白昼夢の青写真

【はくちゅうむのあおじゃしん】

ジャンル SFADV
対応機種 Windows8/8.1/10
発売・開発元 Laplacian
発売日 2020年9月25日
定価 8,800円(税別)
レーティング アダルトゲーム
判定 良作
ポイント 多方面で隙の無い完成度
Laplacian作品
キミトユメミシ / ニュートンと林檎の樹
未来ラジオと人工鳩 / 人類最強性欲の嫁 工口倫子 - 白昼夢の青写真


概要

Laplacianブランドから発売された4作目*1のタイトル。
これまでの作品である『キミトユメミシ』、『ニュートンと林檎の樹』、『未来ラジオと人工鳩』で同ブランドが消化しきれなかったテーマと向きあい、制作集団として次の段階に進めるような作品とすることも目標として企画された。

開発に際しては社内スタッフの増員を行った上でなお過密スケジュールでの制作となり、その中でさらにシナリオの加筆や改稿・推敲までもが限界まで行われた。
シナリオの構成の関係で元々のボリュームもかなり大きかったこともあり、最終的にはDVDメディアに収まらずにデータを一部削る必要がある程の分量となったという。
ライターによる全体の監修も過去作よりも多く行われる等、質的な水準の向上も余念なく行われ、総じてボリューム・クオリティ共にブランドの集大成と呼ぶにふさわしい大作として発売された。

劇中には上記の過去作品の舞台やBGMが使用されているシーンもあるものの、シナリオ的な繋がりは皆無であるため未プレイでも特に支障は無い。


システム

テキストウインドウの文章を読み進めるオーソドックスなアドベンチャーゲームであるが、選択肢による大きな展開分岐が存在しないため、広義的にはゲームではなくデジタルノベルと言える。

序盤は「CASE-1」・「CASE-2」・「CASE-3」の全く違った3つの物語がランダムな順で並行して進行する。合間合間には短いインターバルが挿入され、それぞれの物語に関する簡単な補足も行われる。
物語がある程度進行すると3つの物語の結末までは好きな順で進行できるようになり、それらを全て終えるとインターバルの内容から展開する「CASE-0」の物語に進むことができる。

構成上それぞれの物語は断続的に読むことになるが、一度読了した話はタイトル画面から選択することでインターバルなしの一本道のバージョンをプレイすることもできる。


作品全体の特徴

話の内容としては恋愛要素を大きく扱いながらも、終盤では「人の記憶・過去、そこから決定される行動と人格・個性の関係性」といった哲学的な問いが主題となるシーンもある。
該当する場面は全体のほんの一部ではあるが非常に考えさせられる内容で、独特の余韻を強く残す展開となっている。
こうしたテーマは一見すると難解なようだが、あくまでプレイヤーが自発的に考えることを誘導する程度の絶妙な主張にとどめられており、話の流れそのものは全体的に理解しやすい。

「CASE1~3」の物語は同列の扱いであり、最後の「CASE-0」の中でそれらの繋がりが明らかとなる…といった構成である。
スタートから当分の間は事態の全容が見えない状態が続くものの、それぞれの物語の単独の完成度が高いため序盤から十分に楽しめる。
「CASE-0」は単体での完成度もさることながら、それまでのあらゆる情報が展開や演出に利用されるため、分量的にも感覚的にも別次元のボリュームを持ったシナリオとなる。


あらすじ

人類は同じ夢を見るようになった。
ある晩は、女生徒と教師の不倫の物語であり--
ある晩は、劇作家と女優の身分を超えた恋物語--
またある晩は、不登校の少年と教育実習生の淡い初恋--
3種類の夢を、人類は繰り返し見るようになった。
何故、全人類が同じ夢を見つづけるのか。
これは、世界と呼ばれた一人の少女の物語。

