の元に晒された。

人間は、闇を拒絶するようになった。
街角には街頭が立ち並び、歓楽街はネオンにより昼と見紛うほどに華美に装飾された。

そして、闇は闇でなくなり、片隅へと追いやられていった。
それは心の闇も例外ではない……。

「僕のような人間にとっては、とても、とても辛い時代になりました。術の効きが悪くなった割には、お偉方の面々は、未だに呪(まじな)いの恐ろしさを十分に理解しておられる」

数少ない手札でもって要塞の如き結界に挑むという行為は、人間に喧嘩を売るゆっくりになったかのような錯覚を「彼」に興させる。

「まあ、その分『依代』の入手が容易になったので、割とイーブンなのかもしれませんね」

深夜の自室で、くくっと喉を鳴らして笑う彼は、別段、餡子脳なわけではない。
確かに、その部屋に、彼以外の人間は誰一人として存在しない。
しかし、交信可能な依代(よりしろ)ならば複数いる。

「くそにんげん!!! さっさとれいむとかわいいれいむのおちびちゃんをここからだしてね!!! それとあまあまちょうだいね!!! たくさんでいいよ!!!」

「れいみゅは、ちゅよいんだよ!!! ぷきゅーしゅるよ!!! ぷきゅー!!!」

会話が成立するかは、甚だ疑問であるが。


「妖怪饅頭の話・裏 ―食べ物の怨み―」


そこは、二階建ての一軒家。
ベッド、作業用のデスク、棚の上のインテリアなどといった極普通の家具が設置された北東の一室は、よく整理整頓の行き届いた極々普通の部屋だ。
本棚の中から辞書や教本の類に紛れて得体の知れない古書が顔を覗かせ、部屋の隅には、不気味に蠢く観葉植物が配置されているという点を除けばであるが。

「むじずるなぁぁぁ!!! くそにんげんーーー!!!」

白い蛍光灯の光で照らし出される部屋の中で、フローリングの床の上に直置きされているのは、例によって透明な箱である。
その中身は、もはや言うまでもないが、ゆっくりだ。
虐待用ゆっくりの代名詞。
その片割れ、れいむのみが大小二匹。
成体、幼体、共にでっぷりとした腹を携えた親子が、いかにも「私たちゲスです」とでも言わんばかりのふてぶてしい表情で鎮座していた。
虐待お兄さんならば、思わずビキィ and ヒャッハーしてしまう定番の品である。

だが、そんな二匹を目の前にしても、彼の心に何ら感慨など湧いてはこない。
その表情は、先程からずっと朗らかな笑みを湛えるのみであった。
彼にとってゆっくりは、目的達成のための単なる道具に過ぎない。

「強い……ですか。確かに貴女たちは、強いのかもしれませんね。単純な武力で言えば、時として虫にすら劣る虚弱な貴女たちであっても、種として見るとこれほど強かな存在もまた珍しい。他の妖怪たちが時代の変遷の中で、人々の記憶から姿を消し、減退の一途を辿る中、貴女たちは人間の記憶の中にしっかりと残って、終には生物として生態系の中に組み込まれてしまいました。しぶとさという点においては、確かに強いと言えるのでしょうね」

ゆ虐とは、単なる手段の一つである。
彼は思う。
呪術の媒体、依代として、ゆっくり以上に適切な存在はない。
負に傾倒させやすい豊かな感情と方向性を操作しやすい単純な思考能力。
質の面でいえば、当然ながら人間に軍配が上がるのだが、手軽に入手できるという点では、遥かにゆっくりは優れた道具といえる。
人間を拉致してポリスメンに目をつけられるのは、非常に厄介だが、彼らはゆっくりを捕縛した程度で動いてくれるほどには暇でない。
仮に暇でも、小汚い野良ゆっくりのために動くほど勤勉ではないだろう。

「にんげんにしては、ものわかりがいいね!!! れいむさまのどれいになるけんりをあげるよ!!! こうえいにおもってね!!!」

「ひざまじゅいて、れいみゅしゃまのかもしかしゃんのようなおみあしをなめてもいいよ!!!」

語られた内容の半分も理解できずに、都合のいい部分だけを切り出して暴言を吐く饅頭に一々目くじらを立てることもないし、囀りに反応するのも馬鹿げている。
今から消えてなくなる存在に心乱されるなど、無駄以外の何物でもない。

「まあ、とは言っても……」

「ゆゆ!!? きたないてでれいみゅにしゃわ……おしょりゃをとんでりゅみちゃい~!!!」

「なにじでるくそどれいぃぃぃぃぃ!!! さっさと、おちびちゃんからてをはなせぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

それでも彼は、ゆっくり相手に語り続ける。
無駄なエネルギー消費であり、会話の成立しない存在との無意味な交信であるが、それでも口を動かし続ける理由がたった一つだけ存在する。
左手を透明な箱に突っ込んで、小汚いれいむの幼体を取り出し、先を続ける。

「ふぁあ~、しぶとしゃの面でも、人間には遠くおよばにゃいんですけどね。勿論、他の面では尚のこと」

普段、早くに就寝する習慣を持つ者にとって、深夜に起きて作業するというのは、思いの外苦行である。
頭に浮かんだ言葉をすぐさま口に出してでもいないと、精神が心地よい暗闇の中に落っこちそうで怖ろしいのだ。

