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カルネージハート - (2018/03/09 (金) 16:24:46) のソース

*カルネージハート
【かるねーじはーと】
|ジャンル|シミュレーション|&amazon(B00005OV8Y)|
|対応機種|プレイステーション|~|
|発売・開発元|アートディンク|~|
|発売日|1995年12月8日|~|
|判定|BGCOLOR(lightgreen):''良作''|~|

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#contents(fromhere)
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**ストーリー
宇宙での鉱産資源採掘が進められていた2032年、月面での採掘権を巡ってフランス・ブラジル間での紛争が勃発。この紛争で無人機動兵器オーバー・キル・エンジン(OKE)が初めて導入された。以後、OKEを駆使した各国間の紛争が激化。事態を収拾すべく2035年に世界連合は”SMRPA”(Space Mining Resource Association)宇宙資源探査協会を設立。SMRPAの尽力により、かろうじて世界は秩序を取り戻せた。&br()
そして28年後、木星の3つの衛星での鉱物資源がきっかけとなって再び各国間による採掘権争いが勃発。SMRPAはその監視を開始。だが、キャッチしたのは世界的な超巨大企業連合「ドラッケン」グループの怪しい動き。そして世界連合とドラッケンの対立は、木星の衛星を舞台とした世界的に例を見ない国家連合対企業連合という戦争へと発展するのであった‥‥

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**概要
-『[[A列車で行こうシリーズ]]』や『The ATLAS』シリーズでSLG製作に定評のあるアートディンクによるウォーSLG。前述のシリーズがパソコンからの移植であるのに対し、本作はプレイステーションオリジナルのタイトルである。
-木星の衛星を舞台にした無人機動兵器「オーバー・キル・エンジン(OKE)」による陣地戦。OKEを開発・設計・生産して敵OKEを排除しつつマップ上の基地を占領し、全ての基地を占領すればステージクリア。資金と兵器開発状況が繰り越しになるキャンペーン形式でステージを攻略していく。
-ゲームのメインはキャンペーン形式のシナリオモードであるが、シナリオモードで作成したOKEのデータを持ち寄って戦わせることのできる対戦モードもある。

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**特徴・評価点
***無人機動兵器-オーバー・キル・エンジン
-このゲームの最大の特徴は、SLGで言うところのユニットを構成するOKEについて、「OKEの機体設計はもちろん、戦闘プログラムの設計もしなければならない」点にある。ユニットの種類や装備品のカスタマイズはSLGとしては珍しくもない要素であるが、OKEはなんと戦闘時には手動で動かせず、OKEに搭載されたプログラムの通りにしか動かない。そして戦闘プログラムの設計はプレイヤーの仕事である。
-機体設計・プログラム設計はコンピュータ任せ(登場人物が組んだもの)にすることはできるが、基本的に実用とは程遠い弱さのため、強いプログラムや思い通りの動きが欲しかったら自分で頑張るしかない。

と、こう書くと非常にハードルが高いように思えるが、プログラム制作自体は小難しいコードなど一切ない。

-本作のプログラム制作とは、端的に言えば「フローチャートをマス目に敷き詰めていく」作業である((実際にはプログラムは高速で処理し続けるため、フローチャートそのものを当てはめるには専用のチップを使う必要はあるが。))。
--大別して、攻撃や移動を行う命令チップと、その時点での様々な情報を元に分岐する条件判断のチップの二種類を用いる。
--「敵に向かって移動」といった都合のいいチップはないため、「前方45度・範囲200m以内に敵がいるかどうか」によって分岐し、分岐先のマスに「YESなら前進、NOなら左旋回」を配置し、処理を組み合わせていく。
--よって、大雑把な流れとしては、攻撃・移動・索敵などの行動要素となるチップを貼り付け、処理の流れを作ることが本作のプログラム制作といえる。分岐やカウンタもあり、ROMが許す限りではあるが複雑かつ柔軟な行動パターンの構築も可能である。
---このプログラムの設計は機体設計以上に重要であり、うまく組めば驚異的に強くなる反面、組み方がまずいと障害物めがけて延々とレーザーを撃ったり、敵を目の前にしながらクルクル回るだけという事も起きる。
---前述したように、索敵・旋回を駆使して細かく指示しなければならない。回避についても、「前方90度・範囲100m以内に飛来物があれば、1/2の確率で右・左にジャンプ」のようにまず飛来物の探索から行わねばならないのだが、つまりそれだけ''条件を正確に設定でき、プレイヤーのアイディア次第で非常に個性的に制作できる''。この計り知れないOKE設計の奥の深さこそがカルネージハートの唯一無二の特徴であり、最大の長所である。
---最初から使える二足歩行型の「月影」ですら、プログラム設計次第では最強クラスのOKEになれる可能性を秘めている。横山宏氏デザインのOKEが活躍し、ストイックな雰囲気も味わい深い。