公式BOOTHの商品説明ページより引用。


キャラクター

+ CASE-0
  • 海斗 (かいと)
    • 主人公。本編開始時点では記憶を失っており、当分の間彼の正体は不明のままである。
    • 記憶喪失状態でも薄々感じられるほどには頭脳明晰かつ冷静であり、言動も棘が無く穏やかである。
      • 本来の彼は優しさだけが取り柄の平凡な少年…のようなありがちな設定ではなく、高い志と夢を持ち、その実現のためにひたむきに努力することができる、昨今の主人公としては珍しいひたすら真面目な青年である。
    • 他の3人の主人公にも共通する点ではあるが、自らの目標や大切な人間のためには積極的に行動を起こす熱い一面もあるため、冷静で大人しい性格ではあるものの、概ね前向きな印象を受ける。
      • 一部にはそんな彼もネガティブな感情を見せる場面はあるものの、それも状況の過酷さを示す表現の一環として有効に機能している。
    • 主人公だけあって彼の内面的な描写は他のどのキャラクターにも勝るとも劣らないレベルで充実しており、目標を達成した喜びや窮地に至った時の苦しさ等、様々なシチュエーションにおいての感情移入が円滑に行えるように徹底されている。
    • ルックスについては作中ではあまり言及されないが、数少ない情報を統合するに割と整っていることが推測できる。
      • ただし、一貫して自身の目標に対してストイックであるため、色恋沙汰には疎い面もある。
  • 世凪 (よなぎ)
    • 本作のメインヒロインであり、白い髪に赤い瞳が特徴的な少女。
    • 序盤は感情表現に乏しく無機質な印象だが、中盤以降から徐々に人間的な一面が明らかになっていく。
    • あらすじから察する人もいると思われるが、彼女の存在そのものが本作の主題に含まれており、描写される情報量も一人の登場人物としては非常に多い。
      • プレイヤーは彼女の性格・趣味・能力・生い立ち・哲学や人生観等の実に多種多様なパーソナリティを知ることとなり、否が応でもその存在感を極めて大きく濃いものに感じるだろう。
    • 人格的にも能力的にも偉人と呼んで差し支えない程の人間なのだが、ふとした時に垣間見える感情や願望はあまりにも普通の少女の範疇でしかなく、そのアンバランスさはユーザーの心に強く刺さるものである。
    • 一見すると幅広い内容を取り扱っている本作だが、突き詰めるととにかく彼女一人についての話を極限まで深く幅広いアプローチで書ききったものであるとも言える。
      • 他作品においても特定のキャラクターの出番や掘り下げのウエイトが多めになっているケースはしばしばあるが、彼女ほど作品の総力を挙げて大きく扱われるヒロインはかなり珍しい。
  • 出雲 (いずも)
    • 主人公と世凪の身の回りの世話をしている女性型アンドロイド。
    • アンドロイドであるため抑揚のない話し方に変わらない表情であり、命令された内容と合理的な判断に基づいて行動している。
    • 基本的に淡泊なキャラクターなのだが単純に出番が多く、偶発的に優しい態度に見える状況も少なくないため冷たい印象は受けにくい。
    • 周囲の人間が思いもよらない行動や提案をすることがあり、それが若干の個性や人間臭さを錯覚させる部分もある。しかしそれも冷静に考えると超高性能な彼女が大目標のために予想外の会心のアイデアをたたき出したに過ぎない…という理由付けがあることが分かる。
    • 「感情が無いロボット」という設定は序盤から結末まで強固に一貫しており、彼女自身は最後まで一切の変化が無い。にもかかわらず海斗と世凪、そしてプレイヤーにまでも全く違和感なく自然に愛着を抱かせる非常に巧みな個性付けがなされている。
  • 遊馬 (あすま)
    • 主人公の恩師と言える立場の初老の男性。
      • 作中で最も大人らしい大人で、主人公やヒロインに次いで重要なキャラクターである。
    • 年齢の関係もあって常に一定の穏やかな態度であるが、物語が進むにつれてその点も彼の個性の一部であると理解できる。
      • また、言い換えれば彼が必死になる程であればそれだけ重大な場面であるとも言え、間接的に特定のシーンのインパクトをより強くする役割を果たしている。
    • その冷静さや目標に向ける熱意、明晰な頭脳等、主人公と非常に共通点が多く、終盤の展開と合わせて示唆に富む人物設定となっている。
+ CASE-1
  • 有島 芳 (ありしま かおる)
    • 主人公。都内の学校に非常勤講師として勤めており、妻帯者。
    • 年齢は45歳であり、 一人称は「私」。言うまでもなく恋愛アドベンチャーゲームの主人公としては異例の高齢で、その落ち着いた雰囲気の独白文は個性的な読み応えがある。
    • 子供もおらず、大きな変化なく静かに終えていくであろう残りの人生に諦念を抱えているが、それはそれとして平凡な毎日を特に波風立てずに過ごしている。
    • 学生の頃は作家を目指す文学少年であったが、桁違いの才能を持った同期とは対照的に大成せず挫折している。
    • 低い自己評価を下すシーンが多い割に紳士的な言動・(基本的に)冷静な判断力・教職の担当科目に留まらない幅広い知識等、年の功もあってか意外に優秀な部分も少なくない。
      • ただし、劇中での状況の噛み合わせの悪さもあって精神的に不安定であり、自棄になった際の破天荒な行動は作中一とも言える程かなり問題がある。
      • 一応、それまで経緯や事後の本人の後悔に関してはかなり事細かに描写がなされるが、それを持って不快に感じなくなるか否かはプレイヤーによるだろう。
  • 波多野 凛 (はたの りん)
    • ヒロイン。主人公が勤める学校の生徒の一人。
    • 学生の範疇を越えた美しい容姿を持つが、神聖めいた近付き難い空気感を纏っており周囲から浮いている。
    • 図書室でよく本を呼んでおり、その読書量に比例して文学的な造詣も深い。
    • 基本的に極めて礼儀正しく、常に若者らしからぬ落ち着いた立ち振舞いである。
      • 中盤以降は主人公に対してのみ背伸びした行動や年齢相応の未熟さ、あるいは逆に異様に色気のある大人びたアプローチを見せるようになり、それまでよりもキャラクター性が非常に複雑で幅広くなる。
