Yuppie Psycho

【やっぴーさいこ】

ジャンル アドベンチャー
対応機種 Windows(Steam)
Nintendo Switch
販売元 Another Indie
【Win】Neon Doctrine
開発元 Baroque Decay
発売日 【Win】2019年4月25日
【Switch】2020年10月29日
定価 【Win】1,730円
【Switch】1,790円
判定 良作
プレイ人数 1人
レーティング CERO:D(17歳以上対象)
ポイント 狂気のブラック企業で起こる恐怖のオリエンテーション
ドット絵ながらグロ要素たっぷり&謎解き要素も高め

概要

ビデオゲーム黎明期を思わせる粗めのドット絵で描かれた2D・サバイバルホラー・アドベンチャー。

陰鬱な差別的階級社会の中で、一代にして世界的大企業へと急成長したIT企業・シントラ社。
そこに思いがけず就職することとなったG階級の青年「ブライアン・パスターナック」は採用通知を入れたブリーフケースを片手に、半信半疑でロビーに立ち尽くしていた。
「ここでは優秀な奴ほど上の階に行くんだ。俺は勿論9階だ!」と言い放った嫌味な同期は2階で下ろされ、ブライアンと同じ郊外出身の若い女性は4階で下ろされた。そしてブライアンを乗せたエレベーターは……照明をチカチカと不快に点滅させながら10階へと上がっていく。