-登場するOKEは4カテゴリに各3種類の合計12種。
--二足歩行型(月影・ジュジュマン・火影)
---小型でジャンプによる高い回避能力を持つ反面、エンジン効率の悪さから搭載能力に欠けるため薄い軽装甲材しか積めない。メイン武装の同時射撃数が1~2と少ないものの、それを補ってあまりある強力な格闘を併せ持つ。
---このゲームの格闘は、一度決まればいかなる厚い装甲を詰んだ相手でもほぼ確実に標的を撃破できるという強力なもので、本カテゴリの重要な攻撃方法の一つとなっている。
--多脚型(ファイアインセクト・塵界・ゾルダード)
---二足歩行型よりエンジン効率が高く攻撃性能のスペックも同等以上、さらに二足歩行型と違い上半身が回転するため瞬時に狙いを変える事ができる。格闘も可能で、こちらも一度決まれば撃破がほぼ確定するのは同じ。ただし移動速度の遅さや中途半端な回避能力が足を引っ張っており、また全体的に挙動が重いため強い機体を作るのは難しい。
--車両型(クーゲル・クラッベ・ワイルドボア)
---全カテゴリで最もエンジン効率に優れ、非常に厚い装甲を積む事ができる。武装の搭載量も抜群で、メイン射撃の発射数も多い。しかし車両特性ゆえに移動系のプログラムチップの制約が非常に多く、基本的に前進後退と旋回のみで左右移動すらできない。このため敵の攻撃に反応しての回避は事実上不可能で、プログラムの製作に難儀する。ただし移動速度自体は飛行型に次いで早く、移動中の車両型をアサルトやレーザーで射抜くのは容易ではない。
---このカテゴリも全て上半身(というより砲塔)が回転する。また、メイン武装のうちショットガンが装備できない。
--飛行型(リヒター・プロキュルール・サンダーラプター)
---後発の登場となる飛行型は常に滞空する特殊なカテゴリで、エンジン効率は最低で装甲も薄いなど防御面はずたぼろだが、優れた攻撃能力により回避プログラムさえきちんと組む事ができれば非常に頼もしい制圧力を発揮する。難点は登場が遅い上に全体的に工数(生産にかかる時間)が高い事で、量産が難しい。
---このカテゴリではリヒターのみ旋回可能な砲塔を持つ。
--タイプによっては一長一短どころか長所・短所のいずれかが極端すぎるということもある。タイプが変わればプログラムはほとんど流用できないため、タイプ別・目的別にプログラムを組むのもポイントである。

-兵器や新型OKEの開発は各国軍需企業が行っているのだが、ここでも敵陣営ドラッケンとの競争がある。
--各兵器にはターンによる開発開始段階と開発期間数があり、それぞれ研究投資を行うと開発期間を短く出来る他、窓口の担当者との好感度がアップする(これを消費して敵側の兵器購入情報を「買う」事ができる)、設計図完成時に通信をくれる。また、ドラッケンより多く研究投資を行うことで開発を早めたり、敵側への新型兵器提供を遅れさせることができる。逆にドラッケンより少ない研究投資の場合は開発が遅れることもある。
--兵器やOKEの調達については、「各国兵器企業から開発完了した設計図を購入」→「設計図を元に基地で生産」という流れになる。一旦開発が完了した設計図を購入した後は自分の基地で資金が許す限り生産できるようになっている。

-その他
--BGMは通常5曲+戦闘1曲で、通常のものは5曲の中からプレイヤーが選択する形式。戦闘以外ではBGMは常時流れたループし続ける、ツクール系の作業BGMのようなものに近い。曲自体は総じて独特だが、ストイックな世界と非常にマッチしたインダストリアルな雰囲気が前面に出されている。

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**問題点・賛否両論点
-強いプログラムを制作するとなるとどうしてもハードルが高くなる。ROMの容量にも悩まされがち。
--効率よく組むことで容量を節約できるのだが、かなり難しい。なかなか思い通りには動かない事も多い。
--シナリオ毎にプログラムの流用やコピーができず、新シナリオを開始する時は全て一から作り直さなければならない。