      • こうした変化は序盤の印象とは正反対の、どこか楽しげな雰囲気を伴うものであり、彼女の大きな魅力の一つであると言える。
  • 有島 祥子 (ありしま しょうこ)
    • 主人公の妻で編集者として出版社に勤めている。夫と同年代との情報があるので45歳前後のはずだが、見た目はかなり若い。
    • 今では夫婦らしい愛情は無く、加えて生活リズムの違いもあって会話そのものが少ない。
      • 理知的な人物であり話の内容も筋が通っているのだが、常にフラットな口調の主人公とは異なりその言葉には刺がある。
    • 作中での出来事を考慮するとその態度はむしろ甘いぐらいなのだが、印象的にはやはり一貫して厳しいイメージのキャラクターである。
+ CASE-2
  • ウィリアム・シェイクスピア
    • 主人公。父親から受け継いだ小さな酒場を切り盛りする青年。名前については後述。
    • 店の仕事に勤しむ傍ら、時折舞台脚本の執筆を行っており、常連客のツテを通して劇団に売り込むことで一定の報酬を得ている。
    • 店主としての適性は皆無である一方、作家としての才覚は比肩する者が見当たらない程に優れている。演劇未経験者にもかかわらず演出の設計や俳優の使い方まで合理的に考えられる他、店で客から聞いた話を決して忘れない完全な記憶能力を持ち、それらが脚本の完成度をより高いものにしている。
    • 美男子ではあるが特に浮わついた欲求が無かったため、特定の女性と関係を持ったことはない。
    • 何かと個性的な今作の主人公の中では年齢相応のノリの良さもあり、演劇関連の能力を除けば最もオーソドックスな人物と言える。
      • 作中ではあまり強調されないが、冷静に分析すると美しい容姿・優れた才能・二足のわらじを継続する体力と三拍子揃ったかなりハイスペックなキャラクターである。
  • オリヴィア・ベリー
    • ヒロイン。下記のスペンサーに仕える貴族階級の女性。
    • 小規模ではあるが劇団の座長でもあり、とある目標のために宮廷演目*2に選出されることを目指している。
    • 二つとない美しい外見に加え、演劇の才覚、政治や経済に対する見識、果ては接客や炊事等の身分不相応な能力まで高いレベルで持ち合わせる。
      • 加えて目標の為であれば個々人の事情にも寄りそう柔軟性を持ち、問題解決能力が極めて高い。
    • 妥協の無い性格であるため、本来自身の都合のためであった主人公への協力も深い領域まで及び、辛辣な言動の割りにプレイヤー目線ではかなり親切なキャラクターに見える。
    • 恋愛に関しても経験豊富で自信があるものの、思いの外悠長な駆け引きはしない情熱的な一面がある。
  • ハロルド・スペンサー
    • オリヴィアの婚約者・主人といった立場の貴族の男性。
    • 一応悪役のポジションではあるものの、英単語を不規則に交えるユニークな話し方*3や倒錯した幅広すぎる性癖・時折見せる筋の通った言動によって単純に敵とは言えない個性的な印象を持ったキャラである。
      • ただし、オリヴィアの所属する劇団のパトロンであったり、(執着はしないが)いざという時は主人として彼女を囲い込む義務感を持っており、「悪意は無いが状況的に大きな障害にはなる」といった絶妙な設定がなされている。
    • 何故か彼(及び彼に似た人物)の出番は他のシナリオも含めた作品全体にあり、ギャグ要因的な役回りもあってか一部のプレイヤーからは妙な人気がある。
+ CASE-3
  • 飴井 カンナ (あめい かんな)
    • 主人公。(レギュレーションの関係で明記されないが)年齢は高校1年生相当と思われる。
    • 不登校児ではあるが、その理由は「亡くなった母親に憧れてカメラマンを目指すため、撮影に専念したいから」といった(問題はあるが)前向きなものである。言動も大人しくはあれど至ってまとも・学業成績も普通で、特に学校に居場所が無い訳でもない。
      • 写真撮影やヒロインの窮状が絡む出来事に対しては普段とはまるで違う積極的な姿勢となり、時折見せる思い切った行動は比較的平和なシナリオにおける良いアクセントになっている。
    • 女性経験は無いものの、学生らしからぬ紳士的な言動を見せることもある。また、美容には無頓着ながら顔も整っている。
    • 夢に向けての情熱は終始ブレが無く、知識面の未熟さや計画性の甘さも若々しさの一環として不快感を感じさせない、上手い性格付けの主人公である。
  • 桃ノ内 すもも (もものうち すもも)
    • ヒロイン。カンナの学校に教育実習生として赴任する。
    • 実習に参加した動機は家庭の事情に起因する外的なものであり、彼女自身は教師には不向きだと感じている。
    • フレンドリーな性格に加えておしゃれ好きな美人であり、男性経験はおそらく本作のヒロインの中でも最も豊富。
      • 恋の駆け引きも手慣れたもの…であるはずが、カンナ相手では勝手が違うようでそれなりに悩むシーンも存在する。
    • 担当声優の演技力の高さが特に光るキャラであり、文面上は平易な台詞であっても優しさ・可愛さ・明るさ・親しみやすさが強く感じられる絶妙な感情表現がなされている。
      • 加えて多数のエピソードの中で見せる多彩な表情や心理描写も印象に残るものであり、プレイヤーに対して強く彼女の魅力を訴えるものとなっている。
    • 今作のキャラクターはそれぞれファンが多いが、彼女の人気はその中でも頭一つ抜けたものである。
  • 松風 梓姫 (まつかぜ あずき)
    • 主人公が自宅の車の修理を依頼した女性の整備士で、自称「スクラップハンター梓姫」。
    • 車中泊や野宿で各地を転々とするワイルドな人物で、気風のいい姉貴分のような性格。
      • 序盤の行動こそかなり型破りだが、それ以降は成り行きとはいえ意外な程に協力的かつ良心的である。
    • 身だしなみの適当さや酒癖の悪さ等の粗相により、美人ではあるが主人公の恋愛対象からは完璧に外れている。
    • 30歳と割と年上なのだが、若い見た目に抜けた性格、ユニークな台詞回しやノリの良さによって全く取っ付きにくさを感じさせない楽しいキャラクターである。