10階、社長室で待ち受けていたのは、血で書かれた「魔女を殺せ」の文字。
ブライアンの恐怖の就業初日が始まった。

特徴

  • 感情豊かなドット表現によるサイコな世界
    • システム面はオーソドックスな2Dアドベンチャーであり、基本的な操作体系は往年のRPG同様「方向キーでキャラを動かしてボタン押下で対象を調べる」シンプルなもの。
    • しかしブライアンが勤めることとなったシントラ社内は備品が乱暴に散らかり、薄暗いオフィスを沈んだ表情の社員がひしめきあい、そこらじゅう血まみれで死体も山積みという異常事態。起こる事件も常識外れなことばかりで、それらがピクセルアートである意味「生き生きと」アニメーションしながら描かれる。
    • 2000年代前半のPCフリーゲーム全盛期を生きたプレイヤーならば、その際に流行したホラー要素のあるRツク製ゲームを思い起こしてもらえると近いかもしれないが、そこから更にホラー演出を吟味したような内容となっている*1
    • ゲームの印象的なビジュアルの多くが「ライトグリーンと赤」の組み合わせで構成されており、例えばゲーム序盤から訪れる電脳空間も、明るい黄緑のタイル張りの密室にところどころ血のような赤が塗られるエリア。視覚的なパンチはなかなかのものである。
    • また、ゲーム中にはアニメーションによるムービーも幾つか挿入されるが、これもドット絵によるもの。ピクセルアートファンにはたまらない出来になっている。
  • 世界観を壊さないセーブシステム
    • 本作のセーブシステムは、「魔女の紙」と呼ばれる用紙を使って自身の顔面をコピーすると「魂をコピーする=その時点からやり直せる」という、「魔女」×「オフィス」を活かした独特な設定である。
    • そのため上書きセーブはなく全てのセーブデータが累積していき、いつでも各時点から遡ってロードすることができる。
      • この「大量のコピーが溜まっていく」仕様を逆手に取った隠し要素もあり……
  • ほぼすべてのアイテムが消費制
    • 体力回復用の食事アイテムは勿論のこと、懐中電灯用の電池、セーブ用の魔女の紙、コピー機を動かすためのインクカートリッジが消費アイテム制。
    • そのため、懐中電灯を常にONにしておくのは危険であり、セーブする場所やタイミングにも気を遣うという、緊張感を伴う仕様となっている。
  • 十分にキャラ立ちした脇役勢
    • 登場するキャラクターの殆どがシントラ社の社員であり、異常な社風に負けず劣らずの個性でゲームを牽引していく。
+ 登場人物(ネタバレ無し)
  • ブライアン・パスターナック
    • 主人公。メガネをかけた痩躯の頼りない青年。G階級の出であり、シントラ社からの採用通知も半分いたずらだと疑いながら訪れた。
    • 気弱な巻き込まれ体質といういかにもな主人公キャラで、魔女殺しの任務もことあるごとに無理だとつっぱねるが、懐中電灯ひとつで真っ暗闇な社内を駆けまわったり、死体を見てもすぐに慣れたり、お尻を噛もうとしてきた先輩社員と普通に会話を楽しんだりと実はかなりの強心臓。
  • チャップマン
    • ブライアンと同日に初出勤となった高慢な男。プライドが高く周囲のあらゆる者を見下している。
    • シントラ社の異常さに気付いて真っ先に辞めようとし、自尊心と保身のために平気で嘘をついて自我を保とうとするなど、嫌な面はあれど他のメンバーに比べれば正常な人物。
  • ケイト
    • 同じく初出勤を迎えた女性社員。大企業への採用というチャンスを逃すまいとやる気に満ちており、少々のことでは折れないタフな心の持ち主。
    • 勤務初日に大量のコピーを命じられても、先輩社員から強引に恋バナを持ちかけられても、心を病んで四つん這いでさまよう他部署の社員を探しまわることになっても、毒ガスを吸わされても、全身を包帯でぐるぐる巻きにされても折れない。
  • ヒューゴ
    • ブライアンの直属の上司で、社内で一番の古株でもある肥満体の男性。
    • にこやかで人当たりのよい風体だが、ズボンを脱いでオフィスのコピー機で尻を印刷したり、他階のイントラネットに下品なジョークを書き込んだりするなど奇行が多く、殆どの社員から嫌われている。
  • ソーサ
    • ブライアンが配属になった部署の先輩にあたる女性社員。鳥の巣のようなチリチリ頭と不吉に見開いた目が特徴で、コーヒーを中毒レベルで飲用している。
    • ストーリー面でもブライアンのサポートを買って出ようとするが、コミュニティ不全の気があり、役に立つことは少ない。
  • ドシ
    • セキュリティ階で働く男性技師。既存社員の中では恐らく一番の常識人。
  • ロストフ
    • ブライアンから見て同階別オフィスに勤務する肥満体の女性社員。なぜかエレベーター内でブライアンの尻に噛みつこうとしてくることを除けば、世話焼きのお局といったキャラ。
  • マローン
    • ロストフと同室で働く美女。ブライアンを誘惑しようとしたり、ケイトに恋バナを持ちかけて避けられたりしている。
  • マッピー
    • フードを目深に被った女性。ソーサと共に映像制作サークルを組んでいる。
    • 7階に引きこもり映画を見続けていること以外は特に異常行動はなく(業務用キャビネットの最上段に座ってコーヒーを飲んでいることを異常としなければだが)、アイテムショップの役目も果たしているため頼れるサポートキャラ……かと思いきや大量殺人現場でビデオを回し続けているためやはり変人である。
  • デュモン大佐
    • 馬に乗った、軍人のような男性。そもそも「大佐」がシントラ社におけるどのような役職なのか全く不明だが、社員向けの自己啓発を担当している。
    • 馬のダダが言った(とされる)意見に応じて各社員に指示を出しており、概ね他社員からは「頭のおかしい人」といった評価を下されている。
  • シントラ
    • ブライアンがアクセスする電脳空間内で出会う研修担当のロボット。
    • 女性型であり、頭部は黒い球体を2つつけたお団子ヘアーのような形状になっている。