-システム
--ローディングが比較的長く、メモリーの使用ブロック数も多め。
--マウス操作を前提としたような操作性・レイアウトが用意されているが、各種ショートカットに相当する操作がきちんと実装されているためマウス操作は不向き。
--メイン武装の一つ、ショットガンによるキャラクター数オーバーが発生しやすい。攻撃モーションを取っているのに弾が出ない等の事態が頻繁に起こる。
--各基地が保有する「燃料」に関する具体的な説明がゲーム中にも説明書にも一切無い。弾薬と違い生産もできない(自動的に増加はする)。
--プレイヤー側はOKE設計後、改めて生産から入らなければならないのだが、敵側は全編通してその時点のOKEを各基地に初期配備している。
---一応プレイヤー側の各基地も量産型カードが初期配備されているのだが、''まともに索敵をしない、味方がいても発砲する、回避がおざなり''など問題が多すぎるプログラムで戦力に数える事すら怪しい代物。しかも改造も改変もできない上に全編通して一緒。敵のプログラムも難易度に関係なく一緒なのである意味バランスは取れていると言えなくもないが。

-難易度バランス
--焦点となるプログラミングは確かに重要だが、シナリオモードではそれに並ぶほど資金の重要度が高く、そしてその資金に関連して難易度にかなり差が生まれる。大雑把に言って、''各シナリオの最初のマップが異様に辛く、進むにつれて急激にヌルくなる''というもの。
--資金面の難は、初期資金の少なさと追加予算の少なさに集約される。
---敵が開幕から物量で押してくるため、まず基地の防衛のために少しでも早くOKEを生産しなければならないのに、所持している基地は設備も生産ラインも初期状態。
---生産効率を考えると、最低でも全てのラインに1回以上の設備投資が必要で、場合によってはラインも増設しなければ間に合わない。しかし機体生産にも資金は消費するので、投資を間違えて資金が底を尽きるとゲームオーバー一直線。
--強力なOKEさえ設計できれば、結果的に少ない消耗のため設備投資の資金を浮かせる事ができるのだが…現実はそう甘くはない。
---初期の兵器は性能が非常に悪く、特にプログラミングの自由度を左右する中央処理装置が低性能で、「ソフトウェアの完成度」だけではそう易々とは敵を退けられない。主に処理の進みが遅く、反応が悪いためである。
---加えて敵の初期兵器は共通して車両型のクーゲルで、このOKEは初期兵器としては異例の4連射撃に加え高い耐久度を誇る。そして搭載するソフトウェアは、''よりにもよって飛来物探知を行わない火力ゴリ押し''のプログラム設計。こちらが使う事になる月影は耐久度が極めて低いため、ソフトウェア自体が優秀であろうとかなり辛い戦況を強いられる。
---しかもこのクーゲル、設計図自体はプレイヤーも最初から購入可能なのだが、''初期資金が少なすぎて一式購入すると財政破綻する''ため、こちらが運用しにくい事は勿論、そもそも仮想敵として性能テストする事すら厳しい。
--資金が少ないという事は設計図購入ができないだけでなく、軍需企業各社の研究投資や最適化依頼といったシステムにも触れる事ができないという事。15ターン毎に支給される追加予算は額が少なく到底賄えるものではない。
---一方で、マップを普通にクリアするとクリアボーナスとして大幅な増額があるため、その後の展開が異様に楽になる。さらに各マップそれぞれ40ターン以内にクリアしていれば初期資金が馬鹿馬鹿しくなるほどの大金に…。しかも、敵の初期ラッシュに耐えられる程度のOKE設計と資金運用があるなら、40ターン以内でのクリアは楽勝というバランスである。
---そうしてマップとターンが進み、資金に余裕ができてくると、新しい兵器への研究投資の他、性能の良い中央処理装置を積むことで漸くソフトウェアの完成度がOKEの性能に色濃く反映されてくる。もっとも序盤を切り抜けた時点で資金の物量だけで押せるだろうが…。