各物語の特徴

本作の3+1つの物語は様々な面で方向性が異なるため、個別に特徴を紹介する。

+ CASE-1~3
  • CASE-1
    • 本作の中でも落ち着いた雰囲気のシナリオである。舞台も『キミトユメミシ』と同じく2016年の日本となり、総じて現実的な空気感で物語が進行する。
    • 主人公の壮年の男性ならではの諦観、割り切りの描写は極めて丁寧かつリアルである。浮世離れした美しいヒロインとの対比が印象深く、彼らの関係の進展はドラマチックに描かれている。
    • 主役が揃って読書好きなこともあり、劇中にはいくつかの作家や文学作品が話題に挙がるが、このやり取りは極めてこの2人らしい、静かな情緒のあるムードの演出に一役買っている。
    • 全体的な雰囲気は重いのだが、主人公もヒロインも意外とアクティブであるため後ろ向きな気分にはなりにくい。
  • CASE-2
    • 主人公のウィリアム・シェイクスピアは周知の通り歴史に名を残す大作家であり、実際に彼も活躍したエリザベス朝演劇時代(=16世紀末)のイギリスが舞台となっている。
    • 当時の演劇の扱いや役者の社会的な立ち位置はもちろん、登場する劇作家や劇場についても巧みに史実の情報を取り入れて描写されている。
      • 一方、主人公であるシェイクスピアの設定周りには独自の要素が入っている部分も多く、家庭環境や(推定の)年齢・端麗な容姿・完全記憶能力等は本作固有のアレンジである。
    • 彼の代表作の数々が登場するシーンは、オリジナルの舞台脚本の引用も違和感なく組み込んだ完成度の高いものである。
      • 誰もが耳にしたことのある作品名や台詞に本作独自の経緯や演出が合わさる様は独特の感慨があり、その他の作品にはない斬新なプレイ感覚となっている。
    • 総じて歴史的考証は手厚いものの、登場人物の台詞回しや性格付けは現代的であるためスムーズに読み進めることができる。
  • CASE-3
    • 舞台は2060年代の日本ではあるが、『未来ラジオと人工鳩』と同じく「電波喰い」という事件によって通信技術等が失われており、場所そのものの雰囲気は牧歌的な落ち着いたものである。
    • 主人公が飛び抜けて若いが、それによる向こう見ずで前向きな点や時折見せる素直な一面が上手く表現されており、物語の透明感や明るさの演出に一役買っている。
    • 他のシナリオと異なり全体的に明るいムードであり、一夏の甘酸っぱい恋物語がテンポ良く描かれている。
      • 発生する諸問題も社会的には深刻でない個人的なものが多いが、巧みな人物描写からそれぞれの悩みや目標に対する必死さは十分に伝わるため、他のシナリオに劣らず読み応えのある仕上がりになっている。
      • 各物語の中では比較的万人向けのライトな読み口であるため、公式サイトのコラムにおいてもライター自らが「新しいユーザーの入り口としてちょうどいいのではないか」と述べている。
+ CASE-0
  • 本作の中でもフィクション要素が最も強いシナリオであり、科学技術の発達した遠い未来の新宿が舞台となる。
    • 新宿と言っても我々の知る現代の街とは大きく様変わりしており、序盤はその世界観の濃密さに圧倒される。
    • ここに来てゲームジャンルにもある「SF」の真骨頂とも言うべき設定の深さが存分に組み込まれた物語となり、その多重構造的な作り込みの深さプレイヤーの想像の数段階上を行くといっても過言ではない。
      • その内容は多分に空想的な要素を含みながら、それぞれの化学的考証は非常に丁寧に突き詰められており、それらの説明はあたかも現実の情報を耳にしているような臨場感が付随するものとなっている。
    • 登場人物一人一人に関してもバックボーンや性格付けの作り込みが凝っており、まさに「人に歴史あり」を体現した濃厚な話が展開される。
      • 特に海斗と世凪の人となりは膨大なエピソードを介して詳細に描かれており、感情移入が極まる終盤は彼らの行動の全てがとてつもなく重い内容に感じられるようになる。
    • キャラクターの描写・舞台背景の描写・他の物語を伏線とした描写が全て複合された結果、ボリュームはこれまでのシナリオの倍近くあるが、これでもそれぞれの要素の情報量を考慮すると短いぐらいである。