評価点

  • 良テンポで提示される手がかりによる牽引力
    • 異常な環境、異常な職務、異常な同僚、と異常尽くしのシントラ社だがストーリーの骨子は「魔女を殺すため情報を探す」「そのために同僚を助けたり社内行事をこなしたりする」という明確な目的で保たれている。そのため、プレイヤーの考える目標と乖離したり、置いてきぼりにするといったことがない。
    • ひとつの目標をこなす度に、次につながる別の目標がさりげなく提示される仕掛けとなっている。
      • 例えば部屋の奥に逃げるNPCを追っている最中、別階の監視カメラの映像を覗くことができネームドキャラがいなくなっていることに気付く……など。これによって常に1~3個程度の気になることが並列し、「何をやったらいいのかわからなくてダレる」という事態がほぼ発生しない。
  • 謎解きの絶妙なバランス
    • 本作はサバイバルホラーであり、ブライアンは一部例外を除いて敵に対する攻撃手段を持たない。そのためステルスパートが度々あるのだが、それよりは謎解きによって物事を解決することのほうが多め。
    • 例えば、情報探しの過程での「暗号の読解」「マップ内の仕掛け操作」、ある階で受けることになる「昇進テスト」、ボスバトルでの「攻略そのもの」がそれにあたるが、これが簡単すぎず少々悩む程度の良バランスとなっている。
    • 大部分の謎解きはそのマップ内の手がかりだけで解けるようになっており、余計なものもほぼ存在しない。攻略法がわからず投げ出しそうになっても「何でマップ内にあれがあるんだ?」「何でこれを調べるとこうなるんだ?」と考え直すことで解けるため、「気持ちよく詰める」難度であると言える。
  • 実は意外と楽なリソース管理
    • 前述の通り、進行に必要なアイテムはセーブも含めて消費アイテム制なのだが、本作は落ちているアイテムの物量がかなり多く、道中のキャビネットやラック、死体の持っているブリーフケースを逐一漁っていれば殆ど尽きる事が無い。
    • とはいえ何も考えず使っていいほどの余裕はないので、「リソースに限りがある緊張感」が削がれるほどではないが「最悪のケースにはそう至らない」という、絶妙な接待バランスを楽しむことができる。
  • ブラック企業に芯まで浸かった社畜の悲哀的表現
    • ゲーム中には大量の名もなきモブ社員たちが登場し、その社畜根性が極端な表現でギャグ的に描かれる。
    • その筆頭として序盤の「マーケティング部脱走イベント」がある。
      • これは、「もうスローガン(キャッチコピー)は考えたくない!」と叫び四つん這いで逃げだした彼らを、逆に「仕事が楽しければ毎日が休日のよう!」のようなおぞましいスローガンで励まして連れ戻すというもの。
      • 心に響くスローガンを提示された彼らはハートマークを出し、四つん這いのまま部署へ連行され、二度と二足歩行に戻ることのないまま業務を続けるのである……仕事ってなんだろう?
    • このゲームではパソコンに向かって業務に没頭する事務員ですら敵であり、付近に立っていると突然癇癪を起こしてダメージを与えてくることがある。もうみんな休もう!
    • 終盤では労働組合のメンバーがブライアンにコンタクトを取ってくるのだが、こちらはこちらで、怪物に追われ命の危機にある状況で歯科受診の補助制度を勧めてくるズレっぷり(杓子定規っぷり)を見せてくれる。
  • 随所随所の芸の細かさ
    • 前述の通りセーブ=ブライアンの顔面コピーという仕様なのだが、顔の押し付け方にはランダムでバリエーションが存在する。
      • この時コピー機のフタを閉めずにコピーすることもあり、その場合は露光で若干ブライアンの顔が薄くなるという芸コマっぷり。
    • また、ドット絵主体であることも先に記した通りだが、各ネームドキャラにはバストアップに結構な差分があり、キャラクターの感情が伝わりやすい。
  • 豊富な隠し要素
    • クリアに必須でないイベントがちらほら存在し、それらもプレイの楽しみやキャラクターたちの掘り下げに繋がっている。
    • また、一本道のシナリオに見えて地味にマルチエンディング制であり、2021年5月現在のバージョンでエンディングが7種存在する。
      • 即帰宅エンドやスタッフロール後のイベントが変わる程度のものも含むが、インディーズゲームとしては十分に多く、またそれぞれのエンドを見る事で各キャラクターへの印象もほんの少し変わるような内容となっている。