草木も眠る丑三つ時は、まだ少し先である。
その時まで一定のテンションを保ち、思考をクリアにしておかなければ、仕上げでどんなミスを犯してしまうか分かったものではない。

「ああ、不細工さという点では、貴女たちの独壇場でしたね。醜さならば、人間も負けてはいませんが」

彼に悪意などない。
思ったことを口にしているだけだ。

しかし、ゆっくりに対して思うところがないわけではない。
歳の離れた彼の友人は、ゆっくりが人間の街に湧いてくる理由を人間と友達になりたいからだと語った。
正気を疑う内容であり、彼女は、かなりの高齢で呆けの進行も疑われるのだが、実際、耄碌しているわけではない。
時折、彼を孫と勘違いしたりもするが、パートに出ている親御さんたちの代わりに近所の子供たちの面倒を見てやれる程度には、しっかりとしている。

ゆっくりは、天敵とすらいえる人間に対して、あまりにも無防備だ。
その無防備さも、同じ言語を用いる存在として、隣人のように思われているからだと考えれば、確かに納得も出来る。
人間がどう思っているかは、別として。

それでもだ。
今、目の前にある存在を目の当たりにすると、その考えも霧のかなたに霞んで見える。
全体の中の一部を見て、全体がそうであると論ずる愚を彼も理解している。
しかし、一つの命題を覆すのに必要な反例は、一つだけあればいいことも、また理解している。

「ゆぎぃぃぃぃぃ!!! ふざげるな、ぐぞどれいぃぃぃぃぃぃ!!! せいっさいっしてやるから、ぞごをうごぐなぁぁぁぁぁ!!!」

「れいみゅは、きゃわいいにきまってりゅでしょぉぉぉぉぉ!!! しゃっしゃと、ていしぇいしてにぇ!!! ぷきゅーーーー!!! ぷ」

ふしゅるるる

彼の放った一言で忽ち激昂する二匹。
悪意が篭っていないだけに、その言葉が本心であることを本能的に理解出来たのだろう。
成体は、透明な箱の中で暴れ、幼体も頬を膨らませて抗議する。

だが、それも束の間。
子れいむの癇癪は、彼が右手に持った物によって中断させられた。
何の変哲もないHBの黒鉛筆だ。
黒鉛と粘土を混ぜて焼いた芯を木製の軸で覆い、緑色の塗料で仕上げたセンター試験の必需品だ。
力を入れれば、ベキッと圧し折れてしまうだろう。
削ったばかりで先端の尖ったそれは、円錐状に削られ木目を晒している部分の半分ほどまでが、子れいむの柔らかな頬に突き刺さっていた。

「ゆぴぃぃぃぃぃぃぃ!!! いだいーーーーーーーーー!!!」

「おぢびちゃぁぁぁぁぁぁん!!?」

貫通したわけでもないのに何を大袈裟なと、今度は心中で呟き、彼は鉛筆を抜き取る。

「ゆわーん!!! れいみゅのみずみずしく、しゅべしゅべとした、くれおぱとらもびっくりなびはだがぁぁぁぁぁぁ!!!」

「おちびちゃん、しっかりしてね!!! きずは、あさいよ!!!」

突如として降って湧いた不幸に、二匹は騒ぎ出した。
れいむは、目の前に壁があることも忘れて、幼体に擦り寄ろうと動き回り、子れいむは、ゆんゆんと泣き声を上げる。

危機が去ったわけでもないのに悠長なことだ。
呆れながら、再び突き刺す。

「ゆびぃぃぃぃぃぃぃ!!! いだいーーーーーーーーー!!!」

「なにをするだぁぁぁぁぁぁ!!! くそどれいぃぃぃぃぃぃぃ!!! やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

一般的に、止めろと言われて止めるならば、誰も最初からやらないというのが通説だ。
そもそも彼は、ゆっくりの言葉に耳を傾けるつもりなど毛頭ない。
交信とは、言葉という信号を取り交わすことであり、会話と異なり意思の疎通など二の次、三の次。
ゆっくりとのやり取りなど、正に交信なのだ。

抜き、刺し、抜き、刺し、時折抉る。抜き、刺し、抜き、刺し、時折切り裂く。

「ゆわぁぁぁん!!! れいみゅのたいようのひかりをうけてきりゃきりゃとかがやくだいやもんどのようなおめめぎゃぁぁぁぁぁ!!! ばらのあかよりもあかくけだかいおりぼんしゃんがぁぁぁぁぁ!!! おののこまちのくろかみのようなしゃらしゃらきゅーてぃくるへあーしゃんがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「れいむとまりさのあいだにうまれたざいじょのおちびちゃんがぁぁぁぁぁぁ!!!」

「意外と博識なのですね。髪の毛に関しては半ば同意してさしあげましょう。あの時代の女性は、年に一度しか髪を洗わないそうですし。長すぎる髪というのも考え物ですね。しかし、被害報告とは、随分と余裕がお有りのようで……。時間も推しておりますので、少々激しく逝きましょうか」