-兵器のバランスもあまり良いとは言えない。
--なぜか「サブ武装」が機体設計に必須。この仕様のために特にクーゲルが工数等の割を食っている。
--軍需産業各社の開発する設計図の開発開始ターン数のバランスが取れていない。
---使いこなせばかなりの戦果を得られるロケット・地雷は比較的早く開発される。対してエンジンの開発は種類の多さもあってか全て出揃うまで凄まじく長いターン数がかかる。
---OKEのエンジンは機体に積める最大重量に直結するのだが、OKEの重量の大半はダメージの軽減に影響する「装甲」であり、武装の搭載量にはほとんど関係しない(大抵の機体は序盤のエンジンで十分最強クラスの弾薬を積み込める)。また、後発のエンジンほど燃料を喰う上、OKEに積める燃料タンク自体の上限は進化しないので稼働時間が短くなってしまう。それでいてコスト・レベル・工数がとんでもない勢いで増加するなど利点を見出しにくい。
---そして装甲には放熱率が著しく悪化するデメリットがあり、単純に厚い装甲を積めば有利になる訳ではない。
---ミサイルに対抗する為の誘導妨害装置の登場がかなり遅いにも関わらず、ミサイル兵器は最序盤戦から登場するため、シナリオはミサイルゲーになりがち。大型ミサイル自体の装弾数の関係から結果的に重量・コスト・工数を抑えられる利点も大きい。
--メイン武装のアサルトがレーザーやショットガンに比べあまりに弱い。レーザーには優れた弾速と射程が、ショットガンには高い命中率と近接射撃の大火力などの長所があるが、アサルトは弾速が遅い・飛距離が異様に短い・火力もそれほど秀でていない。
--カテゴリの一つである「多脚型」があまりに不遇。
---ファイアインセクトはサブ武装で最大16連の小型ミサイル・ロケット弾を装備可能だが、それ以外のサブ武装は平凡でそれほど攻撃力に秀でている訳ではなく、多脚型に共通する挙動の遅さが足を引っ張る。序盤に搭乗するOKEと考えれば16連装はそれなりに魅力的で、4連大型ミサイルも時期を考えれば火力は高い。他の多脚型よりはまだ使い道がある方。
---塵界は多脚型では最も挙動が機敏で、エンジン効率にも優れる事から厚い装甲を積む事ができる。しかしサブ武装の最大搭載数が二足歩行型のジュジュマン・火影と同じで((火影には大型ミサイルの搭載数で負けている。))、何のための搭載能力なのか分からない有様。さらには生産工数まで高いせいで量産にも向かないなど不遇ぶりが際立つ。
---ゾルダードは有脚型OKEで唯一4というメイン射撃の同時攻撃回数を誇るが、ただでさえ大柄なこのカテゴリ中でも一際巨体で、ジャンプ力まで低いため回避力が絶望的なまでに低い。サブ武装も初期機体の月影よりほんの少しだけマシという目を疑いたくなるもので、とても後発のOKEと思えない。また、上半身の旋回が売りの一つである多脚型なのに、サブ武装は腰部に設置されており、機体正面にしか撃てないのも地味に痛い。
---どんなに画期的な戦法を練っても、その全てが多機種で代用可能な戦法しか取れない。いくらエンジン効率が優れていても、装甲を厚くすればただでさえ回避しにくいロケット弾などの熱にあぶられて何もできなくなり、まともに戦闘を行う事すら難しい。その弱さゆえに愛するファンがいるのも事実ではあるが…。

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**総評
ウォーSLGであるということに加え、プログラム設計が非常に難しいことから、プレイヤーを極端に選ぶゲームである。&br()不評点で多く文章を割いた通り、本作の一人プレイはただでさえ難しい設計をより困難なものにしている要素が多く、対戦相手や攻略本の開発者機体など、''プログラムの出来によるOKEの魅力を体感できる環境が必要不可欠''である。&br()だが、そうした環境によってひとたびその魅力に気付いてしまったが最後、プレイヤーは抗う術もなく徹夜でプログラム制作を強いられる事になるだろう。&br()当時のパソコン通信に本作のフォーラムがあったり、対戦大会が開かれたり、続く続作もまた熱心なファンが数多く存在する事が、プログラム制作という画期的なロボットゲームの先駆者であり良作たる所以を物語っているといえよう。&br()

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**移植
-『カルネージハート EZ-Zapping』
--マイナーチェンジ版で内容はほぼ一緒だが、バランスが若干再調整されたことに加え、複数の命令を1まとめにしたマクロ機能の導入でプログラム作成がかなりしやすくなっており、シリーズ未経験者に対するハードルがかなり下がっている。

-現在はゲームアーカイブスで600円と安価な値段で配信されている。
--『カルネージハート EZ』の方なので未経験の方にも是非プレイしてみて欲しい。尚、EZではない無印カルネージハートは配信されていない。
---余談だが続編の2作目、3作目も同じ値段で配信されている。どうせなら全作を遊び倒すのも悪くないだろう。

-PS版
--こちらはチュートリアルが充実している分EZにあったサンプルマクロやサンプルプログラムがない。
---こちらもDL版があるが値段は高い
---最新のEXAでは体験版もプレイできるためこちらからやってみてもいいだろう。