評価点

あらゆる面で高い完成度

  • 今作をプレイ済みのユーザーの感想を見てみると、「全部が良かった」といったような、一見雑にも思える意見が述べられていることも多い。しかしこれは決して適当なものではなく、冷静に作品の各要素を分析すると本当に同じような結論に至るのである。
  • 今作は作品の完成度に関わるあらゆる材料が一切の妥協なく活用されており、 誇張抜きにゲームを構成する全ての要素が長所と言える水準にある。
    • 本記事でも「完成度」を評価点の最初に持ってきたのは、後述する他の評価点のどれもが並の作品に含まれようものなら間違い無くレビューの筆頭を占める程のパワーを持つため、逆に優先順位を付けるのが困難であるからに他ならない。
      • さらに特筆すべき点はそれら要素の調和や相互作用であり、それぞれ単独でも高い完成度を持った内容が無駄なく統括される一体感も見事という他はない。
  • あくまで質の高いシナリオを主軸にしつつも他の一連のコンテンツも一切の無理や違和感なく合わさることで、本作の没入感は界隈でも早々見られない領域に達している。

シナリオ

  • 最初にプレイする三つの物語は前述の通り完全に独立しており、登場人物や時代背景・全体的な雰囲気までガラリと変化する。
    • 内容的にも後々のつじつま合わせを前提としないような各々で完結したものであり、それらのシナリオ・キャラクターの作りこみ・時代考証や設定の練りこみの深さは、極論それぞれがロープライスの単独作品としてリリースされていても全く違和感がない程のクオリティである。
      • ここまで方向性の異なる物語を1つのゲームとして内包する作品は稀であり、中でも登場人物の顔見せやOPムービーが連続する序盤はその情報量に圧倒されるかのような感覚すら生じる特有のプレイ体験となる。
  • 全てのシナリオに共通するのはその内容の濃さであり、どの場面にもキャラクターの掘り下げや心理描写・世界観の説明・事態の変遷等の重要な役割がある。
    • また、いわゆる「伏線のためだけの描写」といったものが無く、いずれも展開上自然な範囲の表現にとどまりながらも、後々に伏線としても機能するように構成されている。
      • 伏線回収も自然であり、ありがちな「そうか、だからあの時…」といったような露骨な台詞が一切存在せず、結果として情報同士の関連性に自発的に気付いた場合の感動がより大きくなっている。
  • 各主人公とヒロインの関係の進展はいずれも丁寧に描かれており、それぞれの中盤からクライマックスに至るまでの流れは出来事の一つ一つが非常に重い圧巻の展開である。
  • 総じて作中で提示される情報の質が常に高く、尺の使い方に無駄がない。
    • 最後にプレイする「CASE-0」は単独でも十分な尺とクオリティがあるが、加えてそれまでのあらゆる情報が展開や演出に利用されるため、他のシナリオにも増して凄まじい濃度を持った印象深い内容となる。