相変わらずの笑顔で告げた彼は、順手に握った鉛筆を逆手に握り直すと、先程の倍の速度で手を動かし始めた。

刺す、刺す、刺す、刺す、刺す、刺す、刺す、刺す。

「ゆんやぁぁぁぁぁぁ!!! もう、やめでぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「おぢびぢゃん!!! ゆっぐり!!! ゆっぐりだよ!!!」

子れいむは、彼の手から逃れようと、たゆんたゆんとした下半身をぶりんぶりんと振り、必死になって暴れるが、拘束が緩む気配など微塵もない。
同世代の男性と比べても少し小さな彼の手ではあるが、それでも人間の握力を普通の子ゆっくり如きが、どうこう出来るものではない。

刺す、刺す、刺す、刺す、刺す、刺す、刺す、刺す。

「ご、ごめんなしゃいぃぃぃぃ!!! あやまりゅ!!! あやまりまじゅが、りゅが!!? ぎ、ぎ、ゆ、ゆぶっ、び!!! び、ゆっ、びゅびゅっ、び、ゆっ、ゆぎゅ!!!」

「おねがいじまずぅぅぅぅぅ!!! だずげでぐだざいぃぃぃぃぃ!!! おぢびぢゃんば、まじざどのあいだにやっどでぎだ、だいぜずなだからものなんでずぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

終に痛みに耐えかねた子ゆっくりは「とりあえず謝っておけば、その場は助かる」というゆっくりの常識に従って彼に謝罪を試みるが、それは、口内に突き刺さった鉛筆により阻止された。
鉛筆は、歯石のように砂糖がこびり付いた歯を圧し折っても止まらない。
喉に、舌に突き刺さるが、彼は運動を止めようとはしない。
仮に謝罪を行っても、結果は変わらなかったのだろう。

刺す、刺す、刺す、刺す、刺す、刺す、刺す、刺す。

「ゆび、ゆぶ、ゆるぶっ、びひっ、ぶぼっ、びゅべっ……」

刺す、刺す、刺す、ベキッ!!

「ぴぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」

弱々しい泣き声しか出せなくなっていた子れいむが、一際大きな泣き声を上げた。
体内で鉛筆の芯が折れたのだ。
それと同時に鉛筆も止まる。

「おぢびぢゃん!!! じっがり!!! じっがりじでね!!!」

最早、声を出すのも辛いのか、ヒューヒューと苦しそうに息を吐く子れいむに、母れいむが必死になって呼びかける。
それに元気付けられたのか、子れいむも体中の痛みに耐え、歪な笑みを返そうとしたところで、その顔は恐怖に歪んだ。
見てしまったのだ。
彼の右手を。
何時の間に取り出したのか、彼の右手には、再び先の尖った鉛筆が握られていた。

それから十分程、上下前後左右、満遍なく鉛筆の刺突を続けても、子ゆっくりが死ぬことはなかった。
鉛筆の芯が六回折れた。
内四本の鉛筆は新しい物に交換し、二本は折れたものを削って使用した。

「ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆ……」

ゆっくりが「ゆ」としか鳴かなくなったら、死ぬ間際だ。
それが一般常識であるが、この子れいむは、死なない。
いや、死ねない。

次第に「ゆ」とすら言えなくなり、口だった場所から、ぶくぶくと黒い泡を吹くだけになった。
その段階になって漸く、彼は鉛筆による刺突を止めた。

「おぢびぢゃんっ? おぢびぢゃんっ!!? おぢびぢゃんっ!!!」

愛しい我が子に、何度も何度も呼びかける母れいむ。
穴だらけの子れいむは、ぴくりとも動かない。

既にゆっくりと呼べる状態ではなかった。
大きな穴から餡子色の泡が出ていなければ、潰された白玉の目玉が眼孔に収まっていなければ、それが前なのか後ろなのかも、何処が頭で、何処がお尻なのかも判別できなかっただろう。
穴だらけにされたおりぼんは、疾うの昔にはらりと舞い落ち、髪の毛は、執拗な刺突によって全て抜け落ちてしまった。
下半身も例外なく攻撃対象にされたために、既にどの穴がまむまむで、どの穴があにゃるなのかも分からない。

最早生きてはいないことなど、一目瞭然であった。

「おぢびぢゃん!!! じっがりじで!!! おがあざんだよ!!! おべんじじでよ!!! ゆっぐり!!! ゆっぐり!!!」

それでも母は、呼びかけることを止めない。
どんな姿でもいい。
ただ生きていて欲しい。
その一念が母を動かしていた。

「ハハハ、そんなに御息女のことがお大事なら、ぺーろぺーろ(笑)でもして差し上あげたらどうですか?」

「ゆ……」

時が止まった。
そう錯覚するほどに、空気が張り詰めていた。
あれ程騒がしかった母れいむは、ぎりぎりと歯を食いしばって一言も言葉を発しない。
それは、今将に噴火せんとする火山であった。

母れいむは、子れいむから視線を外して見上げる。
そこにある、憎い憎い我が子の敵を。
足、胴、胸、そして、終に顔へと、その視線が注がれたとき、母れいむの中で張り詰めていた物が決壊した。
そこにあったのは、初めと変わらない朗らかな笑顔であった。