賛否両論点

  • かなり直接的なグロ表現
    • マップ内はドット絵、人物画もアニメ調で規制が緩いためか、CERO:Dを超えてZ級にスプラッタ表現が激しい。
      • 臓物こそ出ないが、血の滴る生首を抱える立ち絵や、頭を失くして首から血を噴き出したまま走り回るドットキャラなど、かなりのキワモノが登場する。
      • ストアでもサバイバルホラーと明言されている以上、思っていたのと違ったというプレイヤーは少ないと思うが、アートワークのセンスに魅かれて購入したら想像以上……ということはあるかもしれない。
  • 自主制作的短編ホラームービーのクオリティ
    • 収集要素として、NPC・マッピーが撮影したとされるVHSを数点入手できる。デッキのあるマップで再生できるのだが……
    • その内容は開発スタッフが制作したと思われる実写短編ホラームービー。これが如何にも素人監督が撮ったような、意味深なアップや観念的でシュールな構図、更には「便座をパカパカ上下させて喋るトイレ」のようなおバカ特撮で構成されており、何とも言えない空気を醸し出している。
    • もちろんそれらは意図されたクオリティと思われ、映像作成の経験者やZ級映画好きには含み笑いを催すような出来となっているが、それ以外のプレイヤーによってはどう扱っていいかリアクションに困るシロモノと言える。

問題点

  • 目に厳しい点滅表現
    • 設定上一部のマップ内照明がチカチカ明滅したり、演出の一環として間隔の短い点滅が発生したりするシーンがある。不安を煽る手法として効果を発揮しているが、必須のイベントやマップ間ショトカの入り口などで発生するため、少々目へのダメージが懸念される。
    • 一応ゲーム起動時にその旨注意書きが表示されるのだが、それならオプションで調整できてもよかったのでは。
  • ひたすら暗めの画面
    • ほとんどのマップが真っ暗闇であるため、プレイ時間の多くを懐中電灯をつけて過ごすことになるのだが、やはり画面の一部だけが照らされている状態は視覚的に疲労しやすい。
    • ホラー面でいえば心理的圧迫感もあり悪くないところなのだが、同時にストレスも生じ得る。疲れてきたら休憩を取ったり、別の明るいゲームで遊んで気分転換した方がよいかもしれない。
  • エンディング分岐のわかりにくさ
    • マルチエンディング制ではあるが、ノベルゲームのようにルート分岐が図示されているわけではないため、「どこで何をしたら分岐するのか」は手探りで進めるしかない。
    • そもそも実績のあるSteam版ならまだしも、Switch版の場合は分岐があることにすら気づけず、ノーマルエンド1種に至ってゲームを終えてしまう恐れがある。
      • (後のアップデートで改善)Switch版でもゲーム内での実績画面が設けられ、エンディングの存在自体には気付きやすくなった。
  • 時折フリーズが発生する(Switch版)
    • 取り急ぎSwitch版での確認となるが、稀にフリーズが発生する。
    • ゲームシステムやビジュアル自体は別に重たいわけではなく、「会話イベントと同時にダメージを食らった」「ボタンへのアクセスと同時にNPCとの接触イベントが発生した」時に発生しやすいと思われる。
    • セーブが有限なゲームでのフリーズはさすがに勘弁してほしいところ。回数制とはいえ、手数の多い謎解きを終えた後などはケチらずセーブをした方がいいだろう*2

総評

若干尖ったところはあるが、良ゲームバランスで操作性も良く、サイコの名に反して丁寧なつくりの作品。
如何せん雰囲気の重たさや視覚的な暗さが負担になり得るものの、ストーリーもダレず、気づけば再度起動したくなるような魅力を持っている。
グロ表現にある程度耐性があり、アートワークを見て気になったならオススメできる一品だ。

余談

  • Switch版の発売日と同日に、Steamで配信されているWindows版は新規のエリア、ボスキャラなどSwitch版での追加要素が盛り込まれた『Yuppie Psycho:Executive Edition』に差し替えられている。

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最終更新:2023年05月04日 23:46

*1 開発者自身も『ゆめにっき』など日本製個人製作ゲームからの影響を受けたことに言及している

*2 但し、Steam版の場合は実績の中にノーセーブ(=コピー機を1回も使わない)クリアで獲得できる「ユニークな魂」があるためそうも言えなかったりする。