構成

  • 各シナリオのクオリティの高さは上で述べた通りだが、加えてそれぞれの物語を無理なく連携させる特殊な構成も本作の一際見事な点である。
    • まず、「最初の3つの物語が夢の中の話であること」があろうことか あらすじに 明記されており、それでなくても劇中での判明が非常に早い点が特徴的である。
      • こうした情報は後々の展開の理解を助けるものの、安易に明らかにすると個々のシナリオへの没入感を損なうこともあるため、普通はかなり後半まで伏せることが多い。
      • しかし、本作では各々のシナリオのクオリティの高さが「一歩引いた立場で見る」といった状態を許さない臨場感を生み出すため、読み手は各物語はあくまで劇中劇のポジションであると理解しつつも、それらを決して茶番ではない意義のある物語として認識するのである。
      • その上で「CASE-0」にて満を持してこれまでの物語を伏線や話の構成要素として利用することで、ここまでプレイヤーが感じていた3つのシナリオの重みがそのまま展開の説得力や感慨の大きさに繋がる…といった結果が得られるのである。
    • 特に本作の終盤における、ヒロインの個人的感情や化学的・技術的問題、「CASE-1~3」の物語の登場人物等といった一見無関係なコンテンツが無駄なく合わさる展開は一種の芸術性すら感じさせる凄まじい完成度であり、唯一無二の質の高いプレイ感覚を実現している。
  • 「複数のルートの物語そのものを伏線とし、後にそれらを前提としたより高次元の話に繋げる」といった手法は他作品でもしばしば見られる構成ではあるが、それらは個々のシナリオ単体でのクオリティが低く違和感があったり、あるいは予告なく別次元の話に移行して感動より困惑が先に来てしまうといったケースも少なくない。
    • 本作ほど物語それぞれのクオリティが高く、展開も理解しやすく、それでいてシナリオ同士の繋がりや伏線回収の感慨までもがハイレベルで共存している作品は非常に珍しいと言える。

テキスト

  • 読みやすさと情報量のバランスが優れている。
    • 文体は基本的に純文学のような整ったものではあるが、そこには常に何らかの意外性や専門的な知識、キャラクターの人間味を感じられる内容の濃さがある。
    • 表現そのものは平易でスラスラと読めるものでありながら良い意味で引っ掛かりを覚える興味深い要素が多く、気が付くと作品の世界に引き込まれている。
    • 本作では複数の物語が存在しているため、専門性が含まれる話に差し掛かると各々の方向性に合わせた全く異なる分野の情報が展開される。
      • いずれのシナリオにおいても相当な調べ物を要する(と思われる)深い内容が語られ、それぞれのキャラクターの立体感や物語のリアリティを補強することに成功している。

声優諸氏の演技

  • 本作は主人公のみボイス無しであるが、それ以外の人物は立ち絵が存在しないモブキャラクターを含めた登場全員がフルボイスである。
    • 中でも世凪役の神代岬氏、出雲役の春乃いろは氏*4の熱演は場面毎に非常に多彩でもあり、そのどれもが自然体かつ訴求力の高いものである。
    • また、両氏はこの手のゲームとしては異例な程複数の役を兼任しており、担当キャラクターの人数×一人当たりの演技のバリエーションで考えた表現力は、配役の真相を知った多くのプレイヤーを驚愕させる幅広さである。
      • シリアスな場面はもちろん、数こそ少ないがコメディシーンの演技も質が高く、特に「リープ君誕生秘話」や「アドリブ全開出雲」の掛け合いは人気がある。
    • 主にサブキャラクターを担当する男性声優についても密かに兼任が多いが、気のおけない親友キャラや嫌味な敵役・事務的なモブキャラ等々といった各々の個性が違和感無く感じられる名演である。

グラフィック

  • 原画は過去のLaplacianブランド作品から引き続き、霜降/ぱれっとの両氏が担当している。
    • CGは作中のどのシーンにおいても非常に美麗であり、キャラクターの魅力がこの上なく引き出されている。もちろん背景や静物にも力が入っており、それらが調和した一枚絵は単体でも相当な芸術性を感じられるクオリティである。
      • 単純な画力のみでなくその魅せ方・構図のセンスも卓越しており、いずれもシナリオとリンクした工夫やメッセージ性も多分に含まれる印象深いものである。
      • 立ち絵に至っては各ヒロインのものがやや耽美的に過ぎ、序盤は人によっては背景や他のキャラクターから浮いて見える程であるが、話が進むと総じて美しいとされる彼女達の設定に説得力を持たせるものとして自然に受け入れられるようになる。
      • 総じてこの手のゲーム全体においてもトップクラスの質であり、 仮に採用先が本作でなければ評価点の話題はビジュアル面のものばかりになっていただろう。