「じねぇぇぇぇぇぇぇ!!! じね、じね、じね、じね、じねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

彼が初めて放った「心にもない一言」は、崩れ落ちそうだった母れいむの心を支えるのに十分な威力を発揮した。
だが、あと一押し足りないようだ。
悲しみは、怒りに変わったが、相手の自然死を願う程度では、まだまだ足りない。

「ふふふっ、汚い面ですね。それにしても、御自分の御息女に死ねとは、随分と酷い御方だ」

「おまえがごろじだんだろうがぁぁぁぁぁ!!! じねぇぇぇぇ!!! じねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

おお、怖い怖い。
そう言ってれいむをあしらうと、彼は、机の上に置いてあったビニール製の袋を持ち出した。
密閉された透明な袋の中には、白い粉がぎゅうぎゅうに押し詰められている。
当然だが、ゾンビパウダーのような大層なものではない。
彼は、子れいむの口をガムテープで塞ぎ、床の一部に敷かれたブルーシートに置くと、鋏を使って袋を開封し、中身をドサッと被せた。
すると、どうだろうか。
死んだと思われていた子れいむが、忽ち動き出したではないか。
それも、今にも死にそうな弱々しい動きなどではない。

「お、おぢびぢゃん!!? よがっだぁぁぁぁぁ!!! いぎで……、おぢびぢゃん?」

「ぎぃぃぃぃぃぃ!!! ぎ、ぎっ、ぎぎぎぎぎぎぎ!!! ばあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」

テープの隙間から絶叫を上げ、ブルーシートの上で踊り狂うそれは、死に臨んで必死に生きようとする最後の足掻きであった。

そんな二匹のやり取りを眺めながら、男は至極自然な笑顔で告げる。

「何を驚いた顔をしているのですか? 貴女が死ねと言ったから、まだ息のあった御息女に御望みどおり止めを刺して差し上げたのではないですか」

「ぢがうぅぅぅぅぅ!!! じねっていうのは、おまえにいっだんだぁぁぁぁぁ!!! だずげろぉぉぉぉ!!! ぐずぐずじでないで、おぢびぢゃんをだずげろぉぉぉぉぉぉ!!! だずげだら、じねぇぇぇぇぇぇ!!!」

「ふふふ、解ってます。冗談ですよ? でも、無理ですね。そもそも助ける気がありません。それに、今御息女に振り掛けたのは塩です。饅頭のようであり、人間のようでもある。女のようであり、男のようでもある。そして、妖怪のようであり、生物のようでもある。そんな『曖昧』な存在である貴女たちにとって『不変』を意味する塩の結晶は、さぞかし怖ろしい毒なのでしょうね。まず、助かりません」

彼は、ニッコリと微笑みながら、暴れる死に損ないを引っ掴むと、体中に追加された穴という穴に塩を摺り込み始めた。
途端に、子れいむの動きが激しくなる。
その全身に走る痛みは、ショックによって即死するレベルのものだ。

だが、彼女は死ねない。

ところで、死には、様々な種類があるのをご存知だろうか。
ここで、この子れいむを使って肉体の死と精神の死について、手短に説明させていただきたい。
今の彼女にとって肉体の死とは、毒が全身に回り、最終的に中枢餡にまで達した毒によって体の形を維持できなくなることを意味する。

普通ならば、有り得ないことだ。
口が塞がれているために、口から餡子と毒を排出することは出来ないが、そもそも、精神が先に逝くはずなのだ。

精神の死とは、塩による痛みで、耐えかねた意思が命を放棄することであり、それは「名」を放棄することでもある。

ここでいう名とは、この世で最も短い「呪(しゅ)」であり、呪とは、縛るものだ。
名前によって物体は、根源的な性質を与えられ、この世に縛り付けられる。

従って、呪いの類を生業とする者に己の名前を知られるということは、場合によっては、それだけで命の危機となる。

だというのに、とある家族は、取り返しの付かない事をしでかしてしまった。
自分たちの名を売ったのだ。

代償は、饅頭を六個。
彼女らからすると、形のないものを使って、相当な糧を吹っ掛けてやったつもりなのだろう。
小さな、喋る饅頭が六個。
二つの白玉に、コリコリとした飴が沢山ついた甘い、甘い饅頭が六個。

果たして、それは命の代価として十分だったのだろうか。

それを推し量ることは不可能だが、その結果を察することは容易だ。

子れいむは、死ねない。

名前を放棄する権利を有していないからだ。
そして、その権利は、子れいむに至上の苦しみを与えている人間が有している。
子れいむが、楽になりたいと思っても、死にたいと願っても、それが天にも地にも通じることなどない。

毒が全身に回った時、つまりは痛みが最高潮に達する時に初めて、子れいむの渇望する死が訪れる。

結論から言うと、子れいむが死ねたのは、それから三十分もの時が経過した後であった。

体の至るところから齎される痛みにもがき苦しみ、元から体にあった穴から、涙としーしーを垂れ流して死を待った。
痛みに耐えること、ましてや逃れることなど許されない。
必死に呼びかける母の声など聞こえない。
楽しかった頃の思い出に浸ることも許されない。
どうして、こんなことになったのかと後悔することも、素晴らしい物になるはずだった未来を夢想することも許されない。
只只、与えられる痛みを享受するのみだ。