音楽

  • 使用される楽曲はシナリオごとに大きく異なり、それぞれの物語の空気感の差別化に一役買っている。
    • 例えば「CASE-1」では主人公とヒロインの静かな関係性を象徴するような落ち着いた曲が多いが、「CASE-2」では歴史を感じさせる民族音楽的な属性の強い曲が採用される…といった具合である。
  • ボーカル曲も輪をかけてバリエーション豊かであるが、 なんと本作ではたった一人の歌手による楽曲が9曲も収録されている。
    • 曲それぞれの内容も劇中のキャラクターやシナリオに沿った極めて考え抜かれたものであり、特に「CASE-3」のOP曲でヒロインの胸中を雄弁に表現した「恋するキリギリス」や、読了後のプレイヤーに凄まじく重いメッセージを投げかける「Into Gray」は特に評価が高い。
      • ここまで楽曲面にこだわった作品でありながら、ボーカル曲のフルバージョンを含め { BGM全てが公式のYouTubeチャンネルで無料公開されている}という前代未聞のサービス精神旺盛な広報活動(?)が行われている。

演出

  • 上記の楽曲の変化と同じく、効果音についてもシナリオに応じて多彩に変化する。
    • 主人公が外出するシーンを例に挙げると、「CASE-2」では人為的な物音や鳥の鳴き声が聞こえるのに対し、「CASE-3」では同じ屋外でも自動車の音やセミの鳴き声が使用される…といったような塩梅であり、場面ごとの雰囲気の差異が繊細に表現されている。
  • 立ち絵には常時のまばたきや発話時の口パク等の簡単なアニメーション効果が含まれており、ワンクリック分のメッセージ中に何度も表情が変化することもある等丁寧な作りである。
    • アンドロイドであるため全くまばたきしない出雲や、シナリオの進行度で表情差分の数がまるで異なる世凪等、細かい工夫も多い。
  • 各シナリオの序盤では驚くべきことに それぞれ異なる専用のOPムービーが流れる。 これも個々の完成度が高く、前述のボーカル曲との相乗効果もあって以後の展開への期待感が大きく高まる内容である。
  • 物語ごとにシステムウィンドウのデザインまでもが違ったものとなる。色合いのみではなくキー配置や細かい意匠まで変化するため印象面での影響は大きく、ここまでに紹介したシナリオの雰囲気・キャラクターの設定・OPムービー及びテーマ・BGMといった各要素の差異と合わさり、あたかも複数の作品を並行してプレイしているかのような本作独自の読み応えに大きく貢献している。

賛否両論点

「CASE-0」の内容について
「CASE-1~3」については否寄りの意見が極めて少ないが、「CASE-0」は情報量の多さもあって賛否が分かれる点が複数ある。
※それぞれ核心に近い情報を含むので注意されたし。

+ ボリュームについて
  • 短いという声と長いという声の両方が混在するが、根本的な問題は「膨大な設定の消化不良」で共通しており、この点の違和感を描写不足と感じたか中だるみと感じたかで主張が分かれている。
    • 短いという意見は「例えば海斗の記憶能力の見せ場や飛び飛びの時系列間の補完、世凪の能力の正体等について、よりボリュームを増やしてでも描くべきである」とのものである。
    • 一方で長いという意見は「消化不良の設定が出るくらいなら話が進行には直接関わらないものを省略し、冗長さを無くすべきである」との主張である。
  • ただ、ボリューム面での過不足は全く感じなかったというプレイヤーが大多数であり、そもそも消化不良を感じた割合も全体と比較して少数である。
    • ちなみに、単純なプレイ時間の目安としては9~10時間程度となる。これは一般的な恋愛アドベンチャーゲームの共通ルート+個別ルート一本分のさらに倍程度のボリュームであるため、一連のシナリオとしては確実に長い部類である。
+ SF的設定について
  • 人によって千差万別の指摘が存在するが、最も多いのは終盤で世凪が発症するとある(現実にも存在する)病気について「この世界の技術力であれば治療出来るのでは(=世凪の病状はもっとフィクション味の強い解決困難な謎のものにすべきだったのでは)」といったものである。
    • メカニズムの一部が不明な病状であり、そもそも作中の技術力もフィクションであるため、「治療出来そうか否か」といった部分の感覚に個人差が発生するのは致し方ない。
    • また、現実にない病気を創作するにしても本作のテーマとの親和性やリアリティとトレードオフになることは避けられない。作中の罹患が展開上必要であったと考えるプレイヤーも一定数おり、やはり絶対的な正解は無い部分である。
+ 終盤の雰囲気について
  • 終盤の展開が恐ろしく過酷である。
    • 特に「施術」の一幕は多くのプレイヤーに衝撃を与え、一部のユーザーからはその激烈さの必要性を疑問視する声が上がっている。
    • しかし、こうしたシビアな雰囲気は作品全体の感慨に大きく貢献しており、クライマックスに向けての厳しい流れを支持する意見が根強いこともまた事実である。
+ 結末について
  • 物語は前向きな雰囲気で締められるが、簡単に喜べない情報が多いまま終了する。
    • まず世凪が救われたか否かが不明瞭であり、他にも彼女は本来の彼女なのか・身体的な問題は一切解決していないがどうするのか・そもそも根本的な課題は先送りにしただけであり、それが解決しても仮想空間から人がいなくなった時に世凪はどうなるのか…といったような複数の懸念がある。
    • しかし、こうした結末はユーザーに対してより強い後読感を残すためのライターの意図的なものであり、それが狙い通りに作用しているという意味では実に見事な点であるとも言える。
      • また、プレイヤーからもこの余韻こそが素晴らしいとの感想は多く、下記のエピローグの賛否が問われることそのものもこの仕掛けが概ね好意的に受け入れられていることを示唆している。