痛い、死にたい、痛い、死にたい……。

ただ、それだけが、彼女の思考を占めていた。

しかし、それにも、終わりが訪れる。
体は、まもなく死が訪れることを敏感に察して、彼女に語りかけた。

もうすぐ楽になれると。

それは、子れいむのゆん生の中で最も心震え、歓喜した瞬間であった。
美味しい物をむーしゃ、むーしゃした時よりも、きらきらと光る綺麗なビー玉さんを見つけたときよりも、そして、この世に生まれ落ちた時よりも。

だが、その歓喜は、一瞬だけ彼女の痛みを打ち消し、抑圧されていた恐怖を呼び起こしてしまった。

死にたくない。

いやだ。
まだ、しにたくない。
いたい。
もっと、もっと、おいしいものをいっぱいむーしゃ、むーしゃするんだ。
いたい。
いたい。
しにたくない。
びまりさとむすばれて、すっきりーをして、いっぱいあかちゃんをうむんだ。
いたい。
いたい。
いたい。
もっと、ゆっくりしたい。いたい。
そうだ、どれい、いたい。いたい。ほしい。いたい。
あのくそにんげんを、いたい。いたい。いたい。いたい。
いたい。
いたい。
いたい。
いたい。

しにたくない。

それが三十分間、死を待ち望んだ子れいむの矛盾した最後の願いであった。


「ごろじでやるーーーーーー!!! だぜーーーー!!! ごごがら、だぜーーーーー!!!」

「何をだぜ、だぜ言っているのですか。貴女はまりさではないでしょうに」

そして、その三十分間は、母れいむにとっての地獄でもあった。
目の前で苦しむ我が子を救ってやることも、目の前の憎い怨敵に復讐することも出来ない。
葛藤の末に、憎い人間に頭を下げても、気持ちの良い笑顔と共に門前払いを食らうのみだ。
時間だけが、無常に過ぎ去っていき……結末は、ご存知の通り。

「随分と面白い顔になってきましたね。先程までの不細工な笑みよりも、此方の方が御似合いですよ。僕は、どちらも嫌いですが」

「ぶざげるなぁぁぁぁぁぁ!!! ぐぞじじいぃぃぃぃぃ!!! ごろじでやるぅぅぅぅぅぅ!!!」

母れいむの容貌は、最早原型を留めていなかった。
それは、決して比喩などではない。
目の中でぎらぎらとしたものが渦を巻き、目尻は般若の如く吊り上がっている。
元々、手入れの行き届いていなかった髪は、よりぼさぼさに乱れ、頭には二本の角、口元には、捕食種の様な牙すら生えていた。

感情一つで、これほどまでの変化が起こり得るのであろうか。

断腸という故事成語がある。
渓流を行く心ない船頭が、ちょっとした余興にと、道程で見つけた猿の母子から子猿を取り上げてしまった悪戯に由来する言葉だ。
人間にとっては、遊びのつもりでも、母猿にとっては、冗談ではない。
必死になって、子猿を追いかける。
最初は、笑って見ていた船頭だが、段々哀れに思えてきて、船を止めたのだが、様子がおかしい。
船へと辿り着いた母猿は、ぴくりとも動かないのだ。
奇妙に思って調べてみると母猿は、既に事切れていた。
腸がずたずたに断ち切れていたのだ。

子を攫われたことによる激情は、母の腸を裂いてみせた。
目の前で子を殺された母の激情に、体を作り変えてしまうほどの力が宿っていても何ら不思議ではない。

ここまで負の感情が満ちれば、十分だろう。
怒りは、既に憎悪に変わっている。
ふと、彼は時計を見やる。

二時三十二分

昨日の日照時間から算出した今日の丑三つ時は、二時三十六分からの数十分。

微妙な間だ。
ならば、最後に少しだけ追い込んでやろう。
そう決めたなら、行動は早い。
今日の自分は、断腸の話に出てくる心ない船頭なのだ。
その場のノリで動くことも悪くないだろう。

「爺とは、失礼ですね。僕は、まだ、若くて、ピチピチなのに……。肌だって、こんなに瑞々しくて、すべすべしてる」

そう言って彼は、自分の腕を、つっと指でなぞった。
確かに、本人が言う通りの若々しく瑞々しい肌である。
体を動かすことは嫌いでなく、定期的に運動は行うものの、基本的にインドア派な彼の肌は、驚くほど白く、傷みがない。
「穢れ」の恐ろしさを理解しており、風呂では入念に体を洗うためか、そこいらの女よりも肌の手入れが行き届いている。

当然ながら、掃いて捨てるほどいる野良ゆっくりなど問題にすらならないだろう。

「あそこに転がっている、貴女の御息女だったゴミの方がよっぽど皺皺じゃあないですか。僕が爺なら、差し詰め、あれは、婆といったところでしょうか? いえ、死んでいるので、婆だったゴミですね」

カラカラと笑いながら彼が指差した先には、子れいむの亡骸。
穴だらけの骸では判り辛いが、水分を出し切った塩塗れの体は、萎んで皺くちゃになっていた。
どうでもいいが、非常に不味そうだ。
生物としても、饅頭としても終わっている。