エピローグ

  • 本作はクリア後にタイトル画面から選択できるエピローグも含めてオールクリアとなる。
    • が、その内容はそれまでのシナリオの雰囲気を一変させるものであり、特に読了後の余韻を重視する層からは蛇足に感じるとの意見もある。
      • 一方、作品全体の後読感としては圧倒的に前向きなものとなるため、ネガティブな意見とは対照的に絶対に必要であるとの声も多く、連動して解放される追加エピソードまでの評価も含めると否定的な意見はより少なくなる。

問題点

  • 初回起動時~タイトル画面までに流れるテキストがあるが、ゲーム中に見直す手段が存在せず、読みたければセーブデータの一部*5を一時退避させて起動するしかない。該当部分のテキストは短くはあるものの、クリア後に読み直したい類の含蓄の深い内容なため不便である。
  • 「CASE-1~3」の進行順によってCGが変化するイベントがあるが、前述の通りランダムスタートであるため運が悪いとコンプリートに手間がかかる。
  • 「CASE-0」のテキストウィンドウ脇のセーブ/ロード等の各操作ボタンが小さく、クリックしにくい。

総評

本作は同ブランドの過去作と比較してもユーザー・制作側の双方から極めて高い評価を得ることとなった。
ただ、あらゆる方面での妥協のないクオリティ追及の結果 「完成度が高すぎて逆に評価点が説明できない」といった妙な事態 となっているため、情報が必要であればメーカー側が提供している体験版・YouTubeで公開されている全楽曲や各物語のOPムービー・公式サイト等を参考にするべきだろう。
ただ、調べすぎないほうが本編をより楽しめることもまた事実であるため、購入を決意した時点で速やかにプレイに移行することが推奨される。


その後の展開

  • レーティングが全年齢対象となったSteam版が2022年2月9日にリリースされた。
    • 現在の公式サイトやYouTubeチャンネルで閲覧できる情報は全てSteam版準拠のものとなっている。
    • 価格が大幅に低下し、4,800円(税込)となった。
    • レーティングの関係で凛の制服姿が全て新規の意匠に変更された他、アダルトシーンに関するシナリオ及びCGに変更が行われた。
      • この手のゲームでは珍しく該当シーンの削除ではなく変更であり、直接的な表現は避けつつも発生した事態は連想可能な極めて巧妙な描写がなされている。
      • 純粋な追加のシナリオやCGもある。公式サイトではイベントCGの追加数は28枚と発表されているが、この枚数はルート追加を伴わない移植作品としては極めて多い。
    • 用語集と楽曲鑑賞モードが追加された。ボーカル曲に関しては歌詞鑑賞も可能だが、いずれも劇中で使われているハーフバージョンでの収録となる。
    • 多言語対応になり、日本語の他に英語・中国語(簡体字)でプレイ可能になった。
    • 各OPムービーに専用の3DCG等の採用や映像構成の変更が行われ、演出面のクオリティが大幅に強化された。
  • 2022年11月17日にはSwitch版も発売。Steam版準拠の移植となる。
  • 2023年3月をもってLaplacianはコンピュータソフトウェア倫理機構を脱退。アダルト部門からは撤退した。(参考リンク

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最終更新:2024年03月20日 00:44
添付ファイル

*1 DL専売の『人類最強性欲の嫁 工口倫子』を含むと5作目。

*2 物語の舞台となるロンドンの宮廷で定期的に行われていた、当時の権力者である女王陛下も参加する観劇会。

*3 いわゆるルー語。

*4 Steam版のクレジットではそれぞれ浅川悠氏、三宅麻理恵氏。

*5 セーブフォルダ内の「savegen.dat」。