「ゆっがぁぁぁぁぁぁ!!! おばえが、ごろじだがらだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ごろじでやる!!! ぜっだいにごろじでやる!!! じねじねじねじねじねじねじねじねじねぇ!!!」

挑発は、上手くいった。
死者を冒涜し、その存在を辱めてやることで、母れいむの憎悪は、最高潮に達した。
時間も丁度、丑三つ時に入ったところだ。
下拵えは、万全。

だが、最後に一言。
別段、必要でもないのだが、その一言を彼は欲した。
ポリシーという奴であろうか。
否、そんな崇高な物ではないのだろう。

「どうやってです? そこから出ることすら適わない貴女が。馬鹿で、非力で、愚かな貴女が如何様にして? 試しに呪ってみますか? その箱の中から」

「うるざいぃぃぃぃ!!! だまれぇぇぇぇぇ!!! じねぇぇぇぇぇ!!! のろっでやる!!! のろっでやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

思考誘導等という上等な物は、必要なかった。
準備していた包丁を手にする傍らに、彼が放った言葉。
その中の一つを彼女は、鸚鵡返しに答えてしまった。

その時初めて、彼は心からの笑みを浮かべた。

「では、その『入れ物』は、不要ですね」

「のろっ……」

ストン

告げると同時に、彼は、異形の母れいむを真二つに割り裂く。
痛みを感じる暇すら与えられず、両の眼はグルンと白目を向き、顔の中心を通るようにして切り裂かれた断面から、綺麗に等分された小さな中枢餡がポロンと零れ落ちた。
子れいむの死と比べると、あまりにもあっけない幕切れであった。
もう、その空間に言葉を話す存在は、彼を残すのみ。

「どうしたのです? 憎いのでしょう? なら、早く出てきては如何ですか?」

だというのに彼は、何もいない筈の空間に向かって語り続ける。
先程までのように、嘲るでもなく、小馬鹿にするでもなく、心底嬉しそうな様子で一言、二言の言葉をナニカと交わすと、懐から一本の毛髪を取り出した。
少々くすんではいるが、美しいブロンドの長髪だ。

「ほうら、貴女の憎い憎い敵ですよ。匂いは、覚えましたか? では、お行きなさい」

次の瞬間、彼が指で摘んで弄んでいた髪がスッと掻き消え、部屋の中を彷徨っていた気配だけを持つナニカが、事前に開け放たれていた窓から飛び出していった。
部屋を明るく照らし出す蛍光灯がジッジジッと数度明滅し、再び落ち着きを取り戻すまでに十数秒の時間を要した。

「どうやら、今回は、上手くいったようですね」

ゆっくりとは、呪術に最適な道具だ。
しかし、長い歴史の変遷にあって、その活用法は殆どが失われてしまっている。
その効用を推し量るには、手探り作業しかない。

そうしていくつかの実験を経て彼が見出した方法というのが、ゆっくりに痛みや苦しみを与えることなく、純粋な憎しみを抱かせるというものであった。

ゆっくりが化けて出た。

その手の話は、宴席での笑い話として枚挙に遑がない。
世間では、それこそ星の数程のゆっくりが無惨に嬲られ、辱められ、殺されている。
実際に、ゆっくりが人間を祟ることが可能ならば、恐らく現在の人口は半分程にまで縮小するのではないだろうか。
だが、素晴らしきかな餡子脳。
死に瀕して彼女たちが最も強く感じる思い、願いとは、死への恐怖か、あるいは齎される苦痛からの開放かのみ。
自分の全存在を擲ってでも、人間に一子報いようと考える剛の者など、そうそういないのが現状なのだ。

ならば如何したものか。
無いなら作ればいい。

母子を選んだのは、偶然だ。
調べ物をするために偶々、図書館を訪れており、探していた資料の中に偶々、断腸の逸話があった。
天啓の様に思えてしかたなかった。

ゲスを選んだのは、必然だ。
善良な親子を甚振ることが心苦しい等とは、微塵も思ってはいない。
悪人の魂に強い力が宿るというのは、古今東西の逸話では定番である。
悪事を為してでも目的を達成せんとする覚悟の差か、あるいは、悪行の対価として被った他者からの怨念によるものなのか。

こうして手順を整え、素材を念入りに吟味した上で、あの親子を依代として選んだ。
その結果は、御覧の通りだ。
彼の予想した通り、母れいむは負の感情に飲まれ、陰気を集める依代と化した。

「それにしても、子れいむの霊魂すらも取り込んでしまったというのは、嬉しい誤算でしたね」

負の感情に傾倒することで、陰気の渦と化した存在は、同質の存在を招き寄せる。
苦痛により陰気で満ち満ちていた子れいむの魂は、最も近くにあった母れいむという陰気の渦に飲み込まれてしまった。
母の元に返れるというのは、幸運なことなどではない。

本来ならば、子れいむは、親よりも先に死んだ罪により、賽の河原へと落ちるはずであった。
賽の河原とは、無駄な努力を強いられる一種の地獄である。
しかし、母の魂と結びついた今、そこへ赴くことは適わない。
名を奪われた母れいむは、憎悪の矛先を逸らされ、彼の「式」として放たれた。
式が目的を達するまで、子れいむは、生前の苦しみを母の腹の中で味わい続けなくてはならない。
そして、式が目的を達した後は、母と同じ所へと落ちるのだ。

人を呪わば穴二つ

憎い相手を呪い殺し、地獄に落とすためには、相手の魂を決して放すことなく自分の魂ごと地獄へと導いてやらなくてはならない。

母れいむの魂は、敵と思い込まされた相手の魂と共に地獄の深いところまで落ちていくだろう。
子れいむは、それに引き摺られることになる。
本来ならば「地蔵虐」と云う名の鬼と戯れる程度の罪は、更なる業を背負いこむことになったのだ。

「しかし、効果が大きいということは、返されたときの反動も大きいということ。嗚呼、それを思うと夜も眠れません!」

今度こそ部屋には、彼一人。
式を送り出した彼は、深夜の一人部屋で突如一人ごちると、その場で両肩を抱き、科を作って崩れ落ちた。
男がやっても気持ち悪いだけの仕草だが、白くて線の細い男がやると中々様になっている。

「でも、僕には、貴女がついているので。安心して眠れますよ。まりさ」

気を取り直して、スッと立ち上がった彼の視線は、棚の上のインテリアに向いていた。
しかし、果たして、それは「まりさ」なのだろうか。

饅頭六つで名前を売った家族。
まりさ、母れいむ、子れいむの三匹。
その大黒柱の姿は、もうそこにはない。
お帽子は当然のように廃棄され、ブロンドの髪の毛は全て根元から引き抜かれている。
頭頂部から見苦しく伸びた、三本だけの黒髪が笑いを誘うチャームポイントだ。
両の眼球は抉り取られ、瞼は赤い糸で縫いとめられており開かない。
その隙間からは、諾々と砂糖水が流れるだけだ。
口も同様に糸で縫いとめられているが、中は両目以上に悲惨である。
舌は根元から切り取られ、歯は全て歯茎ごとペンチで潰されている。
意外なことに一度洗浄してあるようで、肌は比較的綺麗なものだが、下半身は念入りに焙られており、あんよ、まむまむ、しーしー穴、あにゃる共々真っ黒に焦げ付いている。
体に巻きつけてある白い布は、服のようだ。
彼の名前が刺繍されている。
誰かに教えてもらわないかぎり、これがまりさだと判るはずがない。

「おっと、失礼。貴女は既にまりさでは、ありませんでした。名を奪われ、お帽子を奪われ、髪を、眼球を、光を、声を、歯を、舌を、体臭を、足を、性器を、排泄器官を奪われた貴女は、既にまりさでは、有り得ませんね。でも、心配いりませんよ。貴女には、僕の髪と臭いと名前と気配を貸して差し上げました。いえ、礼には及びません。貴女は、万が一、呪が帰ってきたときに、それを引き受けていただくだけでけっこうですので」

呪詛返しとは、その名の通り、送った呪を返却されることである。
呪詛とは、往々にして意思を持ったものを使役する術だ。
精霊然り、動物霊然り。
意思の無いモノに、殺害対象を選ばせることは不可能。

では、任務の遂行が妨げられ、折角掛けた呪が解けてしまった式はどうなるのか。
大人しく成仏する。
そんなはずない。

術の解けた式は、術者の元へと帰ってくる。
自分を束縛した存在、憎い憎い敵の元へ。

ただ、それが解っていながら、何の対策も立てない者というのは、まずいない。
多くの術師は、己の性質を持った身代わり「形代(かたしろ)」を作る。

最も簡単な物では、人の形に切り縫いた紙に自分の名前を書くといった程度のものだ。
これだけでも、そこそこの効果がある。
更に、自分という属性、命というオプションを付加してやれば効果は大きくなる。
西洋では、スケープ・ゴートなどとも呼ばれ、こちらは、生きた羊に自分の血を塗すことで自分を付加する。

まりさであった、禿饅頭は、まさに彼の形代であった。
禿げ上がった頭には、彼の黒髪が三本移植された。
失った体臭と名前は、昨日運動する際に来ていた服で補った。
おまけに、この服は、去年から手入れしながら大事に使い込まれているために、彼の気配も十分に残っている。

これだけのお膳立てをしたのだ。
帰ってきた呪詛は、寸分の狂いも無く、元まりさに激突して、その魂を奈落へと導くのだろう。

「まあ、しかし、安心してください。今回は、実験ですからね。呪殺対象は、呪の存在など、これっぽっちも知らない相手です。呪詛が帰ってくることなど、恐らくありません。それに帰ってきたら、帰ってきたで、貴女は愛しの奥方、御息女と同じ場所に行けるのですから、随分と幸せなことですよ」

彼は、形代に顔を近づけると、また朗らかな笑みを浮かべて言い放った。
それがどれだけ残酷な一言なのかを彼は、当然理解している。
成功すれば、生き地獄。
失敗すれば、地獄行き。
何とも、救いの無い話である。

命を己の意思で進んで弄ぶ者は、総じてサディスティックかマゾヒスティックかのどちらかに分かれる。
彼に、ゆっくり虐待という趣味はない。
単に、前者であるだけだ。

形代の前で笑っていた彼だが、ふとあることに気が付いた。
諾々と涙を流す彼女がガクガクと震えている。
妙だ。
ゆっくりが、これ程もでに、見て判るほど震えるときと云えば、死が迫っているときぐらいだ。
死ぬ要因は尽く奪いつくし、涙を流して干乾びるにしては早過ぎる。

「だとすると、本能? 本能が自身に迫る危機を察知……!!?」

そこに思考が及ぶと同時に、彼は形代から離れようとする。
だが、一手遅かった。

「じねぇぇぇぇぇぇ!!! じぃぃぃぃぃねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

窓から飛び込んできた不可視の気配は、吸い込まれるようにして形代に激突し、餡子の花を咲かせた。

「うわっぷっ」

結果、近くにいた彼は、甚大な被害を被ることになった。


「ど、どうして、こんなことに……?」

彼には、理解できなかった。
今回、式を送った相手は、呪詛の概念など知りようもない相手だったはずだ。
それに、呪詛を返されたにしても、この被害はおかしい。
彼が、今日送った式の力は、精々魂を抜き出して地獄へと心中する程度のものだ。
間違っても、対象を物理的に破壊するほど強力なものではない。

そもそも術が失敗だったのか、第三者による妨害か、途中で妙な低級霊と融合したのか……。
いずれにしても、怨霊と化したれいむは、過剰な力で以って追い返され、その分の力が加算されたと考えるのが妥当だろう。

形代となったまりさの死骸へと歩み寄る。
ぶくぶくと肥えた下半身を残して、口から上は見事に抉り飛ばされていた。
ボーリングの玉を正面から物凄い勢いでぶつけられたような死に方だ。
傷口は、既に乾き始めており、餡子がカピカピに乾いていた。

「霊傷から、怨念に混じって微かに感じるのは、闘気ですね。だとすると、純粋な気を纏った体術で撃退されたということでしょうか?」

それだと、この傷跡は妙だ。
まりさといい、れいむといい、怠惰を貪ったゲスが成りやすいLサイズゲスゆっくりだった。
拳や蹴りでは、虚ろな体に穴は穿てはしても、こんな広範囲に渡ったダメージを与えることなど出来ない。

だとすると、これは、彼が今回のターゲットにしたゆっくり「KING・まりさ」がやったと考えるのが妥当かもしれない。

「所詮ゆっくりと侮っていました、か……。流石は、王の名を冠するだけのことは、ありますね。良い教訓になりました」

ハァッと、ため息と共に呟き、彼は部屋を見渡した。

失敗など有り得ないと高を括っていたために、部屋の保護など行っていない。
まりさに巻きつけていた服も、ベッドも、机も、床も餡子塗れだ。
本棚に被害が及ばなかったことと、カーペットを敷いていなかったことが、唯一の幸運だろうか。

何にしても、まずは、この部屋の片付けなくてはならない。
いや、その前に風呂か。
ついでに、形代作成に使った服も洗濯しようと、彼は、床に落ちた白い服――大きく刺繍された彼の名前の横に、小さく4年2組と刺繍された体操着を拾い上げようと屈む。
餡子が付着して重くなったボブカットの髪が鬱陶しく垂れ下がり、掻き揚げると手には、ベットリト餡子の塊。
不意に少年は、舌を出すと、ペロッとそれを舐めとった。

「甘い……。一応、これも『食べ物の怨み』なのでしょうね……。おお、怖い、怖い」

クスクスと笑いながら、餡子を舐めとる少年の舌は、血の色よりも赤かった。


あとがき

ショタを出したのに、他意はないよ。
前作が婆ちゃんだったから、その対極は、少年だと思ったわけじゃないよ。
餡子には、熟女、ロリ、男の娘はいるけど、ショタが足りないと思ったわけじゃないよ。
単に、筆者がショタ好きなだけだよ。
か、勘違いすんじゃねーよ!!!

あ、それと、作中に出てきた「KING・まりさ」は、ポールあきの過去作に一回(二回?)だけ出てきた、よく自殺するまりさのことです。

最後に、前作の感想で拝見した「京極堂」
実は、読んだことないっす。
という訳で早速「姑獲鳥の夏」を買って参りました。
オラ、わくわくしてきたぞ。
また、スーパー徹夜読書タイムの予感!!!




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感想

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  • 詳細に呪術が描かれてゆっくりできたよー! -- 2010-12-12 20:11:25
  • 面白かった
    中々深いSSですね
    儀式のやり方的に犬神等の動物を用いた呪術みたいですね
    対象のものを虐めて虐めてコレでもかと苛め抜いて最後に自身が死んだと思わせない内に殺して使役する
    この手の呪術は実際人間使っても可能ですよね、ただ色々な意味で非常に面倒ですけど
    最後に気になるのは、どの辺が間違ったものを採用したところなのか解りませんでした
    兎に角、凄く良く書けていると思います、下手な三流ホラー映画より遥かに面白かったです -- 2010-07-20 01:00:07
  • これ面白い!想像力が掻き立てられる良作。てかポールあきは何者なんだ・・・ -- 2010-07-19 09:23:03
最終更新:2010年03月29日 17:49
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